一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 王道を行く者達33

 サタニアの頼みを聞き、リーゼは砂漠に向かった…………


リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)    ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)


 サタニアの頼みで砂漠へと向かったリーゼ達だが、二日経っても目的の場所はまだ見えない。
 砂漠越えの為に高い金を出しラクダを買って、重い荷物はそれに背負わせている。

「み、水を……」

 マッドは水を求めている。

「マッドさん、足りないなら自分の魔法で出せばいいでしょ」

 マッドが居る限り水の心配は無いが、暑さの所為で武器や防具がやたら重く感じている。
 武具はそのままでは熱で持てなくなるので、布や包帯でぐるぐる巻きにしてあるのだ。

「でも魔法を使い過ぎて、いざという時に使えなくなっては困りますよ」

 リーゼとしてもマッドに倒れられたら困るが、それでもマッドが居なくなった時の事も考えなければいけない。
 マッドが居なくて水も無くなれば、この砂漠で誰も助からないだろう。

「マッドさん、持ち水を全部飲むのは駄目だからね。水は補充して進むのよ」

「はいはい、分かっていますよ。大丈夫、大丈夫です!」

 リーゼ達は、砂漠を渡る為に新調した大きな水筒と、肌を日にさらさない為のローブを買っている。
 しかし水は早いペースで減っている。

「リーゼちゃん、本当にこっちでいいのかな? ちょっと不安になって来るんだけど」

 ラフィールは周りの景色を見て不安になっているようだ。
 それも当然である。
 この砂漠は広く、どこを見回しても景色に変化はないのだ。

「羅針盤で確認しているから大丈夫よ。最悪は太陽の位置と剣の影だけでも何となく方向は分かるからね」

 リーゼは手に持つ羅針盤で、何度もその位置を確認している。
 それだけではなく、太陽の位置や影の形を頼りに進み続けた。
 太陽は季節によっては随分と位置が変わるというが、一日、二日程度では殆ど変わらない。
 時間による影の位置を覚えておけば、ある程度なら方向を絞る事も出来るのだ。

 時計で方向を絞る方法もあるらしいが、個人でそんな高価な物を持てるのは、一部の貴族だけだ。 庶民が買うには、一年や二年は飲まず食わずで働かなければならない。
 もしそんな物を買えたとしても、こんな所にまで持って来る事は無いだろう。
 もし魔物の攻撃でも食らえば、二年分の稼ぎが無になってしまうからだ。

「あ~、暑いわね。ちょっと木陰でもないのかね」

 そんなリサの声が聞こえる。

「こんな中じゃサボテンも育たないわよ。目的地は町だと言ってたから、そこまでは我慢しないとね」

 リーゼも休みたいと思っているが、見える範囲には何もない。

「だがその暑さで魔物との遭遇率も低い。余り生物が生きられる土地じゃないからな。もしこの場所で魔物にあったなら、そいつはかなり厄介な奴なんだろう。見た目に惑わされるんじゃないぞ」

「そうね」

 リーゼはハガンの言葉に頷き、歩みを進める。

「あそこを見てください。あれオアシスなんじゃないですか!」

 マッドがオアシスを見つけた様だ。
 遠くに揺らめく影、確かにそう見える。

「マッドさん違います。あれはただの蜃気楼ですよ。地図を見てもあの方向には何もありませんからね」

 リーゼはマッドに注意するが。

「いえ、間違いありません、この私の感がそう言っています! さあ行きましょう皆さん!」

「待てマッド、おい!」

 ハガンの言葉も聞かず、マッドは走って行ってしまう。
 あまりの暑さに頭でもやられのかもしれない。

 ここでマッドを一人で行かせる分けにもいかず、リーゼ達はその後ろを追って行く。

「ほらありましたよ。私の言った通りでしょう!」

 その場所には、地図に載ってないオアシスが存在した。
 水の周りには立派な木が生えている。
 この木が動く訳がないのだが。
 ならここは何十年も誰も発見してない場所なのだろう。
 どんな理由であれ、多少でも日陰があるのは嬉しかった。

「はあ、少し休んで行きましょうか。走ってちょっと疲れちゃったわ」

 リーゼは木陰に腰を下ろし、被っていたフードを脱いで寛いでいる。

「あれ、ハガンは?」

 しかしハガンの姿が見えなくなっていた。

「さっき周りを見て来るとか言ってたぜ。リサさんも付いて行ったし、まあ大丈夫だろ」

 ラフィールは、それに答える。

「……へぇ~、それでどっちに行ったの」

「ほらあそこ」

 ラフィールの指さした方向に、ハガンとリサの姿が見える。
 リーゼはすくっと立ち上がり、その後ろを追い掛けた。

「この頃大人しくしていると思ったら、こんな所で仕掛けて来るなんて油断できないわ!」 

「もう放っておいたらいいんじゃないか?」

 リーゼの後ろからはラフィールが付いて来ていた。

「嫌よ、リサさんにお母さんになってもらう積もりはないから!」

 そんな事で復讐の旅を終わるつもりは無いが、そんな二人の空間に自分も巻き込まれるんじゃないかと恐れていた。

「……お、おいリサ、ちょっと向うへ行っててくれないか?」

 その肝心のリサは、ハガンにくっついているようだ。

「何でですか? 私なら平気です。気にしないでください」

 ハガンが注意しても離れる気はないらしい。

「いや、ちょっと催してな……だから離れていてくれないか?」

 しかしハガンはピンチらしい。

「私なら平気ですよ! ハガンさんは手が無いんですから、私が手伝ってあげます!」

 それでもリサは退かないようだ。

「いや大丈夫だ。一人で出来るからちょっと離れてくれないか」

 リサはハガンの制止も聞かず、背中から手を回しズボンを……リーゼはその瞬間飛び出していた。

「リサさん、そろそろ大人しくしてもらえませんかね! こんな所で何するつもりですか?!」

 剣を抜き、リサを脅すように刃を向けた。

「リーゼちゃんも、そろそろ親離れした方がいいんじゃないの?」

 それでも引かないリサは、大きな剣を構えている。

「お、おい取り合えず手を離してくれないか。俺はちょっと離れるから、二人で話し合っていろ」

 リサに手を離されハガンは逃げる様に去って行く。

「そろそろ決着を付ける頃かしら?」

 リサの戦闘体勢は整い。

「あれリサさん随分と余裕なんですね? ハガンに負けてるのに、私に勝てるつもりですか?」

 リーゼも準備万端である。

「リーゼちゃんこそ、その武器があるからって私に勝てるとでも?」

 二人が武器を構え、今にも跳びかかろうと対峙している。

「おいおい、マジでやり合うつもりなのか? 殺し合いなんてやめてくれよ」 

 ラフィールは二人を止めようとしているが、どうにも止まりそうもない。

「分かってるわ。だから一発当てた方が勝ちってことで良いわね?」

 リーゼは勝負方法を決めて。

「ええ勿論、自分の娘を殺す気なんてないしね」

 リサも同意したが。

「誰が娘ですって!」

 その言葉にリーゼは怒って飛び掛かった。
 しかし不用意に放った剣は、リサを捉えることが出来ず空を切る。
 だがそのまま連撃は続き、リサは後に躱しながら自分の剣を振るタイミングを待っている。
 リーゼの二つの剣を振り終わるタイミングで、リサの剣が振り下ろされた。
 リーゼは体を捻り横に躱すが、リサの剣はその方向に跳ね上がる。

「くらうかああああ!」

 リーゼは体を捻り剣を躱し、その捻りのままリサの背中まで回り込む。
 そして必殺の連撃を狙っていた。
 だがリサは振り終わった剣の握りを瞬時に変えて、更にリーゼの背中へと大剣が伸びる。
 リーゼは剣を振るのを諦め三歩後へと下がると、その鼻先寸前に大剣の刃が止まった。
 止まった剣に自分の剣を滑らせ、リサの持ちてを狙うが、リサは剣を回転させると、剣の鍔がそれを受け止めた。

「ふふふ、やりますねリサさん。でも最初の一撃、あれ当たってたら私死んでましたよね?」

 リーゼは笑みを浮かべて剣を構え直す。

「ちゃんと防具に当たる様に調整してたよ? それにもし外しても、マッドがいるしね。リーゼちゃんこそ私の首筋狙ってなかった?」

 リサの顔も何だか楽しそうに、大きな剣を真横に構えた。

「それはただの気のせいです。でも事故って何処にでもあるじゃないですか。ね、ラフィール」

 リーゼは、戦いを見ていたラフィールに声を掛けた。

「え?」

 しかしその言葉には答えられなかった。

「そうよね、事故って何処にでもあるもんだよね。まあ怪我しても仕方ないよね、ラフィール」

 リサも同様にラフィールに声を掛けた。

「俺に言われても知らないでよ!! そろそろ止めようぜ、ほらハガンさんも戻って来てるし」

 ラフィールの声に、二人はハガンの姿を捜す。
 もう用事は済ませた様だ。

「あら残念、また今度にしましょうか」

 リサはあっさりと引き下がり、自分の剣を収めると、ハガンの隣へと駆けて行った。

「ま、待ちなさい!」

 リーゼがそう叫んだ時、踏みしめた大地からとても立っていられない程の振動が起こった。

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