一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

19 まおうぐんのにちじょう カールソンがやって来た日 2

 カールソンが帝国から王国へと向かう中、ルルムムから色々な話を聞かされ、エルの秘密を知った。
 カールソン。エルはカールソンを捨ててアツシとの甘い生活を送っているらしい。
 そんな来を許さないカールソンは、エルとの絆を取り戻す為王国へと足を踏み入れた。
 そこに待ち受けていたものはアツシとラブラブなテートをしている二人だった!


タナカアツシ(異界から来た男)  ベリー・エル(王国、兵士)
フルール・フレーレ(王国、兵士) ストリー(ガーブルの娘)
カールソン(帝国の会議での代表)


 俺はエルとデートしている。
 いや、むしろデートを強制されていた。

「あの、これ何?」

 考えても全く思い浮かばないのだけど、俺が何かやったのかと聞き返す。
 エルは行く方向に指をさすと、俺の腕をグイグイと引っ張り、その方向へと俺は連れられて行く。
 フレーレにはデートするとしか聞いていないけど、エルってまさか俺の事を?
 え? そうなのか?
 全く気付かなかった。 

 しかし俺にはストリーって恋人がいるんだが。
 いや、俺の後ろでストリーも縛られていた。
 つまり今なら何をしてもバレないって事じゃないか!

 エルはエルでストリーとは違った魅力がある。
 ストリーが美人度五で可愛らしさを五とすると、エルは美人度三で、可愛らしさ七って感じだな。
 もしエルが俺に迫って来たなら、ストリーには悪いけどキスぐらいやっちゃいそうだよ。

「おや、エルさん奇遇ですね。こんな所で会うなんて、やっぱり運命が私達を祝福しているんでしょうね!」

 心が揺れ動く俺の下へ現れたのは、エルを狙うカールソンだった。
 この場所に現れてたのは偶然じゃないだろう。

 何か読めて来たぞ。
 カールソンの前で俺を彼氏に仕立て上げて、諦めさせる気だな。
 そうかそうか、つまりエルは俺に逆らう事は出来ない。
 ストリーもフレーレが縛り上げている。
 ……つまり俺がエルに何をしたって、咎められる事は無いって事だ!

 しかし俺は知っている。
 ここでやり過ぎると後で危険な目に遭う事を。
 そう、怒られる寸前のギリギリのラインを保たなければならない。

 ふっふっふっ、神よ!
 俺にチャンスを与えてくれて感謝します。
 俺はグッと拳を握り、このチャンスを存分に堪能する事を誓った。

「あれカールソンさん? それは無いですよ、エルと俺はラブラブなんですから」

 そう言うと俺はエルの肩を抱き寄せる。
 エルは微妙な顔をしていたが、このぐらいなら平気なはずだ。

「アツシさんそれはあり得ません! 何故なら私とエルさんは赤い糸で結ばれてるんですからね!」

 カールソンは俺達のことを見ても諦めなかった。

「ならそこで俺とエルとのイチャイチャっぷりを見守っているがいい! さあエル行こうぜ」

 俺はエルに手を伸ばす。
 エルは頷き俺と手を繋ぐと、俺の歩く方へと付いて来た。
 大丈夫、これは浮気ではない。
 純然たる人助けなのだ。

 例えこのエルとキスしたとしても、胸を揉んだとしても、それはこのカールソンから助ける為なんだよ、うん。
 この辺りには喫茶店があったはず、まずそこに入るとしよう。
 俺は道をキョロキョロと探し、喫茶店を見つけ出した。

 よしあった!

 俺はエルの手を引き、喫茶店へと入っていった。
 勿論その後ろからカールソンもついて来ている。
 俺達の事を疑ってるんだろう。
 でも俺はそれ程馬鹿じゃぁない。
 きっちりと恋人っぽい事をしてやろうじゃないか!

「すいません、トロピカルジュースを一つください! ストローを二つ付けて!」

 喫茶店で席に座ると、俺はマスターにそう注文をつけた。
 俺の行動範囲では誰もやってる奴は居なかったんだが、一度はやって見たかったのだ。
 相手がストリーじゃないのは少し残念だが、目の前の子が悪いと言ってる訳じゃない。
 これはこれで、とてもイイ。
 このストローと言う物は、吸うだけじゃなく送る事も出来る優れものだ、一度口に含んだジュースを送り出し、俺の唾液を飲ませる。

 完璧な作戦だ!
 これなら向うにもバレない、そして相手との間接キスが出来る。
 あれ? よく考えたら相手もやらないと、俺は自分の唾液を飲むだけなんじゃないのか?

 エルがストローに口を付けたぞ。
 良し今だ!!
 俺が口に含んだ物をゆっくりと入れ物に戻す。

 ポコっ

 し、しまった!! 俺の息が泡になって音が出てしまった!

 エルは器に目を落としそれを確認したが、俺の顔を見るとニッコリと微笑みストローでそれを味わっていく。

 な、何だこれ、物凄く恥ずかしい。
 俺のやった事を見てから飲んだよな?
 まさか意外と俺に気があったりするのか?
 いかんいかん、俺にはストリーが居るんだって、本気になったら不味いだろ。
 微妙にドキドキしつつ俺は恋人の振りを続ける。

「エル、何か食べたい物は無いか? 口下手なお前の代わりに俺が頼んでやるぞ」

 エルは喋らず首を振る。
 そして俺の手を取り、指同士を絡ませ合うと、俺の腕を引き寄せて、手の甲に唇を当てた。

 その唇はとても柔らかくて……。

「ぎゃああああああああああああ! エルさん私の目の前でそんな事を! 許しません、許しませんよ!」

 そんな光景を見て、カールソンは大慌てで走って来る。
 その声が無ければ俺も理性が吹っ飛んでいたかもしれない。

「な、何だか周りが煩いから、もう少し静かな所へ行こうか」

 しかしカールソンの声を無視して、俺はカウンターに代金を置いた。

「……うん」

 エルの声を初めて聞いたが、その声はとても可愛らしい。
 俺達は手を繋ぎ喫茶店を出ると、当てもなくただ歩く事にした。

 ストリーとでさえこんな事はした事がない。
 これはちょっと不味いぞ。
 ただの振りだよな? 振りなんだよな?
 このままじゃ俺、浮気してしまうかもしれん。

 二人で歩いていると国の中心部にある噴水広場へとたどり着いた。 

 そこは少し大きな広場になっている。
 俺達の他の恋人たちが何人も居て、それはそれは深いキスをしている奴等もいる。
 そこでエルは俺に体を預け、上を向いて目を閉じた。

 ……え? 良いの?
 本当に? しちゃっても良いんだよね?
 キスまでなら浮気じゃないよね? 

 俺は目を瞑り、エルの唇に……。

「「待ったあああああああああああ!」」

 唇が触れそうになった瞬間、飛び出してきたのはカールソンとストリーだった。

「なッ、ストリー! 一体いつから見ていたんだ!」

 その姿を見て、激しく動揺する俺。

「ま、まさかそこまでしようとするとは思わなかったぞ! これはちょっとお仕置きが必要な様だな!」

 ストリーが怒ってる。
 今までだったら泣いて逃げてただろうに。

「待て、これには訳があるんだ! このカールソンって奴が……」

 俺は言い訳をしようとするが。

「全部知っている! フレーレさんに教えてもらって、アツシが浮気するか試していたんだ! まさか本当に……ッ」

 ストリーから衝撃の事実が告げられた。
 今までの事は全部図られていたっていうのか!
 まさかカールソンの事まで……。
 カールソンがエルに殴られ踏みつけられている。
 嫌いなのは本当の様だ。

 エルが俺と目が合うと顔を反らせている。
 五殺星ってのも案外嘘じゃないのかもしれないな。
 いや、そんな事より、この場をどうやって切り抜けるかだ!
 大勢が居るこの場ではちょっと恥ずかしいがやるしかない。

「お、俺はストリーが好きだ―! 誰よりも愛してるんだ!」

 俺は大声でそう叫び、ストリーに抱き付いた。

「ア、アツシ、こんな所でうぅ……ん」

 その勢いのまま俺はストリーと口づけを交わす。
 このまま有耶無耶にしてしまおうという作戦だった。

「「はぁ、はぁ……」」

 見つめ合う俺とストリー。

「私を愛しているアツシが、何でエルとキスしようとしていた?」

 しかし、ストリーには効果がなかったようだ。

「……あの、え~と、何となく? 何かムラムラッと……」

 ちょっと言い訳が思いつかなかった俺は、つい本当のことを……いや、ゲフンゲフン。

「……そうか、じゃあ、渾身の一撃で勘弁してやろう!」

 ストリーの拳が硬く握られ。

「ま、待て、待つんだ! ……や、やめ……ぎゃああああああああああ!」

 結局俺はストリーの一撃に耐えられず、そのまま意識を失った。
 浮気とかしたら死ぬからな。
 皆も気を付けようね……。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ストリーはフレーレに縄を解かれていた。

「行ったわね、じゃあストリーちゃん。アツシが浮気しないか見に行きましょう」

 フレーレの言葉に。

「アツシは浮気なんてしないから大丈夫だ!」

 そう断言するストリーは、絶対浮気なんてしないと思っていた。

「まあ見ていれば分かるわよー。ほら、喫茶店に入ったわよー。気づかれない様に私達も入りましょう」

 フレーレと共に、ストリーはアツシを追って来ている。
 デレデレしつづけるアツシの顔を見ても、ストリーはまだ信じていた。
 喫茶店でストローを二本付けて、エルに口の中のジュースを飲ませようとするまでは。

「フレーレさん、アツシが! アツシが!」

 大慌てするストリーを。

「ストリーちゃんちょっと落ち着きなさい。あんなのただの間接キッスでしょー? そんなのじゃ浮気とは言わないわよ」

 フレーレが押さえつけている。
 しかし、ついにエルがアツシの手を掴み、手の甲にキスをしてしまう。

「あ~ッ、でも、アツシが取られちゃうよ!」

 狼狽えるストリー。

「エルちゃんにはそんな気は一切、全然、全く、これっぽっちも無いわ。あれは私達が仕組んだ作戦よ! カールソンさんに現実を突きつけるのと同時に、アツシの浮気っぽさも調査出来る一石二鳥の作戦なのよー!」

 フレーレが言った通り、カールソンを追い払うことも兼ねている。

「う~、分かった。少しだけなら我慢します……」

 フレーレにはかなわないと、肩を落としているストリー。

「ほら、喫茶店から出たわよ。私達も追いましょう」

 フレーレとストリーは、再びアツシに気づかれない様に尾行し、アツシ達は王国の広場に到着している。

「フレーレさん、アツシがエルとキスをしようとしてますけど!」

 そしていい雰囲気になって、今まさに口付けをしようとしていたのだ。
 ストリーはこの世の終わりのような顔をするが。

「しー、静かにするのよー。大丈夫、カールソンさんがそろそろ飛び出て来るはずだから」

 フレーレにとっては違うのである。

「も、もう私ッ、行ってきます!」

 もう我慢が出来ないと、ストリーはとび出し。

「「待ったあああああああああああ!」」

 偶然にも、別の所に隠れていたカールソンと同時にアツシの前に現れた。

「あ、ストリーちゃん、待ってー……行っちゃったー。まあ面白そうだからいいかなー? もうちょっと見学してましょう……」

 フレーレは、まあそれでもいいかなと見守っている。

「なッ、ストリー! 一体いつから見ていたんだ!」

 アツシがストリーの事に気付き、慌てていた。

「まさかそこまでしようとするとは思わなかったぞ……これはちょっとお仕置きが必要な様だな!」

 ストリーは段々と怒りが沸いて来ていた。
 取り合えず一発ぶん殴らないと収まらないだろう。

「待て、これには訳があるんだ! このカールソンって奴が……」

 言い訳をするアツシだが、ストリーは。

「全部知っている! フレーレさんに教えてもらって、アツシが浮気するか試していたんだ! まさか本当に……ッ」

 ストリーはアツシを睨むが。

「お、俺はストリーが好きだ―! 誰よりも愛してるんだ!」

 アツシは大声でそう叫びストリーに抱き付いた。
 ストリーは無理やりキスをされて、少しだけ気が晴れている。

「ア、アツシ、こんな所でうぅ……ん」

 だがこれだけ愛していると叫んでいる男が、どうしてエルに口づけしようとしたのか気になってしまった。

「「はぁ、はぁ……」」

 二人は見つめ合うが。

「私を愛しているアツシが、何でエルとキスしようとしていた?」

 ストリーはもう一度聴き返した。
 これで納得の答えが出れば手加減しようとしたが。

「……あの、え~と、何となく? 何かムラムラッと……」

 その言葉にストリーの怒りは爆発した。
 この男は放って置くとまた別の女に手を出すだろう。
 ストリーはアツシを教育し直す為、体を鍛えさせようと思った。

「……そうか、じゃあ、渾身の一撃で勘弁してやろう!」

 ストリーは拳を握り。

「ま、待て、待つんだ! ……や、やめ……ぎゃああああああああああ!」

 ストリーはアツシの顔面を殴りつけた。
 アツシはストリーの一撃に耐えられず、そのまま意識を失っている。

「ふふ、私からは逃げられないんだからな。立派な戦士に教育してやる!」

 次の日、ストリーはアツシへの教育を始めた。

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