一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 死臭の漂う村

 べノムの家。
 一回広間、探索班のメンバーの半分が集められていた。
 その中にはもちろん私も入っています。


「んで、今回の作戦だが、この人狼の探索と殲滅だ。緊急でなければ他のキメラは後回しでいい。何か質問はあるか? 無いならこれで解散だ」 


 先日の事件を踏まえ、此方から打って出る事になりました。
 今回私達の班も勿論出撃しますよ。
 完全に当事者ですからね。
 ルナーは作戦の間、ロッテさんが預かってくれることになっています。


「ルナーちゃんに会えないのは少し寂しいですが、今回は王国の為に頑張りますですよ!」


「張り切り過ぎて空回りしない様にしてねー、足を引っ張ったらまた特訓するからね」


「うッ! それは嫌ですよ。やるにしてもせめて三時間に一度ぐらい休憩を…………」


 そんな事は後で良いですから!
 ほら、皆行っちゃったじゃないですか!
 さあ早く行きますよ!


 私達の担当は南、ルナーの親が居た、村の方向です。 あそこには他にも何匹か潜んでいるかもしれません。 


 そしてゼーリスの村の中に到着した私達。
 此処には狼の被害があり、探索班による見回りが強化されているはずですが。 


「何かもう全滅させられてたりして?」


「フェルレースちゃん、そんな事言わないの。もしかしたらまだ生き残ってる人が居るかもしれないじゃない」


「先輩、でもですよ、こんな中に生き残ってる人が居ると思いますか?」


 村の中には何匹もの人狼が屯している。
 十匹、ニ十匹と家の中からも出て来ています。
 その爪や牙、体にもべったりと血液が付いていて、人が生き残っていることを否定しています。


 ちょっと数が多いですが、全滅させますよ!


「アシッドレイン!!」


 先制のフェルレースの魔法が狼達の頭上に降り注ぎ、酸の雨が狼達の体を焼いています。
 目を焼かれ、何匹かは動けなくなっていが。
 酸の雨は直ぐに止み、狼達が私達へと襲い掛かって来ています。


 私は炎の剣を投げ付けた。
 目を抑えてうずくまってる一匹の胸に突き刺さる。
 好機と見たか、武器をなくした私に、五匹の狼が跳び掛かった。
 上から二匹、下から三匹、でも私の手には剣が出現している。
 地上の二匹を斬り殺し、上空へは体の炎で対処した。 


 他の二人は大丈夫でしょうか?
 見るとフェルレースが押されています。
 助けに行かないと!
 だが此方も大変です。
 此方の三匹、いや更に敵の応援が駆け付けて来ています。


 前方に六匹。 私は炎で前方に壁を作ると、その隙をつき、フェルレースの元へと駆けつけた。 


 フェルレースを襲っている五匹の背後から、一匹を斬り倒し、更にもう一匹を続けて倒した。
 残りの三匹の内、二匹が此方を振り向く。
 私はその二匹を無視すると、フェルレースを襲っている一匹を、背後から剣で貫く。
 背後から私を襲おうとしている二匹を、フリーになったフェルレースの槍が貫いた。 


「先輩ありがとうございます! 私も活躍しないとですね。じゃあちょっと本気だしますよー!」


 そう言うとフェルレースは魔法を唱えています。
 先ほどとは違う魔法ですね。


「フレーレ先輩、ジャンプしてください! 行きます……ショックボルト!」


 電撃が大地を進んで行く。
 それほど強烈な魔法には見えないが…………


 兎に角言われた通りに、フレーレさんは地面を蹴り、上空へと高くジャンプする。
 フェルレースが放った電撃が、雨で濡れた地面で分散し、大勢の狼達を巻き込んでいく。


 敵を殺すまでには至らないですが、体を麻痺させるぐらいには十分なレベルですね。
 フレーレさんを追ってジャンプした奴以外は、バランスを崩し倒れています。
 どうもフェルレースは、団体戦闘で真価を発揮するタイプのようですね。


 今立ち上がってるのは八匹、他が起き上がる前に、全部倒したいです。
 私とフェルレースの前に五匹 残りがフレーレさんへと向かっています。


 フェルレースと背中合わせに狼を迎え、五匹は私達を囲んでいた。
 私は前方に炎の壁を作り、体を反転して一気にフェルレースの方へと走る。
 右側の一匹に剣を投げつけ牽制し、前方の一匹をフェルレースと一緒に狙っていた。
 フェルレースの槍が狼を狙い、その狼は大きく後へジャンプして躱したが、そこへ私の剣が投げつけられる。


 まず一匹目!


 直ぐに反転すると、目の前に二匹の狼の爪が迫る。
 私は空中で後へバックし、その攻撃を躱し敵の腕を斬り落とした。


 狼が怯み逃げ出すが、私は逃がす気なんてないです!
 背後から剣を投げつけ、これで二匹目!


 炎の壁が収まると、残りの二匹がやって来ます。
 合流される前にフェルレースと戦ってる一匹を殺さないと。
 フェルレースと力比べをしている奴の首を切り落とし、三匹目。


 やって来る二匹を相手に、左の奴の左半身を狙い、剣を投げつける。
 それは簡単に避けられるが、そこはフェルレースの槍の範囲内です。
 その槍が胸に吸い込まれ、四匹目。
 残りの一匹は逃げ出した瞬間、後に迫ったフレーレさんに殴り殺された。


 今立ってる奴は居ない。
 完全にフリーになったフェルレースの魔法が、再び敵の全体を捉えた。


「ッショックボルト!」 


 動き出しそうにしていた狼達が、再び地面へ倒れこむ。
 私達は倒れこむ狼達を一匹ずつ確実に殺して。


「これで……最後!」


 最後の一匹を手に掛けると、私達は村の中を見て回る。 


 家の中の惨状は酷かった。


 バラバラに引き裂かれ、食われた男と、腹を大きくした女の死体があります。
 死んだ女の腹からも生まれるというなら、生まれる前に殺しておかないと。
 私は炎の剣を突き立て、その死体ごと燃やしました。


 他の家の中も見て回りましたが、どれも同じ様な状態でした。
 そして最後の家の中、私達はそれを見つけたのです。
 女の死体の腹から生まれて来たばかりの赤子を。
 それはまだ抵抗する術などない、小さな赤子でした。


 去勢したら、ルナーと同じ様に育てられるかもしれない。
 まだ生まれたばかりの子には罪がないのでしょう。
 でもこの惨状が、それを許すわけにはいかなかった。 


「ごめん……ね」


 私はその小さき赤子に剣を振り下ろした。


「お姉ちゃん、何してるの…………」


 私はとっさに剣を向けた。
 そこに居たのはロッテさんに預かってもらっていたはずのルナーが居ます。
 何で此処に居るんです!
 まさか抜け出して付いて来ていたんですか?!


 剣を収め私は近寄ろうとした。
 でもルナーは私達を見て、体を震わせていた。 


 …………当然でしょうね。
 自分と同じ姿の大人や子供、赤ん坊まで皆殺した人を、怖がるなって方が無理でしょう。


「僕ね、お姉ちゃん達好きだったんだよ。これからもいっぱい遊べると思ってたのに、僕もその内殺されちゃうんだねッ」 


「…………違う!」


「ルナーちゃん良く聞きなさい。私達は人を殺す奴を許さないわ。貴方の仲間でも私達は容赦なく殺すわよ。でも貴方は誰も殺していないでしょう?」


「…………でも、その子も誰も殺してないでしょ! 僕見てたんだよ! うわあああああああああん」


 私は暴れるルナーを抱き寄せる。


「貴方は……特別……だから……絶対……殺さ……ない」


 ルナーは私の肩に噛みつき、小さな爪を出鱈目に振り回している。 






 暴れまわるルナーを、私は抱きしめるしか出来なかった。



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