一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達30

 リーゼはサタニアを追う…………


リーゼ(赤髪の勇者?)    ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)       ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)     ルマ(元魔王軍の一人?)


 リーゼ達はサタニアを追い、更なる先の町へと進んだ。
 この町はアンダレアの町。

 町には魔王城から逃げて来た人が居るらしい。
 それと昔、三人の魔族が移住者達を引き連れてやって来たことがあるのだとか。
 リーゼはその噂を耳にすると、魔王城の関係者を探す為に、道行く人達に聞き込みを開始した。

「ねぇおばさん、魔王城からやって来た人が居るって聞いたのだけど、その人達が何処にいるのか知らないですか?」

「ルマさんの家かい? それならこの先を真っ直ぐ行った所にある家だよ」

 一人目の道行くおばさんは、その人のことを知っていた。
 その人はこの町で有名人で、傭兵や旅人等に魔王軍の話をして小銭を稼いでいるらしい。
 本物なら、リーゼ達の旅の助けになるだろう。

「どうやら簡単に見つかったみたいだな」

 ハガンが誰にともなく言葉を発する。

「そうだね、元魔王軍の人間なら有名だろうからね。町の人全員に知られていてもおかしくないだろうね」

 リサがその言葉に答えた。
 自分の事をネタにしているのなら、小さな町で魔王軍の人間が居る事を知らない方が不思議だろう。

「魔王軍の話ですか、私も聞いてみたいです。リーゼさん早く行きましょう」

 マッドは興味津々らしい。

「ああ、行こうぜリーゼちゃん」

 ラフィールがリーゼを誘う。

「そうね、ありがとうおばさん。早速行ってみるわ」

 リーゼ達はおばさんにお礼を言い、そのルマと言う人の家へと向かった。
 家の前には少し大きな看板があり、そこに書かれた文字を見る。
 魔王軍の事を聞きたいのなら俺の所に来い、料金は一人五千。
 だそうだ。

 商売が儲かっているのか、個人宅にしては相当大きい。
 普通の民家の三件分はある。
 窓にはガラスがはめ込まれていた。

 このガラスという物、今の時代では相当高額である。
 庶民には中々手が届かない値段であった。
 その家の扉を叩くと、男の人が家の扉を開けた。

「こんにちは、貴方がルマさんですか? 実は私達は貴方にお話しを聞きたいと思っているんですが」

 リーゼが声を掛けるのだが。

「ああ悪いな、今はちょっと立て込んでて駄目なんだ。また今度来てくれないか」

 ルマは部屋の中を見ている。
 何かトラブルがあったのだろうか。

「人手が要るのなら私達がお手伝い出来ますよ」

 リーゼが手伝いを申し出た。

「いや大丈夫だ。そうだな、明後日なら話してやれると思うぞ。時間が有るならその日に来てくれ」

 ルマの話は聞けないらしい。

「分かりました。明後日にまた此処に来ますので、その時はお願いします」

 リーゼ達はルマが扉を閉めた事を確認すると、その家から少し離れた。

「もしかしたらだけど、あの人サタニアを匿っているのかも」

 リーゼが追っているサタニアは、この方向に向かっていた。
 ルマが元関係者なら、ここに居てもおかしくはない。

「リーゼちゃん、考えすぎなんじゃないか?」

 ラフィールが疑問を持つが。

「分からないよ? 元魔王軍なら今でも繋がりがあるのかもしれないよ?」

 リサも何かを感じていた。

「それで如何するんですか? 本当に居たのなら私達の事も分かっているのでしょう? 簡単には出て来ませんよ」

 マッドはどうするのか考えている。
 しかしリーゼは。

「そうよね……う~ん、夜に忍び込んでみようかしら」

 とんでもないことを言いだした。

「おいリーゼ、見つかったらただじゃすまないぞ」

 ハガンは引き止めようとしている。
 見つかったなら お尋ね者になるかもしれない。
 それともサタニアとの戦闘になるか、何方にしろこの先の旅が楽になることはないだろう。

「見つからない様にするわ。もしサタニアが寝ていたら、寝首をかいてやる」

 それでもリーゼは止められないようだ。

「リーゼ、それは止めておけ。相手は一人じゃないんだ。もし発見しても一度戻って来い。戦うのなら五人で行くぞ」

 ハガンの言葉にリーゼは渋々了承し、そして夜がやって来た。
 ルマの家の近くの茂みに隠れ、忍び込むチャンスを窺っている。

「何でラフィールが此処に来るのよ。私一人で十分なのに」

 リーゼは一人でいけないことに不満らしい。

「ハガンさんに頼まれたんだ。他の奴じゃこんなことには向いていないからな」

 ハガンは腕が無く潜入には不向きだ、マッドは予想がつかない事をしそうだし、リサはそもそも向いていない。

「一人の方が見つかりにくいんだけどなぁ」

 リーゼは不満をもらしている。

「そう言うなって。邪魔しないからさ。戦う時は二人の方がいいだろ?」

 戦いになればそうなのだが、そもそも見つからない方が良い。

「まあいいわ。そろそろルマさんも眠る頃よ。灯りが消えて、眠りに付いたら私達も行くわよ」

 二人が待ち続けて一刻が過ぎた頃、ルマの家の灯が消えた。
 更に少し待ち、全員が寝静まったと思われる頃、リーゼ達は行動を開始した。
 リーゼは家の扉をゆっくりと触り、押してみるがやはり開かない。
 扉の隙間を見ると、かんぬきが掛けられているのが見えた。

「リーゼちゃん如何するんだ?」

 小声で話すラフィールに答えず、リーゼは剣を抜いた。
 扉の隙間に合わせ真っ直ぐと振り下ろすと、かんぬきは音も無く切断される。

「扉が開いたらすぐに閂の端を拾ってよね。絶対落とさないでね」

 リーゼが小声で話している。
 内開きの扉を押すと、切られた閂の端が押されて落ちた。

「あっぶねぇぇぇ」

 ラフィールはそれが床に落ちる前に受け止めた。
 リーゼは足音を立てずに歩き、ラフィールは扉を閉め直しそれに続いて行く。

 中は暗いが、外の暗さになれていた為、物の形ぐらいは判断できた。
 灯が付いていた部屋を外から見ていた為、向かう位置は分かっているのだ。
 それは四か所。
 灯りの消し忘れじゃなければ四人以上居るのだろう。

 廊下を進み、最初の目的地、灯りが付いていた場所の扉の前に到着した。
 扉を開けると中には誰かが眠っている。
 リーゼはその顔を確認すると、それがルマの顔だと分かった。
 この部屋ではなかったらしい。

 首を振りラフィールに合図を送ると、その扉から出た。

 二つ目の部屋、そこには誰も居ないようだ。
 ルマがこの部屋の明かりを消したのだろうか?
 少し中を見回すがこの部屋に隠れる場所はないようだ。
 ベットもなく眠る様な場所では無いらしい。

 三つ目の部屋、中には四人がベットの上で寝ている。
 その中の一人を見たが、それは男だ。
 サタニアやラムがここで眠るとは考えにくい。
 近くで寝ている人物も男だった。

 ラフィールも他の二人を見るがやはり男だった。
 リーゼ達は部屋から出ると最後の場所に向かう。
 最後の部屋の扉の前。
 ここが最後まで灯が付いていた場所だった。

 リーゼはゆっくりと扉を開くが、そこには誰の姿も無かった。
 少し大きなベットが一つあり、他には小さな書棚がある。

「帰りましょう、ここには居なかったわ」

「ああ」

 二人はルマの家から脱出した。
 リーゼは逃げる様に速足で歩き、ハガン達のいる宿へ急いだ。

「結局居なかった訳だ。それならそれで、今度ルマさんに話を聞けばいいよな」

 ラフィールは安心しているようだが。

「何を言ってるの、あそこには居なかったけど、あの家には居たわよ! 最後の部屋、あそこにはベットがあったわ。灯りを消したならベットで眠るはずじゃないの。でもあそこには誰も居なかった、ベットにも乗られた形跡が残っていたわよ」

 リーゼはあの部屋が怪しいと感づいている。

「四人が居た部屋に行ったんじゃないのかな? あの中の一人が部屋の持ち主なんじゃ?」 

 ラフィールが聞き返すが。

「あそこにもベットが四つあったわ、少し歩けば自分の部屋があるのに、わざわざあそこにベットを一つ買い足すかしら」

「友達と寝たかったんじゃないのかな? あそこは一人になりたい時だけに使っているとか?」

 ラフィールの言う通り、確かにお金が有りそうな家だった。
 贅沢してもおかしくないのだが、同じ家に住んでるのに、そこまで拘るのだろうか?
 とリーゼは考えている。

「明日も顔を合わせるのに、わざわざ寝る時だけ移動しないでしょ? 灯りは最後まで付いていたのよ。友達と話したかったなら、あの部屋の灯りは最後には消えないわ」

 リーゼは灯の消え方に疑問を持っている。

「だったらあの部屋にいた奴は何処行ったんだ?」

 ラフィールはリーゼに聞き返す。

「分からないわよ、気付かれてるんだからもう姿を見せないでしょうね」

 リーゼは今日は無理だと諦めた。


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 ルマの家の屋根の上。
 逃げ出したリーゼ達をルキ達が見ている。

「ルキ様、まさか泥棒の真似事までするとは思いませんでしたね」

 ラムはリーゼ達の行動を見下ろしている。

「はぁ、夜中にこそこそと。何処の強盗かと思えば、奴等でしたか……眠いから部屋に戻りましょう。今日はもう来ないでしょうし」

 サタニアはそれに答え、二人は部屋へと戻って眠りについた。

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