一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

13 王道を行く者達24

 巨大な森の前リーゼ達は突撃の合図を待っていた…………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)         ゲイル(森の中で出会った傭兵)


 ランナーの町から北へと進むと、その森があった。
 森の前にはズラリと傭兵達が並び、今か今かと合図を待っている。
 この森を開放出来れば、次の町へのルートが出来る。
 リーゼ達にとっても重要な戦いだった。 

「リーゼ離れるなよ。一度離れたら戦闘中は二度と会えないと思え」

「分かってるって」

 少し待ち、全員の準備が整うと、目の前に一人の鎧を着た巨漢の老人が現れた。
 その男が指揮棒を振り上げ、森へ向かって振りおろす。

「全体突撃いいいいいいいい!」

 指揮官から突撃の合図が掛かり、合図と共に傭兵達は森へと侵入して行く。

「俺達も行くぞ」

「ええ、行きましょうか」

「腕が鳴りますね」

「ハガンさんは私が守るわ」

「リーゼちゃん、頑張ろうね」

 傭兵達と一緒に突っ込んだリーゼ達だが、まだ混戦と言う物を知らなかった。
 五人で戦っていたはずが、何時の間にか六人になり、八人になり、そしてリーゼは一人になっていた。

「これは不味いよね」

 このまま一人で戦うのは危険だった。
 魔物達が襲って来る前に、別に戦っている所へと合流しなければならない。
 リーゼは近くに居る傭兵を探し、戦っている人物を見つけた。

「見つけた!」

 魔物と対峙しているのは女の二人組だった。
 戦っているのはケンタウロスのような魔物で、結構苦戦している様だ。
 魔物は下半身が牛で、首の部分から人の体が生えている。
 またその頭は牛になっていた。

 両腕はカマキリの鎌になっていた。
 その鎌の攻撃が女の子達を襲い、女の子の一人を切り裂いた。

 腕を切ったようだが傷は浅くはない。
 このままにしておけば、傷から血が流れ意識を失うだろう。
 多少なりとも傷の処置をしないとならない。

 リーゼは応急処置をする道具を腰から取り出した。
 その道具袋を傷を負った女の子の前に置き、魔物の前にリーゼが立ちはだかる。

 もう一人の子に魔物を任せられる腕はなさそうだ。
 全員生き残る為には、リーゼが頑張らないとならない。

「そっちの子の処置をして。私は此奴の相手をするから!」

「は、はい!」

 だが、危険が訪れたならば、二人を置き去りにする事も考えなければならない。
 助けられるのは自分の技量で勝てる時だけなのだ。

 牛に向かい構え立ちはだかるリーゼに、牛の鎌が襲い掛かる。
 足を動かし鎌を躱すと、その大きな鎌が地面に突き刺さった。

「狙うならここね!」

 リーゼは敵の攻撃を待ち、次に鎌が地面に刺さる瞬間を狙う。
 チャンスを待つが、中々狙い通りに事は進まない。
 横目で助けた二人を確認するが、その二人の姿は何時の間にか消えていた。
 どうやら、置き去りにされたのはリーゼの方らしい。

 あの二人は、リーゼと一緒に戦っても勝ち目が無いと思ったのだろう。
 仲間の命より他人の命を犠牲にした。
 ただそれだけの事だろう。

「誰も居ないなら戦いにだけ集中できるわ!」

 居ない人を気にしている場合じゃないく、此処を切り抜けられなければ死ぬだけだった。
 魔法を使いたい所だが、森の中で炎を使うのは危険極まりない。
 しかし、今ここで死ぬよりましだった。
 意を決したリーゼは、敵を見極めながら魔法を放つ。

「ファイヤー!」

 狙い違わず牛に炎が炸裂する。
 ボワッと燃え上がり、少し焦げた程度に終わってしまう。
 それでも諦めず、もう一度力を解き放つ。

「ファイヤーッ!」

 ダメージは少ないが、炎の熱さは感じているはずだった。
 怒りで頭に血が登れば、もう少し攻撃が雑になるだろう。
 何度も攻撃を避け、魔法を放っていると、ついに待っていた攻撃が来た。
 大振りの鎌が地面に突き刺さり、牛は一瞬動きを止めたのだ。

 リーゼはその隙を見逃さず、動かない鎌の一本を断ち切った。
 しかし牛は怯まず、二本目の鎌を振りかぶっている。

 鎌の一本だけなら読みやすく、その攻撃をカウンターで狙らう。
 振り下ろされた鎌を斬り飛ばし、牛は攻撃手段を失った。
 後は倒すだけだと接近するリーゼ。
 だが牛は頭を突き出し、その巨体による突撃をしかけて来た。

「そんな真っ直ぐな攻撃があたるわけないでしょ!」

 リーゼはその攻撃をギリギリで避け、通り過ぎる牛の後ろ脚を剣で斬る。
 牛はバランスを崩し、大木に突っ込むと、そのまま意識を失ってしまった。
 リーゼは動けなくなった牛に、躊躇ちゅうちょなく止めを刺した。

「何時までも此処に居る訳にはいかないわね」

 リーゼは知らなかった。
 そのリーゼの死角に、先ほどの二人が居たことを。

 ……いやそれは有ったというべきだろう。
 二人はもう言葉を発する事が無い物になっている。
 人間の血の匂いに引き付けられたのか、近くにはもう一匹の魔物が潜んでいたのだ。
 その魔物は長く鋭い舌を伸ばし、リーゼの背後から襲い掛かった。

 ガッギィイイイイイン!

 大きな剣が、鋭い舌の攻撃を防いでいる。
 これはリサの剣ではない。

「一人だと危ないぞお嬢ちゃん。行くところが無いならワシと来いよ」

 舌の攻撃を止めたのは、士気を取っていたお爺さんだった。
 リサよりも大きな剣を振り回し、肉体だけを見れば三十代だと言われても納得してしまうだろう。
 助けられたリーゼは、自分が死ぬ所だったと理解し、攻撃があった方に剣を向けた。

「ありがとうお爺さん。生き残れたらお礼するからね!」

「これでも若いつもりなんだがな」

 舌が伸ばされた場所を見るが、魔物の姿は見当たらない。
 草や葉が動き、何かしらの気配は有るのだが、姿だけが見えてこない。

「ねぇ、敵ってどんなのだった?」

「さて、赤い舌しか見えなかったな。空中から出て来た様に見えたぞ」

「あの舌の様な物が本体なのかしら?」

「ないな、それなら多少なりとも探す事が出来る」

 木の葉がざわめいた。
 二人がそこへ走り、持っていた剣を振り下ろした。
 だがそこに手応えは無い。

「お爺さん、後よ!」

 今度はお爺さんに狙いを定め、赤い舌が飛び出した。
 リーゼが前に出ると、出て来たその舌の先端を斬る。
 だがギィンと剣を響かせ、リーゼの剣でも切断できないようだ。

「かったいわね!」

 このまま戦っていてもジリひんだった。
 何か手を考えなければならない。

「お嬢ちゃん、ちょっとした作戦がある。次攻撃が来たら敵の本体を狙え」

「分かった。まだ恩返ししてないんだから死なないでよね」

「努力はするさ」

 そして次の攻撃が来た。
 お爺さんは見えている攻撃をかわそうとせず、敵の舌が太腿を貫通した。

「お爺さん!」

「いいから行け!」

 お爺さんは敵の舌を素手で掴み、そのまま動かない様に固定している。
 それでも引きずられるように敵へと向かって行く。

 リーゼは走り、その先部分を見た。
 その先には、敵の舌の付け根が見える。
 何も無い空間だが、きっとそこが敵の頭だろう。
 リーゼは舌の付け根のその先に、自分の剣を突き立てた。

 アギョオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 頭を突き刺されたその魔物は、断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れた。
 しかし死んでも魔物の姿は見えず、お爺さんに突き刺さっているその舌が力なく垂れさがっている。
 お爺さんはその舌を引き抜き、自分に回復魔法を使い始めた。

 マッドよりは回復が弱い様だが、時間を掛け動けるぐらいに回復したようだ。
 その間リーゼが護衛をしていたが、他の魔物は襲っては来なかった。

「お嬢ちゃんやるじゃないか。ワシはゲイル、よろしくな」

「私はリーゼよ。仲間とはぐれて困っていたの。ゲイルさんが来てくれて丁度良かったわ」

 回復魔法が使えるゲイルと組めたのは、リーゼにとって幸いだった。 
 しかし油断していたら、また一人になってしまうだろう。
 相当な人数が居る中で、仲間の位置を把握しながら敵に集中するのはかなり難しい。
 リーゼも敵にだけ集中していたら、その敵を倒した時には仲間は何処にも居なかったのだ。

「準備も出来たし、戦っている人達の所と合流しましょう」

「そうだな。二人だけでは倒せぬ敵もいるだろう。合流を急ぐとしようか」

 何チームもの傭兵達が戦っているのが分かる。
 だが森が邪魔をして、ハガン達かどうかまでは分からない。

「さて、何処に入るんだ?」

「そうね、人数の少ない所に行きましょう」

「ほう、その心は?」

「人数が少ないと負けやすいでしょ、それが重なっていくと此方が不利になるわ」

「ふむ、中々面白い考えだ。この烏合の衆を一つの軍として見たのだな。相手の戦力は未知数。何匹居るのかも分からない。だから此方の戦力を減らさない様に考えたのだな?」

「まあ、そんな感じで。でもそれは第二目標よ。一番は生き残る事。例えお爺さんを置いてでも逃げる時もあるわ」

「そんな事は分かっておる。こちらだってそうする積もりだ。しかしこんなお嬢ちゃんを育てるとは、一度お主の師匠に会ってみたいものだ」

「生き残れば会えるわよ。この戦場に居るからね」

「そいつは楽しみだ。では行くとしよう」

 森を探索し、リーゼ達が合流したのは三人のチームだった。
 三人はリーゼと同じ位の歳の男女で、赤髪の男、青髪の男、そして金髪の女である。

「援軍感謝する。しかし此奴は中々手強い。素早くて攻撃が当たらないんだ!」

 赤髪の男が対応してくれた。
 しかしその魔物をリーゼが見ると、それはただの犬に見える。
 でも戦ってるのならこれも魔物なのだろう。
 もし魔物じゃなくても、こんな魔物だらけの森に住み着く野犬が弱いのかという疑問もあった。

 何方にしろ、襲って来たのなら対処するしかない。
 青髪の男が犬に向かい剣を振り、犬はそれをトントンと躱しながらその牙を向く。

「この魔物め! くそ、剣が当たらない」

 相手の攻撃を見ても犬にしか見えない。

「……ねぇゲイルさん、あれ犬よね?」

「ただの犬だな」

 野犬に苦戦するようならこの三人は、町に帰って貰った方が良いかもしれない。

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