一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

1 アツシ旅に出る。

 異世界に飛ばされたタナカ アツシ。
 その世界は魔物が溢れ、油断していたら三秒後には死んでいる世界。
 魔王の城へ侵入を果たしたアツシは、ガーブルとの約束によりその娘ストリーと付き合うことになった…………


タナカアツシ(異界から来た男)   ストリー(ガーブルの娘)


 俺はタナカアツシ、十五歳の高校一年生だった。
 しかし俺は何だか分からない内に異世界に飛ばされ、この戦いの世界へと飛ばされてしまう。
 その町の外には魔物があふれ、町の中も完全に安全とはいえない。
 たまに入り込んでは人を襲ったり、他にも色々不味い事がるのだ。

 例えばキメラ化と言われるもので、体を魔物の様に変えた人達。
 この人達は、人ではあり得ない程の身体機能を持っている。
 高速で飛び回ったり、大岩を素手でぶち壊したりと、色々と強いのだ。

 まあ変な事をしなければ襲って来たりはしないのだが、一応注意が必要である。
 俺はそんな世界の自室でくつろいでいたのだが、いきなり部屋の扉がバタンと開かれた。

「アツシ準備をしろ、明日出かけるぞ」

 入って来たのは俺の恋人のストリーだ。
 前にこいつの親父のガーブルの頼みを聞き、その報酬として恋人、いや婚約してしまった。
 身長は俺と同じかちょっと上ぐらいで、肉体は鍛え上げられ、絞られている。
 今日は長い金髪を後で縛って揺らしていた。
 ポニーテールというやつだな。

 俺は彼女と付き合っているのだが、まだデートというものをしたことが無い。
 たぶんこれはデートの誘いだろう。

 そうかデートか……。
 準備って何するんだ?
 下調べとかか?

 確かに俺は、まだ王国内のデートスポットとか全く知らない。
 服も二着を着まわしている。
 もう少し恰好良い服でも買えと言う事なのか?

「分かったぜ、俺にまかせてくれ」

 俺は胸を叩いて意気込みを示した。

「では明日の朝迎えに来る。それまでに準備を終えて置けよ」

 ストリーはそう言って部屋から出て行ってしまった。
 仕方ない、いくら中身がおっさんだとはいえ、相手は女の子だ。
 ここは俺がリードする所だろう。

 まずは同志達に相談を……いや、相談すると邪魔されそうな予感がする。
 止めておいた方が良いだろう。
 なら知り合いのべノムに……いや駄目だ。

 ロッテさんの気持ちにも気づかない鈍感野郎に、デートの場所なんて分かるはずがない。
 結局自分の足で探すしかないのだろう。
 俺にとっても初めてのデートなんだ、気合を入れて行こうか。

 俺は部屋から出ると、王国内を見て回ることにしてみた。
 元の状態は知らないけど、俺が来た時と比べれば完全に復興しているように見える。
 近くのパン屋を通り過ぎ、取り合えずは商店街の様な場所へと行ってみることにした。
 その商店街で服屋を見つけた。
 ここでデート服という物をそろえるとしようか。

「いらっしゃいお客さん。うちは何でも揃っているよ。さあ見て行ってくれ」

 確かに店の中には色々な服があった。
 ピエロが着る服から、貴族が着そうな服まで色々ある。

 しかしデートに着て行く服ってどんなのだ?
 日本じゃ雑誌でも見れば一目瞭然だったが、こっちではそうは行かない。
 全く何の情報も無いのだ。

 自分で選んで失敗したくない。
 店のおじさんに選んでもらおうかな。

「すいませんおじさん。俺明日デートなんですけど、どんな服着て行けば良いか分からなくて、どんな物が良いと思いかな?」

 店のおじさんは俺の体つきを見ると、三着の服を持ってきてくれた。
 一つ目は青い前掛けの様な上服の上から着る服、二つ目は黄色い胸までしかない服、三つ目は赤いTシャツで、刺繍がある服だった。

「決めた、これにしよう」

 赤いTシャツを選んだ、左胸に金の刺繍が縫ってある。

「おじさんこの服をくれよ」

「ありがとよ、代金は……」

 俺は持っていた金を払い、その服を購入した。
 以外と高くてびっくりだ。
 この間のバイト料がほとんど飛んで行ってしまった。
 しかしデートで気を抜くと、女の子は直ぐにガッカリすると聞いたことがある。

「おじさん、俺デート初めてなんだ。何か良い店とか場所知らないかな」

「ふむ、前は城にも行けたんだがなぁ。今となると……ここから商店街を抜けて一つ目の角を右に曲がった所にカフェがある。そこならどうだろう?」

 この世界には映画とか無いからな、カフェは定番なんだろうか?
 下見がてら行ってみるか。

「ありがとう、おじさん、またなんかあったら来るよ」

 俺はおじさんに別れを告げ、そのカフェへと向かった。
 到着したカフェは言われた通りにオシャレで、デートには良い場所だった。

「良し、後は散歩でもして、流れでなんやかんやしていけば何とかなるだろう。後は家に帰って明日の準備をして早めに寝ておこう」

 家に着くと俺はベットに横になり目を閉じた。

「……」

「…………」

「………………」

 眠れない。
 流石に夜にもならない時間では眠気が来ないらしい。
 仕方ない、妄想でもして少し体力を減らそう。
 俺は服を脱ぎ全裸になるとその準備を完成させた。

 本を広げると、俺の兄妹がやる気を見せている。
 さあやるぞ兄妹、準備は良いか!

 だが突然、ガチャッッと部屋の扉が開いた。
 超準備万端の俺だが、そちらに振り向くと、ストリーが俺を見ていたのだ。

「おいアツシ……ああ、取込み中だったか。気にせず続けろ、まあ男だからな。また後で来る、グハハハハ!」

 ガチャッっと扉が閉まる。
 何だろうか、この親に見られた時の様な微妙な気分は……残念ながら俺の兄妹は戦死してしまったらしい。

 ……寝よう。

 次の朝、言われた通りにストリーが迎えに来ていた。
 やはりデートとなると気合が入っているのだろう。

「起きろアツシ、準備が出来たら下に来いよ」

「……ああ分かった」

 たっぷり寝たはずなのにまだ眠い。
 俺は目をこすりながら立ち上がり、昨日買った服を着た。
 寝ぐせを直し、顔を洗い、自分の頬を平手で叩く。

「良し行くか!」

 階段を駆け下り、デートだと急いでストリーの下へと向かった。
 下にはストリーが待っていた。
 家の柱に背を預け、綺麗に整えられた髪の毛と、重そうな鎧を着て。

「そんな恰好で来るのか? 別に構わんがどうなっても知らんぞ?」

 何故か俺の恰好を見て驚いている。
 ……あれ、デートじゃないのか?
 俺の勘違いだった?

「え? これ何? デートじゃなかったのか?」

 俺は一応ストリーに聞いてみるのだが。

「デート? なるほど、私とデートでもできると勘違いしたわけだ。グハハハハ、だが違うぞ。今から帝国までイモータル様を送るのだ。時間が無いからそのままでいい。アツシ、付いて来い」

 話が分からない。

「帝国まで女王様を送るって? は? なんでそれを俺が行く事になってるんだ? 俺別にこの国の兵隊じゃないぞ?」

「心配するなアツシ、大丈夫だ。上に私が掛け合って、お前は私の部下として正式に兵士に採用された。デートなどしなくてもこれからは昼も夜もずっと一緒だぞ」

 ストリーは妙なことを言いだした。
 サッパリ分からない。

「いや俺戦えないし、兵士とか無理だって。剣とかも使えないし、攻撃魔法とか持ってないからな!」

 俺は断ってみるのだけど。

「心配せずとも私が護ってやる。それとも私と一緒だと嫌なのか?」

 ストリーは自分が護ると言ってくれた。
 確かにストリーは強いのだが、万が一ということも考えられる。

「嫌だ! 痛いのは嫌だし、それに俺はプールの仕事があるからな。監視の仕事は断ったが、荷物運びとかトイレ掃除とか色々やる事があるんだよ」 

 俺は今度こそキッパリ断った。

「その事は心配するな、昨日私が退職願いを書いて渡しておいた」

 しかしストリーは、ブラック企業も真っ青なことを言いだしている。
 これはもしかしてパワハラというやつだろうか?

「はぁ?! 流石にやり過ぎだろう。俺は絶対行かないからな!」

 絶対行かないと俺は断ったのだが。

「どうしても?」

 首をかしげて聞いて来るストリー。

「そうだ。俺は梃子てこでも動かないぞ!」

 俺は更に頑固な意思をあらわにし、ストリーの言葉に抵抗する。

「そうか、仕方がない。軍に身を置いた以上 上司の命令は絶対だ。逆らった者は……せめて私の手で殺してやろう」

 ストリーは真剣を抜き、上段に構えている。
 キランと輝くあれに斬られれば、本気でしねそうだ。
 断れば本気で斬って来そうな気がしてならない。 

「わ、分かった行く、行くよ! だから剣を降ろ……」

 ガイ―ンっとその剣は石の地面にめり込んでいる。
 この女、マジで殺す気だ。

「そうか行ってくれるのか。ではこちらに付いて来るがいい」

 俺はストリーの言葉に何度もうなずいた。
 このまま付き合ってたら、俺の命が幾つあっても足りないだろう。
 この仕事が終わったら別れた方が良いかもしれない。
 幸いなのかまだキスすらしていない、やったことといえば、胸を少し触っただけだ。

 こういう場合俺から別れると言うと角が立つ。
 俺のダメっぷりを存分に披露して、向うから別れ話を出させようか。
 それならきっとガーブルも納得するはずだ。

 俺はその事を心に秘めストリーに付いて行った。

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