一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
29 ブリガンテへの伝令2
マリア―ドとの戦いが終わり、王国はブリガンテに、接触を図る。
べノム、ロッテ、レアスはブリガンテに向かった…………
ベノムザッパー(王国、探索班) アスタロッテ(べノムの部下)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)
あの後べノムは二戦して負け越してしまった。
最後はグラビトンに止められてしまい、二人は怒られて早く行けと言われてしまう。
三人は馬車に乗り込み、やっとの事で出発するのだった。
「後三回やれば俺の勝ちだったんだがなぁ」
「あらまあ、やる事を忘れて勝負に執着するだなんて、なんてお馬鹿さんな鴉(からす)なんでしょうか。三歩歩くと忘れる馬鹿なんですか?」
「チッ、うるせぇ。分かってるよ。ほら行くぞロッテ!」
「はいは~い」
三人が王都を出発し、王国から帝国まで続く道を馬車で進んで行く。
何も無ければ帝国まで四日日程だろう。
べノムは人の姿に変化して馬を操っている。
ロッテもその隣に座って、外を眺めていた。
たぶん暇なのだろう。
「私(わたくし)少し休みますので、起こさないでくださいまし。まさかと思いますが、妙な気を起こさないでくださいね。少しでも触れれば本気で殺しますわよ」
レアスなら間違いなく、躊躇なくやるだろう。
べノムとしても、そんな面倒な事をする積もりはなかった。
「お前みてぇな危ねぇ女なんざ触らねぇよ! もうとっとと寝ろよ、そしてそのまま永眠していろ!」
レアスはべノムの相手はせず、そのまま眠ってしまった様だ。
「べノム、この道を進んで、帝国まで行くの?」
「そうだな。だがずっと馬車を走らせる訳にも行かないんだ。馬にも休憩を与えないとな。まあ、あまり無理をさせなければ、二時間ぐらいは歩かせられるぞ」
「ふ~ん、まあ食事ぐらいするわよね」
二人が雑談している内に、最初の野営地へと到着した。
ここは結構有名な場所であり、戦争前に死体があったと噂のあった場所である。
中央が開けた四メートル位の崖の下の様な場所だった。
崖と言っても木や草もそれなりにあり、何者かが隠れるのもできそうではある。
「少し遅れちまったし、今日は此処で野宿だな。所でロッテ、お前の知り合いだろあれ」
「あれって?」
「ほらあれだよ。あそこに見えるだろうが」
ぞろぞろと武装した男達が、木の陰等から現れた。
男達は抜き身の剣を持ち、武装している様だ。
ついでに馬車に乗っていた三人の周りも囲まれてしまった。
「あのさ~べノム。なんであれが私の知り合いになるのよ~?」
「お前盗賊してただろ、誰か知り合いでも居るんじゃねぇか?」
「あんなおっさん達に知り合いなんて居ないからね!」
「あっッ! 貴様ッ、こんな所で会うとは俺もついているぜ。今回は逃げられないぞ。徹底的にいたぶって、泣き叫んでも許してやらないからな!」
ロッテは否定していたが、男の一人にロッテを見て叫んでいる奴が居る。
どうもあの男は、ロッテのことをを知っているらしい。
「やっぱり知り合いなんじゃねぇか? お前がどうせ何かやったんだろ?」
「私あんな人知らないもん。誰かと間違ってるんじゃないの~?」
向うは覚えているらしいが、ロッテには覚えがないという。
「ふざけるな! お前が俺の玉を潰して女装させた挙句に、逆さ吊りにした事を忘れたとは言わせねぇぜ」
べノムはこの間の女子会でそんな事を言っていたのを思い出す。
前に居るのがその男なのだろう。
ロッテもポンと手を打ち、それを思い出したらしい。
「ああ、あの時のおじさんか~。でもおじさんが悪いんでしょ~、私の事襲ったじゃな~い」
「もういいッ! 野郎どもやっちまえ!」
野盗の頭と思われる男の号令が掛かり、全員が襲い掛かって来ている。
べノムが人の姿のまま剣を抜き構えた。
「ねぇべノム、変身しないの?」
「特に身体能力が変わる訳でもないし、まあ何とかなるぜ」
盗賊の七人がべノム達を囲み、他は馬車を覗きに行ってる。
だが勝負はもう決まってしまったらしい。
「おい、こっちにも女がいるぜ。早く開けろ、ヒヒッ、今良い事してやるからな」
馬車に向かった奴が、レアスにちょっかいを掛けようとしていた。
「あっ、あの人達レアスちゃんの所に行っちゃったよ。どうするの?」
ロッテは心配しているが、べノムはその光景を見て自分の剣を鞘に収め、男達に言った。
「お前達は死ぬかもしれないが俺達を恨むなよ。恨むならその女にしとけ。俺はもう知らんから」
その騒ぎにレアスが起きたのだろう。
ボゴォォン馬車の扉が吹っ飛び、野盗の一人が吹き飛んだ。
「触れたら殺すと言ったはずですが、言葉も理解出来ないとは思いませんでしたわ。いえ、こんな鳥頭に少しでも任せようとした、私が馬鹿でした!」
「俺じゃねぇからな!」
レアスが男達を見渡し、どうやら状況を理解した様だ。
溜息を付き此方を見ている。
「レディーの休息も守れない弱い人ですから、まあ仕方ありませんわね」
レアスが馬車から飛び出し、その場でフワリと浮き上がった。
「私の寝顔を覗きこむ愚か者には、死の制裁を! ……ダークネス・ミスト!」
闇の黒霧が辺りを覆いこむ。
男達が霧に触れると、全員が苦しみ悶えた。
だがべノム達のそばにも霧が……。
「お前ッ、俺達まで巻き込むんじゃねぇよ!」
べノムはロッテを抱え、空に避難した。
作り出された魔法の霧が収まると、男達は動かなくなっていた。
「ロッテさんも護れないのですか? その様でしたら、そこで一緒に死んでたらどうでしょう?」
「うるせぇよ!」
べノムは話が進まないし頭に来たが、一応任務の為に怒りを我慢した。
倒れている男達は、気絶しているだけで死んではいないらしい。
路頭に迷った帝国の敗残兵だったりするのかもしれないが、こんな場所で野盗なんてやられたら困ってしまうのだ。
武器を取り上げ、男達が持っていたロープを使い、その全員を縛り上げた。
その後何故かロッテがカツラをかぶせ、下半身をむき出しにしていった。
カツラは何処から出したか謎だ。
「何やってんだお前?」
「罰よ!」
「ああそう」
気にしたら負けだとべノムは諦めた。
男達をこのままにして行く訳にもいかず、べノム一人が王国に戻り、それを報告をした。
べノムは一時間もせずに野営地に戻り、三人は今日の活動を終える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝になり、王国の兵が野営地に到着していた。
野盗共は捕まり、馬車のドアを直してからべノム達もまた出発して行く。
野営地を抜けべアトリクス平原を何事も無く通過したべノム達だが、バール森林にまで到着し、そこで馬車が止まった。
戦争時に帝国が作った砦の残骸が邪魔をして、馬車の進路を塞いでいるのだ。
「これじゃ進めないわねぇ」
「私森の中を歩くのは御勘弁願いたいのですが。森の中を歩き回ったら虫に刺されてしまいますわ」
「虫に刺されるのは私も嫌だなぁ」
女性の意見はとりあえず放って置くと、べノムは瓦礫を見て相当な労力がいると判断した。
三人は瓦礫をどかす様な、そんな魔法も持ってはいないだろう。
「お前達、これをどかす魔法とか持っていないよなぁ?」
「ないね」
「御座いませんわ」
よく見れば、真っ直ぐ進む道の横に獣道がある。
無理をすれば馬車で通れそうな道だろう。
この先に抜けられる通路があるかもしれない。
「俺がこの道の先を見て来るから、お前達はそこで待ってろ」
「お好きにしてくださいな。私はこの場で待っていますから」
「いってらっしゃ~い」
レアスとロッテは馬車の中に閉じこもってしまった。
虫と格闘するのが、よっぽど嫌なのだろう。
べノムが一人獣道を進んで行くが、何とか馬車が通れそうだった。
更に進むと森の中には小さな湖がある。
随分と綺麗な水で、少し沸騰させれば飲めそうだ。
「ふむ、ここで休めそうだな」
だが、ここから先に進めなくては意味がない。
べノムは進める先を探し、更に奥へと進んだ。
その奥には洞窟があり、どうにも馬車で進める雰囲気ではない。
「こりゃ駄目だな。仕方ない、馬車を捨てて移動するしかないか」
二人は嫌がりそうだが、任務だと言えば納得するだろうか。
べノムは馬車にまで引き返し、二人に説明して、任務の為だと渋々納得してもらえた。
だがそこで、ヒヒィン、馬が嘶き暴れ出した。
辺りの気配が静まり、此方に何かが……来る!
「馬鹿鴉ッ、貴方、つけられましたわね!」
「ちょっと何あれ!」
「蛙かッ、デカすぎるぞ!」
現れたのは、馬車を一飲みにしそうなほどの大きな蛙だった。
後ろ脚は無く、オタマジャクシの様な尻尾が生えている。
腕は筋肉質で、蛙には似つかわしくない獣の爪が生えていた。
形は兎も角、これ程の巨大蛙など、この世界には居ないものである。
「キメラか!」
敵の姿を見ると全員が馬車から降り、戦闘態勢を整える。
変身を解き、べノムが高速で蛙の体を斬り付けた。
そのヌルリとした体には刃が通らず、小指の先ほど斬れただけである。
「チッ、斬撃が効かねぇ」
「じゃあこれでッ……エクスブレイズ!」
ロッテが放った魔法攻撃が蛙の頭に直撃し、その体を後ろに反らした。
だが蛙は倒れず、敵意をロッテに絞っている。
「…………!」
蛙の巨大な舌が伸び、ロッテは悲鳴を上げる事も出来ず、蛙の腹の中に食われてしまう。
蛙に歯はないが、体の中に閉じ込められては息もできない。
「鴉、急いで助けなさい! まだ間に合います。このままでは魔法を撃つ事も出来ませんわ」
「分かってるよッ!」
べノムが迅速に蛙を斬り刻むが、その効果はない。
「なら!」
だったらと、蛙の口元近くを斬り、べノムは動かずもう一度斬る。
苦し紛れに蛙が舌を出し、攻撃を繰り返すべノムを狙った。
しかしべノムは、その蛙の攻撃を待っていたのだ。
その速さは蛙の攻撃を凌駕し、口の中に突っ込んでいく。
蛙の体内に手を伸ばしたべノムは、飲み込まれたロッテの足を掴み上げた。
蛙の力に抗い、上に引きずり上げていく。
べノムの体と密着させると、少しだけ空気の通る部分を確保出来た。
「オエッ、ゲホ!」
ロッテはほんの一息空気を吸い込み息をつなぐが、べノムまでもが飲み込まれてしまった。
「まだ死ぬなよロッテ! 今から脱出するからな! 外は駄目だったが、中からならッ、どうだ!」
べノムが体を強引に動かし、蛙の内臓を斬り付ける。
どうやら外よりダメージがある様で、蛙はのたうち回り、思わず二人を吐き出した。
「ロッテ、生きてるか?」
「だい……じょぶ」
ロッテはゴホゴホと咳き込んでいる。
窒息する前に間に合い、何とか命を繋げていた。
ホッと安心するべノム達とは違い、レアスは一撃に力を溜めている。
「さあ、私の見せ場ですわね」
既にレアスは集中して、極大の魔力を練っていた。
この瞬間を狙い、全力の魔法を放つ。
「ブラッディアス・アッシュ!」
レアスの魔法により、蛙の体が重力に引き寄せられた。
抵抗して砦の残骸にしがみつくが、黒色の重力場に蛙の血液が全てが吸われていく。
必至に蛙が飛び回るが、カラカラに干からび、地面に転がってしまった。
「アスタロッテさん、大丈夫で御座いますか?」
「ええ、もう大丈夫だわ」
死にかけたロッテと、魔力を使い果たしたレアスも疲れている様だ。
蛙が暴れてくれたおかげで、幸いにも瓦礫が上手くどかされている。
このまま進んでも、馬車が通れるぐらいにはなっていた。
「うまく行けば通れるか、その前にちょっと体を洗いたいけどな」
蛙に食われ、汚れた体を洗いに、近くにあった湖に向かう事になった。
べノム、ロッテ、レアスはブリガンテに向かった…………
ベノムザッパー(王国、探索班) アスタロッテ(べノムの部下)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)
あの後べノムは二戦して負け越してしまった。
最後はグラビトンに止められてしまい、二人は怒られて早く行けと言われてしまう。
三人は馬車に乗り込み、やっとの事で出発するのだった。
「後三回やれば俺の勝ちだったんだがなぁ」
「あらまあ、やる事を忘れて勝負に執着するだなんて、なんてお馬鹿さんな鴉(からす)なんでしょうか。三歩歩くと忘れる馬鹿なんですか?」
「チッ、うるせぇ。分かってるよ。ほら行くぞロッテ!」
「はいは~い」
三人が王都を出発し、王国から帝国まで続く道を馬車で進んで行く。
何も無ければ帝国まで四日日程だろう。
べノムは人の姿に変化して馬を操っている。
ロッテもその隣に座って、外を眺めていた。
たぶん暇なのだろう。
「私(わたくし)少し休みますので、起こさないでくださいまし。まさかと思いますが、妙な気を起こさないでくださいね。少しでも触れれば本気で殺しますわよ」
レアスなら間違いなく、躊躇なくやるだろう。
べノムとしても、そんな面倒な事をする積もりはなかった。
「お前みてぇな危ねぇ女なんざ触らねぇよ! もうとっとと寝ろよ、そしてそのまま永眠していろ!」
レアスはべノムの相手はせず、そのまま眠ってしまった様だ。
「べノム、この道を進んで、帝国まで行くの?」
「そうだな。だがずっと馬車を走らせる訳にも行かないんだ。馬にも休憩を与えないとな。まあ、あまり無理をさせなければ、二時間ぐらいは歩かせられるぞ」
「ふ~ん、まあ食事ぐらいするわよね」
二人が雑談している内に、最初の野営地へと到着した。
ここは結構有名な場所であり、戦争前に死体があったと噂のあった場所である。
中央が開けた四メートル位の崖の下の様な場所だった。
崖と言っても木や草もそれなりにあり、何者かが隠れるのもできそうではある。
「少し遅れちまったし、今日は此処で野宿だな。所でロッテ、お前の知り合いだろあれ」
「あれって?」
「ほらあれだよ。あそこに見えるだろうが」
ぞろぞろと武装した男達が、木の陰等から現れた。
男達は抜き身の剣を持ち、武装している様だ。
ついでに馬車に乗っていた三人の周りも囲まれてしまった。
「あのさ~べノム。なんであれが私の知り合いになるのよ~?」
「お前盗賊してただろ、誰か知り合いでも居るんじゃねぇか?」
「あんなおっさん達に知り合いなんて居ないからね!」
「あっッ! 貴様ッ、こんな所で会うとは俺もついているぜ。今回は逃げられないぞ。徹底的にいたぶって、泣き叫んでも許してやらないからな!」
ロッテは否定していたが、男の一人にロッテを見て叫んでいる奴が居る。
どうもあの男は、ロッテのことをを知っているらしい。
「やっぱり知り合いなんじゃねぇか? お前がどうせ何かやったんだろ?」
「私あんな人知らないもん。誰かと間違ってるんじゃないの~?」
向うは覚えているらしいが、ロッテには覚えがないという。
「ふざけるな! お前が俺の玉を潰して女装させた挙句に、逆さ吊りにした事を忘れたとは言わせねぇぜ」
べノムはこの間の女子会でそんな事を言っていたのを思い出す。
前に居るのがその男なのだろう。
ロッテもポンと手を打ち、それを思い出したらしい。
「ああ、あの時のおじさんか~。でもおじさんが悪いんでしょ~、私の事襲ったじゃな~い」
「もういいッ! 野郎どもやっちまえ!」
野盗の頭と思われる男の号令が掛かり、全員が襲い掛かって来ている。
べノムが人の姿のまま剣を抜き構えた。
「ねぇべノム、変身しないの?」
「特に身体能力が変わる訳でもないし、まあ何とかなるぜ」
盗賊の七人がべノム達を囲み、他は馬車を覗きに行ってる。
だが勝負はもう決まってしまったらしい。
「おい、こっちにも女がいるぜ。早く開けろ、ヒヒッ、今良い事してやるからな」
馬車に向かった奴が、レアスにちょっかいを掛けようとしていた。
「あっ、あの人達レアスちゃんの所に行っちゃったよ。どうするの?」
ロッテは心配しているが、べノムはその光景を見て自分の剣を鞘に収め、男達に言った。
「お前達は死ぬかもしれないが俺達を恨むなよ。恨むならその女にしとけ。俺はもう知らんから」
その騒ぎにレアスが起きたのだろう。
ボゴォォン馬車の扉が吹っ飛び、野盗の一人が吹き飛んだ。
「触れたら殺すと言ったはずですが、言葉も理解出来ないとは思いませんでしたわ。いえ、こんな鳥頭に少しでも任せようとした、私が馬鹿でした!」
「俺じゃねぇからな!」
レアスが男達を見渡し、どうやら状況を理解した様だ。
溜息を付き此方を見ている。
「レディーの休息も守れない弱い人ですから、まあ仕方ありませんわね」
レアスが馬車から飛び出し、その場でフワリと浮き上がった。
「私の寝顔を覗きこむ愚か者には、死の制裁を! ……ダークネス・ミスト!」
闇の黒霧が辺りを覆いこむ。
男達が霧に触れると、全員が苦しみ悶えた。
だがべノム達のそばにも霧が……。
「お前ッ、俺達まで巻き込むんじゃねぇよ!」
べノムはロッテを抱え、空に避難した。
作り出された魔法の霧が収まると、男達は動かなくなっていた。
「ロッテさんも護れないのですか? その様でしたら、そこで一緒に死んでたらどうでしょう?」
「うるせぇよ!」
べノムは話が進まないし頭に来たが、一応任務の為に怒りを我慢した。
倒れている男達は、気絶しているだけで死んではいないらしい。
路頭に迷った帝国の敗残兵だったりするのかもしれないが、こんな場所で野盗なんてやられたら困ってしまうのだ。
武器を取り上げ、男達が持っていたロープを使い、その全員を縛り上げた。
その後何故かロッテがカツラをかぶせ、下半身をむき出しにしていった。
カツラは何処から出したか謎だ。
「何やってんだお前?」
「罰よ!」
「ああそう」
気にしたら負けだとべノムは諦めた。
男達をこのままにして行く訳にもいかず、べノム一人が王国に戻り、それを報告をした。
べノムは一時間もせずに野営地に戻り、三人は今日の活動を終える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝になり、王国の兵が野営地に到着していた。
野盗共は捕まり、馬車のドアを直してからべノム達もまた出発して行く。
野営地を抜けべアトリクス平原を何事も無く通過したべノム達だが、バール森林にまで到着し、そこで馬車が止まった。
戦争時に帝国が作った砦の残骸が邪魔をして、馬車の進路を塞いでいるのだ。
「これじゃ進めないわねぇ」
「私森の中を歩くのは御勘弁願いたいのですが。森の中を歩き回ったら虫に刺されてしまいますわ」
「虫に刺されるのは私も嫌だなぁ」
女性の意見はとりあえず放って置くと、べノムは瓦礫を見て相当な労力がいると判断した。
三人は瓦礫をどかす様な、そんな魔法も持ってはいないだろう。
「お前達、これをどかす魔法とか持っていないよなぁ?」
「ないね」
「御座いませんわ」
よく見れば、真っ直ぐ進む道の横に獣道がある。
無理をすれば馬車で通れそうな道だろう。
この先に抜けられる通路があるかもしれない。
「俺がこの道の先を見て来るから、お前達はそこで待ってろ」
「お好きにしてくださいな。私はこの場で待っていますから」
「いってらっしゃ~い」
レアスとロッテは馬車の中に閉じこもってしまった。
虫と格闘するのが、よっぽど嫌なのだろう。
べノムが一人獣道を進んで行くが、何とか馬車が通れそうだった。
更に進むと森の中には小さな湖がある。
随分と綺麗な水で、少し沸騰させれば飲めそうだ。
「ふむ、ここで休めそうだな」
だが、ここから先に進めなくては意味がない。
べノムは進める先を探し、更に奥へと進んだ。
その奥には洞窟があり、どうにも馬車で進める雰囲気ではない。
「こりゃ駄目だな。仕方ない、馬車を捨てて移動するしかないか」
二人は嫌がりそうだが、任務だと言えば納得するだろうか。
べノムは馬車にまで引き返し、二人に説明して、任務の為だと渋々納得してもらえた。
だがそこで、ヒヒィン、馬が嘶き暴れ出した。
辺りの気配が静まり、此方に何かが……来る!
「馬鹿鴉ッ、貴方、つけられましたわね!」
「ちょっと何あれ!」
「蛙かッ、デカすぎるぞ!」
現れたのは、馬車を一飲みにしそうなほどの大きな蛙だった。
後ろ脚は無く、オタマジャクシの様な尻尾が生えている。
腕は筋肉質で、蛙には似つかわしくない獣の爪が生えていた。
形は兎も角、これ程の巨大蛙など、この世界には居ないものである。
「キメラか!」
敵の姿を見ると全員が馬車から降り、戦闘態勢を整える。
変身を解き、べノムが高速で蛙の体を斬り付けた。
そのヌルリとした体には刃が通らず、小指の先ほど斬れただけである。
「チッ、斬撃が効かねぇ」
「じゃあこれでッ……エクスブレイズ!」
ロッテが放った魔法攻撃が蛙の頭に直撃し、その体を後ろに反らした。
だが蛙は倒れず、敵意をロッテに絞っている。
「…………!」
蛙の巨大な舌が伸び、ロッテは悲鳴を上げる事も出来ず、蛙の腹の中に食われてしまう。
蛙に歯はないが、体の中に閉じ込められては息もできない。
「鴉、急いで助けなさい! まだ間に合います。このままでは魔法を撃つ事も出来ませんわ」
「分かってるよッ!」
べノムが迅速に蛙を斬り刻むが、その効果はない。
「なら!」
だったらと、蛙の口元近くを斬り、べノムは動かずもう一度斬る。
苦し紛れに蛙が舌を出し、攻撃を繰り返すべノムを狙った。
しかしべノムは、その蛙の攻撃を待っていたのだ。
その速さは蛙の攻撃を凌駕し、口の中に突っ込んでいく。
蛙の体内に手を伸ばしたべノムは、飲み込まれたロッテの足を掴み上げた。
蛙の力に抗い、上に引きずり上げていく。
べノムの体と密着させると、少しだけ空気の通る部分を確保出来た。
「オエッ、ゲホ!」
ロッテはほんの一息空気を吸い込み息をつなぐが、べノムまでもが飲み込まれてしまった。
「まだ死ぬなよロッテ! 今から脱出するからな! 外は駄目だったが、中からならッ、どうだ!」
べノムが体を強引に動かし、蛙の内臓を斬り付ける。
どうやら外よりダメージがある様で、蛙はのたうち回り、思わず二人を吐き出した。
「ロッテ、生きてるか?」
「だい……じょぶ」
ロッテはゴホゴホと咳き込んでいる。
窒息する前に間に合い、何とか命を繋げていた。
ホッと安心するべノム達とは違い、レアスは一撃に力を溜めている。
「さあ、私の見せ場ですわね」
既にレアスは集中して、極大の魔力を練っていた。
この瞬間を狙い、全力の魔法を放つ。
「ブラッディアス・アッシュ!」
レアスの魔法により、蛙の体が重力に引き寄せられた。
抵抗して砦の残骸にしがみつくが、黒色の重力場に蛙の血液が全てが吸われていく。
必至に蛙が飛び回るが、カラカラに干からび、地面に転がってしまった。
「アスタロッテさん、大丈夫で御座いますか?」
「ええ、もう大丈夫だわ」
死にかけたロッテと、魔力を使い果たしたレアスも疲れている様だ。
蛙が暴れてくれたおかげで、幸いにも瓦礫が上手くどかされている。
このまま進んでも、馬車が通れるぐらいにはなっていた。
「うまく行けば通れるか、その前にちょっと体を洗いたいけどな」
蛙に食われ、汚れた体を洗いに、近くにあった湖に向かう事になった。
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