一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

18 王道を行く者達4

 戦争から十七年後。リーゼとハガンは旅をしていた。
リーゼはハガンの怪我が治る間に、武器の加工を依頼する…………


リーゼ(赤髪の勇者?)       ハガン(リーゼの父親)
ノーグ(前の依頼人)        マッド(教会の人) 


 リーゼが武器加工を依頼してて三日、そろそろ武器が出来上がる頃だと思う。
 店からは一向に連絡がなく、一度向かってみる事となった。

「武器ならさっき渡したじゃないか」

「……えっ?」

 鍛冶屋の親父がそんな事を言っていた。
 ハガンは動けないはずだから、受け取る人なんて居ない筈なのだが。

「ほら、早く代金払いな」

「ちょっと待ってください! おじさんは一体誰に渡したんですか!」

「誰にってあんたの連れだろ、ほらあそこに居るあいつだよ」

 店の親父がリーゼの後ろを指さし、リーゼはバッと後を振り向くと、そこには司祭の様な恰好をした男が立って居た。
 彼方も此方を見ている様だが、どう見ても知っている人物には見えない。
 生まれてから初めて見る顔だろう。

「おじさん、あの人私の連れじゃないですから。あの人捕まえたら後でまた来ますね!」

「おい、ちょっと金置いてけよ!」

「おじさんが悪いんだから、ちょと待ってて!」

 っとビシッ指さして、その場を後にした。
 リーゼはその司祭の元に行き、自分の武器を奪った経緯を求める。

「貴方、どうゆうつもりで私の武器を奪ったの! お金だって掛かってるんですから、早く返して!」

 そんなリーゼの言葉を聴いても、その男は慌てなかった。
 むしろ、のんびりとした言葉遣いで、リーゼを苛立たせている。

「駄目ですよ勇者様、ちゃんと聖なる剣を使わなくては。貴女には由緒正しきディブロムの剣があるではないですか」

 フードをめくると現れたのは、金髪青い目のそこそこ若い男だった。
 別に格好いいという雰囲気でもなく、格好悪いという雰囲気でもない。
 剣の事を知っていて、司祭の恰好をしているのなら、教会の人間かもしれない。
 あの剣を引き抜いてから、もしかしたら監視をしていたのだろう。
 そしてあの剣がディブロムの剣という名前だと、今リーゼは初めて知った。
 しかしそんな剣も、試し切りで使い物にならなくなってしまったのだが。

「あぁ、あの剣なら折れちゃったよ」

「え?!」

「だからその剣返して!」

 その男はしばらく考えて、やがて結論を出したらしい。

「勇者の剣が折れる訳ないでしょ。嘘付いちゃ駄目ですよ勇者様!」

「じゃあ捨ててある場所に行ってみましょうよ。嘘ついてるか分かるでしょうし」

 そう言うとリーゼは、鉱山の入り口の剣の有った場所に歩き出す。

「えっ? まさかほんとに? えっ? 折れたの?」

 男は疑問を持ちながらも、リーゼの後に続いて行く。
 無駄に話しかけて来る男を無視し、リーゼは剣を捨てた場所へとやって来ていた。

「剣無いじゃん!」

 鉱山の入り口に着き、あの折れた剣を探すが、それは何処にも見当たらないかった。
 俺て使い物にならない剣を、誰かが持って行ったのだろうか?

「ほら~、やっぱり嘘だった」

 男の言葉は無視し、リーゼは、鉱山で働いている人に話を聴いてみた。
 どうやら前に知り合ったノーグさんが、此処に置いておくと危ないからと片付けたらしい。
 リーゼはノーグの居場所を聞き出し、その場所に向かって行く。

「ああ、勿体なかったから、鍛冶屋に売ったよ」

「……はっ?」

 見つけ出したノーグさんの答えに絶句し、また二人は鍛冶屋にの元に戻る事になった。

「おじさん、赤い剣知らない?」

「赤い剣? そんな事より、お金を払って欲しいのだけどな。街の勇者だってんで、通報するのは勘弁してやったんだぞ」

 警備に通報されるのも困るが、誤解されたままも困ってしまう。
 赤い剣の在りかを聞き出さなければならないだろう。

「赤い剣を見せてくれたら金払いますので、待って来てください!」

 リーゼは鍛冶屋のおじさんに頼み込んで、赤い剣を見せてもらった。
 やはりボッキリ折れたままで、とても使えそうもない。
 鍛冶屋の親父は、これは材料にする為に炉で溶かすそうだ。
 そしてその剣を見て驚いているのが隣にいる男だった。

「ぎやあああ、本当に折れてるじゃないですか! どうするんですかこれ、これでしか魔王倒せないのに。究極の切れ味があるはずなのに!」

 そんな事は無かった。
 魔物の角と一回斬り結んだだけで簡単に折れる伝説の剣なら、それで魔王を倒したなら、使った人物が物凄く強かっただけだろう。
 リーゼがその剣で戦ったなら、剣ごと真っ二つにされて終わりだろう。

「だから鍛冶屋で剣を作って貰ったんでしょ。それ返して!」

「わかりましたよ~、渡せば良いんでしょ全くもう。一応その折れた剣を返してくださいね。教会で飾りますので」

 男が加工した武器をリーゼに渡し、剣を返せと言って来ている。
 しかし今のリーゼに、その権利はない。
 リーゼはとっくに捨てて、それをノーグさんが売ったのだ。
 今は鍛冶屋のおじさんの物だである。

「今は鍛冶屋のおじさんの物だから、貴方はおじさんから買い取ってね」

「待ってください勇者様。あの剣は教会の物なのですから、丁重に返して貰わないと!」

 あの剣は金を払って引き抜いたのだから、もうリーゼ達の物だった。
 抜いたら教会から貸し出すとかの話は聞いていないし、まして使ったら返却しろ等と言われた覚えもない。

「貴方がおじさんから買えば良いじゃないの? ねっ、おじさん」

「今この剣は俺の物だからな、買いたいなら売ってやるぞ。 ……そうだな一千万でどうだ?」

 話を聞いていたおじさんが、剣の値段を高額で吹っかけていた。
 男がおじさんと交渉しているが、リーゼにはもう関係無い話だ。
 剣も手に入り、その男に気づかれない内に宿に戻って行く。

「落ち着いたら、お金払いに行こっと」

 後日、お金を払いに行ったら只で良いと言われた。
 あの男にそうとう高く売れたのだろう。
 次の日の朝、バタンッ、っと大きな音を出して、リーゼ達の部屋の扉が開く。
 開いたのは昨日の面倒な男であった。

「見つけましたよ勇者様!」

「誰だこいつ?」

 寝ていたハガンが、リーゼに聞いている。
 しかしリーゼも男の事は、教会の人としか知らなかった。
 そういえば名前も聞いていない。

「知らない人かなぁ?」

「酷いじゃないですか勇者様。私はマッドですよ! ほら昨日会ったじゃないですか!」

 名前を名乗られたのは初めてだったし、リーゼはあんまり関わり合いになりたくはなかった。
 リーゼの心も知らず、マッドは聞かれもしないのに、話を切り出す。

「実は昨日折れた剣を持って帰ったら、物凄く怒られてしまいましてね。その後に剣を買い取った金額を請求したら、更に怒られてしまいまして。それで教会を追放されちゃいました。こりゃあ勇者様に責任を取ってもらうしかないと、それで勇者様に養ってもらおうと思いましてね」

 マッドと名乗った男は、教会を追い出されて、リーゼ達の所に来たと言っている。
 つまりは仲間に成りたいと言っているのだ。

「リーゼ、帰って貰いなさい」

「わかったわ」

 リーゼはそれに頷くと、部屋から男を追い出し、ドアを無理やり閉めた。

「待ってください勇者様! 私役に立ちますよ! ほら魔法とか使えちゃいますし、ほら回復とかも出来ちゃうんですよね。あっ、そうだ、ハガンさんの脚も治せるかもしれませんよ。ほらドアを開けてください。大丈夫ですよ、嘘じゃないですから。ほら見て、見て、手から炎がボワッと……」

 怪我が治るのは嬉しいのだが、男の事は信用出来なかった。
 ただ魔法というものには、二人共興味がある。
 一度体験したいとは思っていた。

「…………」

 リーゼはそのまま無視していたが、男はしつこく食い下がっている。

「リーゼ、ドアを開けてやれ。魔法が使えるというなら一度見せて貰いたい。本当に怪我が治るのなら、少ない可能性に賭けても良いだろう」

 リーゼは渋々ドアを開け、部屋の外からマッドが嬉しそうに入って来た。
 ハガンの前に立つと、マッドがウエーイとか訳の分からない奇声を上げ、妙なポーズを取っている。
 そしてハガンの脚に手を置き、何かぶつぶつと唱え始めた。

「さあ癒せ、ヒーリング!」

 水色と緑の光の帯が、マッドの手からハガンの脚に絡みつく。
 ハガンの脚が光輝き、やがて光が収まると、その治療は終わったらしい。

「はい、もう歩けるはずですよ。立ってみてください」

 ハガンは少し怪しんだが、意を決し、床に足を付けて立ち上がった。

「おっ、動けるぞ」

 ハガンは何度かその場で脚を踏みしめ、地面の感触を確かめている。
 それが終わるとジャンプし、完全に痛みが無いのを確認してから、剣を振る様に思いっきり踏み込んだ。
 バンと鋭い蹴りがマッドの眼前を通り抜ける。

「大丈夫だ、治ったらしい」

 リーゼは嬉しそうに微笑んで、「また旅が出来るね!」と言っている。

「よし、武器も手に入った。脚も治った。それじゃあ出発するか」

 ハガンの言葉を聞き、リーゼは荷物を纏め出発の準備を終えると、二人は宿を後にした。
 さっきの男は当然の様に後を追い掛けて来ている。
 リーゼは諦めてくれたらと思っていたが、どうやらそれはないらしい。

「待ってください! 私、私を忘れていますよ! 怪我も治したでしょ、私役に立ちますよ。ほらほら、炎だって出せちゃうんですよ! 見てください。見て、見てよ勇者様! ほら行きますよ、ファイヤー!」

 マッドの手から炎が出るが、一瞬ボワッとしてそれで終わった。

「それだけなんですか? あんまり使えなく無いです?」

「でも野宿の時とか火があると便利でしょ? 火種も要らないし便利です。便利なんです! それにほら、怪我をしても大丈夫。ちゃんと回復出来ますよ。さっき見たでしょ? 私凄い使えますよ? きっと大丈夫です、ハガンさんもほら、勇者様を説得してください!」

 何故かハガンに助けを求めるマッド。
 ハガンも嫌そうにしていたが、旅の安全に回復は必要だと思ったのだろう。

「分かった、連れて行ってやる。一緒に仕事をした時には金も分けてやる。ただし俺達と宿を別に取るんだ。それと喋り方を何とかしろ」

「分かりましたハガン殿、勇者様!」

 何故かマッドが、軍隊式の敬礼をし、それに答えた。

「ふ~ん、ついて来るのね? 少し静かにしてくれるなら構わないわ。それと私は勇者様じゃないんだから、普通にリーゼと呼んでね」


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