一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

15 魔法に憧れた男の結末

 アツシは魔法に憧れを持っていた、異世界に来たからには使いたいと思っていた…………


タナカ アツシ(一般人)      べノムザッパー(王国、探索班)
ベルト(アツシに見つけられた男)


 ファンタジー世界に来たからには、どうあってもやりたい事がある。
 それは……。

「べノムさん、俺魔法が使いたいんです。姿とか消して何処かに侵入したいんです!」

 彼方の世界では一切使えなかった魔法というものだ。
 俺は魔法が使いたいと、べノムに自分の胸の内を打ち明けた。

「そんな魔法は無い」

「嘘だ! 男なら絶対考えた事があるはずだ。絶対有るはずだ!」

 この世界がどれ程の年月で出来てるか分からないが、その中で絶対にやった人は居るはずだ。
 男が居る世界なら、一人が考えたことがあると言い切れる。
 べノムは俺の真剣な顔を見て話をしてくれた。

「……仕方ない、お前には真実を話そう。その魔法は昔存在した。だが色々な犯罪に悪用され、その魔法を使ったら牢獄行きになるんだ」

「何だとッ!」

 やはりあった。
 あったんだけど、使っただけで犯罪だとなると話は変わる。
 使えば犯罪者で俺の身も危うい。
 だが、よく考えるんだ俺。
 覚える事は別に犯罪ではないはずだ。
 それに、姿が見えなければ、そう簡単にはバレないはずだ。

「それは仕方が無いな、諦めよう」

「ああ、それがいいぞ。俺は犯罪者には容赦しないからな」

 俺は素直に諦めたわけでは無い。
 べノムに聞いた所で、これ以上の情報が無いと分かったからだ。
 俺はこの家を飛び出し、誰か情報を知っている奴を探すことにした。
 女性では駄目だ、男性、それもモテ無さそうな奴が良い。
 一度ぐらい調べた事があるはずだ!

「……ん? 何か瓦礫が多いな。地震でもあったのか?」

 俺が道を歩いていると、周りの景色が気になった。
 俺が住んでいるべノムの家の近くでは気にならなかったが、潰れた建物が多く、それを撤去している人達がそこら中に居たのだ。
 かなり忙しそうにしているが、俺は今、そんな事を気にしている暇は無い。

 まず俺は、道行く男達を自身の魔眼で見定め、候補者を選別する。
 何人もの男達が俺の横を通り過ぎ、その体系や内面まで加味して一人の男を選び出した。
 中肉中背で強そうでもなく、顔は良くもなく悪くもない。

 きっとあの男が怪しい。
 俺はその男に駆け寄ると単刀直入に聞いた。

「お前、透明化の魔法を知っているな?」

「なっ、い、いや、知らないよ」

 この反応だけでも知っている事は分かった。
 使う事が出来るのか、その存在を知っているだけなのか。
 どちらにしても何かしらの情報はあるだろう。

「隠さなくて良い。俺達は同志だ。俺にもそれを教えてくれたら、ロッテさんのパンツをお前にやろう」

 勿論嘘だ。
 そんな物があったのなら俺が使いたい。
 懐から取り出したパンツは、俺が先日買った物である。
 まあ別の事に使うつもりだったのだが、こんな時の為にも使っても良いだろう。
 因みに使用方法は秘密である。

「何、それがロッテさんのパンツだと! 本当なのか、どうやって取ったんだ?!」

「そこはまあ色々とな、さあどうする?」

「分かりました。でもこの事はナイショですよ」

 その男に案内されて、木が生い茂っている一角に、巨大な岩がある場所へとやって来た。
 男はその岩を三度叩くと、その岩が動きだす。
 どうやら此処は、その魔法を習得する為の秘密組織だったりするのだろう。

「一応言っておきますが、あんたに適性が無ければ習得出来ないですからね。その時は諦めてくださいよ」

 人によって向き不向きがあるのか、だが俺は確信している、この魔法が俺の為にある事を、エロの化身たる俺に出来ない筈はない。

「俺には適性があると思う! だって俺が使いたいから!」

「そ、そうですか……じゃあこっちへどうぞ」

 俺は奥へと案内され、そこで魔法の習得の儀式を行った。
 俺は目を閉じ、額に手を当てられると、何かが頭の中に沸き起こる。

 色々な文字列と光りの渦。
 魔力の流れのようなものを感じる。
 覚醒したというのだろうか?

 その儀式が無事に終わり、俺の脳裏にその言葉が浮かんだ。
 俺は早速その魔法を使ってみることにした。

「インビジブル!」

 自分の手を見ると、その手が見えなくなってきている。
 足も体も、たぶん顔もみえなくなっただろう。
 成功した、成功したのだ!

「うをおおおおおおお! やった! やったぞおおおおおお!」

 俺は念願の透明化の魔法を手に入れた。
 これで何か色々出来る。
 それは純粋に嬉しい、嬉しいのだけど……。

「……所で、これ何時まで続くんだ?」

「さあ? 個人差がありますから何とも言えませんね。使うのならば時間を図った方がいいかもしれませんね」 

 なる程、今日は色々試して明日から本番にしようか。
 幸い此処は異世界だ。
 覗きは犯罪ではない筈だ。
 たぶんきっと。

 暫くすると俺の体に色彩が戻って来た。
 約十分だろうか、時計が無かったのは残念だが、大体の時間は分かった。
 しかし念の為に、時計の有る所でもう一度計り直す事にした。

 アニメや漫画では、その少しの時間を計らなかった為に、時間切れで見つかる事は良くある話だ。
 だが俺はそんな間抜けな事はしない。
 色々と試し、この魔法の特性を知って行く。

 近くにあった椅子を触ってみたが、触れた物が透明になるわけでは無い様だ。
 つまり魔法を使った状態で、持っている物は綺麗サッパリ消えてしまうらしい。
 消えた状態で物を手放すと、放した物体は姿を現すと確認できた。

「よし分かった。ありがとう同志、此処は聖地だ。何時までも護って行ってくれよ!」

「ありがとう同士。俺の名前はベルト、何時でも訪ねて来ても構わないよ!」

 同士ベルトと別れ、俺は時計を買……あっ、俺ここの金持ってない。
 これでは時間が計れないじゃないか。
 しかし魔法を使ったら捕まるとか言ってたな?
 公衆の面前で魔法は使えないという事か。

 町の中で練習は出来ない。
 もう一度ベルトの所に戻り、時計を借りてから試すしかないだろう。
 時計さえあれば自分の部屋で練習出来る。
 しかし俺がもう一度隠れ家に寄ると、そこには大勢の人が集まっていた。

 同士達ではなさそうだが、何かあったのか?
 覗いて見ると、そこにはべノムがいた。
 どうやら俺を探している様だ。

「出て来いよアツシ、今なら許してやるぞ。魔法を解いて出て来いよ」

 あの声はべノムの声か?
 茂みから隠れて見ると、縛られたベルトが捕まっていた。
 早すぎる、まさかもうバレたのか。
 まさか最初から俺を見張って居たんじゃないのか?
 くそう、無実の一般人を尾行するなんて、何て酷い奴なんだ!

 だが応援を呼びに行った所為か、俺の事は見逃したらしい。
 まだ一度として使っていないのに捕まる訳にはいかない。
 俺は見つからない様に魔法を使うと、この場を逃げ出したのだった。

 魔法を使う場所は調べ尽くしてある。
 この町には公衆浴場が一つあるのだ。
 そこに忍び込んで女湯を覗いてやるとしよう。

 隠れ潜みながらその場所へ移動し、俺は魔法を使って女湯に忍び込んだ。
 脱衣所にはまだ女の姿は見当たらない。
 これはチャンスだ。

 禁断の扉を潜ると、そこはパラダイス……では無かった。
 風呂の湯気の奥に居たのは一人だけで、椅子に座り体を洗っている。
 しかしその姿は余りにも不自然で、これは罠なんじゃないかと感じた。

 だが、もしこれが罠であっても、あそこに見えるのは立派な女だ。
 どの道魔法を使った俺の姿は見えていない筈。
 なら前に回って、その姿を堪能するとしよう。

「ぉぉ……!」

 前に回るとその女はおっぱいも大きく、顔も俺の好みだった。
 そこで俺は思いついた。
 見えない手で触ったとしても、やはり気付かれないんじゃないかと。
 一度胸でも触って退散するとしよう、俺は自分の手を女の胸に近づける。

 おかしい、胸を触っているのに触っていない。
 柔らかすぎて感覚がない?
 そんなはずは……。

 もう少し奥に手を伸ばすと、見えないはずの俺の手が掴まれた。

「堪能したかよ。湯気でテメェの体が浮かび上がってる事に気づかないとは、間抜けな奴め!」

「なにぃッ、この声はべノムだと! べノムがまさか女だったとは気付きもしなかった!」

「ちげぇよ、俺は男だ! 俺は変身魔法を使ってるんだよ! そんなことより良いかアツシ、このまま大人しくしていれば痛い目に合わなくて済むぞ」

 くっ、このまま大人しく捕まるわけには。
 ……いや待て。
 このまま捕まるなら、いっそべノムの胸でも良いんじゃないか。
 姿を変えているなら立派な女だ。
 捕まる振りをしてその胸を揉んでやろう!

「分かったよべノム、大人しく捕まるとしよう、さあ連行してくれ」

「なんだ、何か狙っているのか、まあ良い、とっとっと此処から出るぞ」

 そして俺はべノムの胸を狙わなかった。
 狙ったのはヘソの下、どうせなら一番いい所を!

 グニョ

 ……ん? グニョ?
 何かいつも触ってる感触がする……
 ふにゃりとして柔らかく、それでいて中には何か二つの……。

「何しやがんだテメェ!」

「ふぐおおおおおお!」

 べノムの拳が俺の顔面にヒットした。

「べノム卑怯だ! ちゃんと女になってない! これは詐欺だ!」

「体を変えている訳じゃねぇし! 光を屈折させてそう見える様にしているだけだからな!」

 何だと! しかし変身する訳じゃなくてもその魔法は欲しい!
 それが有ればこそこそ隠れなくても、女の子同士でキャッキャウフフ出来るじゃないか!

「俺にその魔法を教えてくれ!」

「……駄目だこいつ、十日程檻の中で反省してろ」

 俺はべノムに連行され、牢屋に入れられてしまった。
 だが俺はこのままでは終わらない。
 何時の日か必ず戻って来る。
 そして今度こそは女の子とエロい事するんだ。
 そう誓った俺だったが、この牢獄生活は快適だった。
 看守の女の人が意外と美人で、話しかけられたりしてなんだか楽しかったのだ。

 このまま楽しむのもいいが、次の作戦も考えないとな。

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