一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

12 音楽が鳴り響く村

スズの村に到着した三人…………


ベリー・エル(王国、兵士)     フルール・フレーレ(王国、兵士)
カールソン(帝国新聞、平社員)   メフィス(バイオリン職人)
ラプラース(メフィスのライバル)


 スズの村。
 鈴の音色が鳴り響き、音楽が盛んな村。
 たえず何かしらの楽器の音が、辺りから聞こえてきている。

「素敵な所じゃないのー、音楽が盛んなのね」

 フレーレさんが村の中を見回している。

「ええ、この村は楽器を作るので有名なんですよ。魔物さえ居なければ、帝国でも旅行先として人気が出そうですが、今の状況では難しいでしょうね」

 確かに楽しそうな音楽が、辺りから聞こえてきます。
 村だと言うのに、かなりの人数が見受けられますね。
 この村で作られた楽器を求めて、来る人も多いのでしょう。

「でも有名になったのは最近なんですよ? なんでもバイオリンの天才職人が現れたとか」

「へー、そうなのねー? 私もその人に会ってみたいわー、エルちゃんもそう思うでしょー?」

 私は首を縦に振り、それを肯定した。
 ええ、フレーレさん、私も会って見たいです。

「その店はこの近くですよ。ほら、あそこです」

 カールソンさんの指の先に、店はバイオリンの形をした看板が掲げられていた。
 その店の入り口には、大勢の客が押し寄せている。
 老若男女色々な人がぎゅうぎゅう詰めになっていて、店の中は見えない。
 これはちょっと無理なんじゃないでしょうか。

「仕方ないわね、諦めましょうか」

 確かに、あんな中に入るのはごめんです。
 私は頷き、村をでようとするのだけど、女の人が近寄ってきている。

「あの、旅の人ですよね? その馬車帝国の刻印が刻んであるし。そんな所から来られるなんて、貴方達はさぞ強いんでしょ?」

 誰でしょうかこの人は?
 この女の人が誰かは知りませんが、何か目的があって私達に接触してきたんでしょうか?
 村の人にしてはかなり綺麗な格好をしている二十歳ぐらいの女性でしょう。
 この村が儲かっているからそんな恰好ができるのかもしれません。
 天才職人のおかげでしょうね。 

「実はその、お願いがあるんですが、聞いては貰えないでしょうか?」

「あー、今別の依頼中だから無理ですよー」

 確かに任務中ですが、話ぐらい聞いてあげても良いんじゃないですか?

「も、もしお話を聞いて貰えるのなら。わ、私の純潔を捧げてもいいです!」

 大胆な事を言う人だ。
 カールソンさんなら、簡単に引き受けそうですが。

「引き受けましょう、私が解決して見せますよ」

 ほらやっぱり。

「いえ、いりません」
 
 女の人にきっぱり断られたカールソンさん。
 その人はがフレーレさんに寄って行きますよ。
 もしかしてフレーレさんに純潔を捧げるんですか?
 女同士の禁断の愛ですね。

「私はそんな趣味無いので、他いってねー」

「お話だけでも、是非お願いします!」

 何でこんなにしつこいんでしょうか?
 私達の他にも旅人は周りに沢山居るのに。

「分かったからー、ローブを引っ張らないで。でも引き受けるかは話を聞いてからね?」

 私達は村のカフェに誘われ、テーブルに着いた。
 適当にジュース類を頼んで自己紹介を済ませ、彼女の名前を教えて貰った。
 この女の人の名前は、ラプラースと言うらしい。
 そして何かの説明が行われるのですけど……

「これを見てください」

「バイオリンね?」

「バイオリンですね」

 何の変哲も無いバイオリンです。
 値段が高かったりもするんでしょうか?

「実はこのバイオリン、動くんです。ちょっと見ていてください」

 ラプラースがバイオリンの裏を三回叩くと、テーブルの上のバイオリンが、スィーと移動した。

「これが何ー?」

 なかなか面白い手品ですね。

「え~っと、手品を見て貰いたかったんですかね?」

「いえ違うんです。これは手品では無くて、誰にでもできるんですよ」

 私は試しにバイオリンを持ち、裏を三回叩くと、同じようにバイオリンが移動した。
 手品じゃないとすると、そんな仕掛けが最初からついてるのでしょうか?
 意味が分からない。
 それがついてるから値段が高いとか?

「実はこのバイオリン、魔族が仕掛けた罠なんじゃないかと思っているんですよ。じゃないと私の楽器達が、あの男に負けるはず無いですもの」

 魔族とは、私達の別称ですね。
 私は納得していません。
 この体になってそんな呼ばれ方をするのは不本意です。
 それにそんな作戦が実行されているなんて、私は一度も聞いた事もありませんよ。
 ラプラースさんは、天才職人さんを敵視して、変な噂でもながそうとしているのでしょうか?

「皆さんには、このバイオリンの材料を調べて欲しいのです! きっと何か陰謀が蠢いているはずですから!」

 がっしり手を握られて、フレーレさんが嫌がっている。
 でも下手にフォローして、私まで目を付けられては困るので、ここはフレーレさんに任せましょう。

「怪しいことはもう一つあるんです。バイオリンを買った人達が、真夜中に集まって何かをしているらしいのです! とても怪しいと思いませんか?!」

 動くバイオリンと、夜中に集まった人達ですか。
 なんでしょうかこれは?
 ひっそりお祭りの準備でもしてるんじゃないですかね?

「ラプラースさん、私ならいくらでもお助け致しますよ!」

 カールソンさんは張り切ってるみたいです。

「仕方ありませんね、貴方には特別に私の靴下を差し上げます。それ以上はあげません」

 ラプラースさん、男の人には厳しいです。
 靴下とか誰がやるんでしょうか。

「急ぎましょうお二人共。ご婦人を助けるのは男の務めですので!」

 ……靴下でいいんですかカールソンさん?
 正直引きますよ。

「もう、カールソンさんが受けたら私達もやらないといけないでしょー。う~ん、どうしようかエルちゃん」

 私達だけで進む訳にもいかないし、やらなきゃしょうがないでしょう。

「……やりま……しょう」

「エルちゃんが受けるのなら私も文句はないわー」

「ありがとう御座いますお姉さま!」

 ラプラースさんはフレーレさんの手をガッと掴み、掴まれたフレーレさんは若干引いていますね。
 こういうのは、なれていないのでしょう。
 受けたのはいいのですけど、どうしましょうか?
 まずはバイオリン職人さんの情報集めですかね?

 私達はその情報を集めようと、店に行ってみたのですが、労せずに簡単に集まりました。
 流石に有名人ですね。
 名前はメフィスという男で、右利き、左目の下のホクロがチャームポイントらしいです。
 好きな物は鳥の照り焼き、最近は料理にも挑戦しているとか。
 今言ったことは、全部が店の外のパンフレットに全て書いてありました。
 なかなか目立ちたがり屋なようですね。

 一応私達は人をかき分け、店の中に侵入しましたけど、メフィス本人は見当たらないです。
 中に居たのは、客を捌く店番の人が要るだけでした。

 私達は夜になるのを待って、人が居なくなる頃。
 店を見上げると、二階の明かりが見えています。
 あの場所にメフィスが居るのかも知れません。

 カールソンさんを地上に放って置いて、私はフレーレさんを掴んで二階へと飛び上がる。
 この依頼に時間を掛けたくはないです。
 このまま二階に乗り込みますよ。

 鍵も掛けられていない窓をバンと開き、私達は二階へと侵入した。

「な、なんですか貴方達。まさか泥棒ですか?」

「ある人に依頼されたんですよー。貴方が何か卑怯な方法で楽器を作ってるんじゃないのかって」

「ラプラースですか……僕と彼女の仲を引き裂こうとしているのですね。そんな事はさせません
 よ!」

 彼女の仲、彼女とは誰の事なのだろう?
 一度話を聞いてみたい。
 近づこうとしても、メフィスさんは手元にあった仕事道具を次々と投げて来ている。
 彫刻刀とか投げられると、結構危ないですよ。
 下手な所に当たったら、普通に死んでしまいます。
 仕事道具は大切にした方がいいですって。

 フレーレさんが投げて来る物を腕で弾きながら、メフィスの前へと進んで行く。
 そこでちょっとだけ不幸な事が起きてしまいました。
 自分の手で弾いた木製のトンカチが、壁に跳ね返ってフレーレさんの頭に……

「駄目……です……よ」

「大丈夫、手加減するからッ!」

 フレーレさんは瞬時に踏み込み、メフィスさんの目の前に出現する。
 軽く指を弾き額に当てると、メフィスさんは白目をむき、その場でパタリと倒れこんでしまう。
 う~ん、手加減したのは分かりますが、ちょとやりすぎですよ。

 私はメフィスさんのほっぺを叩き、起きるのを待っている。

「あ、やっと起きたわー。じゃあ話をしましょうね」

「ひぃぃ、助けてくださいぃぃぃぃ……」

 メフィスさん、かなり怯えていますね。
 まあ、あんな事があれば仕方がないでしょう。

「喋ってくれるのなら、私達は何もしないわよー?」

 丁寧に対応した私達に、メフィスさんは事情を話してくれました。

「実は……僕は昔ラプラースと付き合っていたんです。そして三年が経ち、私は出会ってしまったのです。運命の相手に」

「つまりー、浮気したのね?」

「違います浮気ではないです。僕は本気なのです!」

 それはもっと悪いんじゃないですか?
 フレーレさん、この男に手加減は必要無かったです。

「それはまあいいわー。私達の依頼は、貴方の使っている楽器の素材を調べて欲しいってことなのよね」

「彼女の居場所は教えないぞッ!」

「???」

「なんで素材の事を言ってるのにー、彼女が出て来るのかしらー?」

「ほ、僕は彼女の体を使って、楽器を作っているんだ」

 勿論人間は木にはならない。
 彼女とはキメラの事なのでしょう。
 キメラを彼女にしてしまうとは、この男はよっぽど変わった趣味をしているのですね。

「貴方知ってるの? 作った楽器を買った人達が、真夜中に何処かに連れ去られてるってこと」

 先ほど依頼を受けたばかりで、私達が実際確認した訳では無いですけどね。
 まあハッタリです。

「そんなはずはない。彼女は人を襲ったりはしないんだ! 今までだって彼女の元に人が集まったけど、直ぐに戻って行ったんだッ!」

 人を操る事が出来るなら、戻って行った後にも、また集める事も出来るはず。
 この人は利用されているんじゃ?

「何でもいいから、その彼女の居場所を教えなさーい。このままじゃ犠牲者が増えて行くでしょー」

「駄目です! 絶対に教えません!」

 ここに来たのは、真夜中まで時間があるからです。
 メフィスさんに聞かなくても、集められる人を追って行けば、その目的地に到着出来ますよ。

「ぼ、暴力で脅したって無駄ですからね!」

「こんなに頑固じゃ仕方ないわねー。それじゃあ帰りましょうかエルちゃん」

 私は頷(うなず)き、外に出ると、人が集まる真夜中を待った。
 ラプラースさんが言った通りに広場に人が集まり、町の外へと歩いていきます。

 キメラが徘徊する町の外に、普通夜中に出歩く人はまず居ないはずです。
 人数は結構いるので、警戒して襲って来ないかもしれませんが。

「行きましょうか、エルちゃん」

「……うん」

 ちなみにカールソンさんは眠ってしまいました。
 まあ邪魔でしたけどね。

 後をつけて行った私達は、目的地に到着し、その場には大きな木が生えていた。
 こんな物があったなら、村に入る前に気づいたはずなのですが……
 動いたのか、それとも土の中にでも潜っていたのかな?

「貴方達やっぱり来ましたね! 絶対彼女は殺させませんよ!」

「メフィスさん、あれを見てもまだそんな事を言っているの?」

 フレーレさんが指さした先には、集められた人達が地面に引きずり込まれている光景でした。
 この光景を見て、メフィスさんは何を思ったのでしょう。

「ち、違います! これは彼女がやったんじゃありませんッ! きっと何かの間違いなんです!」

「間違いで人が死ぬのね? その彼女が集めた人達が、彼女の目の前で地面に沈んでいるのに?」

「……どいて……邪魔」

 メフィスさんを退かすが、抵抗は見せずその場に項垂れていた。
 私は大木の元に走り、急ぎ大木を斬り付ける。
 剣から拭きあがる炎で、大木から炎が上がり、恐ろしい悲鳴が聞こえた。

 よく見ると、大木から人の上半身の様な物が生えていました。
 でも、もうそれも炎に包まれて、完全に燃え上がっている。

「レイゼリア!」

 それを見たメフィスさんは、炎に躊躇わずに走って行く。

「止まらないと危ないわよ!」

「…………!」

 私達の制止も聞かず、メフィスさんは燃える木の魔物に抱きつきついた。
 その木もまた枝が彼の体を抱いた気がした。
 燃えた体が縮み、そうなった偶然かもしれない。
 枝を燃やす炎は、メフィスの体を容赦なく焼いている。
 助けようにも、もう間に合わない。
 もう終わりを見届けるしか方法はないでしょう。

「後味が悪いけど、一応事件は解決なのかしらー?」

 一人と一体そこに本当の愛があったのかは分からないけど、人を殺しているのは確かです。
 依頼内容とは少し違いますけど、これで行方不明者はいなくなるでしょう。
 あ、そうだ、土に埋まった人達を助けないと不味いです!
 急ぎましょうフレーレさん!

 急ぎ地面に沈み込んだ人達をは救出し、全員助け出す事が出来た。
 一つだけ気になった事があった。
 大木がメフィスさんを発見した時、ほんの少し人を沈み込ませる速度が落ちた気がする。
 もしかしたら、自分が人を食べている所を見られたくなかったのかもしれませんね。

「そうですか……メフィスは死んだんですね」

 次の日、私達はラプラースさんに、詳しい詳細を報告した。
 そのことにラプラースさんが、かなり落ち込んでいます。
 本当はまだ愛していて、大木から離れさせたかったのかもしれません。
 深読みですかね……
 しかし天才と言われた彼が居なくなり、今後この村はどうなって行くのでしょうか。

 きっと時間が立たないと、誰にも分からないのでしょうね。

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