一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 王道を行く者達32

 サタニアとの激戦を生き残り、魔物との戦闘に向かったサタニアを追いかける…………


リーゼ(赤髪の勇者?)   ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)      ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)    サタニア(?)


 サタニアとの戦闘のダメージを癒(いや)し、リーゼ達はサタニアを追って行く。
 あのサタニアとかいう魔族は、ルーキフェートと呼ばれていた。
 サタニアというのは偽名なのだろう。

「魔物が出たって言ってたから入り口の方かしら? 皆行けるわよね」

 リーゼは仲間に決意を聞く。

「ああ大丈夫だ。リーゼちゃんは平気か?」

 ラフィールも頷き。

「私もマッドさんに癒してもらったわ。もう大丈夫よ」

 リサも同意した。

「ハガンは?」

 リーゼはまだ返事のないハガンに声を掛けた。

「俺ももう平気だ。しかしあのサタニアとか言う魔族、やはり前に戦った奴とは桁が違うな」

 ハガンも足を動かし、大丈夫だと判断したようだ。

「あいつもそうだけど、もう一人居ただろう。彼奴も相当ヤバイよ。動こうとしただけで悪寒が走ったもの」

 リサが言ってるのはサタニアの従者であるラムの事だろう。

「何方も強敵ってことよね。でも行くしかないわ。さあ行きましょう!」

 リーゼ達は町の入り口へと向かった。
 そこには無数の魔物と戦うサタニアと、その従者ラムの姿が見える。

 リーゼは相手の魔物の姿を見た。
 長い鼻と大きな耳、巨大な牙と鎧の様な皮膚、それだけならば象という生物だろう。
 象は動物の枠の中でも凶悪な生物で、暴れ出したら人の手には負えない。
 それだけでも凶悪なのに、あの像の鼻の先には人の背丈を倍にした程の剣が付いている。
 あのリーチの差では人が近づく事も出来ない。
 その魔物がざっと三十頭程見えている。

「あれは象か……厄介な魔物だわ。一匹でも逃げ出したいレベルの相手ね」

 リーゼは怯まず、腰にあった二本の剣を抜いた。

「リーゼちゃん、あのサタニアよりもかい?」

 ラフィールはリーゼに聞くが。

「如何かしら? サタニアは私達を殺す気がないからね、こっちの方がキツイんじゃないかしら」

 リーゼはそう答えた。
 あの魔族達の実力は知っている。
 この場所を見るだけでもそれはハッキリと理解できた。
 あの二人は、魔法により、町の入り口には巨大な土壁を出現させているのだ。
 どれ程の物かと想像もつく。
 しかし、あの象達が何度も突撃したのなら、その壁も崩れてしまう。
 それを防ぐように、あの二人の魔族は象の魔物達と死闘を繰り広げていた。

「やっと来たのね。一匹手伝ってくださらない?」

 サタニアがリーゼに手伝いを申し込む。

「嫌よ。貴方の手伝いなんてごめんだわ」

 リーゼは断るのだが。

「あらそう。でも其方に一頭行きましたよ」

 すでに象の魔物に狙われていたらしい。
 リーゼに向かって突っ込んで来ていた。

「ッ!」

 リーゼはサタニアに構わず、象の方に意識を向ける。
 この一頭を放置しておけば、いずれこの壁を壊し町に被害が出るだろう。

「リーゼさん、まさかワザと一頭を此方にやったのでは?」

 マッドはあり得そうな発言をしている。
 サタニアならやりかねないが……。


「知らないわ。どの道此奴は私達が倒さなきゃ!」

 リーゼは象の動きを観察している。

「リーゼ、あの鼻は厄介だぞ」

 ハガンの注意を受けるが。

「それぐらい分かってるわよ!」

 見れば分かるのだ。
 下手に受けたら力で吹き飛ばされる。
 リーゼの剣で斬る事が出来ても、斬られた剣はその勢いのままリーゼの体を切り裂く。
 あの剣を攻略するには、避けながら剣を切断するしかないが、あの鼻の動きは人間のそれとは違う。
 出鱈目な動きは読みづらく、それを防ぐのにも相当な覚悟がいる。

「良し、俺が行って来るよ。皆はタイミングを見て突っ込んでくれ!」

「分かった、気を付けてね」

 ラフィールが行くのを希望したので、リーゼは任せることにした。
 走り出すラフィールだが、象の鼻の剣は一瞬でラフィールの防御をバリンと一枚破壊する。
 更に向かうラフィールの腹に、もう一撃加えられた。
 それにより、二枚目の防御が破壊されてしまう。

「三度目は無いぜ!」

 ラフィールの剣は象の剣の付け根を斬りつける。
 しかし、ギイイイインっと皮膚の硬さに衝撃を受けた。

「くそ、硬い!」

 攻撃を続けるラフィールに、象の鼻が絡みつく。
 ギリギリと締め付けられ、防壁の一枚がまた割れてしまう。
 一瞬象の力が緩むが、直ぐに体を掴み、ラフィールは空へと打ち上げられた。
 落ちるラフィールに、振り上げた象の剣が向かう。

「タイミングピッタリだわ!」

 リーゼは地面へ振り下ろされる象の剣の根元を狙い、鋭い剣を振り上げた。
 ラフィールに剣が届く前に、リーゼの剣が象の鼻へ。
 スピードが乗った象の鼻は、振り上げられたリーゼの剣に食い込み、鼻先が斬り飛ばされた。
 ラフィールはその間に体勢を立て直し、無事に着地している。
 剣が無くなり、あれはただの象になったはずだ。

「リーゼ接近するぞ。離れると突進が厄介だ!」

 ハガンはリーゼに声を掛けた。
 象の突進は時速四十キロ程で、とても人では逃げる事は出来ないのである。

「ラフィール、正面は任せたわ!」

 リーゼはラフィールに声を掛けた。
 防壁を頼りにしているのだろう。

「あはは、防壁も一枚しかないし、これの正面はちょっときつそうだぞ……」

 それでもラフィールは象に向かう。
 ラフィールは盾を使い、象の鼻をいなし、牙を防ぎながら隙をつき、剣を振る。

「リサ、右側に回ってくれ! リーゼは俺と一緒に左だ! マッドは下手な攻撃をするなよ!」

 ハガンは状況を見極め、全員に指示を出した。

「分かってますよハガンさん!」

 マッドは土壁を背にして逃げている。
 相手は大きな象だが、リーゼ達の武器は象を確実に刻んでいく。
 今の所はラフィールも持ちこたえている様だった。
 良し行ける。
 そう思った瞬間、リーゼ達の目の前から象が消えた。

 リーゼはばっと空を見上げると、そこにはあり得ない程飛び上がった象の姿が見える。
 あの巨体の着地地点にいたら、踏み潰されて死ぬだろう。

「皆、上よ! ラフィールも避けるのよ。結界が持たないかもしれないわ!」

 リーゼは皆に注意を促す。
 象はまだ落ちて来ない。
 あの高さから落ちたなら象もタダでは済まないと思うのだが、魔力か何かで保護しているのだろうか?

「来たよ! 石の破片でも凶器になるから気を付けなよ!」

 リサの忠告が響く。

「やっぱり俺の所かよ! うおおおおおお!」

 狙われたのはラフィールである。
 巨体を避けるようにラフィールは全力で走り、タイミングを見計らい反転して盾を構えた。

 ッドゴオオオオオオオオオオオオオオンっと、強烈な音と衝撃がラフィールを襲う。
 ただの砂や石が弾丸となり、ラフィールの盾にぶつかっていく。
 その弾丸はラフィールの最後の防壁を割ってしまった。

「今の内に攻めるわよ!」

 リーゼの指示で、四人が攻撃を続けている。
 しかし中々象は倒れない。

「ハガンしゃがんで、象の上に乗るわ!」

 このまま足元を攻撃していても無理だと、リーゼはハガンに手を借りようとしている。

「よし、無理はするなよ」

 ハガンの背中を台にして、象の背に乗ろうとするが、まだ高さが足りない。
 足りない高さは、持っている剣を象の背に突き刺し、強引に腕を引き寄せることで補った。
 しかしその痛みの為なのか、再び象はリーゼを乗せて、高い空中へと舞い上がる。
 空の上はとても高く、人の判別さえできない。
 此処から振り落とされれば助かる術は無いだろう。

「大丈夫だ、大丈夫なはずだ。象は潰れなかったんだ、きっと何とかなる!」

 理屈は分からないが自信はあった。
 リーゼはチラリと横を向くと、そこに居たサタニアと目が合った。
 『助けてあげましょうか?』サタニアからそんな声が聞こえた気がした。
 一瞬で通り過ぎ、そんな声は聞こえるはずがないのに。

「必要無いわよ!」

 リーゼがそう叫ぶと、象が空中から落下し始めた。
 象の背に刺した剣でバランスを取りながら、リーゼは象と一緒に地面に激突した。

「リーゼ!」

 象は地面に無事到着すると、膝を折り地面へと崩れて行く。
 背には深々と二本の剣が突き刺さっている。
 リーゼは象の背中からバランスを崩し、落下してしまう。

「あぐッ、げほっ、大丈夫ッ、生きてるわ」

 リーゼの体は、巻き上げられた土砂で所々怪我を負っているが、命には別条はないようだ。

「地面にぶつかった瞬間、剣を押し込んでやったわ。一瞬体が軽くなったから、重力か何かを操作してたんじゃないかしら」

 リーゼ達が苦戦していた象は、サタニア達二人により殆どが倒され、今や二頭を残すのみとなっていた。
 しかしそれも一瞬の事だった。
 空中を飛ぶ二人の魔族は、上と下からの斬撃により、ハサミのようにして二頭の象の首を落とした。
 魔物を倒したサタニア達が、リーゼの元へと歩いて来た。

「おやおや、随分お疲れのようですね。ラム、癒してあげなさい」

 サタニアはラムに指示を出すが。

「要らないわよ! それよりさっきの続きよ、勝負しなさい!」

 リーゼは断り、ボロボロの体で剣を構えるが。

「リーゼ無理だ。此奴に戦う意思が無いのなら、今戦うのは止めておけ」

 しかしハガンはそれを止めた。

「でも!」

 リーゼはそれでも行きたそうにしている。

「この像の数が俺達との差だ。どうやったって勝ち目は無い。頭に血を上らせるなと訓練しただろう」

 リーゼは旅に出る前にハガンから訓練を受けている。
 その中でも特に重要だと言われたのが、怒りで我を忘れるなと、怒りは視野を狭め、使えるものを見落としてしまうと言われている。

「……分かったわ。今回だけは諦めてあげる」

 リーゼは心を落ち着かせ、今の状況を考えた。

「納得してくれたようで何よりです。では今から砂漠へ向かってくださらない?」

 サタニアはいきなり、リーゼ達に砂漠へ行けと言っている。

「何で私達が貴方の言う事を聞かなきゃならないのよ! 他の奴にでも頼んだら!」

 リーゼはそれを断るのだが。

「貴方達にだってメリットはあるんですよ? そこには真なる魔法を使う者が居られます。書状を渡してあげますので、そこで更なる魔法の深淵を知りなさい」

 サタニアはリーゼに交換条件を突きつけた。

「分かった、行こう」

 睨みつけるリーゼを横に、その返事をしたのはハガンだった。

「ハガン!」

 嫌そうにリーゼは怒鳴りつける。

「リーゼ、俺達に力をくれると言うんだ、有難く貰っておけばいい。その力が自分の首を絞める事になるんだからな」

 ハガンはリーゼを説得している。

「……行くわ」

 最後にはリーゼが折れて、五人は目的地を砂漠として、その準備を始めた。

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