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秀典

5 天使が舞い降りる町

夢の中の天使シェルハユを石像から戻す為に研究所に石像を預けた…………


マルファー(王国、近衛兵長)  シェルハユ(石になっていた天使)


 夜が明け次の朝に、マルファーは王城の執務室で、王国の王であるメギド様に面会していた。

「子供達の夢に天使を呼びたいって? 危険は無いんだろうな? 何かあったら許さんぞ」

「それは大丈夫です。私も何度か話していますが、特に危険だとは思えません。きっと喜ばれるんじゃないでしょうか」

「わかった、お前を信じる。それと今度俺の元へもその天使を呼んでくれ。一度会ってみたいのだ」

 許可を貰えたのはいいのだけど、あの天使は少し怒りっぽいですから大丈夫でしょうか?
 夢の中だとはいえ、既婚者が一人で女と会うってのはちょっと、イモータル様が怒りそうですが。

「メギド様、夢の中だといって女の人と浮気なんてしては駄目ですよ? イモータル様に言いつけますからね?」

「しないから! 俺はモーちゃん一筋なの!」

「夢の中で会わなくても、もう四日も待てば生身の状態で会えると思いますが」

「念の為だ。危険だと判断したなら天使の体を復活させる訳にはいかない」

 確かに。
 危険だとしたら わざわざ復活させる必要はありませんからね。

「しかし、それでは夢を渡る天使の存在は消えませんよ?」

「なら体に精神を戻してからという事になるな」

 あまり悪い人にはみえませんけど、メギド様の判断に従いましょう。
 それからまた日が暮れて、そして夜がやって来た。
 何時も何時も現れる天使も、やっぱり今日も現れている。

「本当に今度こそ大丈夫なんでしょうね! もういい加減にして欲しいのだけど!」

「ええ、今度は子供達ですから酷い事にはならないでしょう。それからこの国の王のメギド様が、貴女に一度会いたいのだとか。伝えておきましたから、それじゃあお願いしますね。ああそれと、子供達にもしもの事があったなら、貴女の体は諦めてもらいますからね」

 忠告はしておきます。
 何かあったら子供達を溺愛しているメギド様に、私も殺されてしまうかもしれませんからね。

「子供に酷い事なんてする分けがないでしょう。私は天使なのよ! むしろ遊んであげるから任せておきなさい!」 

 そしてこの天使は夢を渡って行ってしまった。
 像を運んで六日目の夜。

「また来たわよ! あの子達はとても可愛いわ。あんな子を見つけて来るなんて貴方やるじゃない
の。それにあの王様、中々話せる相手だったわ。迷惑を掛けなければ、ずっと居て良いって。じゃあ私はもう行くから、また会いましょうね」

 どうやらもうメギド様には会ってくれたらしい。
 気に入られた様で安心しました。
 あの天使の体を戻すには、後もう後一日ぐらいですかね。
 七日目の夜。

「ちょっと貴方、まだ体は出来ないの! 早くして欲しいのだけど。もう我慢できないわ!」

「どうしたんですか? 昨日は機嫌が良かったじゃありませんか」

「子供達は可愛いの! でも永久に遊びに付き合わされてもう疲れてしまったわ!」

 この天使は夢の中でも疲れるのでしょうか?
 しかしこの夜を超えればもう目の前なのです。
 もう少し我慢してもらいましょうか。

「解呪はもう目前ですよ? 今日くらい我慢してくださいよ。子供達も可愛いって言ってたじゃないですか」

「嫌よッ、子供七人なんてもう無理よ! 私の体がもたないわ!」

 わがままな天使だ。
 今日ぐらい大人しくしていてほしい。

「だから今日は、貴方の夢の中に居る事にしたわ!」

「私一人では夢に囚われるのではないですか? そう言っていたじゃないですか」

「今日一日なんでしょ? 何とかなるわよ。体に戻れるなら夢の中に居る必要無いしね」

 正直この天使は私の好みのなのだが、髪の毛がその……魅力が半減しています。
 まあ私の所為なんですけどね。

「なんか考えてるみたいだけど、夢の中で考えたって全部丸聞こえよ」

 ああなる程、まあ夢ですからね。私は貴方の唇がとても可愛らしいなって思ってたんです。
 その目も私は好きですよ。
 その青色の瞳に吸い込まれてしまいそうです。
 髪の毛が戻ったなら私は恋に落ちてしまいそうですよ。

「ほ、誉めたって許さないんだからね! でもどうしてもって言うのなら……」

 どうやら本当だったようだ。
 試してみて正解でした。

「貴方私を試したのね、酷い男だわッ!」

「試したのは本当ですが嘘は言っていませんよ。教会に現れた時から、私は貴方が気になっていました」

「く、口説いたって私はなびかないんだから! す、少しだけならデートしてあげてもいいわよ」

 この人(天使)は何というか、チョロイ。
 確かに私の好みですが、ここまでチョロイと罪悪感が生まれそうです。
 ああ、もしかしたらこの言動で男共はその気になってしまったんじゃないでしょうか。

「私はチョロくない! 貴方、もう許さないわ! ここでお仕置きしてあげる!」

 う~ん、考えを読まれるのはちょっと面倒臭いです。

 夢の中だからと彼女が巨大なハンマーをどこからか出して、私に殴りかかってくる。
 この夢の中で倒れてしまったら どうなるか分からない。
 兎に角避けときましょう。

「大丈夫! 三日寝込むだけだから!」

「体はいいのですか? 私が倒れたら、危険な存在として処分されてしまいますよ? 地下にあったもう一体の天使の像、あれも仲間だったのでしょう? あんな風になりたいのですか?」

「私を脅す気なの! 天罰を食らいなさい!」

 巨大なハンマーを軽々と振る力は凄まじいですね。
 しかしそれが出来るからといって、強いかどうかは別です。

「私が弱いと思うのなら掛かっていらっしゃい!」

 さて如何しよう。
 シェルハユさんはハンマーを振りまくっている。
 夢の中だから疲れないのだろうか。

「その通りよ!」

 さっき疲れるって言ってたのは嘘だったらしい。
 何度もハンマーを振り上げるのその姿はとてもセクシーだ、抱き寄せてキスしたい。
 出来る事なら貴方と共に生きて行きたい。
 私は貴方を幸せにします。
 私と結婚してください。

「あうぅ……本当に?」

「勿論ですよ、初めて見た時から貴方が気になっていたと言ったじゃないですか」

「じゃあ私の体が戻ったなら真っ先にキスしに来てね」

「ええ、約束です」

「忘れたら許さないんだからね!」

 シェルハユさんは恥ずかしそうに何処かへ消えて行った。
 やはりチョロイ。
 しかし嘘を言った覚えもない。
 少しだけなら結婚出来るならしたいなぁと思っていたし、このまま付き合って結婚まで行っても別に構わない。

 しかし彼女の性格だと、他の誰かが好きだと言ったらそのまま付いて行くんじゃないだろうか?
 そんなのだと大変そうだ。
 ……そして約束の日を迎えた。

 研究所に向かう前に、少し寄る所がある。
 一つ買い物をしないといけない。
 私は、ある店に寄り、買い物を済ませた。
 思っていたより高く付いたが、この儀式には必要な物だ。

 急ぎ研究所に向かい、息を切らしながら到着した。
 中は天使の復活を見ようと、大勢の人が集まっている。
 中にはメギド様やべノム達も混ざっていたりしますね。

 髪型を笑っている者もいた。
 シェルハユさんの体は、液体の中に浸されていて石化している部分もないようだ。
 こんな中でキスしろと?
 拷問ですかこれは。

 そうこう考えている内に、天使の体が液体から引き揚げられ、私の目の前に置かれてしまう。
 まだ目を覚ましてはいない。
 それともまさか口づけを待っているのか……?
 来る時に購入した物を袋から取り出し、私は天使の前に出た。

 また怒って殴りかかって来ても困るし、覚悟を決めよう。
 シェルハユに買って来たカツラを被せて、私はその口に口付けをした。
 私はどうせなら綺麗な方が良いと思ってカツラを買って来たのだ。

「うおおおおお! マルファーがやりやがった!」

「やるじゃないのマルファー!」

 歓声が上がっている。
 見世物か私は。

 口づけを終えるとシェルハユが目を覚ました。
 やはりカツラがあると可愛らしい。

「お早うマルファー、これからよろしくね!」

「ええ、よろしくお願いします」

「私を目覚めさせたからには、これから天使が攻めて来るかもしれないけど、愛の力で撃退しましょうね!」

「はっ?」

 もしかしなくても駄目なやつですよね……

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