一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

17 キメラ殲滅戦2

繁殖したキメラを殲滅するためイモータルの班は出発する…………


イモータル(王国、女王)     ベリー・エル(王国、兵士)
フルール・フレーレ(王国、兵士)


「エルちゃん、フレーレちゃん、第三班は出発するわよ!」

 イモータルが率いる三人の班は、王国から北西に向かって行く。
 隊の人選はイモータル、ベリー・エル、フルール・フレーレの女性三人だ。
 まず一人、ベリー・エルは、炎の翼と悪魔の様な腕、火炎の大剣を持つ美しい女性である。
 そしてもう一人はフルール・フレーレという、左手右足に甲殻類の様な鎧を纏い、長き白髪の女性だった。
 その三人が草原を歩き、何か話し合っていた。

「ねぇねぇ、エルちゃんって、誰か好きな人居るの?」

「は? ……えっ……あの……キッ……キメラ……さ……探さないと!」

 エルは唐突なイモータル質問に狼狽え、頭の中で獣の体を持つ人を想像したが、皆には内緒にしている。

「エルちゃんはー、タイタンさんの事が好きなんですよー」

 だが何故かその相手を知っていたフレーレがそう返すと、エルは更に狼狽えている。

「えっ……ちがっ……でも……あの……いっ……行きましょう」

 エルは恥ずかしがり屋では無く、口下手という印象だろう。

「フレーレちゃんはどうなの?」

「えー、私ですかー。ん~、私より強い人が良いですねー」

「グラビトンさんとか?」

「やだー、違いますよー。あの人硬いだけですしー」

 とかグラビトンが酷い事を言われながら、三人は道中を進んで行く。
 特に何も無く帝国までたどり着き、その帝都は今そこそこの復興を開始していた。
 もうこの国は王制では無くなったようで、犯罪を取り締まる警察と呼ばれるものも出来ているらしい。
 自分の体を見られると厄介なのでと、旅用のローブを被り、イモータルは一人調べものがあると廃墟の城に向かって行く。
 城の中は未だに誰もおらず、まだ相当に荒れ果てている。
 床には人の頭蓋の様な物まで落ちていた。

「あまり長居はしたくないわねぇ」

 城を探索し、書庫を探し出すと、目ぼしい書物を集めてパラパラとめくっていく。
 イモータルは軍関係や戦争関係の資料を探していたのだが、それは中々見つからなかった。

「これかしら?」

 関係ありそうな本を五冊ほど机の上に積み上げ、イモータルはそれを袋に包んだ。

「キメラ退治の最中だし、あまり長居はできないわ。この五冊は帰りにでも持って帰りましょうか」

 一時間ほどで探し終えて、二人の元に戻り、キメラ探しに戻る事にした。

「用事は……もう……大丈夫……ですか?」

「ええ、大丈夫よ。じゃあ二人共、キメラ退治を続けましょうか」

 二人と合流したイモータルは、再びキメラ探しを始めるのだった。
 如何にも何も見つからず、更に西に移動を開始しし、三人は平原を抜けて森の中に入って行く。

「中々キメラを見つけられないわね」

「う~ん。いないですねー」

「あれは……どう?」

 エルが熊を指をさしたが、その動物は此方には目もくれず、ハチの巣を食い漁っていた。

「あれは……違うんじゃないかしら?」

「違いますねぇ。じゃあ~、あれなんてどうですかぁ?」

 フレーレが指を向けた所にそれは存在した。
 鼠のようなキメラが此方に気づき、大きく口を開いて威嚇している。
 大きさは三十センチ程で、結構大きいものだろう。

「ご……ごめんなさい……わ……私……鼠……駄目」

「う、私も駄目だわ。フレーレちゃん、お願いしてもいいかしら?」

 例え姿がどう変わろうと、苦手な物はあるのだろう。
 その巨大な鼠を見て二人は震えていた。

「もー、しょうがないなー。じゃあやっちゃいますね!」

 フレーレが何時の間にか鼠の目の前に出現し、躊躇無く鼠をぶん殴った。
 殴った鼠がパーンと弾け、それを合図にしてか、森の中から無数の赤い目が光り出す。
 その光った目をした大量の鼠が、三人の元に向かって来ていた。
 震えるだけだった二人を無視し、仲間を殺したフレーレに襲い掛かる。

 目を狙って来た鼠にはアッパーで撃墜し、腕に噛みつこうとした奴には手刀で切裂き、脚を狙ったものには踵で潰し、背後を狙う者には裏拳を叩きつた。
 フレーレは、ありとあらゆる武を持って、襲い掛かる全ての鼠を殺し尽くす。
 百匹を倒した頃には、辺りの鼠の姿が見えなくなっていた。
 しかしフレーレは警戒を解かず、辺りの様子を探っている。

「まだ一匹いる……」

 辺りから動物や鳥の声が響き渡る。
 森の何処かからか、フレーレを見ている気配が一つあった。
 フレーレは森の各所に気を巡らせ、敵であるものの動きを感じていたのだ。
 木の上からガサッと音がして、思わず其方を見上げるが、鳥が飛び立っただけの様だ。
 だがフレーレが上を見上げたその瞬間を狙い、今までよりも大きな鼠が現れる。
 一気に勝負を決めようと、フレーレの首筋を噛みつこうとしていた。

「フレーレちゃん!」

「大丈夫ですよー!」

 フレーレは硬い自分の左腕を自分の首の後ろに回し、それに鼠を噛みつかせていた。
 鼠は腕から口を放そうとするが、フレーレは素早く右手で鼠を掴み上げ、左腕を無理やり口から引き抜いた。

 そんな堅い腕を引き抜いた為に、鼠の口の中はズタズタにされて、のた打ち回っている。
 最後は左手を手刀にし、その鼠を両断した。
 フレーレは全身が赤く染まり、べた付く体を嫌そうに見つている。

「うえー、ベタベタだわ」

「フレーレちゃんカッコいい!」

「か……かっこ……いい……」

 二人は憧れの眼差しを向けるが、フレーレの近くには寄って行かない。
 鼠の血を浴びたフレーレを拒否している様だ。

「でも、近づかないでねッ」

「ねッ…………」

「えーー!」

 フレーレは二人が嫌がったので、体を洗う水場を探す事になる。
 イモータルとエルは空を飛び、水場が無いか辺りを探していた。

「あそこに川があるわね。じゃあ皆に知らせないと」

 イモータルの知らせで川に移動する三人。

「私、体洗ってきまーす!」

 真っ先にフレーレが川に飛び込み、汚れた体を洗っていた。
 そこそこ水も綺麗で深さは胸ぐらいある。
 中央部に行けばもっと深いかもしれない。

「あ、私も行って来るね」

「わ………私は……待っています……ね」

 汗を搔いた体が嫌だったのか、イモータルも川に飛び込んでいる。
 エルはただ一人残り、安全の為に周りを見張る事にした。
 川の流れも緩やかで、二人ともゆったりと浮かんだり、バシャバシャと遊んでいる。

「エルちゃんもこっちで遊ぼうよ~」

「私は……見張って……ます……ので」

 ベリー・エルは気を抜かない、自身の能力で剣を出現させ、それを地面に突き立てている。
 鼠が襲って来た時に、自分が何もしなかったのを少し気にしていた。

「つぎ……も……私……やります……ので」

 次敵が出ても私が倒してやりますので、と言いたかったのだが、うまく喋れなかった。
 二人も通じたか分からない言葉を聞き、分かったわ~、と返事をしている。

「あッ……」

 二人は楽しそうな川遊びを続けていたのだが、フレーレが足を滑らせ、川の中に沈んで行く。

「フレーレちゃん? 大丈ッ……」

 二人目のイモータルも、水中に消えて行った。

「!……敵ッ……?」

 五秒ほど待ったが、二人が浮かんでくる気配はない。
 どうもただの事故でない事が分かり、エルは剣を持って水中に飛び込んだ。
 炎を扱うエルには水中の敵は天敵なのだが、今はそうも言ってられない状況である。
 川の中で、手に持つ炎の剣が揺らめいている。
 形を維持する事が出来ず、細いレイピア程度にするのが精一杯らしい。

「敵……何処ッ?!」

 水中を探すが、何処にも二人の姿も見当たらない。
 流されたのか? そう思い空から急いで川を下って行く。
 川に落ちて一分、そろそろ二人の命が危なくなる。

「……!……居た!」

 一瞬どちらかの手が水中から見えた。
 あそこだとエルは急ぎ、それを追って行く。

「……そこか!」

 エルは炎の剣の先を川に向け、全力で水中に突っ込んだ。
 水の中を探すと、透明で体が透けたクラゲの様なキメラが、二人を掴んで離さないでいる。
 二人はぐったりしていて、もう時間が無いかもしれない。
 だがエルは水中から空に上がり、空中で制止した。

「消える前に……敵をッ……焼き切る!」

 全ての魔力を剣に集中すると、剣の炎が膨大に膨れ上がった。

「うおおおおおおおおおッ!」

 そして敵がいた位置に、全速力で突っ込んだ。
 膨大な熱をもつ巨大な炎と、大量の水がぶつかり合い、大きな爆発が起こる。
 圧倒的な蒸気が膨れ上がり、水中でもその衝撃は伝わったらしい。
 クラゲはその爆発の衝撃に耐えきれず、二人の体から手を放している。
 それを見てエルは二人を掴み、水中から脱出した。

 エルは水辺に上がると、二人の胸を何度か叩き、肺の中に入った水を吐き出させた。
 そのまま水辺から少し遠くに二人を置いて、戦いに巻き込まれない様にしている。
 そしてもう一度クラゲが居た場所に戻り、水中を見回した。

「……居ない……逃げた?」

 少し水中を回ったが、先ほどのクラゲの姿は無く、仕方なく二人の元に戻る事にした。
 だが…………

「……二人は?」

 二人の姿が見えない、目を覚まして此処を離れたのだろうか?
 よく見ると、地面には濡れた跡が続いている。
 エルはそれを頼りに、二人を探しに行ったのだった。
 水の跡を追い、森の中に入るが、水の跡が途中で途切れてしまっている。
 
「……何処?」

 周りを見るが見当たらず、私を置いて行ってしまった?
 そう思った時。

 ボタッ

 木の上から何か落ちた。
 透明でヌルヌルしていそうな物で、エルがそれを見つめた。

「……ッ!」

 上を確認する前に、その場は危険と横に跳ねると、ドゴォーンと逃げた場所から爆音が響く。
 あの水中にいたキメラが、木の上から降って来たのだ。
 何本ものその触手で二人を掴み、エルの様子をうかがっている。

 二人はまだ目覚めていない。
 今度水中に逃げられたら、二人は助からないだろう。
 だがベリー・エルは慌てない。
 ただ真っ直ぐに一歩一歩と敵に歩み、剣を構える。

 水中でどれ程強かろうと、この場は水の中ではない。
 地上に上がったクラゲは、彼女の敵には成りえなかった。


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