一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 岩をも砕く鋼鉄の…………

 スイーツの町から飛び立った三人…………


ベリー・エル(王国、兵士)        フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士) ブローディ(格闘家)


 スイーツの町から飛んで移動しているのですが、まだ砂漠は見えて来ない。

「町の人の話だとー、この方向に町があるそうよ。ほらあれじゃない?」

 フレーレさん指さす先を見ると、私にもそれが見えました。
 今夜はあそこで泊まりですね。

「ちょっと疲れましたね。シャワーを浴びて体を洗いたいですわ」

 レアスさんは服のべた付きを気にしている。

 私もお風呂に入りたいです。
 それと服の洗濯もしたいですね。

 そんな私達は、宿屋にチェックインし、そしてそこである男の人と出会った。
 格闘家風の男の人ですが、どうもフレーレさんにビックリしているようです。

「お、お前はフルール・フレーレ! まさかこんな所で会う事が出来るとは、運命の神が戦いの舞台を用意したというのか!」

 フレーレさんの知り合いなのでしょうか?
 その人は鍛えられた筋肉が妙にテカっていて、頭に一本の髪もない。

「……誰?」

 フレーレさんは知らないと言っていますが。

「忘れたとは言わさんぞ! 三年前、帝国との合同の格闘大会で、お前に敗れ優勝を逃したこのブローディの事をなぁ!」

 三年前だと、まだ帝国と戦争していなかった頃だ。
 そんな大会が有った事も知りませんでした。

「やっぱり覚えて無いわねー、何処で戦ったのかしらー?」

「本当に忘れたと言うのか! あんなに激しいバトルを繰り広げたというのに! 予選二回戦で激しく殴り合っただろうが!」

「予選で激しく殴り合った覚えは無いんだけどー?」

 名前まで知ってるなら人違いではなさそうですが。

「フレーレさん、わたくし覚えていますわよ。予選二回戦は確か……相手の最初の一撃をカウンターで制し、フレーレさんが勝利していましたわよ」

 レアスさんはその大会見ていたんですか?
 フレーレさんの活躍、私も見たかったです。

「そうだ、それが俺だ! あれから俺は修行を繰り返し、そして究極の技を身に着けたのだ!」

 予選二回戦でそんなのだったら、覚えて無いのも無理はないと思いますよ。
 せめて本選で戦ってたら覚えてる可能性はあったんじゃないですか?

「ふ~ん、じゃあ今から私と戦う? 私は構わないわよー」

「望むところだ! だが急だったので準備が整っていない。明日の昼、この町の中心の噴水の広場で待つ! 逃げずに来いよ!」

 男が言いたい事を言って奥の部屋へと消えて行った。

 昔のフレーレさんが、どれ程強かったのか知りませんけど、キメラ化した今はそれの十倍は強いんじゃないですかね?

「どの道明日ですわ。今日はお風呂に入って疲れを取りましょう」

 私はレアスさんの言葉に頷き、私達は三人でお風呂に入りました。
 お二人共かなりの戦闘力きょういで、私ではとても敵いませんでした。

 特にレアスさんの胸は形が良くて……。
 止めておきましょうか、レアスさんに見つかったら怒られてしまいます。
 夜が明け、時間が経つと約束の時間が来た。

「良く逃げずに来たな。それだけは誉めてやろう!」

 その男の拳には妙な物が付いている。
 あれは何だろう?
 揚げ物の衣の様な?

「この技を覚える為に、俺は三年も地獄の修行を積んだのだ! さあこの揚げ衣を食らうが良い!」

 揚げ衣と言いましたかあの人。
 そんなのつけて強くなるのでしょうか?
 というか如何やって付けたのでしょう?
 油の中に手でも入れたのでしょうか?

 それで殴りつけるブローディ。
 フレーレさんはその拳を躱すと、男の拳が噴水の壁を粉砕した。

 えええッ!
 揚げ衣ってそんなに強かったのですか!

 いやいやそんな事ある訳ないじゃないですか。
 あれは揚げ衣に見せかけた別の何かでしょう。

「へぇ、結構強いのね。その揚げ衣? どうなってるのかしら?」

「くっくっく、これは小麦粉に鉄粉や銅等を様々な物を混ぜ合わせた特性の物なのだ。例えどれ程強烈に殴ろうとも小麦粉がクッションになって拳を痛める事は無い! それに外も硬く、自分の力を百パーセントを伝える事が出来るのだ!」

 ネタだと思ったらそうでも無いようですね?
 納得出来るかと言われれば無理ですけど。

 フレーレさんとブローディが激しく殴り合っている。
 フレーレさんは一応手加減している様です。
 本気だったなら体を貫いているはずですから。
 たぶん楽しんでいるんでしょうね。

「流石だフルール・フレーレ!! しかし此処からが本番だ! 食らえッ、ファントムクラッシャー!!」

「うあッ」

 それはただのストレートパンチだった。
 しかしフレーレさんは目を瞑り、声を上げてしまう。
 絶対当たっていない筈なのに。

「目が見えなければ躱しようもあるまい。さあ止めだ!」

 ブローディが足を踏み込み、フレーレさんに渾身の右の拳を放った。

 しかしフレーレさんは、それをヒラリと躱して見せた。

「な、何故! まさか心眼だとでも言うのか!」

「心眼かどうか知らないけどねー、貴方の踏み込みの音、それで来る方向は分かったわ。使ったのは右の拳よね? こんなチャンスなら自分の得意な利き手で攻撃するはずだもの。そんな衣をつけてるし、拳が得意なのは丸分かりよ。利き手なんて戦ってれば分かるからね。後は貴方の打撃距離を読めば躱す事は可能よー」

 フレーレさんは目を開いた。
 相手に説明していたのも時間稼ぎだったんですかね?

「チィ、目を開けたか。ならばもう一度だ! さあ食らえ! ファントムクラッシャー!」

 再びパンチを放ったブロディですが、相手のパンチは届かない距離です。
 パンチが伸び切り、良く見ると、そこから何かが飛んでいた。

 あれは! 

 ……パン粉だ!
 あれがあると衣の食感が良くなる硬く揚がったパン粉だ!
 ブローディはパン粉を飛ばして、フレーレさんの目を閉じさせたのですね!

 しかし二度目はそれも通じない。
 フレーレさんはそのパン粉を見切り、ブローディの頭をカウンターで蹴り飛ばした。

「ぐおおおおおおおおお!」

 着地して詰めてもう一発。
 ブローディの意識を刈り取る拳が、顔面に直撃した。
 その拳を食らったブローディは、地面に倒れて白目になっている。

「あー面白かったわー。揚げ衣を使う人なんて初めて見たもの」

 まあ他には居ないと思いますよフレーレさん。
 というか何であんな物を武器にしようとしたんですかね?

「中々面白い人でしたわね。揚げ衣を武器にするなんて、そんな発想が私にはありませんでした。これが天才という人種なのでしょうか?」

 天才なのかなぁ?
 どういう発想でそこに行きついたのか私には理解出来ません。
 でも実戦で使えるなら、そこそこ良い武器なんでしょうか?

「うぐぐぐ、どうやら俺は負けたらしい。まだ修行が足りなかったという事か……待っていろフルール・フレーレ! 何時かお前に勝って結婚してやる!」

 そういうとブローディは走り去って行った。

「ええー?」

 フレーレさんが驚いている。

「ああ、そういえばあの大会はフレーレさんの結婚相手を決める大会でしたわね?」

 そんな大会だったんですか!
 それで結局誰が勝ったんですかね?

「親に私より強い人が居たら結婚してやるって言ったのよねー、そしたらそんな大会が開かれちゃったんだったわー」

「フレーレさんが優勝したので、その話は無くなったんでしたわ」

 あの人はフレーレさんの婚約者候補だったのですね。
 私は去って行くあの人の後ろを指さした


「あの人と……結婚……してみた……ら?」

「嫌よエルちゃん。私は弱い人には興味が無いのー。それに顔も好みじゃないわー」

 フレーレさんより強い人なんて、王国内でも殆ど居ないですよ?
 う~ん、結婚は絶望的ですね?

「じゃあ用事も終わった事だし、砂漠に向かいましょうかー」

「ええ、そうしましょう」

 砂漠に入る前に準備をしなければならない。
 食料や水の買い出し、後は花の情報とか。

 私達は砂漠の手前、次の町サンドラを目指した。

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