一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

14 王道を征く者達13

戦争から十七年後、大蜘蛛から町を救ったリーゼ達………


リーゼ(赤髪の勇者?)        ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭)           ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リサ(リーゼの叔母)         ガットン(元船の船長)


「こいつは良いな、ハーレムじゃないか」

「ガットンさん、次言ったら殺しますよ」

「いやまて、今のは冗談だ!」

 警告するだけまだ有情である。
 この人をここに置いていったら、その内ハーレム王にでもなってるのかもしれない。
 リーゼの本気の顔を見てガットンさんも黙った様だ。

 町の人達にこの場所を聞くと、目的地だった港からかなりずれた場所の様だった。
 無事に外の大陸に到着したらしい。
 到着する事が目的ではないが。

「ねぇ、何か武器とか防具とか、何でも良いから強そうな物って知らないかな?」

 リーゼは町の代表らしき女の人に、武器の事を尋ねてみた。

「武器ですか? この町の出口から真っ直ぐ進むと、聖域の霊峰と呼ばれる山があります。その頂上には勇者の墓と言われる場所がありますね。そこにもしかしたら、何かあるかもしれませんね」

 勇者というワードが良く出て来る。
 リーゼは踊らされている気がして何か嫌な気分になってしまう。
 この人には関係ないので、表面上は取り繕っている。

「霊峰ですか、情報が無いですからまずはそこでしょうね。それと近くに他の町はありますか?」

「そうですね、ここから東に向かえばグリーズの町があります。少し遠いですが西に行けば商業バザーもありますよ」

 バザー色々な物が集められて、売られていると聞いた事があった。
 その中には、盗んだ物や、リンゴを買う程度の値段で豪邸が買える物が置いてあることもあるそうだ。
 だがそのバザーに入る為には高額のチケットを買う必要があり、リーゼ達にはそれを買う財力はない。
 ただでさえ大型船沈没時に荷物をなくして、余計な出費は控えたい所だった。

「金も無いし、行くならその霊峰って所だろうな」

 ハガンは考え、霊峰に行く事を提案した。

「少しぐらいならご用立て出来ますよ。助けて貰ったお礼も兼ねて、是非持って行ってください」

 話を聞いていた町の代表が、お礼をしてくれるらしい。

「貰っておきましょうよ、旅にはお金が掛かるんだから」

 ハガンに女の人がお金を渡そうとするが、腕がない為に受け取る事が出来ない。
 リーゼが代わりにお金を受け取ると、女の人は少し残念そうな顔をしていた。

「準備はこれで良いだろう。それで? お前達も付いて来るのか?」

「もちろんですよハガン殿! 私はリーゼさんを見守る義務があるのですよ! リーゼさんは、いずれ魔王を倒し、そして私は勇者の仲間として後世に名を残すのです!」

 勇者として見守ろうと言う気なのだ、リーゼとしては迷惑な話だった。

「俺もついて行きますよ、何だか面白そうだし。リーゼちゃんと別れるのも寂しいからね」

 ラフィールも付いて来る気の様だが、雇い主は放って置いて良いのだろうか?

「ガットンさんの方は良いの? あなた雇われていたんでしょ?」

「まあそうなんだけど、この状態じゃ金なんて払って貰えないだろ? 一応断ってから来たけどね」

「こちらに来た所で金は出せないぞ。貰った分しか金は無いからな」

「分かっていますよ、それにこっちの方が面白そうじゃないですか」

「まあいいわ、じゃあ霊峰に向かいましょう」

 リーゼ達は聖域の霊峰と呼ばれる山の、勇者の墓場に向かって行く。

 その山は神々が住まうとされ、聖域の霊峰と呼ばれている。
 この山の頂上付近には、勇者や英雄と呼ばれた人達は此処に埋葬されて、祭られていた。
 そここそが勇者の墓と言われる場所である。
 勇者が使ったとされる武器や防具等も一部、一緒に埋葬されているのであった。

「リーゼさん、よく考えたらこれって墓荒しですよね? やはり帰りましょう。先代の勇者様の墓を荒らすなんて罰が当たりますよ?!」

「今気づいたんですか? まあいいんじゃないの? そのまま腐らせておくより私が使った方が有用よ。マッドさん、付き合いたくなければ帰っても良いですよ」

「有用ですか……じゃあ昔の勇者様の武器を、リーゼさんが引き継ぐという王道展開で行きましょう!」

 マッドは何故か納得したようだった。

「人がいるな、如何するリーゼちゃん?」

 遠くて良く見えないが、墓守だろうか?
 赤い髪が見えたが良く見えなかった。
 見覚えがある水晶の剣を持っているが良く見えない。
 なんだか見覚えのある顔をしているが良く見えない。
 どうやらここは外れだったらしい。

「ハガン、ここは無理よ! 別の所に行きましょう!」

「あれはリサじゃないのか?」

 どうやらハガンに気づかれたらしい。
 だがリサにはこちらの事を気づかれてはいない。

「お知り合いですか? ではご挨拶を……」

「待って、あれに近づいては駄目よ。魔物が化けるのを見たわ。私が相手をするから、ここで待っていて……待っててね!」

「そうか? まあリーゼに任せるとしよう」

 リーゼの迫力に押され、三人は岩陰で待つ事にした。
 三人を待たせ、リーゼは知り合いのリサに歩いて行く。

「あらリーゼちゃん遅かったね、待ちくたびれちゃったわ」

「こんにちはリサさん、久しぶりですね。こんな所でどうしたんですか?」

「貴方達が武器を探しているから、ここに来ると思って待っていたの。所でハガンさんは何処?」

「ハガンは怪我をしたので町で寝ていますよ」

 ハガンは岩陰に隠れている。

「じゃあその町に案内してくれる?」

「良いですよ、ここから西にあるバザーの宿で寝ていますから、今から向かいましょうか」

 バザーはまだ行ったことがない。
 行く予定もまだない。

「あ、リサさん、何か落ちましたよ?」

「え?」

 リサが下を見ると、リーゼが鞘でリサの後頭部を殴り付けた。
 しかしリサが剣を頭の後ろに回し、防がれてしまう。

「甘いよリーゼちゃん。あれからもう油断しないと誓ったのよ!」

「バザーには行かせないわ! ハガンはそこには居ないからね」

 当然そこにハガンは居ない。
 リーゼが鞘の付いたままの剣を持ち、走って行く。

「あっ」

 石の上を踏み、転んでしまった。
 ……もちろんワザとだ。

「どうやら運が味方したようね、じゃあお先に……」

 リサは走って山を下りて行く。
 バザーに向かったのだろうか?
 向かう先は分からないが、とりあえず邪魔者は消えたらしい。

「ふう」

 リーゼは作戦が成功した事に一息つき、三人の隠れていた岩陰に向かい合流した。

「じゃあ行きましょう」

「リーゼ、お前リサの事は嫌いなのか?」

「別に嫌いじゃないわ、ただ邪魔なだけよ」

 リーゼはリサの事を本当に嫌ってはいない。
 ハガンと上手くいかれると邪魔になると思っているだけだった。
 そんな話を続ける四人に、何者かの影が迫る。
 リーゼの後ろから突然声が発せられた。

「あら、嬉しい。嫌われてるかと思っていたから」

 声の主はリサだった。
 バザーに向かう振りをしたのだろう。
 リーゼは笑顔を浮かべて、リサに向き直る。

「あらリサさん、バザーに行ったんじゃなかったんですか?」

「リーゼちゃんが、何時までも追って来なかったから怪しいと思ったのよ。目的は分かってるから一緒に行きましょうよ」

「う~んと、どうやら知り合いのようだね。俺はラフィールと言います、よろしくお願いしますよリサさん」

「私はマッドですよ。あっ、サインとかはいたしませんので、ご勘弁を」

「リサよ、よろしくお願いね」

 リーザは納得していなかったが、雰囲気的に納得せざるを得なかった。
 リサの合流を許すが、何か有ればまた置いて行こうと考えている。

「頂上が見えて来たわ、急ぎましょう」

 リーゼ達が山の頂上にあがると、そこにはただ使い古された剣が何本も刺さっていただけだった。
 使えそうな剣は……

「墓でもあるかと思ったらこれだけか? 殆ど錆びているようだが」

 風雨に曝らされて、ほとんどの剣が錆び付いている。

「リーゼちゃんこれはどうよ? 錆びちゃいないぜ」

 ラフィールが錆びていない剣を発見したらしい。
 見れば装飾のない細身の剣で、とても地味な物だった。

「この剣が錆びてなくても、使えなきゃ意味がないのよね。ちょっと試して見ましょうか」

 試してみようとリーゼが角の剣を抜き、その剣の刃を斬り付ける。

「いやあああああああああ!」

 裂帛の気合と共に剣を振るが、その剣は傷つかなかった。
 それどころか丸い結界が出現し、角の剣を弾いてしまう。
 余りに地味だったので、墓荒しにも狙われなかったのだろう。

「これは当たりだな。しかし誰が使う?」

「リーゼさん、片手をこの剣に変えてみてはどうですか?」

「大きさが違うからバランスが悪いわよ。それに大きいし、片手だと私じゃ扱えないわ」

 同じぐらいの大きさなら考えたが、この大きさでは片手で持つことは難しい。
 現状最強の攻撃力がある角の剣を手放す気は考えていなかった。

「私は無理よ。軽すぎて私には合わないね」

 リサも辞退した様だ。

 ハガンは剣を持つことが出来ないし、リーゼは角の剣がある。
 リサは黒水晶の剣、残りはマッドとラフィールだがマッドは剣を扱えない。

「誰も使わないなら俺が使うよ。何か使えそうだしね」

 ラフィールが立候補し、剣を引き抜いた。
 何度か剣を振り、使えそうだと判断すると自分の腰のベルトに抜き身で差した。

「他には無いよね? それじゃあ下山しましょうか」

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