一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

5 カールソンさんとブリガンテの国

ブリガンテに到着した三人…………


ベリー・エル(王国、兵士)     フルール・フレーレ(王国、兵士)
カールソン(帝国新聞、平社員)


 ブリガンテ武国は武術が盛んな国。
 道行く人も武器を持っている者が多く、最近では王国と同盟を結び、人ではない姿の者もチラホラ見かけるらしい。
 今私達は積み荷の補充をして、次の町に進もうと用意している。

「それじゃあ皆さん、食料を補充して、先に急ぎましょう!」

 私達はこの国に無事到着し、食料を買い出しに行こうとした時。
 
「た、助けてください、悪い人達に追われているんです!」

 誰かに追われる女性が私達の前に現れて、カールソンさんにぶつかり助けを求めている。
 私は少し警戒して周りを見ると、武装した男達が此方に向かって来ていた。

「おい、お前達、痛い目にあいたく無ければ、その女をこちらに渡し……って言うのは冗談です。出来れば渡して欲しいのですが」

 追って来た男達がこちらの姿を見ると、いきなり下手に出てしまう。
 確かにフレーレさんと私の姿は変わっているけど、そんなに怖いのでしょうか?

 そんな女性を見かねて、カールソンさんが助けに入る。
 勇気は認めますけど、実力の方はそうもいかない。
 一応護衛対象なのだし注意しておきましょう。

「この人が何かしたんでしょうか?」

「その女は俺達の鐘を持ち逃げしたんだよ!」

 カールソンさんが話を聞き、男達が言うには鐘を持ち逃げしたと言っている。

「違うわ、私は自分の鐘を取り返しただけです」

 話を聞くと、元々はこの女の人の鐘なんだそうだ。
 それをこの男達が不正をして、自分達の物にしたと女が言っている。
 でも男達が言うには、不正ではなく合法だったと言っていた。
 理由を聞いたは良いが、私達はこの国の法律には詳しくない。
 何方が正義かも分からないものに、簡単に関わるべきではないでしょう。

「私達そんなにこの国の法律には詳しくないので、警兵とか行ってくださいねー。じゃあ、さよならー」

 フレーレさんが、この場を去ろうとするが、助けを求めて来た女に止められてしまった。

「まって、警兵では無理なんです! この鐘は祖父が残してくれた遺産なんです。奪われたままにするなんて出来ません!」

「俺達だってそうだ、これは合法的に手に入れた物なんだから、渡す訳には行かない」

「どう……する……の?」

「う~ん、どうしましょうね?」

「ほっときましょうよー」

 聞けば聞くほど、私達にはどうにもならない事なんですが。
 もう面倒な事に巻き込まないで欲しい。
 下手に庇えば犯罪の肩をもつことにもなりかねないです。

「それで、遺産って言うのは幾らなんですか?」

 カールソンさんが、女に遺産の金額を聞いた。

「五万ピッツです」

 ピッツはこの国の通貨で、大体庶民が五日働けば、そのぐらいの金額になるレベルです。
 遺産と言うには安すぎるものです。
 因みに各国共通貨幣という金銀銅の貨幣もあったりするのですけど、その辺りはややこしいので置いておくとしましょう。

「分かりました、そのぐらいなら私が用立てましょう」

「本当ですかッ! どうも有り難うございます! この御恩は一生忘れません!」

 カールソンさんが、男達にお金を払い、女にお礼を言われている。
 話はまとまったみたいだけど、これ詐欺ですよね?
 まあカールソンさんが満足してるなら、私は特に何も言いませんよ。

「良い事した後は気持ちが良いですねぇ。じゃあ買い物をしに行きましょうか」

 あの人達にとっては良い事なんでしょうね。
 因みにあの人達が遺産と言っていた物は、お金じゃなくて五万ピッツ相当のおカネでした。
 とても紛らわしいですね。

 どうして詐欺だと思うのかと言うと、五万程度で家に忍び込んで盗むより買い戻した方が安全だし、例え手持ちがなかったとして、どうしても譲りたくないのなら借金でもすれば良いのです。
 この国の法律はあまり詳しくありませんが、もし相手が盗んだと警兵に突き出したのなら、五万どころか、五十万でも済まないかもしれません。

 それにもし五万をケチって盗んだとなれば、この女は立派な悪人で、味方する理由は一つもありません。
 ほら、見てくださいカールソンさん、女の人と男達が仲良さそうに去っていきますよ?

「あっ、しまった。今渡したお金がないと買い出しが出来ません!」

 やっぱり詐欺だと指摘した方が良かったらしい。
 でもカールソンさん、自分の持っているお金ぐらいちゃんと確認してください。

「あの人達から取り返すの?」

「流石に可哀想ですから、何か手持ちの物を売りますよ」

 道具屋を見つけて、カールソンさんが持っていた指輪を売るようです。
 前に私に渡そうとしてきた指輪みたいですね。

「この指輪ですか? う~ん、三万でどうですか?」

 こういう物は売れない時の為に、かなり安めに買い取られて、そして買い取った人がそれを三倍、四倍にして店頭に並べるのです。
 店主さんの腕さえ良ければ、例え十万で私達から買っても利益が出るのですよ。

「もうちょっと値段上げて貰えませんかね?」

「駄目だね、こっちもギリギリなんだよ」

 カールソンさんが、値段の交渉をしている。
 どうも上手くは行っていないみたいです。
 店の中を見渡してみると、品揃えは中々良いらしく旅に使えそうな物も売っている。
 私達も旅を続けないとならないし、少し手伝うとしましょうか。

「……これ……買う……」

 傷薬や替えのロープ、戦闘時に破れてしまった靴等色々。
 少し傷がついたりしているが、使えない物ではないでしょう。
 それ全部で約七千ビッツ。
 店の人は私が交渉に入ったと理解した様だ。

「分かりました、では二万と五千でどうですか?」

「え? さっきより下がってますよ」

 カールソンさんは分かっていない様だけど、私は売れなさそうなで、こちらに必要な物を買って値引きを交渉しているのです。

「これで最後ですよ、二万と六千でどうです?」

 私が頷くと、交渉が纏まった。
 相手にとっては売れていない物を売れて、払う金を減らせたのです。
 更に指輪が売れれば、相手に損はないでしょう。
 その賭けに店主は乗ったのです。
 こちらも必要な物を安く買えて、何も損をしていなはずでしょう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ねぇ、あれさっきの女の人じゃない? また走ってるわよー?」

 フレーレさんの指刺す方向に、先ほどぶつかって来た女の人が走っている。

「あ、また誰かにぶつかったわよー」

 それを確認したのか、近くに隠れていた男達が走り寄って行く。
 あれはまた同じ事をしているんでしょうね。

「また何かあったのかもしれません、早く見に行きましょう!」

 カールソンさんが私達を引っ張り、助けに入ろうとしている。
 見に行って騙されていた事に気づくのでしょうか?
 カールソンさんなら気付かなかったり?

 少し遠くから覗いていると、女は先ほどと全く同じ事をしていた。
 話す内容まで一緒で、鐘の値段だけが違っている。
 きっとぶつかった人を見て、金額を決めているんでしょう。

「何て事だ、あの男達は私の払ったお金だけじゃ納得していなくて、またあの女の人から鐘を奪ったんだ!」

 カールソンさん そろそろ気づきましょうね。

「もう良いじゃない、めんどくさいわー」

 フレーレさん、私もそう思います。

「だ、駄目ですよ。あんなに美しい人が襲われてるんですよ。助けないと可哀想です!」

 まさか美しくなかったら助けないんでしょうか?

「じゃあ貴方一人で行って来たらー」

「いや無理ですよ、私一人じゃ怖いです。一緒に来てください」

 あの女の人が襲われてるのは駄目でも、私達が戦うのはいいんですね。
 まあ負けないですけど。

「待ちなさい君達、先ほどお金払ったでしょう。ちょっと話を聞きたいんですけど」

「いや、あの~、ですねぇ…………ああ、うん、え~っと、後で調べたら、あの鐘が五十万もすると気づいて、差額のお金を貰おうとですねぇ」

 カールソンさんが女の人の元に走り、必死で庇ってる。
 でも言い方が疑ってる様に聞こえたのか、男が言い訳を考えていたようだ。
 それに女の人も必死で頷いて、その間に絡まれていた人が逃げて行った。

「何て事だッ、まだ足りなかったんですね! でも私はもう使えるお金がありません、何とか許して貰えないでしょうか?!」

 カールソンさんの後ろで、私は剣を出現させる。
 脅す様に少し強めに剣を地面に突き立てると、その音に詐欺師達の体がビクッと跳ね上がる。

「ほら貴方も謝って」

 カールソンさんが女の人を掴むと、全員が謝りだした。
 殺されるとでも思ったのでしょうか。

「ごめんなさい、もうしませんから許してください。お、お金も返します。だから命だけは……」

「お願いします、命だけは助けてください! あ、ご、五万、いや十万お返しいたします! 頼みま
 す!」

 男の人達も、跪き、祈りを捧げる様に謝って来た。
 泣き出す者までいる。
 私が手を払い、あっちに行けとの合図を送ると、十万を置き走り去って行った。

「なんでしょう、お金を置いていきましたよ?」

「解決したんでしょ。それはお礼よー、貰っておいたら?」

「そうですね、置いて行っても誰かに拾われるだけですからね。貰っておくとしましょうか」

 カールソンさんは、騙された事に、まだ気づきませんよ。
 ある意味凄いです。
 きっと一生騙され続けるんでしょうね。

 私達は準備を終えて、ブリガンテの町から出発した。

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