一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
15 王道を行く者達20
グリーズの町を出発した五人…………
リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭) ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母) ミトラ(グリーズの町の町長の娘)
バノッサ(恋人を探す女)
魔族に勝つことが出来たリーゼ達は、グリーズの町へと戻って来た。
「おお、あの魔物を倒したのですね、ありがとうございます、そうだ、貴方うちの娘を貰ってやってくれませんか?」
町長はラフィールを見つめ、娘を貰ってくれと迫っていた。
意外とミトラも満更では無い顔をしている。
「え? 俺? いや俺はリーゼちゃんに付いて行くから要らないよ」
「無理しなくても良いのよ、ミトラさん貰ってあげたら?」
「いやいやいや、俺あの人趣味じゃないし、人を生贄にしようとする人はちょっと問題外だよ」
最初に会った印象が悪かった。
それが無かったらラフィールも、もう少し考えていただろう。
「それは残念です。それではこれをお持ちください。少ないですがどうぞ」
町長はギッシリと詰まった袋をリーゼに手渡し、お礼を言って来た。
感触と音からして中身はお金だろう。
金を貰ったら、もうこの町には要はない。
ミトラが残念そうに見ていたが、リーゼ達は町長の家を後にして次の町へと向かった。
グリーズから東に向かい、本来到着するべき場所だった港町アロマローズの町に到着した五人。
この町は海産物が沢山取れ、海の料理人気なのだそうだ。
ここでしか取れないルメルメ貝は絶賛されている。
ルメルメ貝は最近使われる様になった貝なのだが、その貝はプリっとしていて噛み応えも良く、そのジューシーな汁には中毒者も出ているそうだ。
そして何より値段が高い。
貝を食する為には、普通の人が一日を掛けて働いて、それを全て投げ打ち、やっと一皿食える程だ。
そんな名物料理があると知り、リーゼ達も一度食べてみたいと思っていた。
「ねえ皆、せっかく町長さんにお金を貰ったんだから、ルメルメ貝っていうのを食べて行きましょうよ」
「ハガンさん、私も食べてみたいです!」
「そうだな、二度と食えないかもしれないし、その貝とやらを食ってみるとしようか」
「ああ、ルメルメ貝とはどんな貝なんでしょうか? 私は興奮してきましたよ!」
「俺も腹減ってた、もう飯にしましょうよ」
全員の腹の具合も丁度良く、時間的にも食事時だ。
近くにあったルメルメ貝の看板の店に入り、貝料理を即座に注文した。
「お待たせしましたー、ルメルメ貝の姿煮で~す」
ウェイトレスが運んできたその皿には、ルメルメ貝がドーンと乗せられている。
その貝は拳を二つ並べた位の大きさで、ボリュウムもあり、匂いだけでもすでに美味しそうだった。
マッドはその貝を切り分ける事もなくフォークをズブリと刺して口いっぱいに放り込む。
「うんまあああああああああい! 何ですかこれ! もう口の中が天国です! 私はこれの為だったら死んでも良いです!」
一口食っただけでマッドが騒いでいる。
それほどに美味しいのだろう。
「マッドさん少し分けてよ」
「嫌です、これは私が注文したんですから。リーゼさんも自分の分を注文したんでしょ。もう少し待てば来るんですから待っててください! これは全部私が食べます!」
中毒者が出るって話は本当かもしれない。
「どなたかこの男の人を見た事が有る人は居ませんか? お願いします。誰か情報をください頼みます!」
店の外から女の声が聞こえる。
人探しだろうか。
「リーゼちゃん、俺ちょっと見て来るよ。料理が来たら先に食べといて」
「注文も来ないし、暇だから私も行くわ」
ラフィールが女の元へと走って行く。
まだ料理は来ていない、リーゼは暇つぶしで見に行くことにした。
ハガンはそれに追従し、ハガンを追ってリサも店を出て行く。
一人だけ注文の貝が来たマッドは、それを一心不乱に食べていた。
店の外に出ると、女の人が手書きの似顔絵を描いて、チラシを配っていた。
そのチラシの似顔絵は途轍もない精度で、ハッキリと誰か分かるレベルである。
相当にチラシを書き込んでいるのだろう。
チラシを見るが、やはり顔には見覚えが無い。
先ほどこの町に到着したばかりだから当然だろう。
その女の人に、ラフィールが熱心に話を聞いていた。
「ああ皆も来たんだね。この人はバノッサさんで、行方不明の恋人を探しているそうですよ」
「はい、探している人はグリーンという男の人で、前の満月の晩に居なくなってしまったのです。もし手掛かりを知っているなら教えて貰えませんか?」
グリーンという男が失踪したそうだ。
バノッサは手掛かりを探していると言っている。
「手がかりは無いの? 何処かへ出かけたとか、誰かに会うとか」
「港の方に向かったとの情報がありましたが、そこから行方がつかめないのです」
リサの質問に答え、バノッサが今までの情報を教えてくれた。
だが情報はそこまでしか無く、如何にもならずに町で聞き込みをしていたらしい。
「リーゼちゃん、俺ちょっとこの人手伝おうと思ってるんだけど良いかな?」
「ふーんじゃあ此処でお別れなのね、今までありがとう。機会が有ったらまた会いましょう」
「いや待って、居なくならないよ! 三日ぐらい調べたいってだけだよ!」
「まあ良いんじゃないの、やってみれば?」
リーゼ達には特に止める理由はなく、三日をこの町に留まることを了承した。
「そろそろ料理が来てるんじゃないのか? 一度戻るぞ」
店の中に戻ると、テーブルに先ほどまで無かった皿が置いてある。
「おや皆さん遅かったですね、来ないと思って全部食べちゃいましたよ。ははは」
見ると皿には、付け合わせの野菜だけが残されている。
「どうやらマッドさんは消えてしまった様です。仕方ありません、ここはマッドさんに全額負担してもらって別の店に行きましょう」
「リーゼさん、私は此処に居ますよ! そんなお金無いですから、ちょっとハガン殿助けてください!」
「俺は知らん、自分で何とかしろ」
金を持っていなかったマッドが、店員に連れられ奥に連れ去られて行く。
リーゼ達は別の店で貝を注文したが、売り切れで結局食べる事は出来なかった。
貝は食べられなかったが、別の食事を終え、バノッサと一緒に港へと移動する。
偶然にも今日の夜も満月だが、月の形だけで人が居なくなるとは思えない。
それに影響された何かか、月とは全く関係の無い何者かの仕業だろう。
リーゼ達は皆とへ向かい、聞き込みをしている。
「この男の人を知りませんか?」
「さあ、知らねぇなぁ」
港の人に尋ねてみるが、やはり情報は得られなかった。
「バノッサさん、この近くに他に何かないのですか?」
「他って言われても……後は貝の養殖場ぐらいしかありませんよ。あそこは壁があって入れない様になっています。行ってはいないと思いますが」
しかし海は繋がっている、入ろうと思えば入れるだろう。
「だったらそこに呼び出されたのかんじゃないの? 普通に入れて貰ったら楽だろ」
リサの言う通り、そこの職員が呼び出せば入るのも簡単だ。
養殖場を尋ねて一応交渉はしてみたが、入れてもらう事は出来なかった。
「やっぱり調べるには侵入するしかないみたいね」
夜を待ち、養殖場に侵入することになった。
ハガンには海はキツイので、宿で待機中だ。
侵入したのはリーゼ、リサ、ラフィールである。
周りを壁に囲まれた砂浜は、かなり広いが見渡した限り誰も居ない。
「リーゼちゃんこれから如何するの? 中は誰も居ないよ」
「手掛かりを探しましょう、何か落ちてるかも」
「こっちに何か落ちてるぜ。……これは指輪か?」
指輪の裏にはG&Bと書かれていた。
グリーンとバノッサの略の可能性がある。
それならばここに来た可能性が高いのだろう。
「他には何もないようね」
「リーゼちゃんちょっと待って、こっちに誰か来るよ。少し海の中に隠れましょう」
リサの指摘で海に隠れ、壁の近くでそのままジッと待っている。
「こんな所に呼び出しやがって。一体誰だ、出て来やがれ! ……クソが、まだ来てないのかよ。それともただのイタズラか?」
叫んでるのは剣を持った傭兵風の男で、呼び出されたと言っていた。
誰か分からないのなら手紙ででも呼び出されたのだろう。
男は暫く待っていたが、誰も来ないから罵声を吐き帰って行く。
このまま何事も起こらないのかと思ったが、砂浜が突如光り出し、その男はその足を止めた。
「何だこの光は? なッ、脚が動かな……これは何だ! やめろおおおおおおおお?!」
砂浜から人の指の太さのヒモが男に絡みついている。
剣を振っているが、そのヒモは切れずに、男は地中に埋もれて行った。
「助けに行こう!」
ラフィールが真っ先に動き、リーゼ達もそれに続いて男の元へ向かう。
だがこの場所からでは遠く、見る間に男の体がやせ細り、骨と皮だけになっていく。
「ラフィールもう無理よ、まずは原因を探りましょう」
砂浜の光も無くなって、ヒモも砂浜の中に消えていく。
ヒモが有った部分を剣で掘り返すと、そこにあるのは……
店で見たルメルメ貝が埋まっていた。
満月の晩になると、積極的に人を襲う貝など存在しない。
この貝は魔物なのだ。
「そうか……この貝が原因なのか。こいつ等の栄養の為に人を食わせていたと。でも誰が男を呼び出したんだ?」
ラフィールの疑問、誰が呼び出したか……
決まっている。
ここに壁を作り、この貝を商売に使おうとした人物だ。
それ以外考えられない。
もしも男が来なかったなら、別の人物を見つけなければならない。
定期的に貝に人を食わせていたなら、近くに隠れているのだろう。
きっと見ているはずだ。
「出て来なさい! 隠れて居るんでしょ社長さん」
リーゼ達はその人物に会ったことがない。
それでも叫んだのは、自分の事がバレていたのなら出て来るかもしれないと思ったからだ。
ここで逃しても、姿を見られていたら後々狙われるかもしれない。
「おやぁ、皆さんどうしたんですかぁ、こんな所で。ここは私の私有地ですよ。しかしバレてしまっては仕方がない。貴方達には次の餌として、次の満月まで飼ってあげますよぁ」
社長だと思われる人物の後ろには、十人を超える男達が武器を持っていた。
全員同じ服を着ていて、たぶんこの会社の従業員だろう。
「リーゼちゃん、止めないよな?」
「当然よ。そんなに餌が欲しいのなら、貴方達を餌にしてあげる!」
「軽く片付けてあげるよ!」
武装した貝の養殖業者達。
そして魔物や魔族を倒してきた歴戦の戦士、何方が強いのか。
比べるまでも無い問題だ。
例え人が相手であっても、命を狙う者に容赦をする気はない。
リーゼ達三人が突っ込み、練達された技術は相手に容赦なく振るわれた。
戦いはすぐに終わり、そして残りは名前も知らない社長が一人残されている。
「さあ、覚悟してね……」
「待ってくれ! 頼む助けてくれ。もう二度としないから! 絶対だ、約束する!」
名も知らない社長が命乞いをしている。
リーゼはそれを聞くつもりは無い。
「命乞いをするならグリーンさんにする事ね。じゃあさよなら」
「待て! グリーンは俺がやったんじゃない! 俺は町の人間を使うようなヘマはしない!」
社長はやっていないと言っている。
確かに町の人間が居なくなれば騒ぎになるだろう。
証拠はないが、グリーンを殺したのはこの社長ではないのかもしれない。
「貴方この指輪に見覚えはないかしら?」
「知っている! その指輪はグリーンがバノッサに送った指輪だ!」
指輪はここに落ちていた。
この場所にバノッサは入ったことがあるのだ。
バノッサがここの秘密を知っていてグリーンを呼び出したとしたら。
もしもバノッサ自身が指輪を捨てたとしたなら。
犯人はバノッサで、ここの社長に罪を被せようとしていたのだろう。
バノッサがグリーンを殺した証拠もない。
そしてグリーンを殺していなくても、この社長は許しておけない。
リーゼはその社長を海岸に頭だけ出して埋めて来た。
放って置けば死ぬ。
貝に殺されるかもしれない。
しかしリーゼ達は助ける気は無い。
そのまま宿に戻り、一夜を明かした。
リーゼは少々用事を済ませ、今回は全員でバノッサに会いに行った。
そこは先日チラシを配っていた道だ。
「バノッサさん、犯人が分かりました。貝の養殖場の社長だったんです。安心してください。私達が退治しておきましたから」
「本当に! ありがとう、きっとグリーンも報われるわ」
「そうだバノッサさん、こんな指輪を拾ったんですが、これグリーンさんの指輪ですよね? お返ししますね」
「ええ……グリーンの物よ、私がグリーンに送った物よ」
「そうですか」
一つ目の用事は済ませてある。
指輪を買った場所を調べて、それがどちらが買ったか聞いてある。
買いに行ったのはグリーンだった。
だとするならば犯人はバノッサだろう。
「バノッサさん、どうしてグリーンさんを殺したんですか?」
「何を言ってるの! 犯人は社長だったんでしょ!」
「隠さなくてもいいですよ、私達はこの町に留まるつもりはありません。ただ理由が知りたかっただけですから」
辺りに人が居ないことを確認し、バノッサは観念したように話し始めた。
「……あいつは私のことを放って置いて、他の女と浮気してたのよ。それだけじゃないわ。その浮気相手は私の家族だったのよ! しかも一人じゃない! 妹達と母親まで手を出していたの!」
それが本当なら殺したくもなるだろう。
それはもうただの生殖器で、男ですらない。
本当であれば同情してもいいだろう。
二つ目の用事、この町の警備兵を近くに隠れさせ、この会話を聞かせている。
リーゼは理由を聞いただけ、捕まえるのはこの町の警備兵だ。
真実が如何なのかは兵士達が調べ上げるだろう。
リーゼは、海岸の事も言ってあった。
社長も運が良かったなら貝に食われてないだろう。
「話は聞かせて貰いました。貴方にはこれから取り調べを受けて貰います。おい連行しろ」
「はッ!」
「なッ、騙したの! この卑怯者!」
バノッサの本省が出て来た。
先ほどの理由も嘘かもしれない。
「離せ! このボケ共が! やめろ、どこ触ってやがるクソ!」
「じゃ明日次の町に進みましょうか」
バノッサがグリーンを探さなければ、この事件は解決しなかった。
わざわざ社長に罪を着せたってことは何か恨みでもあったのかもしれないが、その真相はわからない。
関係もないし知りたくもないリーゼ達は、次の町に進んで行った。
リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭) ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母) ミトラ(グリーズの町の町長の娘)
バノッサ(恋人を探す女)
魔族に勝つことが出来たリーゼ達は、グリーズの町へと戻って来た。
「おお、あの魔物を倒したのですね、ありがとうございます、そうだ、貴方うちの娘を貰ってやってくれませんか?」
町長はラフィールを見つめ、娘を貰ってくれと迫っていた。
意外とミトラも満更では無い顔をしている。
「え? 俺? いや俺はリーゼちゃんに付いて行くから要らないよ」
「無理しなくても良いのよ、ミトラさん貰ってあげたら?」
「いやいやいや、俺あの人趣味じゃないし、人を生贄にしようとする人はちょっと問題外だよ」
最初に会った印象が悪かった。
それが無かったらラフィールも、もう少し考えていただろう。
「それは残念です。それではこれをお持ちください。少ないですがどうぞ」
町長はギッシリと詰まった袋をリーゼに手渡し、お礼を言って来た。
感触と音からして中身はお金だろう。
金を貰ったら、もうこの町には要はない。
ミトラが残念そうに見ていたが、リーゼ達は町長の家を後にして次の町へと向かった。
グリーズから東に向かい、本来到着するべき場所だった港町アロマローズの町に到着した五人。
この町は海産物が沢山取れ、海の料理人気なのだそうだ。
ここでしか取れないルメルメ貝は絶賛されている。
ルメルメ貝は最近使われる様になった貝なのだが、その貝はプリっとしていて噛み応えも良く、そのジューシーな汁には中毒者も出ているそうだ。
そして何より値段が高い。
貝を食する為には、普通の人が一日を掛けて働いて、それを全て投げ打ち、やっと一皿食える程だ。
そんな名物料理があると知り、リーゼ達も一度食べてみたいと思っていた。
「ねえ皆、せっかく町長さんにお金を貰ったんだから、ルメルメ貝っていうのを食べて行きましょうよ」
「ハガンさん、私も食べてみたいです!」
「そうだな、二度と食えないかもしれないし、その貝とやらを食ってみるとしようか」
「ああ、ルメルメ貝とはどんな貝なんでしょうか? 私は興奮してきましたよ!」
「俺も腹減ってた、もう飯にしましょうよ」
全員の腹の具合も丁度良く、時間的にも食事時だ。
近くにあったルメルメ貝の看板の店に入り、貝料理を即座に注文した。
「お待たせしましたー、ルメルメ貝の姿煮で~す」
ウェイトレスが運んできたその皿には、ルメルメ貝がドーンと乗せられている。
その貝は拳を二つ並べた位の大きさで、ボリュウムもあり、匂いだけでもすでに美味しそうだった。
マッドはその貝を切り分ける事もなくフォークをズブリと刺して口いっぱいに放り込む。
「うんまあああああああああい! 何ですかこれ! もう口の中が天国です! 私はこれの為だったら死んでも良いです!」
一口食っただけでマッドが騒いでいる。
それほどに美味しいのだろう。
「マッドさん少し分けてよ」
「嫌です、これは私が注文したんですから。リーゼさんも自分の分を注文したんでしょ。もう少し待てば来るんですから待っててください! これは全部私が食べます!」
中毒者が出るって話は本当かもしれない。
「どなたかこの男の人を見た事が有る人は居ませんか? お願いします。誰か情報をください頼みます!」
店の外から女の声が聞こえる。
人探しだろうか。
「リーゼちゃん、俺ちょっと見て来るよ。料理が来たら先に食べといて」
「注文も来ないし、暇だから私も行くわ」
ラフィールが女の元へと走って行く。
まだ料理は来ていない、リーゼは暇つぶしで見に行くことにした。
ハガンはそれに追従し、ハガンを追ってリサも店を出て行く。
一人だけ注文の貝が来たマッドは、それを一心不乱に食べていた。
店の外に出ると、女の人が手書きの似顔絵を描いて、チラシを配っていた。
そのチラシの似顔絵は途轍もない精度で、ハッキリと誰か分かるレベルである。
相当にチラシを書き込んでいるのだろう。
チラシを見るが、やはり顔には見覚えが無い。
先ほどこの町に到着したばかりだから当然だろう。
その女の人に、ラフィールが熱心に話を聞いていた。
「ああ皆も来たんだね。この人はバノッサさんで、行方不明の恋人を探しているそうですよ」
「はい、探している人はグリーンという男の人で、前の満月の晩に居なくなってしまったのです。もし手掛かりを知っているなら教えて貰えませんか?」
グリーンという男が失踪したそうだ。
バノッサは手掛かりを探していると言っている。
「手がかりは無いの? 何処かへ出かけたとか、誰かに会うとか」
「港の方に向かったとの情報がありましたが、そこから行方がつかめないのです」
リサの質問に答え、バノッサが今までの情報を教えてくれた。
だが情報はそこまでしか無く、如何にもならずに町で聞き込みをしていたらしい。
「リーゼちゃん、俺ちょっとこの人手伝おうと思ってるんだけど良いかな?」
「ふーんじゃあ此処でお別れなのね、今までありがとう。機会が有ったらまた会いましょう」
「いや待って、居なくならないよ! 三日ぐらい調べたいってだけだよ!」
「まあ良いんじゃないの、やってみれば?」
リーゼ達には特に止める理由はなく、三日をこの町に留まることを了承した。
「そろそろ料理が来てるんじゃないのか? 一度戻るぞ」
店の中に戻ると、テーブルに先ほどまで無かった皿が置いてある。
「おや皆さん遅かったですね、来ないと思って全部食べちゃいましたよ。ははは」
見ると皿には、付け合わせの野菜だけが残されている。
「どうやらマッドさんは消えてしまった様です。仕方ありません、ここはマッドさんに全額負担してもらって別の店に行きましょう」
「リーゼさん、私は此処に居ますよ! そんなお金無いですから、ちょっとハガン殿助けてください!」
「俺は知らん、自分で何とかしろ」
金を持っていなかったマッドが、店員に連れられ奥に連れ去られて行く。
リーゼ達は別の店で貝を注文したが、売り切れで結局食べる事は出来なかった。
貝は食べられなかったが、別の食事を終え、バノッサと一緒に港へと移動する。
偶然にも今日の夜も満月だが、月の形だけで人が居なくなるとは思えない。
それに影響された何かか、月とは全く関係の無い何者かの仕業だろう。
リーゼ達は皆とへ向かい、聞き込みをしている。
「この男の人を知りませんか?」
「さあ、知らねぇなぁ」
港の人に尋ねてみるが、やはり情報は得られなかった。
「バノッサさん、この近くに他に何かないのですか?」
「他って言われても……後は貝の養殖場ぐらいしかありませんよ。あそこは壁があって入れない様になっています。行ってはいないと思いますが」
しかし海は繋がっている、入ろうと思えば入れるだろう。
「だったらそこに呼び出されたのかんじゃないの? 普通に入れて貰ったら楽だろ」
リサの言う通り、そこの職員が呼び出せば入るのも簡単だ。
養殖場を尋ねて一応交渉はしてみたが、入れてもらう事は出来なかった。
「やっぱり調べるには侵入するしかないみたいね」
夜を待ち、養殖場に侵入することになった。
ハガンには海はキツイので、宿で待機中だ。
侵入したのはリーゼ、リサ、ラフィールである。
周りを壁に囲まれた砂浜は、かなり広いが見渡した限り誰も居ない。
「リーゼちゃんこれから如何するの? 中は誰も居ないよ」
「手掛かりを探しましょう、何か落ちてるかも」
「こっちに何か落ちてるぜ。……これは指輪か?」
指輪の裏にはG&Bと書かれていた。
グリーンとバノッサの略の可能性がある。
それならばここに来た可能性が高いのだろう。
「他には何もないようね」
「リーゼちゃんちょっと待って、こっちに誰か来るよ。少し海の中に隠れましょう」
リサの指摘で海に隠れ、壁の近くでそのままジッと待っている。
「こんな所に呼び出しやがって。一体誰だ、出て来やがれ! ……クソが、まだ来てないのかよ。それともただのイタズラか?」
叫んでるのは剣を持った傭兵風の男で、呼び出されたと言っていた。
誰か分からないのなら手紙ででも呼び出されたのだろう。
男は暫く待っていたが、誰も来ないから罵声を吐き帰って行く。
このまま何事も起こらないのかと思ったが、砂浜が突如光り出し、その男はその足を止めた。
「何だこの光は? なッ、脚が動かな……これは何だ! やめろおおおおおおおお?!」
砂浜から人の指の太さのヒモが男に絡みついている。
剣を振っているが、そのヒモは切れずに、男は地中に埋もれて行った。
「助けに行こう!」
ラフィールが真っ先に動き、リーゼ達もそれに続いて男の元へ向かう。
だがこの場所からでは遠く、見る間に男の体がやせ細り、骨と皮だけになっていく。
「ラフィールもう無理よ、まずは原因を探りましょう」
砂浜の光も無くなって、ヒモも砂浜の中に消えていく。
ヒモが有った部分を剣で掘り返すと、そこにあるのは……
店で見たルメルメ貝が埋まっていた。
満月の晩になると、積極的に人を襲う貝など存在しない。
この貝は魔物なのだ。
「そうか……この貝が原因なのか。こいつ等の栄養の為に人を食わせていたと。でも誰が男を呼び出したんだ?」
ラフィールの疑問、誰が呼び出したか……
決まっている。
ここに壁を作り、この貝を商売に使おうとした人物だ。
それ以外考えられない。
もしも男が来なかったなら、別の人物を見つけなければならない。
定期的に貝に人を食わせていたなら、近くに隠れているのだろう。
きっと見ているはずだ。
「出て来なさい! 隠れて居るんでしょ社長さん」
リーゼ達はその人物に会ったことがない。
それでも叫んだのは、自分の事がバレていたのなら出て来るかもしれないと思ったからだ。
ここで逃しても、姿を見られていたら後々狙われるかもしれない。
「おやぁ、皆さんどうしたんですかぁ、こんな所で。ここは私の私有地ですよ。しかしバレてしまっては仕方がない。貴方達には次の餌として、次の満月まで飼ってあげますよぁ」
社長だと思われる人物の後ろには、十人を超える男達が武器を持っていた。
全員同じ服を着ていて、たぶんこの会社の従業員だろう。
「リーゼちゃん、止めないよな?」
「当然よ。そんなに餌が欲しいのなら、貴方達を餌にしてあげる!」
「軽く片付けてあげるよ!」
武装した貝の養殖業者達。
そして魔物や魔族を倒してきた歴戦の戦士、何方が強いのか。
比べるまでも無い問題だ。
例え人が相手であっても、命を狙う者に容赦をする気はない。
リーゼ達三人が突っ込み、練達された技術は相手に容赦なく振るわれた。
戦いはすぐに終わり、そして残りは名前も知らない社長が一人残されている。
「さあ、覚悟してね……」
「待ってくれ! 頼む助けてくれ。もう二度としないから! 絶対だ、約束する!」
名も知らない社長が命乞いをしている。
リーゼはそれを聞くつもりは無い。
「命乞いをするならグリーンさんにする事ね。じゃあさよなら」
「待て! グリーンは俺がやったんじゃない! 俺は町の人間を使うようなヘマはしない!」
社長はやっていないと言っている。
確かに町の人間が居なくなれば騒ぎになるだろう。
証拠はないが、グリーンを殺したのはこの社長ではないのかもしれない。
「貴方この指輪に見覚えはないかしら?」
「知っている! その指輪はグリーンがバノッサに送った指輪だ!」
指輪はここに落ちていた。
この場所にバノッサは入ったことがあるのだ。
バノッサがここの秘密を知っていてグリーンを呼び出したとしたら。
もしもバノッサ自身が指輪を捨てたとしたなら。
犯人はバノッサで、ここの社長に罪を被せようとしていたのだろう。
バノッサがグリーンを殺した証拠もない。
そしてグリーンを殺していなくても、この社長は許しておけない。
リーゼはその社長を海岸に頭だけ出して埋めて来た。
放って置けば死ぬ。
貝に殺されるかもしれない。
しかしリーゼ達は助ける気は無い。
そのまま宿に戻り、一夜を明かした。
リーゼは少々用事を済ませ、今回は全員でバノッサに会いに行った。
そこは先日チラシを配っていた道だ。
「バノッサさん、犯人が分かりました。貝の養殖場の社長だったんです。安心してください。私達が退治しておきましたから」
「本当に! ありがとう、きっとグリーンも報われるわ」
「そうだバノッサさん、こんな指輪を拾ったんですが、これグリーンさんの指輪ですよね? お返ししますね」
「ええ……グリーンの物よ、私がグリーンに送った物よ」
「そうですか」
一つ目の用事は済ませてある。
指輪を買った場所を調べて、それがどちらが買ったか聞いてある。
買いに行ったのはグリーンだった。
だとするならば犯人はバノッサだろう。
「バノッサさん、どうしてグリーンさんを殺したんですか?」
「何を言ってるの! 犯人は社長だったんでしょ!」
「隠さなくてもいいですよ、私達はこの町に留まるつもりはありません。ただ理由が知りたかっただけですから」
辺りに人が居ないことを確認し、バノッサは観念したように話し始めた。
「……あいつは私のことを放って置いて、他の女と浮気してたのよ。それだけじゃないわ。その浮気相手は私の家族だったのよ! しかも一人じゃない! 妹達と母親まで手を出していたの!」
それが本当なら殺したくもなるだろう。
それはもうただの生殖器で、男ですらない。
本当であれば同情してもいいだろう。
二つ目の用事、この町の警備兵を近くに隠れさせ、この会話を聞かせている。
リーゼは理由を聞いただけ、捕まえるのはこの町の警備兵だ。
真実が如何なのかは兵士達が調べ上げるだろう。
リーゼは、海岸の事も言ってあった。
社長も運が良かったなら貝に食われてないだろう。
「話は聞かせて貰いました。貴方にはこれから取り調べを受けて貰います。おい連行しろ」
「はッ!」
「なッ、騙したの! この卑怯者!」
バノッサの本省が出て来た。
先ほどの理由も嘘かもしれない。
「離せ! このボケ共が! やめろ、どこ触ってやがるクソ!」
「じゃ明日次の町に進みましょうか」
バノッサがグリーンを探さなければ、この事件は解決しなかった。
わざわざ社長に罪を着せたってことは何か恨みでもあったのかもしれないが、その真相はわからない。
関係もないし知りたくもないリーゼ達は、次の町に進んで行った。
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