一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

14 ルナーの国(災厄の子供編END)

 あの日から一週間。
 ルナーは無事に回復し、私達を許してくれました。
 そしてこれから何処かへ出かける様です。  


「じゃあお姉ちゃん行ってきま~す!」


 何処に出かけるかは分かっています。
 あれからルナーとフェルレースの仲が妙に良くなりました。
 何でこうなったんでしょうか?
 やっぱりあの日にルナーを助けたのがフェルレースだったからですか?
 何だかルナーを取られてしまった様でちょっと悔しいです。


 …………ちょっとだけ追いかけてみましょうか。


 私は窓から飛び上がると、ルナーの後を追って行く。
 楽しそうに駆けて行くルナーには、もうあの時の様な荒々しさは感じられない。
 ルナーへの賞金は取り消され、今は観察処分という事で、私の知らない誰かが見張りに付けられているみたいです。


 おっと、フェルレースの所に付いたみたいですね。
 見つからない様に隠れないと。


「おまたせ~、お姉ちゃん待った?」


「ん~ん、待ってないですよ。じゃあ行きましょうルナーちゃん」


 二人が仲良さそうに腕を組んで歩いて行く。
 大きく育ったルナーとフェルレース、こう見ると恋人同士にしかみえませんね。
 まあ、ルナーは女の子ですけど。


「ねえルナーちゃん、今日は何しようか。何か食べに行く? それとも私の家に来る?」


「僕今日は行きたい所があるんだ。助けてくれたエルお姉ちゃんに、プレゼントを買いたいんだ」


 私の為にプレゼント?
 仕方ありません、ここはやっぱり帰って待ちましょうか。


「エル先輩にプレゼント? それならお肉買って行きましょう。あの人お肉だったら喜んで食べますから。ルナーちゃんのプレゼントなら、きっと生のままでも食べちゃいますよ!」  


 …………フェルレースには後でお仕置きしておきましょうか。


 しかしプレゼントですか……ルナーが来てそろそろ一ケ月、此方からも何か送りたいですね。
 よし、私も何か探しましょうか。  


 しかし何を送ればいいのでしょう?
 首輪とかは…………流石にないですよね。
 ルナーはペットじゃないんですから。
 だったらアクセサリーとかでしょうかね? 


 ルナー達が行った方向は不味いですから、逆の方向の店で…………よし、あそこにしましょう。


 私は地上に降り、その店の中へと入った。
 小さい店だったけど、品ぞろえは中々のものです。
 指輪、ネックレス、ピアス、メガネなんて物も売っています。
 さてどれにしましょうか。


 私が小物を見て回っている時、私はその男に呼び止められた。
 その男はバール、伝令役のバールだった。 


「やっと見つけましたよ。家に居ないからちょっと探したじゃないですか。兎に角私に付いて来てください。ちょっと相談したい事があるんです」


 バールは私の手を強引に掴む。
 そして強引にキメラ研究所別館へと連れられた。 


 ああ! せっかくプレゼントを選んでいたのに、全くなんなんですか!
 私は特に役職もないような一般兵ですよ。
 そんな私に何をさせようっていうんですか!


 研究所の奥へと連れて行かれると、所長のラグリウスとべノム、あと…………あれは!
 人狼と言われている狼が五体か。
 まだ生きているみたいですが、縛り上げられ転がされている。
 良く分からないですが、私を呼んで何をしようとしているのですか。


「エル、よく来てくれた。実はな、此処に居る奴等はもうあの薬を試した後だ。そして運が良い事に、薬が投与された奴等全員が成功したんだ」


 ふ~ん、それは良かったですね?
 でもそんな事を何で私に言うんです?


 私が首を傾げていると、べノムは説明を続ける。


「実はな、ルナーを預かってるお前に頼みがあるんだ。これからお前を狼担当に命じる。だから暫くはこいつ等の全員面倒を看てくれ」


「…………無理! …………食費も……家も……ない!」


「大丈夫だ、金は出す。それに住む所も至急作らせる。それにこれは命令だ、拒否権は無いぜ」


 うぐッ、ルナーはまだ子供の時から見ているので愛着がありますが、いきなり厳つい大人を預かるのは気が引けます。
 しかもこの狼は女を襲う奴等ですよ!
 もし何かあった時は責任取ってくれるのでしょうね!


 私は渋々頷いた。
 命令なら正当な理由がなければ拒否出来ないからだ。


「おう、分かってくれた様で嬉しいぜ。じゃあお前等、出て来いよ」


 べノムの声が掛かると、近くの扉からぞろぞろと…………計三十人がズラリと並んでいた。 


 …………私にこれの面倒を看ろと?
 何処かに村でも作れというんですか?
 というかこの人達、人の女の腹からしか子供産めないんですよ?
 私に生贄になれって言うんじゃないでしょうね?!


「お前の心配は分かる。こいつ等が襲って来ないか心配してるんだろ? 大丈夫だ、手はある。お前の所のルナーを本物の女にして、こいつ等の女王に据える。同じ種族同士なんだ、子供を産んでも死ぬ事は無いんじゃないか?」


 ?! ルナーの意見なんて全く無視ですか?!
 いえ、それが出来たとしてどうやって?
 あの子は元々男ですよ?


「だからお前に頼みがある。お前の子宮をルナーに移すから、それを了承して欲しいんだ。これは命令じゃないが、他に方法がみつからねぇからな。何とか頼むぜ」


 ルナーに渡すのは良いですが、それで知らない誰かの子供を作るって、なんかちょっと嫌なんですけど。
 でもそれをしないと話は進まないんでしょうね…………
 分かりましたよ!
 どうせ再生出来るんですから一回ぐらいくれてやりますよ!


 ルナーは私の言う事を簡単に引き受けてくれた。
 それは私が言ったからなのか、それとも仲間が居なくて寂しかったのかは分かりません。
 何方かというとフェルレースを説得する方が面倒でした。
 そして、手術が終わり、ルナーとの別れの日。
 そこにはルナーを入れて三十一人の人狼が集合している。
 私はあれから一か月間三十人の面倒を看ていた。
 正直嫌になっていた所だけど、やっぱりルナーとの別れは辛い。


「如何いうことですか! ルナーちゃんが帰るって、そんなの私は許しませんからね! ルナーちゃんは私と暮らすんですから!」


「お姉ちゃん、僕行くよ。僕もう女の子だから、人を襲わない様に、仲間の為に生きたいんだ。だから皆ありがとう」


「駄目です! ルナーちゃんは私と暮らすんです~! うあああああんルナーちゃん行かないで~!」


 フェルレース、ルナーが困ってますよ。
 私も悲しいですが見送ってあげましょう。 


「お姉ちゃん今までありがと~、また遊びにくるからね~!」


 ルナーが手を振っている。
 私も手を振り返すと、ルナーは背を向けて王国の地を去って行った。


 それから、王国の領地の中に、小さな村…………いや国が出来ました。
 そこはルナーが生まれた小さな村だった場所で、そこには人の様な狼達が群れを成して暮らしています。


 ああああああ、プレゼントを渡すのを忘れてました!
 まあいいでしょう、今度プレゼントを渡しに遊びに行きますから、きっと快く迎えてくれますよね?


 これでこのお話はおしまいです。
 意外とあっさりでしたかね?
 でも私には重い話です。
 二か月後にはルナーの子供が出来ていたのですから。
 一応私の子?でもあるんですかね? 悩ましいところですね。 






 まだ付き合う人も居ないのに子持ちですか。
 はぁ、ルナーの子供っていうのが少しだけ救いですかね…………



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