一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

8 まおうぐんのにちじょう レアスの子育て日記

 レアスはべノムからイモータルが留守の間に、子供の事を頼まれた…………


グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士) フルール・フレーレ(王国、兵士)
ルーキフェート(王国、王女)


「なぜわたくしが……」

「女王様達は帝国に向かうから人手が足りないんだよ。まあほんの十日度だから、しっかり面倒を見てやってくれ」

 わたくしは、べノムから王女様方の面倒を看るように頼まれている。
 断ることはあまりしたくないが。

「い、いえ、でもわたくしに子供の面倒を看るなんて無理ですわ。せめて人数を一人にしてください」

 その頼み事に、わたくしは珍しく弱気になっていた。
 子供自体は嫌いではないのですが、自身の能力で傷付けてしまうのではないかと恐れていました。

「言っとくが、イモータル様の信頼があるからこそ子供を預けるんだからな」

 これは名誉なことだぞと言わんばかりにべノムは喋っている。

「それぐらい分かっていますわ。だから一人は面倒を看ると言ってるではないですか!」

 それでも二人は無理だからと、わたくしはべノムに頼む。
 屈辱的ではあるけれど、今回は仕方がないのです。

「まあいいか。マルファーの所にもう一人面倒を看てもらうとするよ。まあ誰が来るかは分からないが、しっかり頼んだからな」

 そう言い残しべノムは飛んで行ってしまった。

「ど、どうしましょう。子供ってどうやって面倒を看れば良いのかしら」

 オロオロしているわたくしは、友達であるフレーレさんに相談する事を思いついた。
 彼女が王女様方の相手をしているのを何度か見たことがある。
 せめて二人でなら何とかなる気がしていました。

「フ、フレーレさんに相談してみましょう」

 わたくしはフレーレさん家の前へ到着すると、家の扉を叩いた。

「フレーレさん、居ないんですかフレーレさん! お願いですから助けてください! フレーレさぁん!」

「どうしたのよレアスちゃん、何かあったの?」

 出て来たフレーレさんに、わたくしは子供達を預かることをフレーレさんに告げた。
 一人では心細いと、そして子供の面倒を看るにはどうすればいいのかと。

「実は私も一人預かる事になってるんだよねー。良かったら一緒にやらない?」

 フレーレさんが一緒なら心強い。

「勿論ですわ! 是非お願いします!」

 わたくしも必死にお願いをして、フレーレさんと一緒に行動することになる。
 イモータルが出発する日の朝、べノムに連れられた一人の少女がやって来た。
 それは元奴隷の少女、イモータル様の養子の一人、ルーキフェート様だった。
 面識はあるのだけれど、どう接すればいいのか分からない。

「ルキ様、ほら挨拶して」

「おはようございます、レアスお姉ちゃん」

 べノムに促されるままに、ルキ様はわたくしに挨拶している。

「お、お早う御座います、ルキ様。き、今日からよろしくお願いいたしますわ」

 わたくしは軽く挨拶を済ませると。

「じゃあ俺は行くから、あとは頼んだぞ」

 べノムは直ぐに出て行きそうになっている。

「ちょ、待ってください! 出来ればフレーレさんが来るまででいいので、一緒に居てくださいませんか?!」

 わたくしは何とか引き留めようと動くのだけど。

「悪いが俺は他のお子様を送らにゃならんのだ。まあ頑張ってくれ」

 全然頼みを聞いてくれずに飛び立って行った。
 あの鴉(カラス) 女人の頼みを簡単に断るとは、どんな男なんでしょう!
 せっかくわたくしが必死で頼んだというのに、今度会ったらぶちのめしてやりますわ!

「お姉ちゃんどうかしたの?」

 そんなわたくしの顔を見て、ルキ様は心配してくださる。

「な、何でも御座いませんわ。ルキ様、さあお部屋に入りましょうね」

 わたくしはルキ様をリビングへと通し……。
 お通ししたまではいいのですが、これからどうすれば……。
 ルキ様とわたくしは、無言でソファーに座った。

「…………」

「…………」

「…………」

 しかし話すことも出来ず、無言の状態が続いている。

「お姉ちゃん、何かお話して」

 ルキ様はお暇を弄ばれたのでしょう、お話をお願いされた。

「お、お話……ああ、そうですわね……ええっと」

 でも緊張してしまったわたくしは、何を話せば良いのか分からなくなっていた。
 お、お話って何を話せば?
 そ、そうですわ、お話の定番と言えば童話や昔話です。
 それを聞かせれば、間違いはないでしょう。

 でもそれでは何時も聞かされているでしょうし……あまり話したくはありませんが、私が体験したお話でもしてあげましょうか。

「で、では、それはわたくしがもう少し幼かった頃のお話ですわ。私のは家の都合で、お城の舞踏会に参加いたしておりました」

 それは昔あった本当の話。

「ぶとうかいってなあに?」

 ルキ様は、まだお勉強が足りないのでしょう、舞踏会のことが分からないようだ。

「皆で集まってお話したり、ダンスをしたり、他には、男女の出会いの場でもありますね」

 わたくしは軽く説明し。

「ふ~ん」

「そこでわたくしは踊りたくも無いダンスをさせられ、少々いらだっていたのですわ。そこへそいつが現れました。私と同じくらいの歳の男。名前は忘れてしまいましたが、そいつは私に話しかけてきたのですわ」

 体験した物語を話し始めた。

「どんな人だったの?」

 ルキ様は、その人物に興味があるらしい。

「黒い髪と黒い瞳をした奴でした。そいつは無駄に口が悪く、私に絡んできたのですわ。そいつは何故そんなに怒っているのかと私に話しかけ、私はこう答えたのです。消えなさい、私に話しかけたければもう少し容姿を磨く事ですわ。と。しかしそいつは私の元から離れませんでした。私の話など無視して、何度も何度も同じ事を聞いて来るので、私がその男の元から移動したのです」

 長々と語るわたくし

「きっとその人お姉ちゃんの事好きだったんだよ」

 ルキ様はラブロマンスにでもしたいみたいですけど、その可能性は考えていませんでした。

「もしかしたらそうかもしれませんね。わたくしはとても美しかったですから。ですが私はその男には興味がありませんでした。移動しようとした私に、あろうことか私の後ろから付いて来たのですわ。あまりにもしつこいので仕方なく、その男の相手をすることにしたのです。もし城の最上階にあるレリーフの宝石を取って来たなら、私は貴方と付き合っても良いと。勿論そんな事をすれば普通は死罪です。ですがその男、王子様とお友達だったのですわ。王子様に頼み込み、その宝石を私の元へと持ってきてしまったのです」

 話して行くうちに、わたくしの怒気が強まる。

「お姉ちゃんはその人とお付き合いしたの?」

 ルキ様の質問に、私は首を横に振る。

「勿論そんな事はいたしません。命も賭けずただ持って来た人になど、わたくしは興味すら沸きませんわ。しかし約束は約束です。なので私はその男に決闘を申し込んだのです。もしも私に勝てたならば、私の体を自由にしても良いと。その男はその決闘に乗りませんでした。女の私には本気は出せないと言い出したのです。私の胸中は穏やかではありませんでしたわ。女の私では絶対に敵わないと思っているその男、どうにかしてやろうと思い、その場で殴りつけてやりましたわ!」

 そう、あの時は本当に頭に来ていた。

「うわーお姉ちゃん強いんだね」

 ルキ様は私の話に興味を持っているようだ。
 最後のひとくくりをして、話しを終了しましょうか。

「勿論私は強いですわ。殴った男はそのまま逃げて行きました。そして二度と舞踏会には現れなかったのです。ルキ様も男なんかには負けてはいけませんよ。特にあのべノムの様な男には特にです」

 グッと拳を握り、ルキ様に教え込んだ。

「うん分かった~。でもべノムはその女みたいなのにはなるなって言ってたよ?」

 でもルキ様は、おかしなことを言っていた。

「え?」

 わたくしは不思議がり首を傾ける。

「前にべノムにおんなじ話を聞いたの。でもその時にはお姉ちゃんみたいになるなって言ってたよ」

 ルキ様の言葉で、今まで何故ベノムが嫌いだったのかがハッキリと理解できた。
 あの男こそ私の敵、今度こそ完膚なきまでに地べたに這いつくばって貰いましょう。

 そんな時分、コンコンコンっと屋敷の扉が叩かれた。

「レアスちゃん、遊びに来たわよー。ラヴィーナちゃんも一緒だよ」

 あ、フレーレさんが来てくださいましたわ。
 私はフレーレさんを家へと招き入れ、私達四人は楽しく過ごす事ができました。
 そしてその夜、私はルキ様が一人で家を出て行くのを見てしまったのです。
 私は見つからない様にそれを追いかけ、ルキ様が城に入っていくのを目撃してしまいました。

 廃城の中は、子供だけは通る事が出来ると聞いてはいます。
 城門から手を入れてみますが、直ぐに落雷が……。
 無事に出て来た時にはほっとしましたが、やはりメギド様に会いに行ったのでしょう。

 わたくしの心が、少し動かされてしまった。
 ……何かこの子にしてあげられる事は無いのでしょうか?

 わたくしは預言者ではないですが、何時かこの子が大人になった時、きっとメギド様と対峙する時が来るでしょう。
 その時までに、この子を戦える戦士として育ててみせましょうか。


 イモータル様には、わたくしから話しておきましょう。
 きっとこの子はいい戦士になりますわ。

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