一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 小さな親切(百年の花編 END)

 三人は王国に帰る…………


ベリー・エル(王国、兵士)          フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)   べノムザッパー (王国探索班)
アスタロッテ(べノムの部下)


 フレーレさんと合流し王国に戻った私達は、状況を伝える為にイモータル様に謁見しました。
 花の結末を伝えると、イモータル様はガッカリされています。

「はぁ、分かりました。まだ咲いていないその芽に期待するしかありませんね」

「イモータル様、また魔獣になっちゃうかもしれませんよ」

「そうですね、ではその芽には結界を張ってしまいましょう。簡単には破られない様にしっかりと。その者達に芽の見張りをお願いもしないと」

 良かった。
 私達は結界とか出来ませんから、また砂漠に飛ばされる事は無いでしょう。

「それでは失礼いたしますわ。またご用件があれば何時でもお呼びくださいませ」

 私達は報告を終えて、それぞれの自宅に帰った。
 久しぶりの自宅です。
 お風呂に入り、ゆっくり自分のベットで眠りに付きました。

 随分と長く眠っていたみたいです。
 相当疲れが溜っていたのでしょう。
 目を覚ました時には、もう昼を回っていました。

 天気が良い昼です。
 さて如何しましょう?
 ロッテさんの所に遊びに行きましょうか?
 この時間なら家にいるはずです。

 探索班は、キメラ捜索任務以外は基本暇ですからね。
 命令があれば他の隊の仕事を手伝ったり、今回の様な緊急任務をこなしています。

 私はべノムの家に寄り、いつもの様にノックもせずに扉を開けた。
 そこで見たものは、倒れている五人だった。
 倒れていたのはべノム、ロッテさん、グレモリア べーゼユール、グーザフィアです。

 一体何があったんでしょう?
 これは……棒?

 全員の手には棒が握られている。
 ロッテさんの持つ棒は、先が赤く塗られている。

 何かのゲームでもしていたのでしょうか?
 棒を入れる筒の様な物がテーブルの真ん中に置かれている。

 これは王様ゲームじゃないですか!
 ゲームで何でこんな事に……。

 私はべノムを抱き起し、ペチペチとほっぺを叩いてみた。
 べノム大丈夫ですか。
 バシッ、バシッと強烈に頬を叩いた。

 起きてください!

 バシィツ! バシィツ!

 死んでは駄目ですよ! 

「おい待て、起きたからちょっとまっ……」

 バッチィィン!

「ブギャ!」

 駄目です、起きません。
 こうなったら仕方ありませんね、べノムの部屋でも漁って、エロ本でも見つけてやりましょう。
 それをネタにしてからかってあげます。
 ほくそえみながら、私はべノムの部屋へと向かいました。

 部屋の中は中々綺麗に片付いている。
 まずはベットの下でしょう。
 手を入れて探ると何かを発見できました。

 これは……肉体改造マニュアル?
 中にはどうやってトレーニングをすれば効果的なのかとか書いてある。
 なんでベットの下に?
 恥ずかしかったのでしょうか?

 棚に並べてある本の中を確認するも無い。
 タンスの中も無い。

 むむ、見つからないですね。
 べノムだって健康な男だというのに、まさかべノムって、あっち系の人だったり?
 ベットの下の本を見て興奮していたんでしょうか……。
 どうも知ってはいけない事を知ってしまったようです。
 私は本をベッドの下へと戻し、べノムの部屋から出て行きました。

 現場に戻ると、べノム以外の人が起き上がっています。
 べノムだけは打ち所でも悪かったんでしょうか。
 まだ目を覚ましていません。

「べノムまだ起きないね、ちょっと部屋に寝かせて来るね」

 ロッテさんはべノムを引きずり、連れて行こうとしている。
 私もそれを手伝い、べノムを部屋へと連れ込みベットに寝かせた。

 ロッテさんはべノムを見つめている。
 これは恋する瞳というやつでしょうか?
 分かりました、私に任せておいてください。

 そう思い、私はドンと胸を叩いた。
 このままではべノムが違った道へと進んでしまいます、今の内に修正しなければ。
 私はロッテさんの後頭部を掴み、べノムの唇へと押しつけて行く。
 それを阻止しようと、ロッテさんは力を込めて踏ん張っている。
 しかし無駄です。

 ロッテさんの足を払い、べノムの顔の目の前にまで顔が迫る。
 もうそろそろです。
 私が手伝ってあげているというのに、ロッテさんは両手で必死に耐えている。

「エ、エルさん、何? こんな事をして!」

 私は片腕の親指を立て、ニッコリと笑顔を向けた。

「……まか……せて!」

「任せられないよ! ちょ、待って待って、このままじゃあ……」

 ロッテさんは自分からキス出来なくても、私に押し付けられたと言い訳が出来る。
 流石私です、完璧な作戦ですね!
 さあ観念するのです。

 ロッテさんの後頭部を両手で掴むと、ゆっくりと頭が沈んで行く。

 ほら後数センチです。
 さあブチュッといっちゃいましょう。
 さあ、さあ!

 もうギリギリにまで迫っている、ロッテさんは観念したのか目を閉じていた。

「何やってるんだよお前等」

「ち、違うよ、これはゲームの罰ゲームで……」

 チィ、べノムが目を覚ましてしまいました。
 まあ良いでしょう。
 目を覚ましては仕方ありませんね……このまま続行です!

「お、おい!」

 私は更に力を入れ頭を押し込んだ。

 おかしい?
 そろそろキス出来る距離ですが? 
 私が確認すると、べノムが顔を反らし避けていた。

 くぅ、作戦変更です。
 私は頭から手を離し、ロッテさんの背中を押した。
 ロッテさんの体が沈み、べノムの体とぶつかり二人は抱き合っている。
 ふう、私の仕事は終わりました、後は二人にお任せしましょうか。
 額の汗を腕で拭う振りをして私は部屋から脱出した。

「「待てこら!」」

 二人の息はピッタリと合い、私を追いかけて来る。
 せっかく手伝ってあげたというのに、何を怒っているんでしょう。
 しかし捕まったら酷い目にあいそうですね。
 摑まる前に、私は全力で逃げ出した。

 私はべノムの速さは知っている。
 その速さを使わせない為には……。

 予備動作を入れず、私は瞬時に路地へと移動した。
 べノムは自身の速さにより、真っ直ぐに突き進む、直ぐに軌道修正して此方へと来るでしょう。

 私はそれを想定して路地裏の窓から何処かの部屋へと侵入した。
 窓と言っても穴が開いているだけなので、簡単に入り込める。
 そして私はべノムの目から逃れた。

「べノム、そこに入っていったよ!」

 ロッテさんの声が聞こえる。
 どうやら窓から入った所を見られた様だ。

「よし任せろ! 捕まえたらお仕置きしてやるからなぁ!」

 まさか、ロッテさんも居るというのに、私にまで性的な事を!
 そんな事はさせませんよ!

 私はこの建物を脱出すると、べノムの住居へと向かった。
 そして階段を駆け上がると、イモータル様の元へと向かった。

 ふっふっふっ、此処ならばべノムも手を出せないでしょう。

 扉を叩き私は部屋の中へと入った。
 目の前にはイモータル様ではなく、べノムが立って居た。

 くっ 行動を読まれたというのですか!
 私はその部屋の扉を閉め、階段の方へと向かった。
 しかしそこにはロッテさんが待ち受けていた。

「もう逃げられないよ! お仕置きだからね!」

 後の扉からもべノムが出てきてしまった。

 まだチャンスはあります。
 階段の横にある窓から飛び出し……これはフェイントです。
 私は直ぐに階段方面へ向かう。
 べノムは此方に飛んで来る。
 私はロッテさんの後ろに回り込み、

 ドンッ、っとロッテさんの背中を押した。
 べノムは止まる事が出来ず、ロッテさんは反応する事が出来ず、ぶつかるダメージを避ける為に、二人はガッチリと抱き合っている。
 私は親指を立てニッコリと笑顔を向ける。
 そして階段を降りて逃げた。

「「待ってええ!」」

 二人は追って来ませんでした。
 そのまま告白でもしたのでしょうか?
 ふう、良い事をすると気持ちが良いですね。
 次の日、私はべノムの家を訪ねますが、捕まって酷い目に合いました。

   おわり

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