一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
9 王道を行く者達23
防具の製作費を求める為ある人物の護衛をすることになった…………
リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭) ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母) クレスタ―(護衛対象の男の子)
「よろしくお願いしますクレスタ―さん」
「こちらこそどうぞよろしくお願いします」
会いに行った依頼主は少年で、恰好から見ると商人の息子の様だ。
名前はクレスタ―と自己紹介され、リーゼより年下で十二歳と言っている。
依頼内容としては、試練の迷宮という所まで一人で行くのが家の掟だとか。
護衛は自分のお金で支払う分には人数換算されないルールだと言っている。
こんな世の中なのだ、一人旅でもし跡取りを失ってはと、付け足されたのだろう。
一応リーゼはクレスタ―にラフィールが貰って来た鎧を買い取らないかと聞いてみたのだが、目利きが出来ないから買えないと言われてしまった。
初対面のリーゼ達を信用が出来ないと言ってる。
子供とはいえ商人なのだ、簡単に信用してはくれないだろう。
この町を出発する前に、ラフィールが全身鎧をくれた防具職人の元へ行き、一筆書いて貰って来た。
売る時には少しは売れ易くなるだろう。
鎧は宿に置き、リーゼ達は試練の迷宮へと出発した。
「クレスタ―さん、その迷宮ってどこなんですか?」
「この町から馬車で二時間ほど行った所にある地下迷宮だよ。特に危険もない簡単な儀式だってさ。子供にそんな危ない事させる訳ないからね!」
その迷宮は子供が簡単に進める様なものだろう。
命がけでとやっていたら、たちまち後継ぎがいなくなってしまう。
しかしクレスタ―は勘違いをしていた。
魔物が居なかった時代なら兎も角、その道中こそ死が溢れている。
護衛があるから、二時間だけだから大丈夫と、もう誰も言えはしない。
馬車で町を出発して、そろそろ一時間が経とうとしていた。
「なぁねー、旅してるんだろ? 何か冒険の話を聞かせてよ」
「そうですね……クラスターさん、魔族って知っていますか?」
「魔族? 魔王の城や町に住んでる奴等だろ? それぐらい知ってるよ」
「このお話は実際有ったお話なんですけどね。ある一組の冒険者達が旅先で魔族に出会ったんです。その冒険者達は歴戦の戦士で、魔物達を何体も倒す凄腕でした。色々あってそして魔族と戦う事になったのですけど。戦士達は剣を切断され、腕を切り裂かれ、体を刻まれてしまいました。おしまい」
「なんだそれ、ねーちゃん俺をビビらせようとしてるのかよ、何も出来なかったその冒険者が弱いんじゃねーの」
リーゼが答えようとしたその時。
「おいリーゼ敵だ! 戦いの準備をしろ」
馬車の操縦席の横に座っていたハガンの声が聞こえる。
リーゼは置いてあった剣を持ち、馬車から飛び出した。
そして魔物の元へと向かう。
襲って来たものは頭が猿で、体が虎の獣。
何処かの御伽噺で聞いた事がある奴だった。
「これは猿でしょうか。それとも虎?」
「そんな事はどうでも良いから、マッドさんは逃げてて!」
「リーゼちゃん、来るよ! って私かい?!」
リサが猿の一撃を剣で受け止める。
しかし力の差でじわじわと押され始めた。
その状態をただ見ているリーゼ達ではない。
「リサさん踏ん張って!」
リサに集中している猿の体を狙い、強烈に剣を振り放つ。
だが猿はそれを察知すると、後に飛び退き、広げた口の中に雷撃が生まれている。
リーゼはゆっくりと歩き、何時でも飛び退ける様に準備した。
猿の頭が勢いを付けようと、後に少し下がって行く。
その動きを見逃さず、リーゼ達は雷撃が放たれる前にそこから飛びのいた。
その雷撃は地面の草を焼き、焦げ臭いにおいを放つ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
ハガンの位置は雷撃から遠く、一瞬のスキを狙い、猿の頭を蹴り上げた。
しかしその一撃だけでは倒す事は出来ない。
猿の反撃だと腕を振り上げ、ハガンに向かい振り下ろした。
「風よッ吹き返せ!」
その危機を察したラフィールが、魔法を使うとハガンの体を後ろに吹き飛ばす。
それでも猿の爪は止まらない。
強引に体を伸ばし、ハガンの腹を少し抉った。
「うぐッ!」
だがそのぐらいでは致命傷にはならない。
まだハガンを襲おうとする猿に、リサの援護が入った。
猿の頭を狙い剣を振る。
猿は後に跳びそれを躱すと、左右にステップするように跳ね、次は馬車の近くに居たマッドの方へと狙いを変えた。
「ファイヤー!」
マッドの炎が猿の目前で燃えると、その炎で一瞬猿が怯んでいる。
そこにリーゼは、用意していた魔法を走りながら放った。
「ファイヤーッ!」
炎が猿を直撃し、その体を燃やしている。
リーゼは足りない威力を補うように、熱さで飛び跳ねた猿の後ろ脚を剣で斬り裂いた。
「まだ浅いわ!」
猿の足を斬り落とすまでには至らなかったが、これで動きは鈍くなる。
ラフィールとリサが猿の後ろから剣を振り、猿はその攻撃を何とか躱(かわ)すが、躱した先にはハガンが居た。
猿が後向きで飛び跳ね、リーゼが斬った脚を、踵で蹴り飛ばした。
「うぎいいいいいいいいいいいいいい!」
猿の後ろ脚がおかしな方向へと曲がり、大きな悲鳴が聞こえる。
バランスを崩して立ち上がれない様だ。
だからと言って相手が諦めてくれる訳じゃない。
その口内には、また雷撃が貯まり、ハガンを狙っている。
「させるかああああああああああああ!」
リーゼは猿の背後から迫り、動けない猿の首をはねるた。
その首は地面へ落ち、自身の雷撃により、体が燃え、墨(すみ)となる。
この魔物の体は武具には使えそうにない。
この仕事を終わらせる事を考えよう。
「お前達すげーな。あんなの倒しちゃうなんて。どうだ俺の嫁にならないか? さっき言ってた鎧も買い取ってやってもいいぞ」
「ごめんなさい、私にはやる事があるの。でも鎧を買ってくれたら嬉しいわ」
クレスタ―がリーゼに手を握られて赤くなっている。
本当に惚れたのかもしれない。
「鎧の事は考えておいてやらぁ。ほら先に進むぞ! そうだ、さっきの話はどうなったんだよ?」
「あれは私達よ。貴方がもし魔族に会ったのなら全力で逃げなさい。相手の機嫌が良ければ助けてくれるかもしれないわ」
クレスタ―は黙り、魔族に会わない様に祈る事にしたらしい。
そして試練の迷宮に着きはしたが、中は子供だましの様な物ばかりだった。
迷宮というわりに一時間も探すと、目的の物を発見出来た。
しかし。
「お前達誰だ! 勝手に俺の家に入って来やがって」
そこに居たのは腕が四本ある魔族で、いきなりの遭遇に、リーゼ達は慌てて剣を抜いた。
「お、お前こそ、俺の家の持ち物に勝手に住み着きやがって。遙か昔から此処は俺の家が管理していたんだよ!」
「なにぃ、それは本当なのか? 嘘では無いだろうな?」
クレスタ―が言葉を武器として戦っている。
「……私はよく知らないけど、ここはこの子の家の儀式場として使われてるのよ」
「クソッ、せっかく良い場所を見つけたと思ったのに。悪かったな俺は別の場所に行く。じゃあな」
四本腕の魔族があっさりと引き下がった。
魔族も色々いるのだろうか。
「どうやらお前の話とは違うようだぞ。話せば分かる奴等なんじゃないのか?」
確かに言葉は通じる。
だが一度牙をむくと、その力は凄まじい。
リーゼは少しだけ魔族の認識を改める事にした。
迷宮を脱出すると、もう日が落ち始めている。
「急ぐぞ。夜になると魔物が増える。早く馬車に乗るんだ!」
ハガンの号令で全員が馬車に乗り込み、町へと急いだ。
敵の姿は見えず、運良く町まで無事に到着する事が出来、その礼として、クレスタ―は報酬の他に鎧も買い取ってくれたのだった。
「これでお金は何とかなったけど、次は材料よね」
「次は魔物退治の仕事を受けるか? 案外目的の物が手に入るかもな」
防具の材料となる、魔物の部位を使いたいのだが。
相当硬く強くなければ使えない。
そしてそんな魔物は、間違いなく強い。
「じゃあギルドに行きましょう。魔物を倒して、ついでにお金も貰っちゃいましょう!」
リーゼ達はギルドに向かい、魔物退治の依頼を受けた。
しかしリーゼ達が考えているより規模の大きな作戦で、百人を超える人数が参加するそうだ。
向かうのは魔物の巣窟になった森。
魔物を殲滅して解放する作戦だった。
リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭) ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母) クレスタ―(護衛対象の男の子)
「よろしくお願いしますクレスタ―さん」
「こちらこそどうぞよろしくお願いします」
会いに行った依頼主は少年で、恰好から見ると商人の息子の様だ。
名前はクレスタ―と自己紹介され、リーゼより年下で十二歳と言っている。
依頼内容としては、試練の迷宮という所まで一人で行くのが家の掟だとか。
護衛は自分のお金で支払う分には人数換算されないルールだと言っている。
こんな世の中なのだ、一人旅でもし跡取りを失ってはと、付け足されたのだろう。
一応リーゼはクレスタ―にラフィールが貰って来た鎧を買い取らないかと聞いてみたのだが、目利きが出来ないから買えないと言われてしまった。
初対面のリーゼ達を信用が出来ないと言ってる。
子供とはいえ商人なのだ、簡単に信用してはくれないだろう。
この町を出発する前に、ラフィールが全身鎧をくれた防具職人の元へ行き、一筆書いて貰って来た。
売る時には少しは売れ易くなるだろう。
鎧は宿に置き、リーゼ達は試練の迷宮へと出発した。
「クレスタ―さん、その迷宮ってどこなんですか?」
「この町から馬車で二時間ほど行った所にある地下迷宮だよ。特に危険もない簡単な儀式だってさ。子供にそんな危ない事させる訳ないからね!」
その迷宮は子供が簡単に進める様なものだろう。
命がけでとやっていたら、たちまち後継ぎがいなくなってしまう。
しかしクレスタ―は勘違いをしていた。
魔物が居なかった時代なら兎も角、その道中こそ死が溢れている。
護衛があるから、二時間だけだから大丈夫と、もう誰も言えはしない。
馬車で町を出発して、そろそろ一時間が経とうとしていた。
「なぁねー、旅してるんだろ? 何か冒険の話を聞かせてよ」
「そうですね……クラスターさん、魔族って知っていますか?」
「魔族? 魔王の城や町に住んでる奴等だろ? それぐらい知ってるよ」
「このお話は実際有ったお話なんですけどね。ある一組の冒険者達が旅先で魔族に出会ったんです。その冒険者達は歴戦の戦士で、魔物達を何体も倒す凄腕でした。色々あってそして魔族と戦う事になったのですけど。戦士達は剣を切断され、腕を切り裂かれ、体を刻まれてしまいました。おしまい」
「なんだそれ、ねーちゃん俺をビビらせようとしてるのかよ、何も出来なかったその冒険者が弱いんじゃねーの」
リーゼが答えようとしたその時。
「おいリーゼ敵だ! 戦いの準備をしろ」
馬車の操縦席の横に座っていたハガンの声が聞こえる。
リーゼは置いてあった剣を持ち、馬車から飛び出した。
そして魔物の元へと向かう。
襲って来たものは頭が猿で、体が虎の獣。
何処かの御伽噺で聞いた事がある奴だった。
「これは猿でしょうか。それとも虎?」
「そんな事はどうでも良いから、マッドさんは逃げてて!」
「リーゼちゃん、来るよ! って私かい?!」
リサが猿の一撃を剣で受け止める。
しかし力の差でじわじわと押され始めた。
その状態をただ見ているリーゼ達ではない。
「リサさん踏ん張って!」
リサに集中している猿の体を狙い、強烈に剣を振り放つ。
だが猿はそれを察知すると、後に飛び退き、広げた口の中に雷撃が生まれている。
リーゼはゆっくりと歩き、何時でも飛び退ける様に準備した。
猿の頭が勢いを付けようと、後に少し下がって行く。
その動きを見逃さず、リーゼ達は雷撃が放たれる前にそこから飛びのいた。
その雷撃は地面の草を焼き、焦げ臭いにおいを放つ。
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
ハガンの位置は雷撃から遠く、一瞬のスキを狙い、猿の頭を蹴り上げた。
しかしその一撃だけでは倒す事は出来ない。
猿の反撃だと腕を振り上げ、ハガンに向かい振り下ろした。
「風よッ吹き返せ!」
その危機を察したラフィールが、魔法を使うとハガンの体を後ろに吹き飛ばす。
それでも猿の爪は止まらない。
強引に体を伸ばし、ハガンの腹を少し抉った。
「うぐッ!」
だがそのぐらいでは致命傷にはならない。
まだハガンを襲おうとする猿に、リサの援護が入った。
猿の頭を狙い剣を振る。
猿は後に跳びそれを躱すと、左右にステップするように跳ね、次は馬車の近くに居たマッドの方へと狙いを変えた。
「ファイヤー!」
マッドの炎が猿の目前で燃えると、その炎で一瞬猿が怯んでいる。
そこにリーゼは、用意していた魔法を走りながら放った。
「ファイヤーッ!」
炎が猿を直撃し、その体を燃やしている。
リーゼは足りない威力を補うように、熱さで飛び跳ねた猿の後ろ脚を剣で斬り裂いた。
「まだ浅いわ!」
猿の足を斬り落とすまでには至らなかったが、これで動きは鈍くなる。
ラフィールとリサが猿の後ろから剣を振り、猿はその攻撃を何とか躱(かわ)すが、躱した先にはハガンが居た。
猿が後向きで飛び跳ね、リーゼが斬った脚を、踵で蹴り飛ばした。
「うぎいいいいいいいいいいいいいい!」
猿の後ろ脚がおかしな方向へと曲がり、大きな悲鳴が聞こえる。
バランスを崩して立ち上がれない様だ。
だからと言って相手が諦めてくれる訳じゃない。
その口内には、また雷撃が貯まり、ハガンを狙っている。
「させるかああああああああああああ!」
リーゼは猿の背後から迫り、動けない猿の首をはねるた。
その首は地面へ落ち、自身の雷撃により、体が燃え、墨(すみ)となる。
この魔物の体は武具には使えそうにない。
この仕事を終わらせる事を考えよう。
「お前達すげーな。あんなの倒しちゃうなんて。どうだ俺の嫁にならないか? さっき言ってた鎧も買い取ってやってもいいぞ」
「ごめんなさい、私にはやる事があるの。でも鎧を買ってくれたら嬉しいわ」
クレスタ―がリーゼに手を握られて赤くなっている。
本当に惚れたのかもしれない。
「鎧の事は考えておいてやらぁ。ほら先に進むぞ! そうだ、さっきの話はどうなったんだよ?」
「あれは私達よ。貴方がもし魔族に会ったのなら全力で逃げなさい。相手の機嫌が良ければ助けてくれるかもしれないわ」
クレスタ―は黙り、魔族に会わない様に祈る事にしたらしい。
そして試練の迷宮に着きはしたが、中は子供だましの様な物ばかりだった。
迷宮というわりに一時間も探すと、目的の物を発見出来た。
しかし。
「お前達誰だ! 勝手に俺の家に入って来やがって」
そこに居たのは腕が四本ある魔族で、いきなりの遭遇に、リーゼ達は慌てて剣を抜いた。
「お、お前こそ、俺の家の持ち物に勝手に住み着きやがって。遙か昔から此処は俺の家が管理していたんだよ!」
「なにぃ、それは本当なのか? 嘘では無いだろうな?」
クレスタ―が言葉を武器として戦っている。
「……私はよく知らないけど、ここはこの子の家の儀式場として使われてるのよ」
「クソッ、せっかく良い場所を見つけたと思ったのに。悪かったな俺は別の場所に行く。じゃあな」
四本腕の魔族があっさりと引き下がった。
魔族も色々いるのだろうか。
「どうやらお前の話とは違うようだぞ。話せば分かる奴等なんじゃないのか?」
確かに言葉は通じる。
だが一度牙をむくと、その力は凄まじい。
リーゼは少しだけ魔族の認識を改める事にした。
迷宮を脱出すると、もう日が落ち始めている。
「急ぐぞ。夜になると魔物が増える。早く馬車に乗るんだ!」
ハガンの号令で全員が馬車に乗り込み、町へと急いだ。
敵の姿は見えず、運良く町まで無事に到着する事が出来、その礼として、クレスタ―は報酬の他に鎧も買い取ってくれたのだった。
「これでお金は何とかなったけど、次は材料よね」
「次は魔物退治の仕事を受けるか? 案外目的の物が手に入るかもな」
防具の材料となる、魔物の部位を使いたいのだが。
相当硬く強くなければ使えない。
そしてそんな魔物は、間違いなく強い。
「じゃあギルドに行きましょう。魔物を倒して、ついでにお金も貰っちゃいましょう!」
リーゼ達はギルドに向かい、魔物退治の依頼を受けた。
しかしリーゼ達が考えているより規模の大きな作戦で、百人を超える人数が参加するそうだ。
向かうのは魔物の巣窟になった森。
魔物を殲滅して解放する作戦だった。
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