一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
6 王道を行く者達10
戦争から十七年後の世界、大型船から脱出し小型ボートが流されてしまった…………
リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭) ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リーゼ達は大型船から脱出し、小型ボートで何処とも知れない島へと流された。
あの船から生き残ったのは、他のボートに乗った者を含めて、計二十二人が生き残っている。
島の浜辺のある場所に運よく到着したが、大型船の船長だったガットンだけは、船を失って落ち込んでいる。
まだこの島には人の気配を感じられない。
見えるのは、ボートが到着した海岸の近くに、人の手が入っていないと思われる深い森だけである。
ハガンは海を見回しているが、まだ手掛かりはなさそうだった。
「助かったのは良いが、何処なんだ此処は?」
「無人島かしら? とりあえず食料と水を確保しないとね」
ほとんどの荷物は船と共に沈み、手持ちは武器ぐらいしか持ってはいない。
そんな状態であれ、他の傭兵達も逞しく、それぞれに島を探索しだしている。
マッドは残りの旅行者の相談や、傷の手当を続けていて、ここに置いて行く方がいいだろう。
「おいマッド、暇になってからでいい、安全な場所だけでいいから、皆に魚や海藻、兎に角食えそうな物を探して貰ってくれ」
稀に毒を持つ魚やカニ等もいるが、最悪は一度食って、マッドに回復魔法を掛けてもらえば何とかなるかもしれないと思っていた。
やるにしても、一度マッドに相談してからになるだろう。
あとはボートの事である。
島を脱出する為に、乗って来たボートが流されたらどうにもならない。
「それとボートは、満ち潮になっても流されない様にしておいてくれ」
「分かりました、任せてください」
マッドを海岸に待たせて、リーゼとハガンが、島を探索を始めようとしていた。
「さて海岸沿いか、それとも森を行くか、どっちに行く?」
「う~ん海岸かなぁ、川とかあれば分かるし」
川を見つければ、水の確保が出来るかもしれない。
そして川沿いに森に入れば、簡単に迷う事もないだろう。
この島に川が有ればの話だが。
海岸を周って行けば、この島の大きさも知る事ができる。
もし見える範囲に別の陸地が見えたなら、この島に居る全員が希望も持てるだろう。
逆に森の中は、果物や野生動物等がとれるかもしれない。
だが中には、凶暴なキメラや毒虫、野生動物であっても危険な奴も居るだろう。
「良し、まず海岸沿いを回るぞ」
「そうね、この島の状況を知るのもいいわよね」
海岸を進み始める二人だが、予想は当たり、五キロを過ぎた辺りで川を発見出来た。
水も澄んでいて、一度沸騰でもすれば安全に飲めそうだ。
リーゼとマッドが火を扱えるので、何か道具があれば、簡単に沸騰させて飲めるだろう。
「川は逃げないわ、もう少し海岸沿いに行ってみましょうよ」
「そうだな」
二人が先に進むと、ゴツゴツした岩場があり、更に先には高い崖となっていた。
崖の上に行くには、少し戻れば森から上がって行けそうだ。
まだ夜まで時間があり、二人は崖の上までは行ってみるることにした。
崖に進む道は森にはなく、リーゼの剣を使い、少しずつ切り開いて行く。
崖の上に到着した二人は、海を見回した。
その海の向こうには、どこかの陸地が見えている。
「陸が見えるわ、あのボートで行けるかしら?」
「見えたは良いが、少し遠いな。あのボートではキツイだろう」
確かに遠くに陸が見えた。
だが海は波打ち、何キロも手漕ぎボートで進むのは、ほとんど不可能に近い。
なれない二人がオールを漕いだとしても、八割方潮に流され海に漂流するだろう。
そして魔物の襲撃でもあれば、かなりの苦戦を強いられる。
仮にボートをひっくり返されれば、リーゼ達に勝ち目はない。
なるべくボートを使うのは、最後の手段にしたかった。
「一度皆の所に戻って報告するか」
「そうね、まだ慌てる時間じゃないし」
リーゼ達が来た道を戻って行く。
川まで戻ると、その場には何人かが休憩している。
進展を聞くが、特にないらしい。
二人は漂流場所に戻る事を告げると、マッドのいる場所まで帰って行く。
日も落ち、そろそろ夜が来る。
その海岸では、魚が焼ける良い匂いが漂っていた。
火を焚いて、マッド達が魚を焼いていたのだ。
魚は捕れた様だが、小さくて人数分には程遠い。
「おかえりなさい、どうでしたか? 何か見つけました?」
「川を見つけたわ、水はなんとかなりそうよ」
こうなると、それぞれに別れた傭兵達に期待したかった。
夜動く訳にもいかず、残りのメンバーの帰りを待っている。
見張りをしながら待っていると、傭兵達が少しずつ帰って来ていた。
得物は期待したほどでは無かったが、全員が食える程度にはなっている。
夜は冷え、焚火を絶やす事が出来ずに、交代で火の番をしている。
二人は夜の内に、傭兵達と情報の交換をし、この島の情報を得た。
見回った範囲では、海岸の周りには、川以外は無かったらしい。
リーゼ達は、この場では水をくむのも大変だと、川の近くへ拠点の移動を提案し、全員がそれに納得した。
全員が起きた朝移動する事になり、ボートをそのままにして置けずに、皆で運ぶ事になる。
ボートは大人数で運ぶ事になったが、それでもかなりの重労働だった。
そしてこれから森に入り、本格的な調査が開始されようとしている。
傭兵の一人がハガン達のチームに加わり、三人として行動することになった。
名をラフィールと言い、ガットンの試験でリーゼと戦った強い男だ。
金髪で青い瞳の童顔で、歳は二十三だと言っている。
「じゃあ川沿いを行きましょう。それなら迷わないし」
「よし行くぞ」
「オーケーだよリーゼちゃん」
川沿いを歩き、川の中を覗くと、魚が沢山泳いでいる。
これを食えば、まだ食料は気にしなくても良さそうだ。
平和に見える川沿いの道だが、ラフィールは油断してないらしい。
周りを細かく見回し、気配を探っている。
彼には風系統の魔法が使えると聞いていた。
思った方向に、強い風を吹かせる事が出来るらしい。
冒険者に金を払い、その魔法を無理に教えて貰ったそうだ。
機会が有ればリーゼも教えて貰いたがっている。
川を進み、今の所危険な動物や魔物には出会っていなかった。
森の中には、人の手が入った場所も見当たらない。
この島は、完全に無人島なのだろう。
「リーゼちゃん、あそこに洞窟が見えるよ」
「え? どこです?」
ラフィールの呼びかけで、リーゼはそちらを振り向いた。
川の反対側は森で、奥までハッキリとは見えないが、何か黒い影が見えている。
リーゼが目を凝らしても、それが洞窟なのかハッキリとは分からない。
これを洞窟と分かるとなるとは、ラフィールは余程目が良いのだろう。
それとも罠にはめようとして居るのだろうか。
大型船が敵に襲われたのも、漂流者を見つけたからだ。
ボートで脱出し、この島に流されたのも偶然、昨日の内に罠を仕掛けたとも考えられなかった。
ただの偶然が重なっただけで、この島の事を計算できないはずである。
信用しても良いだろう。
「お前よくあれが洞窟だと分かるな」
「俺、目は良いんですよ。それに何となく、あそこから敵の匂いがしたんでね」
何か潜んでいそうな気配はある。
だが敵の腹の中に入るのはまだ早く、他にも何かあるかもしれないと、近くにある木に目印を残して川の上流へと進んだ。
川の源流に辿り着くと、崖に囲まれた少し広い広場に出た。
中心に大きな木が一本あり、その下の岩から水が湧き出ている。
「見て、果物が生ってるわ。これ食べれそうよ」
中心の木には何もなかったが、周りに点々と生えた木に、柑橘類と思われる果実が生っている。
他にも野苺や、見た事がある食えそうな草等も見られた。
その一つを掴み、ラフィールは躊躇いなくそれを口に運ぶ。
「はぐッ、ちょっと酸っぱいけど美味い。リーゼちゃんも一つ食っといたら?」
「そうね、頂くわ」
リーゼとハガン、それぞれ一つ腹に入れ、戦いの準備を終えた。
剣を構え、敵を待つ。
この場はあり得ない場所なのだ。
鳥の声もなく、動物も見当たらず、果物の木だけが生えている。
つまりここが何かの狩場となっているのだ。
敵の気配はまだなく、三人は広場の出口へと、ゆっくりと歩いて行く。
出口まで進み、敵が偶々いなかったと思い、警戒を解こうとした三人。
だが敵はそれを待っていたかのように高い空より現れた。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
現れたのは、大きな翼を持つ獅子である。
ただし、その翼は背中ではなく、腕の部分から生えている。
その翼にも爪が生えていて、引っかかれたなら大変な事になるだろう。
この魔物は、柑橘系の匂いの付いた者を、自分の得物としているのかもしれない。
「来るぞッ!」
獅子が滑空し、その鋭い牙で襲い来る。
リーゼ達の間をすり抜け、近くにあった木の幹にしがみ付くと、角度を変えて再び向かって来た。
一人たりとも逃がす気がないのだろう。
「ラフィールッ! お前の魔法でアレを落とせないか!」
「やってみます! ……風よッ標的を吹き飛ばせッ!」
ラフィールのその言葉自体が、魔法ワードとなっていた。
その魔法により、獅子に暴風が吹きつけられる。
一瞬グラリとふら付くが、獅子は直ぐ体制を立て直してしまう。
「くそッ、駄目か。もう一度だ……風よッ……」
「彼奴が来るわ、避けてッ」
獅子の脚が、ラフィールの肩当にぶつかり、吹き飛ばされた。
「うわっ、あぶねぇ」
大したことはなさそうだが、ラフィールを失っては勝率が薄くなる。
まずは獅子を空から降ろさなければ、リーゼ達に勝ち目はない。
「援護するわ! ……ファイヤーッ!」
獅子の翼に当たり、羽毛が燃えている。
しかし、その程度では敵は怯まない。
「リーゼちゃん、もう一度だッ!」
リーゼが敵の翼を狙い、もう一度魔法を放つ。
「ファイヤーッ!」
炎が獅子に向かっていく。
「風よッ!標的に吹けッ!」
ラフィールが狙ったのは、リーゼの放った炎だ。
風が炎に当たると、炎が更に巨大となり、獅子の翼に直撃した。
バゴオオオオオオオオオオオオオン!
獅子の翼が燃え上がり、バランスを崩して落下してくる。
だが獅子は猫の様に体を捻ると、着地の体制を取った。
地面までは距離があり、タイミングが良ければ攻撃を与えられる。
「リーゼ行くぞ、狙うなら今だ!」
「風よッ吹き付けろッ!」
ラフィールの魔法で、三人の後ろから追い風が吹く。
武器を構えたリーゼ達が、獅子に向かって走りだす。
風の影響で体が軽く、これなら敵の着地に間に合うだろう。
「行くぞおおおおおおおッ!」
「おぅらあああああああッ!」
リーゼとラフィールが、獅子の着地する脚を狙った。
ザシュっと前足を斬り裂かれた獅子は、着地する事が出来ず、頭を地面に叩きつけられた。
ハガンが跳び、脚に隠してある刃を獅子の頭に押し込むと、獅子は命を奪われた。
「やったわね。 ……ねぇハガン、この魔物って食べれるのかしら?」
「知らん、魔物を食う奴は居ないだろ」
「いやでも食料足りないし、持って行っても良いんじゃないですか?」
食えるかどうか別として、このまま放って置けば腐るだろう。
まずは獅子を解体して、一度焼いてみることにした。
全ては持って行けず、腕の二本を拠点まで運んで行く。
「マッド、土産だ。食ってみろ」
マッドが迷わず食いつき、感想を述べる。
「おお、これは美味いですね、何の肉なんですか?」
「鳥だ」
「なるほど鳥ですね。でも鳥と言うには、なんか歯ごたえが微妙に違うような?」
後でラフィールが笑っていた。
リーゼ(赤髪の勇者?) ハガン(リーゼの父親)
マッド(元司祭) ラフィール(ガットンの雇った護衛の一人)
リーゼ達は大型船から脱出し、小型ボートで何処とも知れない島へと流された。
あの船から生き残ったのは、他のボートに乗った者を含めて、計二十二人が生き残っている。
島の浜辺のある場所に運よく到着したが、大型船の船長だったガットンだけは、船を失って落ち込んでいる。
まだこの島には人の気配を感じられない。
見えるのは、ボートが到着した海岸の近くに、人の手が入っていないと思われる深い森だけである。
ハガンは海を見回しているが、まだ手掛かりはなさそうだった。
「助かったのは良いが、何処なんだ此処は?」
「無人島かしら? とりあえず食料と水を確保しないとね」
ほとんどの荷物は船と共に沈み、手持ちは武器ぐらいしか持ってはいない。
そんな状態であれ、他の傭兵達も逞しく、それぞれに島を探索しだしている。
マッドは残りの旅行者の相談や、傷の手当を続けていて、ここに置いて行く方がいいだろう。
「おいマッド、暇になってからでいい、安全な場所だけでいいから、皆に魚や海藻、兎に角食えそうな物を探して貰ってくれ」
稀に毒を持つ魚やカニ等もいるが、最悪は一度食って、マッドに回復魔法を掛けてもらえば何とかなるかもしれないと思っていた。
やるにしても、一度マッドに相談してからになるだろう。
あとはボートの事である。
島を脱出する為に、乗って来たボートが流されたらどうにもならない。
「それとボートは、満ち潮になっても流されない様にしておいてくれ」
「分かりました、任せてください」
マッドを海岸に待たせて、リーゼとハガンが、島を探索を始めようとしていた。
「さて海岸沿いか、それとも森を行くか、どっちに行く?」
「う~ん海岸かなぁ、川とかあれば分かるし」
川を見つければ、水の確保が出来るかもしれない。
そして川沿いに森に入れば、簡単に迷う事もないだろう。
この島に川が有ればの話だが。
海岸を周って行けば、この島の大きさも知る事ができる。
もし見える範囲に別の陸地が見えたなら、この島に居る全員が希望も持てるだろう。
逆に森の中は、果物や野生動物等がとれるかもしれない。
だが中には、凶暴なキメラや毒虫、野生動物であっても危険な奴も居るだろう。
「良し、まず海岸沿いを回るぞ」
「そうね、この島の状況を知るのもいいわよね」
海岸を進み始める二人だが、予想は当たり、五キロを過ぎた辺りで川を発見出来た。
水も澄んでいて、一度沸騰でもすれば安全に飲めそうだ。
リーゼとマッドが火を扱えるので、何か道具があれば、簡単に沸騰させて飲めるだろう。
「川は逃げないわ、もう少し海岸沿いに行ってみましょうよ」
「そうだな」
二人が先に進むと、ゴツゴツした岩場があり、更に先には高い崖となっていた。
崖の上に行くには、少し戻れば森から上がって行けそうだ。
まだ夜まで時間があり、二人は崖の上までは行ってみるることにした。
崖に進む道は森にはなく、リーゼの剣を使い、少しずつ切り開いて行く。
崖の上に到着した二人は、海を見回した。
その海の向こうには、どこかの陸地が見えている。
「陸が見えるわ、あのボートで行けるかしら?」
「見えたは良いが、少し遠いな。あのボートではキツイだろう」
確かに遠くに陸が見えた。
だが海は波打ち、何キロも手漕ぎボートで進むのは、ほとんど不可能に近い。
なれない二人がオールを漕いだとしても、八割方潮に流され海に漂流するだろう。
そして魔物の襲撃でもあれば、かなりの苦戦を強いられる。
仮にボートをひっくり返されれば、リーゼ達に勝ち目はない。
なるべくボートを使うのは、最後の手段にしたかった。
「一度皆の所に戻って報告するか」
「そうね、まだ慌てる時間じゃないし」
リーゼ達が来た道を戻って行く。
川まで戻ると、その場には何人かが休憩している。
進展を聞くが、特にないらしい。
二人は漂流場所に戻る事を告げると、マッドのいる場所まで帰って行く。
日も落ち、そろそろ夜が来る。
その海岸では、魚が焼ける良い匂いが漂っていた。
火を焚いて、マッド達が魚を焼いていたのだ。
魚は捕れた様だが、小さくて人数分には程遠い。
「おかえりなさい、どうでしたか? 何か見つけました?」
「川を見つけたわ、水はなんとかなりそうよ」
こうなると、それぞれに別れた傭兵達に期待したかった。
夜動く訳にもいかず、残りのメンバーの帰りを待っている。
見張りをしながら待っていると、傭兵達が少しずつ帰って来ていた。
得物は期待したほどでは無かったが、全員が食える程度にはなっている。
夜は冷え、焚火を絶やす事が出来ずに、交代で火の番をしている。
二人は夜の内に、傭兵達と情報の交換をし、この島の情報を得た。
見回った範囲では、海岸の周りには、川以外は無かったらしい。
リーゼ達は、この場では水をくむのも大変だと、川の近くへ拠点の移動を提案し、全員がそれに納得した。
全員が起きた朝移動する事になり、ボートをそのままにして置けずに、皆で運ぶ事になる。
ボートは大人数で運ぶ事になったが、それでもかなりの重労働だった。
そしてこれから森に入り、本格的な調査が開始されようとしている。
傭兵の一人がハガン達のチームに加わり、三人として行動することになった。
名をラフィールと言い、ガットンの試験でリーゼと戦った強い男だ。
金髪で青い瞳の童顔で、歳は二十三だと言っている。
「じゃあ川沿いを行きましょう。それなら迷わないし」
「よし行くぞ」
「オーケーだよリーゼちゃん」
川沿いを歩き、川の中を覗くと、魚が沢山泳いでいる。
これを食えば、まだ食料は気にしなくても良さそうだ。
平和に見える川沿いの道だが、ラフィールは油断してないらしい。
周りを細かく見回し、気配を探っている。
彼には風系統の魔法が使えると聞いていた。
思った方向に、強い風を吹かせる事が出来るらしい。
冒険者に金を払い、その魔法を無理に教えて貰ったそうだ。
機会が有ればリーゼも教えて貰いたがっている。
川を進み、今の所危険な動物や魔物には出会っていなかった。
森の中には、人の手が入った場所も見当たらない。
この島は、完全に無人島なのだろう。
「リーゼちゃん、あそこに洞窟が見えるよ」
「え? どこです?」
ラフィールの呼びかけで、リーゼはそちらを振り向いた。
川の反対側は森で、奥までハッキリとは見えないが、何か黒い影が見えている。
リーゼが目を凝らしても、それが洞窟なのかハッキリとは分からない。
これを洞窟と分かるとなるとは、ラフィールは余程目が良いのだろう。
それとも罠にはめようとして居るのだろうか。
大型船が敵に襲われたのも、漂流者を見つけたからだ。
ボートで脱出し、この島に流されたのも偶然、昨日の内に罠を仕掛けたとも考えられなかった。
ただの偶然が重なっただけで、この島の事を計算できないはずである。
信用しても良いだろう。
「お前よくあれが洞窟だと分かるな」
「俺、目は良いんですよ。それに何となく、あそこから敵の匂いがしたんでね」
何か潜んでいそうな気配はある。
だが敵の腹の中に入るのはまだ早く、他にも何かあるかもしれないと、近くにある木に目印を残して川の上流へと進んだ。
川の源流に辿り着くと、崖に囲まれた少し広い広場に出た。
中心に大きな木が一本あり、その下の岩から水が湧き出ている。
「見て、果物が生ってるわ。これ食べれそうよ」
中心の木には何もなかったが、周りに点々と生えた木に、柑橘類と思われる果実が生っている。
他にも野苺や、見た事がある食えそうな草等も見られた。
その一つを掴み、ラフィールは躊躇いなくそれを口に運ぶ。
「はぐッ、ちょっと酸っぱいけど美味い。リーゼちゃんも一つ食っといたら?」
「そうね、頂くわ」
リーゼとハガン、それぞれ一つ腹に入れ、戦いの準備を終えた。
剣を構え、敵を待つ。
この場はあり得ない場所なのだ。
鳥の声もなく、動物も見当たらず、果物の木だけが生えている。
つまりここが何かの狩場となっているのだ。
敵の気配はまだなく、三人は広場の出口へと、ゆっくりと歩いて行く。
出口まで進み、敵が偶々いなかったと思い、警戒を解こうとした三人。
だが敵はそれを待っていたかのように高い空より現れた。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
現れたのは、大きな翼を持つ獅子である。
ただし、その翼は背中ではなく、腕の部分から生えている。
その翼にも爪が生えていて、引っかかれたなら大変な事になるだろう。
この魔物は、柑橘系の匂いの付いた者を、自分の得物としているのかもしれない。
「来るぞッ!」
獅子が滑空し、その鋭い牙で襲い来る。
リーゼ達の間をすり抜け、近くにあった木の幹にしがみ付くと、角度を変えて再び向かって来た。
一人たりとも逃がす気がないのだろう。
「ラフィールッ! お前の魔法でアレを落とせないか!」
「やってみます! ……風よッ標的を吹き飛ばせッ!」
ラフィールのその言葉自体が、魔法ワードとなっていた。
その魔法により、獅子に暴風が吹きつけられる。
一瞬グラリとふら付くが、獅子は直ぐ体制を立て直してしまう。
「くそッ、駄目か。もう一度だ……風よッ……」
「彼奴が来るわ、避けてッ」
獅子の脚が、ラフィールの肩当にぶつかり、吹き飛ばされた。
「うわっ、あぶねぇ」
大したことはなさそうだが、ラフィールを失っては勝率が薄くなる。
まずは獅子を空から降ろさなければ、リーゼ達に勝ち目はない。
「援護するわ! ……ファイヤーッ!」
獅子の翼に当たり、羽毛が燃えている。
しかし、その程度では敵は怯まない。
「リーゼちゃん、もう一度だッ!」
リーゼが敵の翼を狙い、もう一度魔法を放つ。
「ファイヤーッ!」
炎が獅子に向かっていく。
「風よッ!標的に吹けッ!」
ラフィールが狙ったのは、リーゼの放った炎だ。
風が炎に当たると、炎が更に巨大となり、獅子の翼に直撃した。
バゴオオオオオオオオオオオオオン!
獅子の翼が燃え上がり、バランスを崩して落下してくる。
だが獅子は猫の様に体を捻ると、着地の体制を取った。
地面までは距離があり、タイミングが良ければ攻撃を与えられる。
「リーゼ行くぞ、狙うなら今だ!」
「風よッ吹き付けろッ!」
ラフィールの魔法で、三人の後ろから追い風が吹く。
武器を構えたリーゼ達が、獅子に向かって走りだす。
風の影響で体が軽く、これなら敵の着地に間に合うだろう。
「行くぞおおおおおおおッ!」
「おぅらあああああああッ!」
リーゼとラフィールが、獅子の着地する脚を狙った。
ザシュっと前足を斬り裂かれた獅子は、着地する事が出来ず、頭を地面に叩きつけられた。
ハガンが跳び、脚に隠してある刃を獅子の頭に押し込むと、獅子は命を奪われた。
「やったわね。 ……ねぇハガン、この魔物って食べれるのかしら?」
「知らん、魔物を食う奴は居ないだろ」
「いやでも食料足りないし、持って行っても良いんじゃないですか?」
食えるかどうか別として、このまま放って置けば腐るだろう。
まずは獅子を解体して、一度焼いてみることにした。
全ては持って行けず、腕の二本を拠点まで運んで行く。
「マッド、土産だ。食ってみろ」
マッドが迷わず食いつき、感想を述べる。
「おお、これは美味いですね、何の肉なんですか?」
「鳥だ」
「なるほど鳥ですね。でも鳥と言うには、なんか歯ごたえが微妙に違うような?」
後でラフィールが笑っていた。
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