一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

4 王道を行く者達17

サタニアの襲撃に武器を失うが、ミカゲの助けにより武器の強化が終了した…………


リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)    ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)  サタニア(?)
バル・ラム(?)


 リーゼ達はミカゲに別れを告げて、バザーの町を後にした。
 鉱山から先は山脈となっていて、歩いて越えるのは難しい。
 まず拠点となった町にまで戻って行く。
 町では部屋を用意されて、リーゼ達は英雄を迎える様に歓迎されてしまった。
 リーゼが泊っている宿の一室は、リーゼとハガンの二人が泊まっている。

「リーゼ、少し話がある、大事な話だ」

 ハガンの大事な話とは何だろうかとリーゼは首を傾げた。
 旅を辞めさせようと思っているのだろうか。
 そんな事を聞く気は無く、リーゼは適当にあしらうことにした。

「私は旅を辞めるつもりはないの、絶対諦めないんだからね」

「その話じゃない。リーンが何で襲われたかという話だ」

 その話はリーゼが聞きたい話だった。
 しかしその話を本当に聞いても良いのだろうかとリーゼを考えた。
 ハガンが知っているとなると、リーンが殺されたのはハガンとリーン二人の所為なのだろう。

 今までリーゼは、あの魔族の言葉を考えない様にしてきた。
 王国と帝国との戦争が、昔あった事は知っているが、それに二人が関わっていると思いたくはなかった。

 あの女の魔族が言うには、二人が戦争を起こしたと言っていた。
 もし本当にそうだとしたなら、リーゼ達の方が仇で復讐される側だったのだろう。

「今はそんなこと如何でも良いの、戦う事だけ考えないと!」

 嘘だった。
 リーゼは本当は知りたがっている。
 しかし聞いてしまったら、自分が戦う理由がグラついてしまう気がしている。

「リーゼ聞くんだ、俺達は帝国で、してはいけない事をしたんだ」

「絶対聞かないッ そんな話をするのなら私は一人で旅をするわ!」

 リーゼが剣を持って部屋から飛び出して行った。

「リーゼ待つんだ!」

「ハガン殿、話は聞かせてもらいました。良く分かりませんが、勇者様を追うのは私の役目! 無事に連れ戻して見せましょう!」

 マッドが張り切ってリーゼを追いかける。
 ハガンはそれを見守るしかなかった。

「私は戦うんだ、あの魔族にも負けない」

 洞窟があった崖の上。
 リーゼは町の外には出ていなかった。
 本能では飛び出して行きたかったが、理性がそれをさせなかった。

「でも、一人では魔物にも勝てない……」

 戦えていたのは皆が居たからなのだ。
 大蜘蛛と戦った時は、マッドが居なければ死んでいた。
 獅子の時はラフィールがいなければ倒す事も出来なかっただろう。

 蜂の時なんて体の中にまで入られた。
 二匹の魔族、仲間が居た時ですら手も足も出なかった。
 しかも動いていたのは一体だけだ。

「私は弱いなぁ……」

 届きもしない太陽に手を伸ばしてそれを掴む。
 掌の中には何もなく、涙が少し零れている。

「リーゼさん、少しお話しませんか?」

 何時の間にいたのだろうか、マッドが後に立っていた。
 リーゼの話を聞いていたのだろうか、リーゼは涙を拭いてマッドを見た。

「マッドさん、こんな所まで登って来て何か用ですか?」 

「ハガン殿と何かあったのでしょう? 聞こえていましたよ、喧嘩でもしましたか?」

「喧嘩なんてしていないわ、ただ気分転換に来ただけよ」

「なら帰りましょう。もうすぐ夜になりますから、ここに居ては危険ですので」

 魔物が出なくとも夜は危険である。
 崖を下るにしても、夜にやる者は居ないだろう。

「そのぐらい分かっているわ。私は諦めるつもり何てないのだから!」

「ならばどんな話を聞こうと別にいいではありませんか。例え魔族と不倫の関係であっても、リーゼ
さんのご兄妹が沢山何処かに居たとしても、別に関係ないではありませんか!」

「……何を言っているの?」

「例えそれで向うの夫が怒って、戦いになったとしても、それは仕方が無いじゃありませんか!」

「ちょっと待って、それハガンに聞いたの?」

「他にも幾つもの愛人を作って、ダース単位で子供が居たって仕方ありません!」

「え、本当に?」

「仕方ありませんよ男ですもの! きっとムラムラって来たんですよ!」

 リーゼは剣を持って立ち上がる、その目は笑っていない。

「私ちょっとハガンと話してくる。もしかしたら明日から三人になるかもしれないけど、別に良いよね?」

 ハガンが居なくなればリサも消えるかもしれない。

「行ってらっしゃーい」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 リーゼは宿に走り、扉を力いっぱいに開け放った。

「ハガン! マッドから聞いたわッ、貴方がそんな人だったなんて思わなかったわ!」

「……何の話だ?」

「とぼけないで! あの魔族と不倫していたんでしょ! それで戦争が起こったって、愛人に子供を
作らせて、私の兄妹がいっぱいいるんでしょ!」

「……お前そんな話を信じたのか?」

「でも、マッドさんが……」

 この頃大人しくしていたので、マッドの事を信用してしまっていたらしい。
 ハッと考え直してリーゼは二度と信じないと心に決めた。

「俺の話はな、もっと恐ろしいものだ。俺は帝国の兵士の一人だった。その国の大臣の一人が暴走してな、リーンと一緒に殺人を依頼されたんだ……」

 その話は理解出来るようでいて、良く分からなかった。
 誰とも知れない王国の民を一人殺して、帝国の民がリンチして殺した事にしたと、その内に王国に残っていた帝国の民が暴力や殺人にあって、国が険悪になっていったと。

 そんな不確定な物に頼って、戦争を起こせるのだろうか?
 噂を流した者、殺人や暴力を振るった者まで操らないと無理だ。
 殺人を起こしたなら、王国側も放って置く訳がないだろう。

 それが帝国の民だと暴かれるのも時間の問題だろう。
 なら王国側にも戦争を起こそうとした者が居たのは間違いない。
 王国の民や殺人を調べている者の中に居たのならば、事は簡単に進む。

 だが戦争を起こしたとして何の得があるのだろうか。
 暴走していた大臣が、そんな計算を出来るのだろうか?

「例えハガンがやらなくても、きっと他の人がやったわよ。上官からの命令だったんでしょ、気にする事じゃないわ」

 そこまで用意周到にされていたなら何方にしろ戦争は起きていた。
 王国側にも問題があった。
 ならハガンだけが悪い訳では無いとリーゼは判断をしている。

 あの魔族がリーゼの両親を襲ったのも逆恨で、それで殺されたのでは納得できない。
 やはりあの魔族を許す事は出来ないと思っている。

「ああそうだな。命令された事を気にするほど、俺は出来た人間じゃない」 

 ハガンはこの話を聞かせて旅を諦めさせようとしていたのだが、リーゼが深読みしてそれを回避した。
 全てが当たっているとは思わないが、それでもそれが正しいと思い、旅の活力としている。

「話を聞いて確信したわ。やっぱりこっちだけが悪い訳じゃないのよ。絶対旅は続けるから!」

「もう良い、明日はグリーズの町に向かうからな、さっさと寝るんだ」

 リーゼの頑固さに、ハガンの方も諦めた様だ。
 そして次の日の朝。
 色々と買い出しを済ませて、次の町へ進もうとしている。

「皆準備は出来た? グリーズの町に出発するわよ」

「リーゼちゃん、俺はいつでも大丈夫だよ」

「買い出しもすませたから何時でも行けるよ」

「リーゼさん私のおかげで仲直り出来ましたね、よかったよかった」

 リーゼはマッドに感謝はしているが、マッドの信用度は直滑降でゼロに下がっている。

「じゃあ行くぞ、グリーズは此処から東だ」


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「どうやら出発した様ですよサタニア様」

「諦められても困るのよ。でもあまり早く進んでも困るのよね。最悪は彼等に、我が王国を滅ぼして貰わなければならないからね。ほらまた魔物が出て来た、急いで倒すわよ」

 そこに居たのは三匹の大蜘蛛、リーゼ達が戦ったのと同じサイズだ。
 サタニアが輝きの剣を作り出すと、蜘蛛の巨大な脚を両断していく。

 ラムの瞳が真っ赤に輝き、巨大な鳥の形の鎌を振るった。
 その鎌は動けなくなった蜘蛛の首に当たると、刃の半分がクルリと回転して、蜘蛛の首を落とす。
 二人は、三匹の蜘蛛全てを瞬く、間に斬り伏せた。

「これで全部ね、この辺りにはもう蜘蛛は居ないわ」

「全く、わざわざ倒してあげている、こっちの苦労も察して欲しいですね」

「彼等は知らないのだからしょうがないわよ」

 そしてまた別の魔物をがサタニアに襲い掛かった。

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