一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

3 敗走した者達

大暴れしていたタイタン達から敗走したロッテ達…………


アスタロッテ(天使知識を得た人)  べノムザッパー(王国、探索班)
イモータル (王国、女王)     ダルタリオン(元王国騎士団長)


 ロッテ達は王国から離れた場所にあるマルファーを頼り、そこを拠点にして生活を始めるしかなかった。
 命からがら王国から逃げて来た者達も受け入れられ、一緒に生活をしている。
 でもここに避難した者達でも、日が経つにつれ大勢この国から離れて行く。
 何度もの危険の為に。ブリガンテや帝国に移住して行く。

 それでもまだ国を愛し、残る者は多く存在している。
 だけど問題は山積みだった。
 水や火は魔法で何とでもなる。
 家も最悪土の魔法で洞窟を作れば良い。
 でもその人数の為に、食料問題を抱えなければならなかったのだ。

 食べる物もそれほどなく、狩りをしないとあっと言う間に無くなってしまうだろう。
 例えそれが人を食うキメラ達であっても、取れるものは何でも食べないと生きて行けない。
 私達はこれから、この場所に一から王国に代わる国を作らなくてはならないのだ。

「どこだ、ここ?」

 あれから三日、やっとべノムが目を覚ました。
 私はそれを喜び、笑顔でを向けた。

「お早うべノム、体は大丈夫? ここマルファーの家だよ」

「それでロッテ、俺は何でここに居るんだ?」

 あれからずっと眠っていたべノムは、この場所にやって来た理由を知らないんだ。
 あんまり説明したくないなぁ。

「私達は……」

 それでも言わなければと、私はこうなった経緯を話しを始めた。
 べノムは私の話を聞いている。
 王様達が狂ってしまった事を。
 王国にはもう住めない事を。
 この場所には食べ物が少ない事も。
 たった一つの建物から、何もかもを始めなければならない事を。

「夢、じゃねぇよな? 起きたら王国が滅んでいたって信じられる訳ねぇだろ? 今から見て来るから、今のが冗談だって証明してやるよ!」

 べノムが飛び立つ。
 彼のスピードなら五分もせずに確認してくるだろう。
 私はそれをじっと待っている。
 その時間が経ち、戻って来たべノムの顔は曇っていた。

「お帰り、どうだった?」

「……言いたくねぇ」

「……そう……べノムがどんな気持ちだったとしても、今は働いてもらうよ。人手は足りないからね」

「分かった、俺は何をすればいい?」

 べノムは素直に私の頼みを聞いてくれるらしい。

「イモータル様に聞いてきたら?」

「おいッ、王妃様が居るなら言えよ! 直ぐ挨拶してこなければ!」

 ベノムは王妃様の所に走って行ってしまった。
 そう急がなくても会えるのに。
 でもまさかメギド様が悪魔になっちゃうなんて……

 悪魔の事を考え出した私に、天使の知識が流れ込む。
 悪魔がどれだけ悪質で悪辣あくらつで悪徳で悪臭で悪食で悪逆なのか。
 大好きだった人達が悪魔になんかなるなんて許せなくなっている。

 私がこんなにも悪魔の事を嫌いだと思わなかった。
 やっぱり天使と同化した影響なのかな?
 それでも、特に自分が変わったと思わない。

「ロッテ、こっちに来てくれ。王国を取り戻す作戦会議だ!」

 取り戻す?
 そうね、取り戻すのにはあの三人を殺さなくちゃ。

 べノムに呼ばれ、私は王妃様の元へ向かった。
 王妃様は子供達と一緒に治した影響か、べノムより二日も前に目覚め、今出来つつあるこの町の為に尽力してくれていた。

「お早うございます王妃様、お元気で何よりですわ。それで如何するんですか?」

「お早うロッテさん、王国を取り戻すのには、まずグラビトンを攻略しなければなりません。幸い彼には魔法がありません。大人数で押さえつければ何とかなるでしょう」

「王妃様、グラビトンを殺さないのですか? こっちにも死傷者が出ますよ?」

「お前、何かおかしな物でも食ったのか?」

 べノムが失礼な事を言って来る。
 私は元から軍人の娘で、しつけには厳しく育てられたんだよ。
 ただ今までやらなかっただけ。
 ちゃんとする時はやるんだよ。

 そう反論したかったけど、今はそんな時じゃない。

「私は彼等を助けたいのです。怪我人が出るのは覚悟しています。でも誰も殺しません。作戦と入念な準備があればきっと大丈夫です」

 どれほどの準備をしようと、どんな作戦を立てようと、必ず上手く行くとは限らない。
 それは王妃様も分かっているはずだけど。

「べノムにはタイタンの注意を引いて欲しいのです。グラビトンと戦っている時に来られては、作戦が台無しになっていしまいますので」

「それじゃ私も行きます」

 私もそれに立候補した。
 べノムをたった一人で行かせたくない。

「駄目だ、お前が近くに居たら速さが殺される。一人の方がやり様がある」

「今まで看病してあげたのに、私の言う事は聞いてくれないんだね」

「今それは関係ないだろ! まあそれは感謝しているよ。でも駄目だ」

「べノムのけちー」

 隙があったら付いて行こう。
 今の私ならきっと助けになれるはずだ。

「作戦は三日後です。それまではこの町の発展に努めてください」

「分かりました、それでは失礼します」

 べノムが外に出ると、私はペコリと頭を下げて外に出た。
 外は土で出来た住居が並べられている。
 着の身着のまま王国を飛び出した人達の住居だ。
 ほとんどの人が、その中で不自由に暮らしている。

 この町には店もなく、お金も無い。
 せいぜい子供の為に作った木の玩具があるだけだ。
 この土の町の中では、グレモリア達も忙しく走り回っている。

「ロッテ、俺達は外を見回るぞ。キメラ達がここを狙う事もあるだろう」

「うん、行こうか」

 私達二人は町の外に出て、キメラ退治で何度か通った道を行く。
 何時もは三人一組で行動しているので、べノムと二人で出掛けるのは久しぶりだった。
 こんな時であっても、少し嬉しいのは私の悪いところだろうか?

「ねぇべノム、私はべノムの事好きだよ」

「あーはいはい、分かった分かった。それより敵がどこに居るか分からないんだ、あんまり変な事考えるなよ」

 素直に気持ちを伝えても、やっぱり聞いて貰えない。
 何時もからかってるからかな?
 でも少しは本気だったんだよ。
 私を救ってくれたのは貴方なんだから。
 私はあの山でずっと一人で泣いていたんだ。
 正しい道に戻してくれたのは貴方だったんだ。
 例え貴方が人の姿をしていなくても、私には関係無いわ。

「べノム、す……」

 ゴバーンっと、前から何かの爆発が起こる。
 たぶんキメラだろう。
 でももうちょっと待ってくれればいいのに!

「行くぞロッテ、敵が出たぞ!」

「私ちょっと怒ったよ!」

「何怒ってるのか知らねぇけど、油断はするなよ?」

 前方の敵は、巨大な土竜の様な奴で、私達三人でも一飲みにしてしまいそうだ。
 その土竜は地面を掘り返して進んで来ていた。
 自分の掌より大きな爪と、何でも食べそうなギザギザの牙がむき出しになっている。

 でもよく見ると、そのキメラを相手に、私達より先に誰かが戦っていた。
 この先には私達の町があるし、このまま進ませたら不味い。
 私達も加勢しないと。

「べノム殿手伝ってくだされ! この土竜が地面にもぐってしまって手が出せんのじゃ!」

 私はこの人とは、あまり話したことが無い。
 確かダルタリオンとかいったお爺さんで、昔は騎士団を束ねる団長だったとか。
 年齢も五十を超えている、と思う。
 彼はキメラ化していない普通の人間だけど、その剣技は王国一と言われているらしい。

 そのダンダリオンさんを相手に、土竜の体が地面に沈んでいる。
 地中を動き、隙を窺っているのだろう。

 べノムがその穴を覗くけど、そこにはもう居ない。
 これはちょっと大変だ。
 私も構えて土竜に備えているけど、突如、下の地面が揺れた気がした。

 足元に危険を感じる。
 ここは危ない、逃げなきゃ。
 その場を飛び退き、私は更に後に移動した。

 今狙われているのは私だ。
 私がこの中で一番弱いと思われているのだろう。
 べノムが私を助けに、こちらに飛んで来ている。

 手を伸ばせばきっと助けてくれるに違いない。
 でも、それをする訳にはいかない。
 このままべノムの足手まといにはならない。
 敵に発動する魔法の為に、私は気持ちを集中させる。

 足を止めた私の元に、地面から土竜が現れ、大きな口を開けて私を飲み込もうとして来た。
 でもそれは私のチャンス!

「アーク・グラビティ!」

 私は口を開けた土竜に、天使の知識を使った魔法の一つを発動した。
 土竜の体が円形の電撃に包まれ、そのまま地面に沈み込む。
 動くことも出来ない重力の魔法だ。

「おお、ロッテ嬢もやるではないか! このまま止めを刺してくれようぞ! べノム殿ワシを空に上げてくれぃ!」

 べノムによりダルタリオンが空に持ち上げられた。
 そこからダルタリオンが剣を下に向け、べノムの手から降下して行く。
 魔法の影響下に入った為に、空中のお爺さんの体が、土竜へと押し付けられている。

 お爺さんの剣が土竜に触れると、その剣は土竜の体を突き抜けて地面へと突き刺さった。
 この瞬間私は魔法を解いた。
 そのままにしたらお爺さんまで潰れちゃうから。

 お爺さんにも多少の影響が残っているけど、土竜の体がクッションになってるからたぶん生きてるでしょ。
 もし死んでたら私の所為なのかな?

「やりましたぞ! ワシの手柄じゃ! こやつめ、手こずらせおってからに」

 心配すること無かったね。
 剣一本で王国の人達と渡り合ってる人だし、体は結構頑丈に出来てるみたいだ。

「これだけ大きな得物なら、皆で食べても簡単には無くならないよね」

「ああ……でもよ、これどうやって持ち帰るんだ? 俺達だけじゃ運べないぞ?」

「誰か人を呼んでこよっか」

 結局町の人達の手を借りて、大人数で町まで運んだ。
 最近お肉ばっかりでちょっと飽きるよ。

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