一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

25 選択 (勇者探索編 END)

項垂れるマードックにメギドが求めるものは…………


ベリー・エル(王国、兵士)       フルール・フレーレ(王国、兵士)
べノム・ザッパー(王国、探索班)    メギド(王国、国王)
マードック(リアの元仲間、勇者の一人)


 マードックは項垂れている。
 もう平和な王国を脅かす真似はしないでしょう。

「お前に最後の選択を与えよう。マードック、いや勇者よ。俺と来るのならば、お前にこの世界の半分を与えてやろう。さあどうする?」

 威厳も何もないメギド様は、笑うこともなく、ただ何となく言い放った。
 別に脅している訳でも、怒っているのでもないのでしょう。
 きっと今の言葉は比喩ひゆなのでしょう。
 この王国の人から変わった者達の世界を見せると言っているのです。
 これまでとは違う世界を見せると言っているのです。

「俺は……勇者に成りたかった。この旅を始めたのもそれがきっかけだった。この夢は諦められない。これからもきっと……だけどここには求めていた悪はなく、平和に暮らす人達が居ただけだった」

 この人は勇者に成りたい、それだけで国を出たんですね。
 私達という敵が現れて、きっと嬉しかったのでしょう。
 この世界には、今でも勇者と呼ばれる者は存在します。
 しかしそれは、そういう称号としてだけの意味なのです。

 戦争で武勲を上げたとか、他の人に出来ない事をしたとか。
 しかしマードックさんの目指したものは物語の勇者。
 分かりやすい悪を倒し、人々を助ける者を目指したのですね。

「……だから……俺は選ぶ。この子達を守る勇者になる。この国を守る勇者が一人ぐらい居たっていいだろう」

 彼の目には涙が浮かぶんでいます。
 嬉しかったのか、それとも悲しかったのか、その心の中は彼にしか分かりはしないでしょう。
 マードックさんは目の前の子供を撫でると、優しく微笑みかけました。
 しかし彼の選んだ道は、何方を選んだとしても険しく遠いのです。
 この国には達人を超える者は山程いるのですから。

 人の体から変わった者。
 姿が変わらずとも、その者達と訓練し続け、同等に戦える様になった者達。
 一緒に戦うか、それとも敵として戦うかだけの選択ですが、こちらを選んでくれて良かったです。

「それではお前に王としての最初の命令を与える。 ……一緒にこの子達と遊んでやってくれ」

「承りました!」

 マードックさんは大声で返事をすると、子供達の体がビクリと跳ね上がりました。
 その後彼は名を変え、闇の勇者アーモン等と呼ばれるようになります。
 もう少し先の話ですけどね。

「なぁ、こいつを王国に入れるだけなら、俺がこんな事しなくても良かったんじゃあないのか?」

「……さあ?」

 べノム、今言う事じゃないでしょう。
 面白かったからいいじゃないですか。

「そうだアンリさん、今度デートしてください。絶対に後悔させませんから」

「ご、ゴメンナサイ、ちょっと用事があるんで、じゃあまたお会いしましょう。オホホホホ……」

 まだ女性のままのべノムが、部屋から逃げ出して居なくなりました。
 マードックさんは、まだ彼女が女の人だと信じているみたいですね。
 今度べノムをからかってやりましょう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 全てが終わった後、フレーレさんと私は、自宅に戻る道を歩いています。

「これで勇者が来なくなって解決よねー」

 私は頷き答える。

 そうですね、もう来ないでしょうね。
 マードックさん達も、きっとうまくやっていくでしょう。

「でもべノムったら可笑しかったわ。今からからかいに行ってみましょうか」

 はい、きっとべノムも寂しがっているでしょうね!

 私達は、寂しがっているべノムを慰める為に、べノムの家に走った。

 コンコンコンッ。

「アンリちゃんいるんでしょー、ねえアンリちゃん開けてー。開けてくれないならマードックさんにここに住んでいるって報告するわよー」

 アンリちゃん(べノム)が家の奥から走って来る。

「アンリじゃねぇ、二度と呼ぶな! 後マードックには言うなよ、面倒臭くなるからな!」

「べノムったらそんな事いってー、本当は気になっているんでしょー、大丈夫よきっと同性同士でもやっていけるわよ!」

 世の中にはカールソンさんみたいに、男の人同士でも大丈夫な人がいるのです。
 きっと二人も上手くいくでしょう。

「好きじゃねぇよ! 嫌々やっていたんだよッ!」

「そうでしたか貴方がアンリさんだったんですね」

 マードックさん何でここに?
 これは面白い事になってきましたよ。

「いや、あの、まあそうだよ! 俺がアンリの正体だよ!」

「これ、花を持って来たんです。どうぞ」

「お、おう」

「じつは頼みがあるんです。今度アンリさんになって、私とデートしてください! 女にさえなってくれれば、私は今の性別なんて気にしませんので!」

「嫌に決まってるだろが、ぼけええええええええッ!」

 こうして勇者襲撃事件は幕を閉じたのです。
 きっとこれからべノムと二人で、ありったけの愛を育んでいく事でしょう!


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