一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

9 苛烈なる天使の告白

シェルハユと知り合いだった天使べーゼユール…………


べノムザッパー(王国、探索班)   アスタロッテ(べノムの部下)
シェルハユ(石になっていた天使)  グレモリア(べノムの家の居候)
べーゼユール(封印を見に来た天使) メギド(王国、国王)


「死んで償ええええええッ! エンジェリックッナッッックルゥゥゥゥ!」

 シェルハユの拳がべーゼユールに炸裂した。
 このシェルハユを先輩とか言っていたが、仲が悪いんだろうか?

「ふぐおぉ、いきなり何をするんですか先輩」

「貴方が石化の薬を私の恋人に渡したんでしょうが! おかげで私達は何百年も寂しく石になっていたのよ! 妹なんて壊されてしまったわ!」

「そうか、先輩達が封印されていた場所だったのか。そう言えばそんな事もあったなぁ」

 なる程、シェルハユが石にされていたのはこいつの所為か。
 恨まれて当然だな。

「でも先輩達も悪いんですよ、人と結婚するとか言って天界を追放されちゃったじゃないですか。それだけならまだ問題は無かったんですがね、人間を何人も狂わせたら駄目じゃないですか。その所為で封印指定されちゃったんですからね」

 シェルハユの自業自得の部分も大いにある。
 そんな事をしていては封印されても仕方が無いだろう。
 しかしマルファーが納得してるのならまあ良いのか?
 マルファーの言い分を聞いてみないと分からないが、きっとシェルハユを庇うだろうな。

「私が貴方を振った腹いせでしょ。貴方が上司に告げ口したのは知っているんだからね!」

「そうだった。貴方を封印出来たおかげで私は出世する事が出来たんでした。どうもありがとうございます。でも振られた腹いせじゃあないですよ、もう恋人も出来ましたし、貴方の事なんて綺麗さっぱり忘れていました。どうでしょう、ここは見逃してあげますので、お互い無かった事にしましょう」

「お前はここで死ねえええ!」

「シェルハユ待て! 見逃して貰えばもう天使は来ない、この話は乗った方が良いぜ」

 天使の軍団と戦うなんて冗談じゃない。
 例え勝てたとしても王国は瀕死のダメージを受けてしまう。

「それにそのおかげでマルファーと出会えたんだろ。よかったじゃないか」

「そうよね、私にはマルファーがいるもの。ベール君、今回だけは見逃してあげるわ。もう二度と顔を見せないで!」

「お互い納得出来て良かった。上司には何か適当に言っておきますので、まあ安心しておいてください。後そこのえ~と、黒い人。貴方にも悪い事をしました、もう会う事は無いでしょう、それでは失礼します」

 そう言うとべーゼユールの周りに光が集まり、その光が天に伸びて行った。

「おや? もう一度」

 べーゼユールの周りに光が集まりその光が天に伸びて行った。

「……翼が燃えて飛べないではないですか。仕方ありません、翼が治るまでこの家に置いてもらいます。それじゃあよろしく」

「二度と顔を見せるなっていったでしょ! べノムさん、貴方この人を連れて帰って!」

「俺が? まあいいけどよぉ、あんたが帰って来なかったら天界は騒ぐんじゃないのか? また別の奴が来たら大変なんだが」

「ああ、心配は要りません。天使の寿命は結構長いのですよ。十年程度帰って来なくても気にもあまり気にしません。最悪シェルハユさんみたいに忘れ去られてしまいますよ」

 十年は安心出来るって事か?
 こいつが早く帰って報告したら何も問題は無いんだろ。
 魔法医療で翼を直したら即帰って貰おうか。
 いや、そういえばロッテも魔法が使えたな。

「おいロッテ、魔法で治してやってくれ」

「あいよー、ちょっと動かないでね」

 ロッテがべーゼユールの翼に手を当て、回復魔法を使っている。
 あっと言う間に翼が生え代わって、もう燃え落ちた形跡はない。
 もうこれで帰れるはずだ。

「ありがとうございますロッテさん、どうです私と一緒に天界に行きませんか? きっと楽しく暮らせますよ」

 こいつ、ロッテを気に入ったのか。
 しかしそんな事はさせてやるものか。

「勝手に俺の部下を連れて行こうとするなよ! それにお前恋人がいるって言ってたじゃねぇか、他をあたれよ」

「え~部下なのぉ、そこは恋人とか言って欲しいんだけど」

「あ~うるさい、兎に角もう帰れるだろ。早く報告しに行けよ」

「確かに天界には私の恋人が居ますが……まあ良いでしょう。それでは皆様また会いましょう」

 べーゼユールの周りに光が集まりその光が天に伸びた。
 べーゼがその光の道を飛び上がると、今度こそ天に消えて行った。
 正直もう来てほしくない。

 兎に角これで解決だと、俺はメギド様に報告しに城へと向かった。
 もうこれで天使が攻めて来る事はないだろう。

「もう天使は攻めて来ないのだな? これで一件落着でいいのか?」

「はい、納得されて帰られました。もうこちらに干渉しては来ないでしょう」

 五百年も此方には来なかったのだ、もう生きている間には会う事も無いだろう。

「それでマルファーは如何しているんだ。そのままあの家で暮らすのか?」

「メギド様、マルファーはあの家でバカップルをやっています」

 ロッテ、もう少し言い方ってものがあるだろうが。

「少し寂しくなるが仕方が無いな。二人を応援してやろうじゃないか。じゃあ俺もモーたんとイチャイチャして来る!」

「メギド様もバカップルですよねー」

「羨ましいならちゃんと相手を作る事だ。隣の奴にでも頼めばいい」

 メギド様はこの場を去って、イモータル様の所に行った。
 王様に突っ込み入れるとはロッテは中々度胸があるじゃないか。
 だが俺はバカップルになんかはならないからな。

「ねぇべノム」

 言いたい事は何となく分かる、バカップルになりたいとか言って来るんだろう。
 しかし俺はそんなキャラじゃない。

「却下だ」

「まだ何も言ってないよ」

「うるせぇな、もう家に帰るぞ」

「じゃあ帰ろうか」

 自宅に到着すると何か騒がしい。
 嫌な予感がして来ている。
 どうもこの流れは不味い。

 何が不味いって、聞いた事のある声が聞こえて来るからだ。
 しかもごく最近、二時間前に帰った男の声。
 もしかしなくてもべーゼユールの奴だろう。

「良しロッテ、俺達は今から出かける事にしよう」

「デートするの? じゃあ準備するから待っててね」

「おい待て!」

 引き止める間も無く家の中に入って行っってしまったロッテ。

「家に入ったら意味ねぇだろうが!」

 もう家に入るしかない。
 しかし何で俺の家に居やがるんだこの男。

「お帰りべノム、早かったわね。実はね町で変な人に会っちゃって自分が天使とか言ってるのよ。話してみたらロッテの知り合いだって言ってたから、面白かったから家に呼んじゃった」

 グレモリアがこいつを呼んだらしい。
 面白かったで俺の家に変な奴を呼ぶなと言いたい。

「おや皆さんお帰りなさい。実はですね先ほど帰って報告をしたんですがね。この前ずる休みをした事がバレてしまって、それでお前は地上を見張っていろと言われまして」

 地上の見張りって事は、此奴はこれからも此処に来るのかよ。

「地上に降りたは良いですが住む所も無く困ってしまったんです。そこで先ほど戦ったお二人の家に住まわせてもらおうと思いまして、迷っていた所をこのグレモリアさんが助けてくれたのですよ」

「シェルハユの所に行けよ! 知り合いなんだろ!」

「実は行ったのですよ。窓から覗いたら何やらお取込み中だったので、仕方なくこちらを訪ねたのです。ですからここは諦めて私を住み込ませてください」

「野宿でもしていろボケエエエエエエエエエ!」

 結局こいつはこの場を動く事が無く、無理やり住み込みやがった。
 くそう、ドンドン人が増えて行きやがる。
 来月から家賃でも徴収するかおい。

「そういえば恋人が居るって言ってたが、まさか来ねぇよなぁ?」

 そんな事を言っていた所為か一週間後にそれは現れた。

 金髪の長い髪を垂らし、何処か虚ろな目をした女の天使が。

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