一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 王国への帰還 (平和平会談編END)

 帝国の町でストリーへのプレゼントを買ったアツシ。
 だがストリーはアツシを避け始める。
 カールソンにルルムムを引き付けて貰い、アツシはストリーと接触出来たが、プレゼントを渡そうとしても怖がられてしまう。
 アツシはストリーが自分に押し倒された時恐怖を覚えたと見ぬき、軽くキスをして去ろうとしたのだが…………


タナカアツシ(異界から来た男)   ストリー(ガーブルの娘)
イモータル  (王国、女王)


「やっと王国が見えて来たぞ!」

 先頭集団の声が聞こえる。
 どうやら無事に王国に着いたようだ。

「はぁ、疲れた。やっと終わったのか」

 馬車の後ろで座っている俺は、ぐっと背伸びをして前の方を見た。
 全く体力は減ってないが、魔物に襲われるという恐怖感で、精神的には凄く疲れているのである。
 俺はストリーの方を見るが、俺の視線に気づくと、ストリーはサッと体を隠すのだった。

 あれだけ自分から誘っておいて、今更感が否めないが、まあ攻められるのが駄目な奴なんだろう。
 俺が寄って行っても怖がられてしまう。
 またストリーから近寄って来るまで待つしかない。

 馬車は無事王国の正門まで到着し、そこには出迎えの兵士達がずらりと並んでいた。
 女王様の子供達も先頭で待ち続け、その顔を見るのを楽しみにしている。

「皆ただいま、帰って来たわよ」

 女王様が馬車から顔を出して手を振ると、町中から歓声が上がる。
 馬車が止まり、王子と王女様が一斉に走って行く。
 全員馬車へと乗り込むと、また馬車が城へと走り出した。

「あ~疲れた」

 無事に女王様を送り届けるのを見届け、仕事を終えた俺は、自分の部屋のベットで寝転がっている。
 そして旅の事を思い返した。

 魔物に襲われたりなんか色々あったなぁ。
 ルルムムとも仲良くなれたし?
 女王様には振られたけど、ストリーとは復縁出来たし?

 ……いやルルムムと仲良くなる分けないじゃないか。
 モンスターには目を潰されるし、碌な事が無かったぞ。
 ストリーとは仲良くなるどころか結局微妙な雰囲気になったし、俺やっぱり待ってた方が良かったんじゃないか?
 はぁ、もういいや、取り合えず寝よう。

 俺は目を閉じ眠りについた。
 何時間かして目を覚ました時、俺はローブで吊るされていた。

「うぐぐぐう~う~」

 声を出そうにも口が塞がれていた。

 あ、あれ? どうなってるんだ、此処は何処だよ。
 何も分からない俺は、首を振って周りをみる。
 どうやらここが薄暗い牢屋の中らしい。

 こ、此処は牢屋か?
 俺が何かしたのかよ!

「起きたかアツシ。まさかお前がイモータル様にちょっかい掛けるとは思わなかったなぁ。あれだけ言い聞かせておいたのになぁ」

 声がする方向に振り向くと、そこにはべノムが……。
 ベ、べノム、まさか俺を始末しに来たのか!
 待て、俺は告白しただけで何もしていないぞ。

「むむう、むぐぐぐ」

 反論しようにも声が出せない。

「ルルムムがお前の事を始末しといてくれって運んできたんだけどなぁ、流石に事情が良く分からねぇ、お前の口から聞いてみようと思ったんだが、説明したくないのならこのまま……」

 あの女か!
 まさか此処までするなんて思わなかったぞ!

「むむぐぐぐぐぐぐ!」

 兎に角口の布を外してくれ!

「ああ、ちょっと待ってろ」

 ベノムが腕を振ると、口を塞いでいた布が切断され、ようやく話せるようになった。

「ルルムムの言ってる事なんて全部嘘だよ! 俺は確かに女王様に告白したけど、これからもお友達でいましょうねって、家族の為に働いてくれって言われただけだ!」

 俺は本当のことをぶちまけた。

「……へぇ、イモータル様が許されてるなら特に何も言う事は無いけど、まあでも約束を守れなかったお前には罰が必要だよな? 安心しろ、ルルムムが言った様に殺しなんてしないから」

 ベノムが物騒なことを言っている。
 しかし命だけは助かるようだ。 

「ほ、本当か?」

 俺は聞き返し。

「ああ、ただし、死ぬより恥ずかしい目にあわせてやるがな」

 え? 恥ずかしいって何? 
 そう不思議がっていると、べノムは俺の履いていたズボンを下ろし、更に下着にまで手を伸ばす。

「お、お前、俺の貞操を狙ってるのか! や、やめろ、俺にはストリーが居るんだ!」

 まさかべノム、俺のことを狙っているのか!?

「違うわ! 町の広場で二日程吊るすだけだ。普通王族に不敬を働いたなら死刑なんだからな。女王様に感謝する事だな」

 二日間吊るされるって?
 それだけで済んでラッキーだったのか?

「まあ裸で放置されるんだから、お前が言った様にそんな趣味の奴等にでも何かされるかもしれないが、犬に噛まれたと思って諦める事だな」

 裸で放置されるぐらいなら俺には何でもないが、変な奴等に襲われるのは困る。

「うをい! 俺の童貞はストリーに捧げるって決めているんだ。ちょ、頼む、やめて! ほんと止めて。助けてべノム!」

 俺の必死の懇願も聞かず、べノムは町の広場まで俺を引きずって行く。
 そんな俺の裸を、通行人達が見て噂している。
 騒ぐだけ目立つし無駄だ。
 終わるまで石の様にじっとしていよう……。

 そう決めた俺はジッと我慢しているのだけど、その夜そいつ等は現れた。
 べノムが言った通りあっち系の人にしか見えない奴等だ。

「なあ兄貴、此奴中々美味そうじゃないですか?」

 二人組の一方が、俺を値踏みするように見つめている。

「そうかぁ? 俺にはちょっと合わないなぁ」

 もう一人は、俺に興味がなさそうだ。
 頑張れ兄貴、早くそいつを説得して帰ってくれ!

「兄貴、丁度いいチャンスじゃないですか。罪人の事なんて誰も見ていませんって。ちょっとスッキリするぐらいいいじゃないですか」

 しかし、子分と思われる男は兄貴の方を説得している。

「まあ良いか、ちょっと好みじゃないけどスッキリして行こうか。じゃあ……」

 その兄貴も説得され、男達は自分のズボンを下ろし俺に近づいて来ている。

「黙って聞いてりゃなんだお前等、俺は道具じゃないぞ! ちょ、止めろ! や、やめ、止めてええええええええ!」

 縛られて抵抗出来ない俺は、声を出すしか方法がない。

「大丈夫だって、ちゃんと気持ちよくしてやるから」

 兄貴の手つきがウネウネしている。

「兄貴のテクニックはそれはもうすげぇんだぜ、ノーマルだった俺も一発で目覚めちまったからな」

 子分は犠牲者みたいだが、スッカリ目覚めてしまっていた。

「「さあお前もこっちの世界へ……」」

 二人の男達が、俺に近づいて来る。
 い、嫌だ、そんな世界行きたくない。
 止めろ、止めてくれ!

「た、助けてえええええええええええええええ!」

 思わず助けを求めた俺に。

「そこまでにして貰おうか!」

 何者かの助けが入った。
 それは一瞬の出来事で、男達二人が弾き飛ばされる。
 現れたのは……。

「うおおおおおお! 俺信じてた、信じてたよストリー! マジ愛してる、今直ぐキスしたい!」

 俺はストリーに愛を語りかけ、助けを求めた。

「ほ、本当に?」 

 そんな俺の言葉に、ストリーが顔を真っ赤にさせてうつむいている。

「当たり前だろ! もう俺には、お前しか居ないんだからな! もうほんと抱きしめたいぐらい嬉しいぜ!」

 我ながら調子の良い事ばっかり言ってるが、好きなのは本当だ。

「てめえ、俺達を無視して何イチャイチャしてるんだよ! キッチリこの落とし前付けてやるからな!」

 しかし、ストリーにぶっとばされた二人の男が立ち上がっている。
 兄貴の方は怒りにまかせ、拳を構えた。

「兄貴を怒らせたら怖いんだぜ! なんせあの五殺星のフレーレに勝った事があるんだからな!」

 五殺星ってなんだろう?
 フレーレってのはあの暴力姉ちゃんの事だよな?

 俺が首をかしげていると、ストリーが男達の方へと振り向き、意味を聞き返している。

「その五殺星って何の事なんだ?」

 ストリーも知らないようだ。

「お前知らないのかよ。五殺星ってのはな、顔は美人なのに絶対結婚出来なさそうな奴等の事だよ。撲殺のフレーレってのはな、三度の飯より戦う事が大好きで、王国の者が誰も勝てないって言われている凶暴な女の事だぜ!」

 誰も勝てないのになんでお前は勝てるんだよ。
 俺もフレーレ様は知ってるけど、お前に勝てる相手じゃないって。

「他にも冷血無情のエルや、残虐ドSのレアス、ぶっ壊しのルルムムに、五十人殺しのストリーって奴がいてな。兎に角とんでもねぇんだぜ」

 子分は当のストリーに向かって説明している。
 でも五十人殺しって何? 

「そ、それで? ストリーって奴はどんな奴なんだ?」

 ストリーが自分の事を男達に質問している。

「ストリーって奴はな、子供の頃から王国の男達をボコボコにしまくって、今では誰にも相手にされてない可哀想な奴なんだぜ。あんたみたいに金髪の髪をしているって聞いた事があるぜ」

 なるほど、ストリーはそんな事をしていたのか。
 そんな事してりゃあ相手にされなくなるわ。
 ストリー自業自得だぞ。

「ストリーは私だああああああああああああああ!」

 あ、やばい、ストリーがキレた。

「「ぎゃああああああああああああああああああああ!」」

 その名前を聞いて逃げようとしている二人を捕まえ、思う存分ぶん殴っている。

「ちょ、待てストリー、やり過ぎだって。そいつ等死んじゃうから、兎に角落ち着けって」

 本気でやり過ぎなストリーを、俺は背後から引き止めた。

「そうだよな、またやっちゃう所だった。アツシ止めてくれてありがとぅ」

 またやっちゃうって……また殺っちゃうじゃないだろうな?

 ストリーの顔には返り血が付いてかなり怖い。
 ちょっと引いたわ。
 これからの付き合い方も考えないといけないかもしれない。

 ストリーが俺に話している内に、二人の男達が逃げていく。
 そしてストリーが俺に近づき。

「私のこと嫌いになったか?」

 血にまみれた顔で見つめている。

「ソンナコトナイヨ、ストリーダイスキ」

 俺は内心を隠し、片言で返事をした。

「良かった、嫌われたらどうしようかと思ったぞ」

 しかし、ストリーは気付かない。
 それよりもまず、この動けない体をどうにかしたい。

「ストリーとりあえずこのロープを外してくれないか?」

 俺はストリーに頼むのだが。

「……罰は甘んじて受けるんだ。私も付き合ってやるから」

 俺を解放してはくれないようだ。
 そりゃそうか。
 罪人を逃がしたらストリーまで罰を受けてしまうからな。

「…………」

 だが気付いたことがある。
 ……これ、トイレはどうするんだろう?
 ここで漏らせというのだろうか?
 ストリーの前で漏らせと?

「あ、あのなストリー、俺ちょっと下半身が大変な事になってるんだ。助けてくれないか?」

 黙っていてもいずれ限界がくると、俺はストリーに打ち明けた。

「な、何を言っているんだ! こんな所で出来るわけないだろ! 全くアツシはエッチなことしか考えないんだから。もう困った奴だ!」

 ストリーは何か重大な勘違いをしている。

「……いや、そうじゃなくて、トイレが我慢できなくて、そろそろヤバイんだけど……」

 俺はトイレが近いことをもう一度打ち明けた。

「うっ……わ、分かった、袋を持ってきてやるからその中に……」

 俺の為に袋を持って来てくれるというが、ここでしろというのだろうか? 

「待ってくれ、野グソはちょっと……」

 乗り気ではない俺は、それを拒否したい。

「漏らすよりはいいだろ!」

 そんな俺に怒りだすストリー。 

「もうストリー帰っていいから、家にいろよ。ここに居たらお前もトイレ行けなくなるぞ……」

 俺はストリーに帰るように言ったのだが。

「わ、私はトイレなんて行かないから大丈夫なんだ!」

 何だか昔のアイドルみたいなことを言っている。
 それから二人で話しながら夜を越え、俺の罰は終わりを迎える。
 しかし安心して欲しい。
 トイレの時だけはロープを解いて貰いました。

 これからもストリーとは仲良くできたらいいなぁ。
 何時かは結婚して子供でも作るんだろうか?
 急いでるって事だったはずだけど、本人が恥ずかしがってたらなぁ。

 ……まあ、成る様にしかならないか。

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