一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

12 王道を行く者達28

 サンダーラットの退治に成功したリーゼ達、しかし…………


リーゼ(赤髪の勇者?)   ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)      ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)


「他にはいないよなぁ?」

 ラフィールは辺りを警戒してラットを探している。

「今の所他に見かけた人は居ない様ですよ。ちょっと回復しますので動かないでください」

 マッドの魔法で、ラフィールの傷が消えて行く。

「他の人達も引き上げて行ってるわね。私達もギルドに報告に行きましょうか」

「そうだね、何時までも此処に居ても仕方がないからね」

 リーゼの提案でギルドへと向かった。
 ギルドで金を受け取ったが、この騒ぎはまだ収まっていなかった。
 電気研究所以外の場所から次々とラットの出現情報が入り、ギルドに居た傭兵達が出撃していく。

「他にもいたらしい、リーゼ、どうする?」

「もちろん行くわ! 人助けなんて積もりは無いけど、何もせずに町を出るのも気が引けるしね」

 行くと宣言したリーゼ達の下に、ギルド職員の一人が話しかけて来る。

「貴方達、仕事をするなら、この場所にある廃墟に向かってください。ラットの目撃情報が多数出ています!」

 その職員からは、指定場所の地図を渡された。
 リーゼ達はそれを受け取り、その場所に向かう。

「ここの様ね」

 ギルド職員からは廃墟と聞かされていたが、外見は殆ど壊れてはいない。
 長方形で飾りも何も無い民家だった。
 高さから見ると二階建てなのだろう。
 窓は四つあったが、雑に板で塞がれている。

「とにかく、入ってみましょうか。マッドさん、灯りをお願い」

「任されました!」

「じゃあ進んでみるよ」

 リーゼはランタンをマッドに持たせ、ラフィールが防御魔法を使うと、慎重に廃墟の扉に触れる。
 廃墟の木製の扉が、ギギィと鳴り開く。
 中は光が殆ど無く、ランタンの光だけが頼りだった。

「ラットは何処かしら?」

 リーゼは部屋の中を見渡している。
 部屋の中は区切りも無く、簡単に見渡せるが、ラットの姿は見えない。

「リーゼちゃん、上に登れる梯子はしごがあるぜ。二階に上がってみよう」

 この一階は特に他に何もなさそうだ。

「そうね、行ってみましょうか」

 ラフィールが先頭となり梯子を上がって行く。
 だが……。

「やばい、皆逃げるんだ!」

 梯子の上から光が見えた。
 ラットの電撃だろうか?
 パリーンと防御魔法が割れ、ラフィールが梯子を飛び降た。
 その二階へと続く梯子から、大量のラットが降りてきている。

「家から出るんだ!」

「マッドさん先に出て!」

「わ、分かりました!」

 ラフィールは剣を抜くと、リーゼ達は家から飛び出した。
 ラットの電撃がラフィールを襲う。
 剣の防御能力が発動し、またパリーンと電撃が割れた。
 その隙を見逃さず、ラフィールが家から飛び出て家の扉を閉める。

「駄目だ多すぎる。軽く百匹は居たぞ!」

 ラットは扉からは出て来れない様だ。
 何処からか焦げ臭い香りが漂って来ている。
 臭いを辿ると、燃えていたのは入り口の扉だった。
 扉が燃え落ちたら大量のラットが出てきてしまうだろう。

「マッド、水だ! 水の魔法を使え!」

「はい、分かりました! では行きますよ! …………ウォーター!」

 人が屈んだぐらいの球体がマッドの杖の先に出現し、それを扉に押し付けた。
 水は扉を消化するが、家の中からは焼ける臭いが充満している。
 このまま家ごと焼き尽くせれば速いのだが、窓の隙間から煙が抜けているらしい。
 隙間があって全滅させるのは難しいかもしれない。

「リサさん、ギルドに報告して来て。私達だけじゃ対処出来ないわ」

「分かったよ」

 リサはギルドに向かおうとした、しかしそれを行う事は出来なかった。
 町の至る処でラットが走り回り、人々を襲っている。

「これはもう駄目かもね……」

 近くで女の子がラットに追いかけられている。
 リーゼはとっさに助けに入った。

「ファイヤーッ!!」

 女の子を追いかけていた三匹を燃やしたが、まだ多くのラットが辺り一面に走り回っている。

「もう駄目だ! リーゼ逃げるぞ!」

「待ってハガン、もう一人!」

「駄目だ! もうこの町は助けられない! ラットを駆除出来る範囲を超えてしまっている。急がないと俺達も巻き込まれるぞ!」

「もう一人だけよ!」

 リーゼは女の人の所に向かって行った。
 その女は赤ん坊を抱えているようだ。

「仕方ない、俺達も行くぞ!」

 ハガンの指示に全員が頷き、リーゼの元へ走った。

「おばさん、こっちに来て! 早く!」

「は、はい!」

「リーゼ、もう町を出るぞ。さあ急げ!」

 ハガンが叫んでいる。
 リーゼは頷き、町を出る為に走った。
 町の出口には、大勢の人々が走り回っている。

 ラット達はまだ此方には来ていない。
 人の居なくなった家の食糧でも漁っているのかもしれない。
 だがこのまま増え続ければ、世界中にラッドが溢れてしまう。
 それを止める術はリーゼ達には有りはしなかった。

 絶望に暮れるリーゼ達が、町の入り口から脱出した瞬間、入り口に巨大な土壁が現れた。
 それは町中に溢れるラットを包み込み、町の中に閉じ込めてしまった。

「えっ、何? 何が起こったの?!」

 その光景にリーゼは驚いている。

「分かりません。ですがこれは、誰かの魔法なのではないでしょうか」

 マッドの言う通りならば、この壁を作った奴は相当の力を持っているのだろう。
 考えられるのは……。

「まさか、魔族が?!」

 リーゼは周りを探すが、誰が魔族か分からない。
 それでも探し続け、上空を見上げると、見覚えのある人物がそこに居たのだ。

「あれはッ! ……サタニアッ?!」

 この町の遥か上空、サタニアとラムの姿が見えた。

「はぁ、面倒臭いですわ。こんな物を増やして使うなんて、何処の馬鹿だったのかしらね」

 サタニアは面倒臭いと言うわりに、その目は真剣そのものだ。

「ルキ様、どうします? あの数を相手にしては私達もタダでは済みませんよ」

「ラム、町を塞ぎなさい。幸い町を囲う壁には隙間がありません。このまま町に閉じ込めてしまいましょう。それとあの子達は巻き込んでは駄目よ」

「はい、分かりました。では! ……アースライズ!」

 ラムの魔法が発動した。
 町の出入り口全ての大地が隆起し、プラネットの町は、完全に壁で囲まれた。
 しかしラットは小さく、土の中や何かの隙間に隠れられると厄介だ。

「ルキ様、ここから如何しましょう?」

「……仕方ありません。このまま町ごと燃やしてしまいましょう。お姉様に教えて貰った魔法が役に立ちますわ」

 ルーキフェートは魔法を唱え始める。

 ……炎よ、煉獄から出でよ……。
 ……生有る者全てを飲み込み……豪炎よ燃やし尽くせ……。

「エクスブレイズ!」

 圧倒的な爆炎が町中に広がって行く。
 ラットと逃げ遅れた人々全てを巻き込み、全ては墨と化す。
 家の中に居たラット達も高温の炎に蒸し殺された。

「はぁ、はぁ、ちょっと魔力を使い過ぎましたか……」

 強大な魔法を使ったルーキフェートは、全ての魔力が尽き、地上へと落下して行く。

「ルキ様!」

 ラムはルキの手を掴み抱き寄せると、二人はこの場から去って行った。
 そんな二人の姿を、リーゼは見つめる事しか出来なかった。

 壁の向こうでは炎が燃え続けている。
 その熱はリーゼの肌を焼き、火傷しそうな程に熱い。
 この壁の向こうには生きていた人間が何十、いや何百人、もっと居たかもしれない。
 リーゼはこの熱を肌に刻み、この場を離れて行く。

「あの魔族、絶対許さないから!」

 しかしサタニアがやらなければ、この町だけでは済まなかっただろう。
 リーゼも分かっていたが、それを納得は出来なかった。

「追いましょう。サタニアは魔力が切れていたわ。今なら勝てるかもしれないわよ」

「リーゼちゃん、相手は空を移動しているよ。私達は追い付けないんじゃない?」

「リサの言う通りだ。俺達の足では追いつけないぞ。それに何故かしらんが、奴等は俺達を見張って居る様だ。いずれチャンスが来るだろう」

「……分かったわ。じゃあ地図に有った次の町に向かいましょう。確かあっちの方向だったわね?じゃあ行きましょう」

 リーゼが向かった方向は、サタニアが飛んで行った方向と同じだった。
 どの道この町は無くなってしまった。
 リーゼ達は次の町へ進むしかなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 魔法を使い、疲れ果てたサタニアはラムに肩を貸されて飛んでいる。

「ルキ様大丈夫ですか? 近くの木陰で休みましょう」

「いいえ、私達を追ってあの子達が追って来るでしょう。休んでいたら追いつかれてしまいます。全力で飛ばしなさい」

「はい、分かりましたルキ様」

 ルキを抱き寄せたラムが、またスピードを上げた。

「……無抵抗の人間を殺してしまいました」

 ルーキフェートの体は震えている。
 彼女にとって無抵抗の人間を殺すのは初めてだった。
 自身の敵であれば、その罪悪感も無かっただろうが。

「……あれは、仕方がありませんでした。ああしなければ あの魔物はこの国中を食い尽くしたでしょう。ルキ様が気にする事ではありません」

「ごめんなさい皆さん。どうか安らかにお眠りになってください……」

 ルーキフェートは燃え盛る町を見つめ、祈りの言葉を放った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品