一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 異世界の祭り

 べノムが結婚した事を知らされたアツシ。
 ストリーに結婚を迫られるのではないかと逃げ出し、隠れ家に避難しようとする。
 だがそこにはストリーの姿があり、アツシはベルトの犠牲で逃げる事が出来た。
 しかし夜になり、寒さにより心が折れたアツシは自分の自宅へと帰ったが、そこにはストリーが先回りをしているのだった。
 何とか結婚を回避しようとしていたが、話を聞くとデートがしたいらしいと分かる。
 そして色々話していると自分が結婚していた事に気づいた。
 窓から家に入って来たルルムムに突き飛ばされ、緊急の連絡を受けてバールの元へと向かった…………


タナカアツシ(異界から来た男)   バール(王国、探索班伝令係)
サックス  (イベントの議長)


「何だよこんな夜に緊急って、魔物でも出たのかよ? 俺なんて呼んでも役に立たないぞ」

 俺はバールに聞いてみるのだけど。

「二人一緒か、まあ邪魔にはならないからいいでしょう。要件は到着してから教えますよ。それじゃ行きましょうか」

 どんな要件なのか教えてくれない。
 バールの案内で俺達三人は会議室の様な場所に連れて行かれた。
 そこには様々な人物が集まっている。
 中には知ってる顔もチラホラ見える。
 資料も配布されて、幾つかの議論が終わった後の様だった。
 俺もその資料をめくっていると、真ん中に居る男が喋りはじめた。

「え~、今回何故だか担当にされたサックスです。復興も殆ど終わり、国民の為にこれから何かイベントを企画しようと思いまして、そういえばと、異世界から来たアツシさんの事を思い出しましてね。それで異世界の知識を何か出して貰おうと思ったのですが、どうでしょうか?」

 異世界の知識、つまり日本のイベントの事を教えろって事だろうか?
 そのために呼び出されたのなら存分に披露してやろうじゃないか。

「俺にイベントの事を聞きたいって? 日本には色々な祭りやイベントがある。北は北海道から南は沖縄まで。だがそれより面白いのはコミックマーケットと呼ばれるイベントだ! 此処で売られる物は漫画やアニメ、色々なグッズ、ゲーム、様々な物が売られ、その殆どは自分達で作った作品達なんだ。競い合い作り上げられたそれは、もはや芸術と呼ばれる程に完成され、そして薄い本と呼ばれる……いやゲフン。兎に角皆が盛り上がれるイベントなんだ!」

 この世界には姿絵という技法がある。
 写真と見間違う程のその技術はもしかしたら魔法なのかもしれないが、それを使った本を作れたのなら、この国の男達、いや全世界の男共が大喜びするのは確実だ。 

 しかしこれを話すのはまだ早い。
 何故ならこの場には女が何人もいるのだ。
 そう、これは男達だけでひっそりと行わなければならない。
 きっと隣の女二人は激怒するだろうからな。 

 この事をどうにか他の男達に伝えないと、誰か一人……そうだ、バールなら多少の知り合いでもあるし、此奴を使って皆に知らせてもらおう。

「つまりフリーマーケットの様な物だな? 自分達で作った物をか……ふむ、考えに入れておこう」

 議長のサックスが、俺の意見をメモしている。
 この作戦を成功させるには、このイベント自体が行われなければならない。

「なあバール、ちょっと便所へ付き合ってくれないか? 此処のトイレって何処だかわからなくってさぁ」

 俺はバールに耳打ちした。

「えっ? トイレならそこの角を曲がって……」

「良いからちょっと付き合ってくれよ。ちょっと聞きたい事もあるしさぁ。ほら行こうぜ」

 俺はバールと肩を組み、トイレに連れ込んだ。
 流石にここまでストリーは付いて来ないだろう。

 トイレの中には誰も居ない。
 良し!

 俺はバールに思いの全てをぶちまけた。
 このイベントの狙いも、男達が喜ぶ結末も。
 そして女には知られたら不味い事も。

「なる程、確かにそれは素晴らしい! 確かに姿絵を使えばそれも可能だろう。だけど女性に知られずにどうやってそれを売るんだ? 広場で売り出せば当然バレてしまうぞ?」

 俺の説明に同意してくれたけど、その指摘も最もだった。
 ストリーにバレてしまうと少し辛いことになる。
 だけど。

「大丈夫だ、俺に考えが有る。広場で売られるのはあくまでもただのグッズ。しかしそれは男性にしか売れない事にして、買った人間は、他の場所でそれと交換で本を受け取る事が出来る事にしようと思うんだ」

 それを切り抜けるアイディアを思いついている。

「でもそのグッズがあんまりおかしな物だと怪しまれてしまうぞ?」

 バールが少し心配している。

「そこは大丈夫だ。何故ならこの国の男達全ては俺の味方なんだからなぁ! ハッハッハッ!」

 俺は高笑いを上げて成功する未来を見た。 

「そうか、君も中々やりますねぇ、クックック」

 俺達は会議室へと戻るとバールがサックスに何か耳打ちをした。
 バールの話が終わると、サックスはこの会議の終了を宣言する。

「今日はここまでにしておきましょうか。そろそろ夜も遅いですからね。女性の皆さんは危ないですから、お先に帰ってもらって構いませんよ。片付けは私達男がやっておきますので。ほらアツシさんもお二人を送って行ってあげてください。詳しい話は今度……」

 俺の作戦を理解したサックスは、仲間になってくれたらしい。

「はい議長殿!」

 詳しい話は全てバールに伝えてある。
 俺は返事をすると、二人を連れて家へと戻った。

 イベントは正式に受理され、上手く行くと思われていたこの作戦だが、思わぬ所から反乱者が出始めた。
 そう、それは彼女持ちという奴等だ。
 実を言うと俺もその一人なのだが、俺の中ではそれはそれ、これはこれと分類されている為に事を起こそう等とは思っていない。
 というか、そもそも俺が企画したものだしな。

 その彼女持ち達は、なんだが自分達の彼女を汚されるのではないかと恐れていた。
 しかしそれは間違いだ。
 例え肉体に触らずとも、結局他人の脳内で色々な事をされているに決まっている!
 ならば本にして皆で一緒に楽しんだ方が良いのだ!

 敵と思われる彼女持ちだが、そいつ等にだって出来ない事はある。
 不倫や浮気、彼女がしてくれないあれやこれや、だが本の中でなら自分が主役で色々な事をしたって、実際にしている訳ではないのだから全ては健全なのだ。

 これからボッチ連合による、彼女持ちへの説得が始まる。
 しかし一番厄介なのは、新婚ほやほやのべノムの様な奴等だ。
 彼女持ち達が反逆した所をみると、べノムが裏切らないわけがない。
 男達を裏切るだけならまだ良いのだが、女達に告げ口されたら大事なイベントまで危うい。
 この場で説得を成功させなければ!

 だからベノムの家に足を運ばせたのだった。

「それで、俺になんのようなんだ? 今ちょっと立て込んでるから後にしてくれねぇかな」

 扉を開けたべノムはちょっとだらしない格好をしている。

「立て込んでるだって? ロッテといちゃ付いてるだけだろうが! そんな事より俺の話を聞いてくれないか。男同士の話があるんだ!」

 聞くまでもなく見ればわかる。
 隣にはべノムの体にピッタリと寄り添うロッテさんが居た。

「嫌ッ!」

 俺の言葉にロッテさんはお冠のようだ。

「……ロッテさんに聞いてるんじゃないんだけど」

「い~やッ!」

「まあ今度聞いてやるよ。今はちょっとな」

 べノムとロッテが見つめ合っている。
 二人はくっ付いて離れる気が無いらしい。
 流石は新婚、これは作戦を変える必要が出て来たぞ。

「もういいよ! 後で後悔しても知らないからな!」

 俺はべノム達と別れバールと連絡を取った。
 中途半端にかかわらせるよりは一切情報をシャットダウンする方がましだろう。

「べノムはこの作戦から外す事にした。あの二人は駄目だ、一切離れる気配がない。このことを男同盟に知らせてべノムには徹底的に情報を遮断し、俺達の事を知らせないようにしてくれ」

 俺は参謀となったバールに作戦を伝える。

「分かったアツシ、伝令役たるこの俺が皆に知らせよう!」

 そして男同盟の作戦が開始された。
 ある者は本の交換用のグッズを作り、ある者は姿絵の技術を使い本の作成に勤しんでいる。
 その技術で作られた本は三日と経たずに完成し、その量産体制が確立されるとイベントまでの間に二十を超える数の種類が完成されていた。

 その中にはストリーの物や、果ては女王様の物まであった。
 これを見つかったら俺達全員処刑されるかもしれない。
 そしてイベント当日、俺とストリーはイベント会場へと赴いていた。

 グッズの売り上げも順調の様だ。
 それだけ皆が本を求めているのだろう。
 勿論俺の分の本は確保してある。
 家のベットの裏に貼り付けてあるし、ストリーにも分からないはずだ。

「なあアツシ、最近何かやってる様だが何をしているんだ?」

 ストリーは俺の行動に疑問を持っている。

「何の事だ? 俺何かやってたか?」

 俺は少しとぼけて見たが。

「私が何も知らないとでも思っているのか? アツシの事は全部お見通しなんだぞ。怒らないから言ってみろ」

 感づいているけど、全て知っているという訳では無いのだろう。

「…………」

 ストリーがこの事を知って怒らないわけがない。
 自分のエッチな本が男達に読まれてるんだからな。
 まずは落ち着くんだ俺、確かに何かしら気付いているんだろうが、全て知られているわけじゃない。

 これは男の夢なんだ。
 ストリーだろうと知られるわけにはいかない。

「悪いなストリー、実は男達だけで何かできないかって話をしててな、それが行われるまで秘密なんだ」

 俺は咄嗟に嘘をついた。

「そうなのか? まあそれならいいけど、危険な事じゃないだろうな?」

 一応納得したのか少し穏やかな顔になっている。

「勿論だ。その時を楽しみにしておいてくれ。じゃあ俺は打ち合わせがあるから、ちょっと行って来る」

 女達に知られなければ危険な事は何もない。
 知られたら王国を逃げ出さなきゃならないぐらいヤバイのだが……。

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