一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

23 王道を行く者達15

案内板を発見して武器屋を見つけ出したリーゼ達…………


リーゼ(赤髪の勇者?)  ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)     ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)   ミカゲ(鍛冶屋兼武器屋のおじいさん)
サタニア(?)      バル・ラム(?)


 案内板を発見して武具店の場所を確認すると、どうやらメイン通りから外れた奥にも一つある様だ。

「随分と外れにあるんだな。まあとりあえず行くぞ」

「ええ」

 案内板には載っているので一応バザーの中という事だが、その場所はバザーに並ぶ店ではなかった。
 バザーの近くにある店というのが正解だろう。
 その場所にリーゼ達が向かうと、路上に並べられた店とは別に、少し離れた林の中にボロボロの店が建っていた。

「ああ、ここですか。リーゼさん、外観を見るに期待は出来ないんじゃないですか? 何となく幽霊とか出そうですよ」

 マッドの言った通り、窓も割れてカラスが群がっている。
 しかし案内板にはこの場所以外に武器屋は載っていなかった。

「外れかしら? 何かあるかもしれないし、一応中を見てみましょうよ」

 店の中も外と同じでボロボロだが、カウンターには店主と思われる者がいた。
 白い髪のおじいさんで、口から顎にかけてモコモコな髭を生やしている。
 背は小さく椅子に座って対応していた。
 一応経営はしているらしい。

「いらっしゃーい、何かお探しかの、といっても店には武器は一本も無いがな」

 一本も無いならここにはもう用は無いが、武器屋なのに一本も無いとはどういう事なのだろうかと、リーゼは気になった。
 お爺さんに事情を聞こうとしている。

「おじいさん、此処って武器屋なんですよね? なんで何も売ってないの?」

「店は鍛冶屋も兼ねているんだが、魔物の所為で材料が取れなくてね。武器を作れないから売る物も無いのだよ。だから見ての通り、この店にはなにもないぞ」

 材料さえ集まれば作れるのだろう。
 鉄材がある場所といえば、霊峰にの頂上にも覚えがあった。

「霊峰の武器を取ってきてあげるから、それを使ったら出来ないの?」

「ほとんど錆びが回っていて使い物にならん。それにな、そんな物を取ってきたら罰が当たるぞ」

 そんな事を気にするなら、やはり原材料を取って来るしかないだろう。

「なら材料を取ってきてあげる。その代わり私達の武器のメンテナンスをお願いしたいのだけど」

「リーゼちゃん良いの? この人の腕もわからないのに」

 リサが心配しているが他に当てが有る訳でもない。
 何時かやらなければならないのなら、今でも良いだろう。

「交換条件という訳じゃな。どれ見せてみろ」

 リーゼは腰の一本だけを渡した。
 二本を渡す程まだ信用はしていない。

「物凄く切れるから気を付けてね。触るだけで指が飛ぶわよ」

「ふむ……」

 鞘から剣を抜き放ち、お爺さんは剣先を見つめている。
 おもむろにカウンターの端っこを剣で斬り付けると、その部分が切れ落ちた。
 剣の切れ味を試したのだろう。

「なるほど、こりゃ凄い物じゃな。刃こぼれ一つないわい。ふ~む、刃先が少しだけ曲がっているな」

 手製の道具を取り出し、剣を固定して金槌でコンコンと打っていく。
 たったそれだけを済ませると、お爺さんはリーゼに剣を手渡した。

「ほれ出来たぞ」

 余り変わった様には見えないが、直ったというのならそれでいいのだろう。
 持ち逃げされないだけましだ。

 それからもう一本を渡し、皆の分も見てもらうことになった。
 リサの剣は欠けた部分を鉄で補強し、少し研ぎ直す。
 霊峰で拾った武器はかなり時間がかかったが、中々の切れ味を取り戻したらしい。
 柄にはほんの少し装飾もされた様だ。
 
 武具の手入れが終わると、今度はリーゼ達の番がくる。
 武器の材料が有る場所まで行き、魔物を退治に向かうことになった。
 おじいさんも、案内を兼ねて一緒に付いて来ている。
 おじいさんの名前はミカゲと言うそうだった。

 向かった場所はバザーから更に西の鉱山。
 だがここを掘り進めているのは、ミカゲただ一人である。
 たった一人、何十年もの間掘り進めていたらしい。

「住み着いたのは、わしの掘った穴の中での、どいてくれないから材料が掘り出せないんじゃよ」

「爺さん、それはどんな魔物だったんだ?」

「見た目は熊だったぞ。しかし見ただけで魔物と分かる特徴があったんじゃ」

 ハガンの問いにミカゲが答えた。
 その熊の爪が武器の様な形状をしていて、背中や肘からもそれが生えていたらしい。

「リーゼちゃん、それならそのまま武器として使えそうじゃないか」

 ラフィールの言う通り、リーゼが使っている武器も魔物から作られた武器である。
 強度があればきっと役に立つだろう。
 その熊に勝てればの話だが。

「おい爺さん、この穴の奥はどうなっているんだ?」

「入り口は狭いが、奥に行くと全員で暴れられるぐらいの広さはあるぞ」

「マッドさんとミカゲさんは、此処で待っていてください。護って戦えるかは分からないので」

「分かりましたリーゼさん、帰りをお待ちしております」

「うむ、期待しているぞ」

 リーゼ達が洞窟に入り、進み始めた。
 入り口は狭く、人が二人も通れない程に狭い。
 しかしここを通ったとなると、そこまでは大きな魔物ではないだろう。
 そのまま進み広場に着くが、ミカゲに言われたほどの広さはなかったようだ。
 この場で四人が止まって剣を振るだけならば出来るだろうが、そんな戦闘は稀だろう。
 実際は動き回るし跳び跳ねる。
 ここで戦えば逃げ回ることも出来ない。
 一対一なら戦えるが、そこまでやれる等とは誰もおごっていなかった。

 奥に居る熊は発見出来た。
 しかしここまで近づいても襲って来ないとなると、そこまで好戦的な奴じゃないのかもしれない。
 リーゼ達は、敵が襲って来る前に一度戻る事にした。

「おや、リーゼさん、もう勝ったんですか? 随分と早かったですね。それで武器は使えそうなんですか?」

「まだ戦ってないわよ。あそこでは戦えないわ」

「あそこじゃ戦えないから、まずあの熊を追い出さなきゃね。それでどうするんだい?」 

 中の形状と道を知ったリーゼは、確認の為にお爺さんに質問することにした。

「ねぇ、入り口はここだけよね?」

「ああ、そうじゃよ。わし一人で何年も掛かって掘り進めて……」

 確認は出来た。
 後の話は必要ない。
 やはり煙で……いやもう少し工夫出来れば、戦う必要さえないだろう。
 リーゼは一本の木を見つけ、それを持てる程度に両断していく。
 木片を並べ入り口を塞ぐと、リーゼはそれに火を付けた。

 ちゃんと奥の木片にまで火が回るように、隙間も空けてあった。
 上をほんの少し開けてあるから、そこから風を送る事も出来る。

「風よ吹き付けろッ」

 ラフィールの魔法で、洞窟の中に熱と煙が充満していく。
 熊が何もせずとも煙で死ぬだろう。
 入り口の炎に突っ込まないと助からないが、突っ込んだとしても簡単には出れない。
 大木、一本分の木片だ、そう簡単にどかす事は出来ない。
 どかそうと暴れている間に炎で死ぬのだ。

 例えそれに耐えられたとしても、空気が無くなれば、ほとんどの生物は生きていられない。
 それでも駄目なら、このまま閉じ込めて一週間もしない内に餓死するだろう。
 水すらないのだ耐えられないだろう。

 剣を振る事だけが戦いではない。
 戦闘狂でなければ、誰も命のやり取りをして死にたくはない。

 勝てる手があるのならば躊躇わずに使う。
 卑怯だと言う奴もいるが、それで死んだならば、ただの熊の餌になるだけだろう。
 絶対に生き残れる保証なんてない。
 今回はラフィールが居る、空気の入れ替えなど簡単にやってくれるだろう。

「さあどうかしら」

 リーゼ達は、燃え尽き熱を持たなくなった木片をどかしていく。
 少しずつ入り口が開き、中の様子がわかり始めた。

「リーゼ、死体を確認するまでは油断はするなよ」

 相手は魔物で、普通の生物が出来ない事をしている可能性もあるが。

「おわ、びっくりしたー。リーゼちゃん、熊が焼けてるよ。死んでるみたいだから、もう大丈夫」

 木片をどかしていたラフィールが、熊の魔物を発見した。
 熊はこんがり焼きあがって、完全に死んでいる。

 改めて熊の爪を見ると、確かに武器の様な形状で、加工すれば武器にはなるだろう。
 しかし剣というよりは爪だろうか。
 拳を使う物が居たなら、かなりの武器になるはずだ。
 だがリーゼ達には合わない。
 誰も使う事が出来ないのだ。

 肘の部分は鋭く長い。
 これも剣よりも槍にした方がいい。
 最後は背中を見ると、長く反り返った形状で、加工出来れば剣として使えそうだ。
 試しにリーゼは、使わない部位の部分で、軽く試し切りをしてみた。

 ギィィィィンと弾かれ、素材には傷も付いてはいない。
 強度は大丈夫そうである。

「ねぇミカゲさん、熊の武器なんだけど、安く加工してもらえないかな?」

「安くと言わず只でやってやるぞい。ここが解放されなければ、どうせ破産していたからの。そのお礼じゃよ」

 リーゼ達は一度メンテナンスを受けている。
 それでも更に親切にしてくれるとは、余程困っていたのだろう。

「ミカゲさんありがとう。もし私達に使えない物があったら、全て無料で譲りますね」

「はっはっは、それは助かるな」

 全員で熊から素材を剥がし、バザーへと戻って行った。


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 リーゼ達がいる鉱山の上。

「あれが、お母様に選ばれた子なのね。簡単にはやらせないわよ」

 長い黒髪の女が立っていた。
 煌くドレスに身を包み、腰には立派な剣が差してある。

「ルキ様、やっぱりやめときましょうよ。もう作戦は進行してるのですよ」

「ルキって呼ばないで、今はサタニアよ」

「別に偽名を使わなくても知ってる人なんていませんよ」

うるさい、ちょっと黙っていなさいバル・ラム」

 バル・ラムと呼ばれた女、額には黒い角が生えていた。
 人間には角はない。
 きっと魔族なのだろう。

「他のご兄妹に相談されたら如何ですか?」

「駄目、皆に心配を掛けたくないもの。それにもしかしたら他の方法だってあるはずよ。きっと見つけられるわ」

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