一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

24 王道を行く者達16

戦争から十七年後の世界、武器の材料を求めて鉱山に向かった…………


リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)    ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)  ミカゲ(鍛冶屋兼武器屋のおじいさん)
サタニア(?)     バル・ラム(?)


「こんにちは皆さん、私はサタニアと申します。実は皆さんに少しお願いしたい事がありまして、少々お時間をいただけないかと思ったのですが、どうでしょうか?」

 何時の間にかリーゼの後に、見た事も無い女が立っている。
 黒く長い髪と、美しいドレスを纏っているが、この魔物が蔓延る大地でそれは似合っていない。
 歳にして二十を回ったぐらいだろうか。
 腰には立派な剣が差してある。
 その後ろにもフードを被った従者らしき者がもう一人。
 フードの端からは緑色の髪が見えている。
 何方ともが美しい女性だが、何方としても冒険者には見えない。
 どこかしらの城にでも居る方が似合っていそうだった。
 不思議に思ったリーゼだが、一応理由を聞いてみる事にした。

「? 何処かでお会いしましたっけ? それであの、なんで私達に頼むんですか?」

「じつは先ほど見かけたのですが、その剣の切れ味に興味を持ちまして、ちょっとその剣を貸して欲しいのです。良く切れるのでしょう?」

 サタニアは剣を貸せと言うが、いきなり自分の剣を貸す戦士は居ないだろう。
 貴族の中には剣を集める趣味の者も居ると聞く。
 もしかしたらコレクションにでもする気なのだろうか?
 簡単に触らせる訳にはいかない。

「ごめんなさい、人に触らせたくないの」

「あらそうですか、では他の人の剣でもいいのですけど」

「駄目だ、どれも渡すことは出来ない。もちろん貸すこともだ」

 ハガンの言葉にサタニアは悩んでいるようだ。

「う~ん仕方ないですね。ではこうしましょう、私を倒せたら皆さんの剣は諦めますよ?」

「お嬢さん、俺達結構強いんですよ。諦めた方が良いんじゃないですか?」

「お強いんですか? なら問題無いではありませんか。もし手加減してくれたとしても、負けたら、その剣は頂きまよ?」

 ラフィールの言葉にも、サタニアは諦める気がないようだ。
 相手は一人だからと、リーゼが前に出てその挑戦を受けている。
 剣の一本で充分と、腰の一本を引き抜いた。

「二本使わないんでしょうか?」

「一本で十分よ。貴方も剣を抜いたら?」

「ああ、そうですね、じゃあそうしましょうか」

 サタニアは剣を構える、余り慣れた感じではない。
 リーゼがそれを見ると走り、その剣を断ち切った。

「私の勝ちね! それじゃあ諦めてね」

「何がですか、私は立っていますよ?」

 確かにサタニアは立っている。
 武器が無くても戦える事は出来るが。

「諦めなさいよ。もう勝負はついたでしょ! それともまだやる気?!」

「なんだか面倒臭くなってきました、もう良いです」

 サタニアが手を少し振ると、先程とは違う輝く剣を持っていた。
 足音さえ無く、リーゼの目の前に迫っている。
 振るわれた剣をリーゼの剣が受け止めた。
 だが……

「あああああああ……」

 受け止めきれない。
 リーゼの剣が両断され、そのまま体をも斬り捨てた。

「剣の性能に驕っているからそうなるの。もう一度出直して来なさい」

「リーゼさん、今回復を掛けます。しっかりしてください!」

「お前ッ! ぬ……ぐああああああああ!」

 マッドがリーゼに回復を掛け、ハガンが走りサタニアの足を払う。
 だがサタニアはフワリと浮き上がり、剣を振り下ろしながら地面に着地した。
 その場に居たハガンが背中から斬り付けられ、地面に倒れこんむ。

「一人は回復しているから残りは二人ね」

 リサとラフィールが武器を抜いて斬り掛かった。
 サタニアがまた浮かび上がると、ラフィールの風の魔法を発動させる。

「風よッ、吹き抜けろッ!」

 サタニアの髪がなびき、手をかざして目を庇った。
 ラフィールはそれを見逃さず、昔から使っている剣を投げつけ、サタニアの腹に突き刺さした。
 だがその剣は、パリーンと音を立てて弾き返された。

「クソッ、防御結界か?! リサ、そっちに行ったぞ!」

「さあ来なさい!」

 リサはサタニアの剣を受けず、振り切った瞬間を狙ってサタニアに斬りかかる。
 だがその剣は空を切った。

「!」

「その程度で……くらいなさい!」

 空中をバックし急激に前進すると、逆にリサの剣ごと右腕を切断してしまう。

「う、腕がああああああああああああ!」

 ラフィールは霊峰で拾った剣を抜き、サタニアを狙うのだが、しかし空中から降りて来ない。

「リサさんを、よくもおおおおおおおおおお!」

「貴方には本物の魔法をみせてあげましょう。 ……天よ、泣き崩れなさい! シャイニング・メテオレイン!」

 空中に光輝く岩が幾つも精製される、その岩が燃え盛り、ラフィールに降り注いだ。

 一度とラフィールの剣で防御で防ぐが、二度目は何も起こらない。
 ラフィールは頭だけを守り、幾つもの岩を食らってしまった。

「うああああああああああああ?!」

 そして、最後に残ったマッドへサタニアが迫っている。

「ひっ、あ、貴方何が目的なんですか! リーゼさん達が何をしたと言うんですか!」

「全員まだ死んではいないわよ。腕も今の内ならくっ付くはずよ、急いでやりなさい。ラム、手伝ってあげて」

「は~い」

 ラムと言われたもう一人が瞬く間に傷を癒してていく。

「さて、貴方にはこの子達に伝えて貰いましょうか。その程度の力じゃ全く意味が無いと。熊一匹を
 閉じ込めて勝った気になっている人には一生追い付けもしないとね」

「貴方達は……一体……」

 女は何も答えない、その瞳が赤く輝き二人が空に消えていった。

「魔族……あの人が……」

 人より身体能力があり、武技を持って極限であり、魔法において究極であり、知性において人に並ぶ者。
 今のリーゼ達には勝ち目などはないだろう。

「リーゼさんはあれに挑もうと言うんですか……あんなものに勝てる訳が無いじゃないですか……」

「うげっ、げはっ、げほッ」

「リーゼさん大丈夫ですか! しっかりしてください」

 リーゼが口から血液を吐き出している、肺にまで傷が届いていた様だ。

 マッドではそこまでの傷を簡単には癒せない、ラムと言われたもう一人も途轍もない力を持っているのだろうか。

「だい……じょうぶ、げほっ、あの女は……どうしたの?」

「何処かに消えてしまいました……リーゼさん、あれは魔族でした。貴方に伝言があります」

 サタニアからの伝言は、リーゼ達の自信を打ち砕いた。

「何だっていうのよ、いきなり魔族が来るなんて。まさかあの女の仕業!」

 リーゼは母親を殺した魔族を思い出す。
 魔族に知り合いなどいない。
 会った事があるのはその女だけだった。

「皆はッ、皆は大丈夫なの!」

「皆さん無事ですよ、いえ、無事に治されたと言うべきでしょうか」

 リーゼは理解した。
 自分達の傷を治して遊ばれたのだと。
 愛用の武器も一本無くしてしまい戦力としてもガタ落ちだろう。

「?! ミカゲさんは?!」

 周りを見るがミカゲが見つからない。
 ミカゲは何処に?

「ミカゲさんは何処?」

「大丈夫です、戦いが始まったと同時に隠れて貰いました」

 マッドに隠れていると聞かされ、リーゼはとりあえず安心できた。
 しかし使えると思っていた武器は、あの女に全く通用しなかった。
 あらためて魔族の力を理解したリーゼは、もっと強い武器を見つけないとならないと感じている。

「リーゼ、諦めるなら今だぞ。ここからは本当に死ぬ。どうする、先に進むか?」

 ハガンがこの旅を終わらせるかと聞いてくる。
 だがリーゼはそんな気は微塵もなかった。

「当然よ、絶対に諦めない!」

「お前達、とんでもない奴等とやり合っているんじゃな。だが安心しろ、材料はここにある、今よりも素晴らしい武器を作ってやるぞい。折れた武器も持ってくるんじゃ。ワシが直ぐに修理してやる!」

 ミカゲを信じるしかないと、洞窟と熊から材料を切り出し、ミカゲの店に戻った。
 今この場に居る全員の表情が暗い。
 自身の力の無さを思い知ったのだろう。

「大丈夫よ、あいつの弱点を見つけたわ、きっと次は勝てるから」

 それは嘘だった。
 そうでも言わないと全員居なくなってしまう気がしていた。
 だが皆それが嘘だと分かっている。
 自分達の戦った敵の強さを知ったから。
 リーゼの剣は綺麗に根本から折れて、結局武器の修理に一週間を要した。

 少し長さは変わってしまうが、補強すればまた武器として使えるだろう。
 だが、それすらもあの魔族が計算してやっていたならば……
 リーゼは今までやってきた事の全てが、掌の上で踊らされている気がした。

「ほら、出来上がったぞお前達の武器じゃ」

 ミカゲの修理が終わり、リーゼ達の武器が完成した。
 リーゼの二本の剣は、長さと重さを調整されて、更に固く強靭になっている。
 リサの剣は水晶で作られていて作り直す事も出来ず、熊の背中から切り出した物から一から作り直された。

 ラフィールは持っていた剣二本を合成し、より扱いやすく防御結界をも使えるようにと改良された。
 ハガンの足に仕込まれていた鉄板や武器も熊の物へと進化している。

「次は負けない、絶対に……」

 リーゼは根拠の無い言葉を並べ、足を進める為の勇気を振り絞った。

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