一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 王道を行く者達14

武器を手に入れたリーゼ達、リサを仲間にして次の目的地に向かう。


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母) 


 リーゼ達は山を下りながら話を続けていた。

「バザーへは行けないし、グリーズの町に行くしかないな。もうちょっと金があったらよかったんだがな」

 ハガンは別の町へ進むことをていあんしている。

「あら、バザーに行くならチケットがあるよ」

 リサは何故かチケットを持っていた。
 チケットが有ればバザーにも寄れるが、何故持っているのだろうかとリーゼは不思議がっている。
 一枚あれば永久にバザーに入れるし、チケットを持った仲間も無料で入れるが、相当な高額で普通は買えない物だった。
 闘技場の優勝者とはいえ、払える金額ではないはずだが……

「えっと、リサさんそれ盗んできたんですか? 警兵でも呼んだ方が良いですかね?」

「リーゼちゃん、これは正真正銘私の物よ。立ち寄ったグリーズの町の景品で当たったの。一回目で当たったのよ、凄いでしょ」

「ふむ、行けるなら行ってみても良いんじゃないでしょうか。リーゼさん達は武具を探しているんですよね? バザーなら色々買えるんじゃないですか。お金さえあればですが」

 武具を買う金は持っていなかった。
 換金できるような荷物は殆どが海の底で、手持ちの金額は少ないのだ。
 もしバザーに入れても、眺めているだけでは意味がない。
 バザーで何か事件でもあれば、依頼を受けて金を稼ぐ事も出来るのだが、その期待は宝くじに当たる様なものだろう。
 全く期待は出来ない。

「船が沈没しちゃったから、私達は殆ど文無しみたいなものよ。お金が無いからバザーには行けません、入れても買えないからね」

「この剣を売れば金になるんじゃないか?」

 ラフィールが先ほど拾った剣を指さす。
 確かに売ればお金になりそうなのだが、魔法を扱える剣がどれ程の値段がするのかも分からない。
 それに、剣を売って、バザーで何も無かった場合、貴重な魔法の武器がなくなってしまう。
 それは避けたいところだった。

「それは戦う為に必要なの、売るなんて出来ないわ。バザーは諦めましょう」

「リーゼさん、今回ばかりは私を仲間にしておいて良かったと感謝してください! さあ、これを見てください!」

 マッドが手荷物の袋を開けると、その中には巨大な赤い宝石が入っている。
 ルビーとは違い、金剛石ダイヤモンドと呼ばれる物だろう。
 これを売るだけでも一生遊んで暮らせるはずである。
 ただし、買えるほどの財力があって、この宝石に興味があるのならだ。

「これを使ってください、リーゼさんの役に立てるのなら本望でしょう」

「……どうしたのこれ?」

「教会を辞めさせられた時に、像に付いていた物を取って来たのです!」

 どうやらマッドの方が泥棒だったらしい。
 変に関わって教会の刺客に狙われるなんて御免だった。
 もし追って来た者が居たら、迷わずマッドさんを差し出す事にしようとリーゼは考えている。

「ではこれをどうぞ」

「それはマッドさんが持っていてください、私には必要ないですから」

 共犯者にされてはたまらないからと、リーゼは受け取るのを拒否している。

「それじゃあ行かないんですか?」

「見るだけでもいいさ、行ってみようぜリーゼちゃん」

 安い物もあるかもしれない、素通りするより良いのだろう。

「そうよね、行ってみましょうか」

 最悪は、マッドの宝石をマッドが換金して、マッドが買った物を使う事にしよう。

「進道が決まったのはいいが、それよりも目の前の敵を何とかしないとな。全員戦闘準備だ!」

 ハガンが敵を発見したらしい。
 先の道には人の形をした骸骨がいこつが、神経も肉もないのに群れを成して動いていた。
 鎧などは着ていないが、手にはさび付いた剣や棍棒等を持っている。

「おいおいおい、骸骨がいこつかよ、どうやって動いてるんだ!」

「マッドさん司祭なんでしょ、何とかしてよね!」

「う~ん、骨だったら回復してみましょうか。もしかしたら効くかもしれません、では……ヒーリング!」

 マッドの回復魔法が骨に掛かるが、変化は見られない。
 ダメージを受けている様にも見えなかった。

「意味ないじゃないですか!」

「なるほど、アンデットには回復魔法が効くって噂は嘘だったんですね」

「だったら私が行くよ!」

 骸骨の動きはそれほど素早くはない。
 動きも単調で躱すのは用意だろう。
 例え群れを成していても、闘技場の覇者であるリサにとっては造作もない。
 単調な攻撃を躱し、リサが骸骨の腕を斬り付けた。
 腕の骨はボトッと地面に落ちるが、糸の様なものが伸びて、元の位置に再びくっついた。

「剣が効かないのかい?! 誰か攻撃魔法を頼むよ!」

「私がやるわ ……ファイヤーッ!」

「風よッ吹き付けろッ!」

 リーゼとラフィールの合体魔法が炸裂し、何体もの骸骨が炎に包まれる。
 蒸れの半数か動かなくなったが、半数は動きを止めていない。
 骸骨(がいこつ)は炎に弱いのだろう。

 何かしらの種があるのだろうと、リーゼは倒れた骸骨を見る。
 燃えているその骨が、ガタガタと震えていた事に気が付いた。
 熱でひび割れた骨の隙間からは、死にかけの蟲の体が見えている。
 ただの骨が動くはずがない。
 この蟲が関わっている可能性がかなり高いだろう。

「蟲が骨を操ってるわ。敵は骨の中よ!」

 リーゼはそう判断し、仲間に指示をする。

「へ~、なら骨ごと敵を切断すればいいのね。種さえ分かれば簡単だわね。やあああああああ!」

 簡単だと言っているが、普通に出来る技ではない。
 それを易々とやり遂げ、リサが骸骨の腕の骨を縦に切断した。
 切断した骨の中からは、カラフルな芋虫の様なものが詰まっているが、蟲は斬られて死んでいる。
 骸骨の腕はそのまま元には戻らず、再生もしなくなった。

「骨の中に潜む敵か。よし、リサとリーゼは腕を狙え。ラフィールは脚だ!」

「分かったわ!」「オーケーだ」「ハガンさん分かりました」

 腕が無くなれば、この骨はハガンの様に動くことは出来ない。
 武器をなくして咬み付きぐらいしか出来なくなり、脚を潰すと動けなくなっている。
 あとは地面に転がり、顎をガチガチするだけのオブジェになり、放って置いても良いだろう。

「ファイヤー!」

 一帯事に戦闘が楽になり、みるみる内に敵が減っていく。
 最後は動けない頭と体の蟲を、リーゼの魔法で焼き尽くした。

「最初は幽霊かと思ったけど、まさか蟲が中に詰まっていたなんてな」

「幽霊なんて居ないわよ、見えたとしても幻覚かなんかでしょ」

 幽霊が居たなら、リーゼの前に出て来るはずだ。
 だがいくら待っていても、リーゼの前に母親は現れてはいない。


 リーゼ達は山を下りて商業バザーに到着すると、町を見て回っている。
 入るのには金が掛かるが、そこにはありとあらゆる物があった。
 右を見ても左を見ても、全てが何かしらの売店である。
 建物に店を構える者や、道に絨毯を広げて売り物を並べている者犇めき合い、人が数人通れる道だけが開けてあった。
 その中には道具だけではなく、食料などもならべられていた。
 丁度腹を空かせたリーゼは、売店でリンゴを見つける。
 それはハガンの好物でもある。

「あ、リンゴがあるわ、買っていきましょうよ」

「ほう、リンゴが置いてあるのか。じゃあ買って行くとしよう」

「いらっしゃい、リンゴ一個三万だよ」

 通常リンゴは、一つ百行くか行かないかぐらいのものである。
 どう考えても高額だった。
 そんな値段に少々面喰い、ハガンがとまってしまっている。
 買おうか悩んでいるのかもしれない。

「……ぼったくり?」

「いいや、こいつは凄いリンゴなんだよ。一本の木に一つしか実を付けさせず、その一つを動物や鳥
 から死守して、やっと育て上げた凄い物なんだよ。勿論一つに栄養が集中してるから物凄く甘いのさ」

「へーそうなのね。でも私思ったんだけど、一つに集中しているといっても限度があるわよね? 余った栄養は無駄になるから十個ぐらいなら美味しく作れるんじゃないの?」

「なるほど、その話は面白いな。良い事を聞けたから一つだけサービスするよ。持っていきな」

 成功すれば品質を落とさず売り上げを伸ばせるだろう。
 それに鳥等にやられても代わりがあるから安全性も上がる。
 餌が豊富になって鳥が増えたとかになっても、その辺りは自己責任だろう。
 当然上手くいくか行かないかもわからない。

「ありがとう、遠慮なく貰て行くね」

「リーゼちゃん今の話は本当に出来るのかい?」

 ラフィールが疑問持っているが、リーゼも確信があって言った訳ではない。

「知らないわ、実践するのは向うの自由じゃないの。失敗しても私のせいじゃないわよ」

「まあそうだよね」

 リンゴを齧ると、とてつもなく美味しかった。
 貴族にでも流行れば一生安泰だろうか。

「お、俺にも一口くれよ、そんな高い物食ってみたいぜ」

「どうぞ、後は食べても良いわよ」

 ラフィールがリンゴを手に持って、リーゼが齧った場所を見ている。

「間接キス……」

「あら、食べないのね。じゃあ私が頂くよ……あら美味しい、流石三万ね」

 リサに瞬く間に全て食べきられ、項垂れるているラフィール。

「親としては、そう簡単にはリーゼちゃんを渡さないよ」

 リーゼにとっては、リサに親になって貰った覚えは無いし、関節キスも気にしていない。
 ただそれを言われると少しだけ恥ずかしかった。

「次に行きますよ。他にも回るんですからね」

 店を見て回るが、全体的に金額が高く、リーゼ達が買える物は中々見当たらない。
 絵画や玩具、家具、アクセサリーと、旅には必要のない物ばかりで、どれも高価なものばかりだった。

「あっ! 見てください、あそこに武器を売っている所あがありますよ!」

 マッドが武器屋を見つけたらしい。
 店に並べられていた物は、刀身にまで飾りがつけられた飾剣で、儀礼用の剣だった。
 その分重く、切れ味もそう鋭いものではない。
 実戦では使えない物だろう。

「おじさん、普通の武器って売ってないの?」

「うちでは置いていないなぁ、ああいや、二つだけあったな。今出すよ」

 店の親父が後に置いてある箱の中から、二つの武器を取り出した。
 槍と戦鎚、どちらも使える武器種ではない。

「マッドさんが使ってみたら?」

「私ですか? 槌なんて重くて持てないですよ。槍も使った事がありません」

 回復を起点に立ち回るのなら、下手に武器を持たせるより、マッドには逃げ回っていてもらった方が良い。
 ここは諦めた方がいいだろう。

「中々ないわね。この町にはもう無いのかしら?」

「別の道にも店が出ている様だぞ、行ってみないか?」

 ハガンの言う通り、路地の向う側でも店が展開していた。
 しかし当ても無く探していては時間が掛かってしまう。
 適当に誰かに聞いてみるべきだろう。

「こんにちは、おじさん。この辺りに戦闘用の武具を扱ってる店は無いですか?」

「もう少しこの道を進むと案内板があるから、そこを見ると良いよ」

「ありがとね、行ってみるわ」

 道行くおじさんに話を聞き、リーゼ達はその案内板に向かい、案内板を探し出して、武具を売ってる場所を発見たのだった。

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