一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
2 王国に吹き荒れる死の風
平和な日常は…………
アスタロッテ(べノムの部下) べノムザッパー(王国、探索班)
べーゼユール(天使、居候1) グーザフィア(天使、居候2)
グレモリア (居候3) シェルハユ(天使、マルファーの嫁)
王国の城の隣にある魔道研究所の一室。
毛むくじゃらの怪物と、一人の研究員が話をしている。
「これ以上は止めてくれないか。もう良いだろう帝国は力を失ったのだ。それに俺はもう随分と働いて来た。これ以上何かさせるのなら一度妹にあわせて欲しい!」
「逆らうのなら妹の命はないぞ?」
「逆らうつもりはない。ただ妹と会わせて欲しいだけだ!」
こいつも此処までだな。
妹の方も何処かに消えてしまったし、もう用済みだ。
「分かりました。次の仕事を終えたら考えておきましょう。ではこの薬を今から言う人達に配ってくださいね」
「毒じゃないだろうな? 流石にそんな事は出来ないぞ!」
「違いますよ、これは表の仕事です。身体能力を上げるお薬ですよ。何なら私が飲んでみましょうか?」
薬の一粒を飲み込む、この薬は悪魔の力を増幅する薬。
悪魔の私に効くはずがない。
「分かった。ならこれが終わったら妹に会わせてくれよ、約束だからな!」
「ええ、約束ですよ。さあ貴方もお飲みなさい」
「……ああ」
毛むくじゃらの男は、躊躇いながらも薬を口に含み飲み干した。
飲んだな、これで貴方の力は上がるでしょう。
人の心と引き換えにね。
もし貴方が覚えていたなら、望を叶えてあげましょうか。
もしそれを覚えていたならね。
さて、どれ程耐えれるのか実験だ。
巻き添えを食らわない内に逃げるとしよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その五日後、王国の城の方向から爆音が聞こえてくる。
べノムの家で、私はその音を聞いていた。
何か騒ぎが起きたらしい。
「何? ちょっとべノム、お城が何か変だよ?」
「…………」
ベノムは寝ていて返事がない。
でも夢でうなされているのか、何か様子がおかしい。
「ていっ!」
私はバシッっとベノム叩いてみた。
「痛ぇな! なに殴ってやがるんだ!」
「おっ、気が付いた? 何かお城で騒ぎがあるみたいだよ。行ってみないの?」
「城で? 見に行ってみる……ぐがぁ!」
ベノムは話しの途中で、胸を押さえて苦しみだした。
随分と苦しんでいる。
なんだろう、まさか病気だったり?!
「ねぇ、お医者さんに見て貰いましょうよ」
「だい……じょうぶ……だ……」
黒い顔は、苦しさで歪んでいる。
その顔は大丈夫には見えないよ。
一度誰かに見て貰わないと!
慌てて誰かを呼びに行こうと、私は家の扉を開けたのだけど。
丁度そこに天使の人が現れた。
「どうされました? おや、べノムさん、今日は随分と黒いですね?」
「べノムは何時も黒いわよ!」
「いえ、そういう事ではないんですけどね」
べールさんがべノムの様子を見ている。
体を触ったり目を覗いたりと、色々と調べている。
天使なら、きっと助ける方法を知っているはずだ。
「ふむ、悪魔の気配が強くなっていますね。このままではべノムさんは悪魔化して暴走してしまうでしょう」
悪魔の気配……キメラ化の影響だろうか?
なら天使の力で何とかできないかな。
この国には天使が結構居るし、もしかしたら治せるかもしれない!
「ねぇ、天使の力で何とかならないの?」
「ふむ、この家には天使は二人、更にロッテさんとシェルハユを呼べば四人。それだけ居れば何と
かなるかもしれませんね。私がシェルハユを呼んできますので、それまでグーザフィアさんにお願いして、べノムさんの暴走を抑えて貰ってください」
「分かった、グーザフィアさん呼んでくる!」
私は部屋で寝ているグーザフィアを呼びに行った。
その途中でグレモリアに会い、べノムの苦しむ表情を見られてしまう。
「あれ? ねぇロッテ、べノムどうしたの? 何か苦しそうなんだけど」
「モリアはべノムの事見てて、ちょっと危ないんだって!」
「は? マジ? 分かった、任せて!」
部屋からグーザフィアを呼び寄せると、私達はシェルハユの到着を待った。
べノムは胸を押さえて、ずっと苦しそうに呻いている。
私もべノムの為に何かしてあげたい。
「グーザフィアさんこれ大丈夫ですよね? べノム死なないよね?」
「……分かりませんね。これは私の専門ではないの。ベールさんが戻って来るのを待ちましょうか」
それからいくらかの時が立ち、ベールさんがシェルハユさんを連れて戻って来た。
「シェルハユ急いでください。時間が余りないかもしれません!」
「べノムが如何したのよ? 脚でも挫いたの?」
「何があったか分かりませんが、べノムさんからは悪魔化の気配があります。このまま放っておけば本物の悪魔になるでしょう。まだ今の状態なら何とか封じる事が出来るかもしれません。べノムさんに回復魔法を使い、天使の気を送り込むのです。聖の気が大きく成れば必然的に魔の気は抑えられます。それでは行きますよ!」
状況を察した天使達と、私も魔法の準備に入った。
「ヒーリングライト!」「リザレクト!」「リーザレクション!」「フェニックスヒーリング!」
私達四人の回復魔法が、べノムの体を癒していく。
天使の気が入り、べノムの体の魔の気が相殺されている。
何度も繰り返し、べノムはその顔を緩め、眠りにつた。
こちらは一先(ひとま)ず安心だけど、城の騒ぎが気になった。
彼方も同じ事が起きていたら、城でも騒ぎがおきているのかも……
「ねぇ皆、城に付いて来て欲しいの。あっちでも何か起こっている気がするから!」
「成る程、他にも気配が強くなっていますね。分かりました、では見に行きましょう」
「ベールさんが行くのなら私も行きます」
「まあ暇だから良いわよ」
「私は何も出来そうに無いから、べノムを見ておくわ。こっちの事は安心しておきなさい!」
モリアは残るそうだ。
確かにべノムを一人で置いて行くのは心配だった。
モリアもこの状態で襲ったりはしないだろう。
「モリアお願いね。私達は城に行って来るから!」
私達は家を飛び出し、騒ぎのあった城に向かう。
走るより早いからと、天使の三人が私を掴み飛び上がる。
城に到着すると、その中は混乱していた。
兵士達が武器を持って、慌ただしく走り回っている。
それに誰かが壁でも殴っているのか、巨大な城が揺れている気がした。
私は近くを通った兵士の一人に話しを聞いた。
「ねぇ、何かあったの?」
「タイタンさんが乱心したんだ! 城の中で暴れて手が付けられないんだよ!」
タイタンさんが?
急がないと不味いかもしれない。
直ぐに王様の所に急ごう。
王の間に辿り着くと、部屋の中心では王様が蹲っている。
その周りの兵達は、ただそれを見てオロオロとしていた。
「王様、今助けます」
「俺は……いいから、イモータルの方に行って……くれ!」
「本当にいいのですか? もう間に合わなくなりますよ?」
ベールはメギド様の覚悟を聞いている。
この場を離れたら、助けられないのかもしれない。
「早く行け……」
メギド様は自分の命よりイモータル様を選んだ。
私も迷う訳には行かない。
その一秒で間に合わなくなるのだから。
「行ってきます! 頑張ってください、絶対戻ってきます!」
奥の扉を潜り、寝室にイモータル様が倒れている。
その周りでは、子供達が心配そうに見つめていた。
私達はその場に駆け寄り、急いで治療を開始する。
「大丈夫だから、少し離れていてね」
四人で回復魔法を掛ける。
でもイモータル様の病状は、思ったよりも進行度が速いらしい。
イモータル様は四肢の大半を悪魔の物と変えている。
きっとその影響があるのだろう。
でも心配している子供達の前で諦める訳にはいかない。
もう一回だ!
「ヒーリングライト!」
「ロッテさん、このままでは間に合いません。他の手を打たないと」
天使の力、シェルハユの妹バラキラの魂を移したら……
「天使の力があれば良いんでしょ、ならパラキラさんをイモータル様に移したら駄目なの?」
「それは無理よ、もうロッテさんの魂と同化し始めているから」
シェルハユさんが、そういうのなら無理なんだ。
他に方法が無いのならこのまま続けるしかないよね。
「どうなるか分かりませんが、私の天使の血を与えます。内と外から癒してみましょう」
べールさんが自分の腕を少し斬り、その血をイモータル様に飲ませている。
「皆さん、さあ、もう一度魔法を!」
「ヒーリングライト!」「リザレクト!」「リーザレクション!」「フェニックスヒーリング!」
イモータル様の顔は苦しさで歪んでいる。
血が効いたのか、それとも……
今私に出来る事は、全力で魔法を掛ける事だけだ。
さあもう一度!
「ヒーリングライト!」「リザレクト!」「リーザレクション!」「フェニックスヒーリング!」
「リカバー!」
子供の一人、ルキちゃんが後から魔法を使って来た。
「私だって使えるもん。私も手伝う!」
他の子達もそれぞれに魔法を使い、イモータル様の体を癒す。
子供達には天使の力はない。
でもきっと心は届いているはずだ。
さあもう一回!
子供達も含めて十一人の魔法がイモータル様を癒している。
苦しがっていたイモータル様の顔が、段々穏やかな表情に変わっていた。
たぶん山場を越えたのだろう。
「良かったー、何とかなったよ!」
心配していた子供達が。イモータル様に抱きついている。
メギド様はまだ大丈夫だろうか……
子供達だけ置いて行くのは可愛そうだけど、今は仕方がない。
私達四人は、寝室の扉からメギド様の元へと急いだ。
あの部屋に戻ると、メギド様は人の意識を失ってしまったらしい。
近くに居た心配していた兵士を焼き、強烈な電撃が部屋の中に充満している。
近衛兵だった者達が黒く焦げ付き、墨になっていた。
私達の事はまだ気づかれていない。
でもどうしよう。
メギド様の体から電撃が迸っている。
今私達が触れて治療する事も出来ない。
「ロッテさん、もう間に合いません。例え治療が出来たとしても、治す事は出来ないでしょう!」
メギド様がこちらを振り向き、凶悪な電撃で私達を襲う。
私は思わず寝室に逃げ出すが、メギド様は追って来ない。
欠片の意識がそれを止めているのかも。
だからといって助ける方法は見つからない。
ここでメギド様を倒してしまえば助けられるだろうか。
負けたら子供達が……
「逃げるよ皆、奥に居る子供達が危ない。ここから連れて城から出るよ!」
私は瀕死のイモータル様達を連れ、城の窓から逃げ出した。
本当は怖かったんだ、目の前に見える絶対の死が。
私はまだ死にたくない。
もし命を賭けるのなら、私はあの人の為に死にたい。
「さようならメギド様、何時か殺してあげますからね。何時かきっと……」
王城が巨大な雷に包まれる。
その雷で、殆どの者が死んだだろう。
もし生き延びた者が居るのなら、無事に城から抜け出してください。
私には祈る事しかできませんから……
そして私達は王国を捨てた。
国に残った者はたった三人で、意識が無くても門を忠実に守る鉄の巨人と、あらゆる物を壊す猛り狂った破壊の獣。
そして雷を纏った廃城の王たった三人だけだった。
なにもしなければ、彼等はそこに有り続けるだろう。
十年後でもきっと。
アスタロッテ(べノムの部下) べノムザッパー(王国、探索班)
べーゼユール(天使、居候1) グーザフィア(天使、居候2)
グレモリア (居候3) シェルハユ(天使、マルファーの嫁)
王国の城の隣にある魔道研究所の一室。
毛むくじゃらの怪物と、一人の研究員が話をしている。
「これ以上は止めてくれないか。もう良いだろう帝国は力を失ったのだ。それに俺はもう随分と働いて来た。これ以上何かさせるのなら一度妹にあわせて欲しい!」
「逆らうのなら妹の命はないぞ?」
「逆らうつもりはない。ただ妹と会わせて欲しいだけだ!」
こいつも此処までだな。
妹の方も何処かに消えてしまったし、もう用済みだ。
「分かりました。次の仕事を終えたら考えておきましょう。ではこの薬を今から言う人達に配ってくださいね」
「毒じゃないだろうな? 流石にそんな事は出来ないぞ!」
「違いますよ、これは表の仕事です。身体能力を上げるお薬ですよ。何なら私が飲んでみましょうか?」
薬の一粒を飲み込む、この薬は悪魔の力を増幅する薬。
悪魔の私に効くはずがない。
「分かった。ならこれが終わったら妹に会わせてくれよ、約束だからな!」
「ええ、約束ですよ。さあ貴方もお飲みなさい」
「……ああ」
毛むくじゃらの男は、躊躇いながらも薬を口に含み飲み干した。
飲んだな、これで貴方の力は上がるでしょう。
人の心と引き換えにね。
もし貴方が覚えていたなら、望を叶えてあげましょうか。
もしそれを覚えていたならね。
さて、どれ程耐えれるのか実験だ。
巻き添えを食らわない内に逃げるとしよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その五日後、王国の城の方向から爆音が聞こえてくる。
べノムの家で、私はその音を聞いていた。
何か騒ぎが起きたらしい。
「何? ちょっとべノム、お城が何か変だよ?」
「…………」
ベノムは寝ていて返事がない。
でも夢でうなされているのか、何か様子がおかしい。
「ていっ!」
私はバシッっとベノム叩いてみた。
「痛ぇな! なに殴ってやがるんだ!」
「おっ、気が付いた? 何かお城で騒ぎがあるみたいだよ。行ってみないの?」
「城で? 見に行ってみる……ぐがぁ!」
ベノムは話しの途中で、胸を押さえて苦しみだした。
随分と苦しんでいる。
なんだろう、まさか病気だったり?!
「ねぇ、お医者さんに見て貰いましょうよ」
「だい……じょうぶ……だ……」
黒い顔は、苦しさで歪んでいる。
その顔は大丈夫には見えないよ。
一度誰かに見て貰わないと!
慌てて誰かを呼びに行こうと、私は家の扉を開けたのだけど。
丁度そこに天使の人が現れた。
「どうされました? おや、べノムさん、今日は随分と黒いですね?」
「べノムは何時も黒いわよ!」
「いえ、そういう事ではないんですけどね」
べールさんがべノムの様子を見ている。
体を触ったり目を覗いたりと、色々と調べている。
天使なら、きっと助ける方法を知っているはずだ。
「ふむ、悪魔の気配が強くなっていますね。このままではべノムさんは悪魔化して暴走してしまうでしょう」
悪魔の気配……キメラ化の影響だろうか?
なら天使の力で何とかできないかな。
この国には天使が結構居るし、もしかしたら治せるかもしれない!
「ねぇ、天使の力で何とかならないの?」
「ふむ、この家には天使は二人、更にロッテさんとシェルハユを呼べば四人。それだけ居れば何と
かなるかもしれませんね。私がシェルハユを呼んできますので、それまでグーザフィアさんにお願いして、べノムさんの暴走を抑えて貰ってください」
「分かった、グーザフィアさん呼んでくる!」
私は部屋で寝ているグーザフィアを呼びに行った。
その途中でグレモリアに会い、べノムの苦しむ表情を見られてしまう。
「あれ? ねぇロッテ、べノムどうしたの? 何か苦しそうなんだけど」
「モリアはべノムの事見てて、ちょっと危ないんだって!」
「は? マジ? 分かった、任せて!」
部屋からグーザフィアを呼び寄せると、私達はシェルハユの到着を待った。
べノムは胸を押さえて、ずっと苦しそうに呻いている。
私もべノムの為に何かしてあげたい。
「グーザフィアさんこれ大丈夫ですよね? べノム死なないよね?」
「……分かりませんね。これは私の専門ではないの。ベールさんが戻って来るのを待ちましょうか」
それからいくらかの時が立ち、ベールさんがシェルハユさんを連れて戻って来た。
「シェルハユ急いでください。時間が余りないかもしれません!」
「べノムが如何したのよ? 脚でも挫いたの?」
「何があったか分かりませんが、べノムさんからは悪魔化の気配があります。このまま放っておけば本物の悪魔になるでしょう。まだ今の状態なら何とか封じる事が出来るかもしれません。べノムさんに回復魔法を使い、天使の気を送り込むのです。聖の気が大きく成れば必然的に魔の気は抑えられます。それでは行きますよ!」
状況を察した天使達と、私も魔法の準備に入った。
「ヒーリングライト!」「リザレクト!」「リーザレクション!」「フェニックスヒーリング!」
私達四人の回復魔法が、べノムの体を癒していく。
天使の気が入り、べノムの体の魔の気が相殺されている。
何度も繰り返し、べノムはその顔を緩め、眠りにつた。
こちらは一先(ひとま)ず安心だけど、城の騒ぎが気になった。
彼方も同じ事が起きていたら、城でも騒ぎがおきているのかも……
「ねぇ皆、城に付いて来て欲しいの。あっちでも何か起こっている気がするから!」
「成る程、他にも気配が強くなっていますね。分かりました、では見に行きましょう」
「ベールさんが行くのなら私も行きます」
「まあ暇だから良いわよ」
「私は何も出来そうに無いから、べノムを見ておくわ。こっちの事は安心しておきなさい!」
モリアは残るそうだ。
確かにべノムを一人で置いて行くのは心配だった。
モリアもこの状態で襲ったりはしないだろう。
「モリアお願いね。私達は城に行って来るから!」
私達は家を飛び出し、騒ぎのあった城に向かう。
走るより早いからと、天使の三人が私を掴み飛び上がる。
城に到着すると、その中は混乱していた。
兵士達が武器を持って、慌ただしく走り回っている。
それに誰かが壁でも殴っているのか、巨大な城が揺れている気がした。
私は近くを通った兵士の一人に話しを聞いた。
「ねぇ、何かあったの?」
「タイタンさんが乱心したんだ! 城の中で暴れて手が付けられないんだよ!」
タイタンさんが?
急がないと不味いかもしれない。
直ぐに王様の所に急ごう。
王の間に辿り着くと、部屋の中心では王様が蹲っている。
その周りの兵達は、ただそれを見てオロオロとしていた。
「王様、今助けます」
「俺は……いいから、イモータルの方に行って……くれ!」
「本当にいいのですか? もう間に合わなくなりますよ?」
ベールはメギド様の覚悟を聞いている。
この場を離れたら、助けられないのかもしれない。
「早く行け……」
メギド様は自分の命よりイモータル様を選んだ。
私も迷う訳には行かない。
その一秒で間に合わなくなるのだから。
「行ってきます! 頑張ってください、絶対戻ってきます!」
奥の扉を潜り、寝室にイモータル様が倒れている。
その周りでは、子供達が心配そうに見つめていた。
私達はその場に駆け寄り、急いで治療を開始する。
「大丈夫だから、少し離れていてね」
四人で回復魔法を掛ける。
でもイモータル様の病状は、思ったよりも進行度が速いらしい。
イモータル様は四肢の大半を悪魔の物と変えている。
きっとその影響があるのだろう。
でも心配している子供達の前で諦める訳にはいかない。
もう一回だ!
「ヒーリングライト!」
「ロッテさん、このままでは間に合いません。他の手を打たないと」
天使の力、シェルハユの妹バラキラの魂を移したら……
「天使の力があれば良いんでしょ、ならパラキラさんをイモータル様に移したら駄目なの?」
「それは無理よ、もうロッテさんの魂と同化し始めているから」
シェルハユさんが、そういうのなら無理なんだ。
他に方法が無いのならこのまま続けるしかないよね。
「どうなるか分かりませんが、私の天使の血を与えます。内と外から癒してみましょう」
べールさんが自分の腕を少し斬り、その血をイモータル様に飲ませている。
「皆さん、さあ、もう一度魔法を!」
「ヒーリングライト!」「リザレクト!」「リーザレクション!」「フェニックスヒーリング!」
イモータル様の顔は苦しさで歪んでいる。
血が効いたのか、それとも……
今私に出来る事は、全力で魔法を掛ける事だけだ。
さあもう一度!
「ヒーリングライト!」「リザレクト!」「リーザレクション!」「フェニックスヒーリング!」
「リカバー!」
子供の一人、ルキちゃんが後から魔法を使って来た。
「私だって使えるもん。私も手伝う!」
他の子達もそれぞれに魔法を使い、イモータル様の体を癒す。
子供達には天使の力はない。
でもきっと心は届いているはずだ。
さあもう一回!
子供達も含めて十一人の魔法がイモータル様を癒している。
苦しがっていたイモータル様の顔が、段々穏やかな表情に変わっていた。
たぶん山場を越えたのだろう。
「良かったー、何とかなったよ!」
心配していた子供達が。イモータル様に抱きついている。
メギド様はまだ大丈夫だろうか……
子供達だけ置いて行くのは可愛そうだけど、今は仕方がない。
私達四人は、寝室の扉からメギド様の元へと急いだ。
あの部屋に戻ると、メギド様は人の意識を失ってしまったらしい。
近くに居た心配していた兵士を焼き、強烈な電撃が部屋の中に充満している。
近衛兵だった者達が黒く焦げ付き、墨になっていた。
私達の事はまだ気づかれていない。
でもどうしよう。
メギド様の体から電撃が迸っている。
今私達が触れて治療する事も出来ない。
「ロッテさん、もう間に合いません。例え治療が出来たとしても、治す事は出来ないでしょう!」
メギド様がこちらを振り向き、凶悪な電撃で私達を襲う。
私は思わず寝室に逃げ出すが、メギド様は追って来ない。
欠片の意識がそれを止めているのかも。
だからといって助ける方法は見つからない。
ここでメギド様を倒してしまえば助けられるだろうか。
負けたら子供達が……
「逃げるよ皆、奥に居る子供達が危ない。ここから連れて城から出るよ!」
私は瀕死のイモータル様達を連れ、城の窓から逃げ出した。
本当は怖かったんだ、目の前に見える絶対の死が。
私はまだ死にたくない。
もし命を賭けるのなら、私はあの人の為に死にたい。
「さようならメギド様、何時か殺してあげますからね。何時かきっと……」
王城が巨大な雷に包まれる。
その雷で、殆どの者が死んだだろう。
もし生き延びた者が居るのなら、無事に城から抜け出してください。
私には祈る事しかできませんから……
そして私達は王国を捨てた。
国に残った者はたった三人で、意識が無くても門を忠実に守る鉄の巨人と、あらゆる物を壊す猛り狂った破壊の獣。
そして雷を纏った廃城の王たった三人だけだった。
なにもしなければ、彼等はそこに有り続けるだろう。
十年後でもきっと。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
17
-
-
1978
-
-
15254
-
-
3087
-
-
6
-
-
26950
-
-
20
-
-
1
-
-
35
コメント