一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

9 脱出

 ウネウネに飲み込まれた三人、体内からの脱出を試みる…………


ベリー・エル(王国、兵士)        フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)


 私達はウネウネに飲み込まれ、体内に流れ込む砂と一緒に奥へと流されてしまった。
 皆さん大丈夫で……。

「うわー、砂だらけだわー。中は結構広いのね」

「全く、ドレスが砂だらけになってしまったじゃありませんか。この恨みはあの鴉で晴らすとしましょうか」

 フレーレさんは砂の上で辺りを見回し、レアスさんは服の砂を払っています。
 まあそうですよね。
 二人共そんなに柔くありませんよね。

 来た道を見るが、入り口は砂の山で埋まっています。
 砂を掻き分け脱出するのは無理そうですね。
 ウネウネの中は暗く、私の炎が辺りを照らしていた。
 中は広い洞窟のようになっていて、一応空気もあるらしいです。

 周りの壁、ウネウネの胃壁からは、透明な液体が流れ、ゆっくりとした速さで足元に溜っていた。
 鼻の奥が刺激される様な嫌な臭い。
 たぶん胃液の臭いでしょう。

「ここに居たら溶かされちゃうわー。もうちょっと奥に進みましょうよ」

「そうですね。ドレスに変なシミでも付いたら嫌ですからね」

 フレーレさんの提案で、私達は奥へと進んで行く。
 足で触れるのもしたく無かったので、私達はウネウネの体内を飛んで移動します。

「ねぇ、これ何処まで続くのかしらー? 出口はあるのかしら?」

 フレーレさんのその言葉を聞き、私はその場で止まった。
 人であれ動物であれ、行きつく場所は決まっている。
 食べた物が最後に行きつく場所は……。

「…………」

「…………」

「…………」

 駄目です!
 このまま進んで奥にある肛門から脱出したなら、私達はウネウネの糞としての生を授かってしまいます!
 美女三人が汚物塗れになるとか、そんな事は絶対避けるべきです!

「こ、この横から脱出いたしましょう。胃液の方が幾分かマシですので」

 先に進むのを嫌がったレアスさんは、自分の爪を伸ばし、胃壁を攻撃している。
 しかしウネウネの胃壁は頑丈で弾力性があり、引き裂く事は出来ませんでした。
 そしてその刺激で胃液の出る量が増えて……。

「ああ、私の爪が胃液臭い!」

 フレーレさんも攻撃するのをためらっている。
 もう触るのが嫌なのでしょう。
 まあ胃に攻撃したらそうなりますよ。
 でももう一度意を決して、攻撃しようとしているレアスさんを、私が止めた。

「少し……進も……」

 私は奥を指さした。

「そうですわね。わざわざこんな場所で相手にする事もありませんわよね」

「そうだねー、進もうよ、私も素手で触りたくないもの」

 爪が胃液臭くなったレアスさんが私達を見た。
 それに私達は目を逸らす。

「まあいいですわ。取り合えずはこの場所から脱出致しましょう」

 あ、レアスさんが爪をハンカチで拭いてる。
 使命の終わったハンカチは、投げ捨てられ胃液の海へと沈んで行った。
 そのまま進んで行くと、思ったよりも胃は長く、小さな村程度なら飲み込んでしまえそうだった。
 しかしそれも終わり、胃だと思われる所から脱出しました。

「この辺りならいいかしら。さあ脱出しましょうかー!」

 胃液が溜まった場所を抜けると、鼻を刺激していた臭いは多少マシになった。

「ええ、行きますわよ!」

 その場で、私の剣、フレーレさんの拳、レアスさんの爪が内臓を攻撃する。
 しかしそこも弾力があり、三つの攻撃が弾かれてしまう。
 ヌルヌルしていて斬撃も効いていない。

 斬が効かないのならば、刺突で貫く!
 このウネウネの中は広く、私は最大の助走を付け、大剣の切っ先を臓器の壁へと伸ばした。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 炎を吹き出した剣は、真っ直ぐに伸ばしたのだけど、壁には突き刺さらなかった。
 しかしまだだ!

 炎が内臓の液体を蒸発させ。剣を当てている場所がかなり伸びている。
 まるでゴムのように柔らかく、耐久性も相当高いみたいです。
 反発する力に押し返されそうです。

「エルさん、そのまま我慢していてください!」

 レアスさんが私の剣の柄を握り、二人の力で剣を押し込む。
 内臓が限界値まで伸び切りますが、しかしまだ貫く事が出来ません。

「二人共! 剣の柄を私に見せて!」

 フレーレさんが助走を付け壁を蹴り、そして私達が居る位置まで跳んで来ている。

「でやああああああああああああああああ!」

 フレーレさんが剣の柄を蹴ると、内臓の耐久度を超えたらしい。
 バツンと剣は根本まで突き刺さり、大きなダメージを与えた。
 ウネウネは痛みを感じて、地面が揺れる。

 暴れまわるウネウネの為に、今居た地面が壁になった。
 ウネウネが立ち上がったのでしょう。

 口の方向から大量の砂が落ちて来ている。
 先ほど見た砂は、尋常な量ではなかった。
 このままでは此処が砂で埋まってしまいます!

「……こっち!」

 二人共、今なら間に合います!
 この場所は諦めましょう!
 私は二人の手を引き、更に奥へと移動した。
 壁の穴は砂の奥に消え果て、結局振り出しに戻ってしまった。

 だがやってやれない事はない。
 一度出来たのだから、もう一度だって出来るでしょう。

 しかしまた暴れ出し、同じ事を繰り返してしまうかもしれませんね。

 ん? いや、少し待ってください。
 このウネウネは最初に私達が攻撃したウネウネなのでしょうか?

 あの洞窟を作ったのは私達が攻撃した個体でした。
 そして動物には縄張りと言う物があって、この個体があの洞窟を通って来たなら、最初に戦った個体の可能性があるんじゃ?

 私は外でウネウネの皮膚を突き破り、筋肉、そして内臓近くまで剣が届いていたはずです。
 傷口も焼いて塞がっていないはず。
 そこの内臓を貫けば、一撃で脱出できると思います。

 でも、そこを如何やって探せば?
 内臓の壁があってそれは見えないです。

 ……ん?
 もしかしたら、出来るかも。

 私達が飲み込まれた時、洞窟に日の光りが差していました。
 あれからそれ程時間は経っていないはずです。
 もう通り過ぎた可能性もあるし、そして地下に潜った可能性だってある。

 でも…………ウ〇コにだけはなりたくないです!
 私は自身の炎を極限まで抑え、辺りが暗闇に包まれた。

 光は見えるだろうか?
 壁と天井をゆっくりと見回し、二人の手を掴んで更に奥へと歩く。
 二人も私が何かしようとしている事を感じ、黙っている。
 あったとしても小さいはずです。
 見落とさない様にしないと。

 そして、私は見つけた!
 ほんの小さな希望の光を。

 天井が微かに光っている。
 大剣の傷から太陽の光が伸びていたんです!

「……あった!」

 二人の手を掴み、天井を指さした。

「あそこね!」

「さあ、脱出ですわ!」

 私とレアスさんはその光の真下から剣を掲げ、飛び立った。

「「はあああああああああああああああああああああああああああ!」」

 内臓が伸び切り、フレーレさんがそれを突き破る!

「いっけえええええええええええええええええええええええええええ!」

 パーンと、ウネウネの内臓が弾けた。

 空が見える。
 青い空と、そしてジリジリと照り付ける太陽が。

 私達は助かった。
 これからウネウネの糞として生きる未来は無くなったのです!
 しかし喜んでいる時間は無かった。
 痛みで暴れ出したウネウネが、私達に襲って来ました。

 その巨体を使い、私達を叩き落そうと体をくねらせている。
 またその巨大な口が、私達の目の前に迫った。
 もう一度飲み込もうとしています。

 フレーレさんの腕を掴み、ウネウネの頭の上へと投げた。
 鬣に覆われたそここそ、ウネウネの頭です!
 その中に隠れた目玉が見えた。

「頭なら分厚い皮膚は無いわよね? せえのおおおおおおおおおおおお!」

 フレーレさんの拳が、ウネウネの頭骨に響く。

 そして同じ場所にもう一撃。

「もう一回ッ!」

 更にもう一撃。

「終わりだよッ!」

 三発目の拳は頭骨を貫き、そのまま脳へと達した。
 脳へのダメージがウネウネの動きを止め、大地を揺るがす程の音を立て、自身の命を消していく。

「あー、疲れたわー」

「さあもうすぐ日が落ちてしまいますよ。砂漠の夜は冷えると言いますからね、何処か休める所を探しましょう」

 あの中は如何です?
 相当冷えるなら腐らないでしょう。

 私はウネウネの中を指さした。

「嫌よー!」

「却下ですわ!」

 私の提案は却下されてしまいました。
 う~ん、じゃああの鬣の中なら少しは暖かいんじゃありませんかね?

 それには二人共同意してくれた。

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