一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

1 出会い

 カールソンがやって来てはや何か月、ついに強制的に帰される日が来た。
 エルは喜び庭駆けまわり、ついにその日が来て、エルは嫌がるカールソンを無理やり馬車に乗せてその帰り姿を笑顔で見送った。


ベリー・エル(王国、兵士)    フルール・フレーレ(王国、兵士)
フェルレース(王国、新兵)


「エルさん、私は帰ってきますからね~! 何度でも、何度でも~……」

 無駄に何か月も居座っていたカールソンさんを帝国に送り出し、エルはとても満足していた。

 私はカールソンさんの後ろ姿を快く見守りってます。
 今日はなんて清々しい日なんでしょう、ちょっと跳びはねたい気分です。
 うん、これで仕事にも専念出来ますね。
 確か今日は外への見回りの予定があったです。

「エルちゃん今日は外へ見回りに行くわよー! 何かもう一人来るみたいだから、集合場所へ向かいましょうかー」

 同行していたフレーレさんに声をかけられ、私達は外門へと向かいました。
 正門から見て左側にある門、そこが外門。
 正門にはグラビトンが居て出入りが出来ない為、この外門が王都の実質の入り口として利用されている。

「さあ誰がくるかしらー、出来れば女の子がいいわね」

 私達が外門周辺を見回しますが同行しそうな人の姿は見えない。
 まだ来てないのでしょうか?

「エルちゃん、門番の人に聞いてみましょうかー」

 どうやらフレーレさんが見張りの兵に聞きに行ってくれている様です。
 でも。

「う~ん、そんな人は来ていませんね。もしかして道でも間違ってるんじゃないですか?」

 集合場所を間違えて正門に行く人は居ないと思います。
 あそこへ行ったって外へは出られないのだから。
 もしかしたら寝坊でもしたのかな?

「そういえばべノムったらロッテちゃんと結婚したんですって。今度揶揄(からか)いに行きましょうよ」

 フレーレさんと話をしながら待っているけど、まだその人物は現れない。
 そろそろ三十分が経ちますね。
 もしかしたら逃げたとか?
 少し心配になりましたけど、遠くから走って来る足音が聞こえてきました。 

「ご、ごめんなさい、お待たせしました。ハァハァ……遅れてすいません。ちょっと寝坊しちゃって。それでですね、集合場所を間違えて正門の方に行っちゃったんですよ。ほんとゴメンなさい。え~と、え~と、私フェルレースって言います。これからよろしくお願いします!」

 この子はドジっ子なのでしょうか?
 正門が封鎖されていることは皆知ってるはずなのに。
 私はフェルレースを観察してみる。
 手には槍を持っている女の子で、水の様な青髪を肩ぐらいまで伸ばし、鎧に新兵の印を付けています。 

 探索班は危険性が高い為、殆どが熟練した兵で構成されています。
 新兵が来る事はまずないのですが、この人はそれなりの実力を持っているのですかね?
 それとも人材不足が深刻なのでしょうか……。

「フェルレースちゃんよろしくねー。私はフレーレ、あっちはエルちゃんね」

「よろ……しく」

「はい、よろしくお願いします!」

 フェルレースは元気に挨拶すると、私達の後ろについて来ている。
 緊張はしていない様ですが、自分の力を過信して敵に突っ込まれても困りますね。

「じゃあ出発よー!」

「はい!」

「……うん」

 私達は王国の外に出ると、フレーレさんがキョロキョロと辺りを見回しています。

「う~んあっちに敵が居る気がするわー、行ってみましょうか」

 私はそれに頷いた。

 フレーレさんの勘に頼るのも悪くない。
 どうせ敵の居場所なんて誰にも分からないんですから。

「ねぇフェルレースちゃん。実戦はした事あるのー?」

 フレーレさんが尋ねている。

「いえ、今日が初めてなんです。でも訓練してますから大丈夫ですよ! この槍で倒しちゃいますから!」

「得意なのはその槍かしらー? 他には何が出来るの?」

「水の魔法なら使えますよ。あんまり強くは無いですけど」

 水の魔法ですか。
 飲み水には困りませんね。
 攻撃方法としては高水圧による水の弾丸とかですか?
 後は回復魔法とかかな?
 あまり強くは無いと言ってるので、攻撃には期待できないですね。
 そのまま見回りを続けている私達ですが、そろそろ何か出て来ても良い頃でしょうか。

「……見て! 誰かキメラに追われてるわー! かなり小さい、まさか子供?」

 フレーレさんがキメラの姿を見つけたらしい。
 私もそれを見ると、頭からボロボロのローブを羽織った子共がキメラに追われています。
 周りには誰の姿も見えません。
 馬車から逸れたのでしょうか?
 でもあの体でキメラから逃げられるとは思いません。
 キメラが子供をいたぶって遊んでいるのですか。

 そのキメラの特徴は二本足で立ち、体にはオレンジと黒のまだら模様をしている。
 頭はその殆どが口で、小さなガラス玉の様な目玉ですね。
 腕も無く、何となく山椒魚さんしょううおに似ています。
 大きさは五メートルぐらいでしょうか。

「た、助けないと! 私行きます!」

 フェルレースが飛び出して行った。
 これは私達も行くしかないです!

「エルちゃん行くわよー!」

 私は頷くと飛び上がり、空からの攻撃を開始した。
 剣の一撃がキメラの頭をとらえた。

「!?」

 だが剣は頭に埋まるだけでダメージが当たった様には見えない。
 だったら刺してみましょうか。
 私は全力で飛び上がり突き刺してみたが、結果は一緒でした。

 これは厄介です。
 この調子ではフェルレースも何も出来ないでしょう。

 しかしフェルレースは子供の前に立ち塞がると、目の前のキメラに対して槍を突き放っている。
 当然山椒魚さんしょううおにはダメージは無い!
 槍を気にする事もなく、大きな口でフェルレースの頭から……。

「とりゃあああああああああああああ!」

 フレーレさんの蹴りがキメラの足へとぶつかった。
 山椒魚が体制を崩し、地面へと倒れこむ。

 体に攻撃は効かなくても骨には効くという事でしょう。
 体を支えている足には骨が必須ですからね。
 呑み込まれたフェルレースは?

「危な!」

 どうやら生きてますね。
 フレーレさんのおかげで攻撃が反れたみたいです。

 キメラは腕もないのに器用に立ち上がり、今度はフレーレさんを狙っている。
 口を広げて何度も攻撃をしかけてきていた。
 フレーレさんはそれを躱し、山椒魚の顔面に一発二発と拳を叩きつけている。
 ほほあご、目玉へと。
 しかしキメラにダメージは見られません。

 私は敵の足に攻撃を切り替え、渾身の斬撃を放った。
 でもその攻撃ですら弾き返さてしまう。 
 相手の骨にダメージを入れるのは私には無理だ。
 フェルレースの攻撃は相手にもされていない。

 私は炎を使い、山椒魚の体を覆っていく。
 炎に包まれながら、全く怯む様子を見せない山椒魚さんしょううお
 唯一ダメージを与えられるフレーレさんは、山椒魚に狙われ、足を狙うのは無理そうです。

 逃げようか?
 しかし三人を連れて飛ぶのは無理があります。
 此処はフェルレースと子供を担いで、フレーレさんに頑張ってもらうしかないかな?

「エルさん私が魔法を使ってみます、少し離れていてください!!」

 何か手でもあるのだろうか?
 どうせ私には何も出来る事は無いです、一度任せてみましょう。
 私が山椒魚から離れると彼女の魔法が発動した。

「アシッドレイン!」 

 空から弱い雨粒が山椒魚に降り注ぐ。
 しかしそれはただの雨ではなさそうです。
 アシッド、つまりさんの雨は、山椒魚の皮膚を溶かしている。

「グギョオオオオオオオオオオオ!」

 山椒魚の怒りの咆哮が辺りに響く。

 倒すには全然足りないですが、あの皮膚が炎を防いでいたとしたら、もしかしたら……。
 良し、試してみましょう!

「……はぁッ!」

 私は炎を纏う剣を敵の体に振り下ろし、焼けただれた皮膚が焦げ、斬撃はその体を切断した。

 これなら行ける!
 私の体が燃え盛り、剣の一撃が炎を帯びた。
 山椒魚の傷から炎が立ち上っていく。
 右足に一撃、二撃、三撃、四撃。
 飛び上がり体にもう一撃。

 山椒魚の半身が燃えていく。
 しかし相手はまだ倒れてくれない。
 敵が私に狙いを変え、大きな尻尾が私を狙う。
 しかしそれでフレーレさんがフリーになりました。
 敵の左足にその拳の衝撃が爆発した。

「ハァァァァァァァァッ でやあああああああああああああ!」

 その衝撃は相手の骨を捉えると、一撃で巨大な敵が地面へと倒れこんだ。

 このチャンスは逃さない!
 私達三人は相手の息を完全に止める為、三人による止めの三撃を放った。

「ふう、ちょっと大変だったわねー。皆は大丈夫?」

「はい、問題ありません! やはりお二人は凄いですね。あんな魔物を倒してしまうなんて、私ちょっと感動しました!」

 私は頷く。
 フェルレースの魔法がなければ、ちょっと危なかったです。
 あの魔法は使えますが、使いどころを間違えたら味方まで被害が出てしまうでしょう。
 これから気を付けないと駄目ですね。

 あの子供は……居ました。
 走り疲れて倒れていますね。
 私は子供を抱き上げるとそのフードをめくった。

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