一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。
12 王道を行く者達2
ラグナード新国のメトリーという占い師が、魔王を倒す勇者の存在を予言した。そんな占いを信じていないラグナード王は、その予言の勇者とやらを適当に呼び寄せ、子供の小遣いを寄越して城から放り出した。そんな王に呼ばれたのは、赤みが掛かった髪のリーゼと、その親のハガンである。二人は城から出されると、二人を見かけた男に、話しかけられた。その男の話で、魔物退治をして欲しいと依頼されると、もう一度王に会えるかもしれないと、リーゼ達はそれを受けた。東の洞窟と呼ばれる場所に向かったリーゼ達は、その洞窟を調べ出す。何も無いと思われた時その壁から何かが出現した。一度逃げ出したリーゼ達は、その洞窟の中を煙でいぶすと、魔物と思われる物体の消失を確認した…………
リーゼ(赤毛の勇者?) ハガン(リーゼの親)
ノーグ(鉱山の作業員)
「結局王様には会えなかったね」
ラグナードの王城の前。
リーゼ達は依頼であった洞窟の魔物達を倒したが、王様は忙しいからと会ってはくれなかった。
何度か門番に交渉するも、これ以上しつこいと捕まえると言われて、渋々諦めざるを得なかったのだ。
「まっ、仕方が無い。他の場所を探すとするさ」
りーぜが地面に地図を広げて、ハガンがそれを見て少し考えている。
「他に有名な物語があるのは、北にあるメンドラの町だな。勇者しか引き抜けない剣があるらしいぞ」
リーゼが胡散臭そうな顔をしている。
そんな物があるとは思っていない様だ。
「そんな物が本当にあるのなら、台座ごとぶっ壊せば良いじゃない」
その通りではあった。
石にしろ何にせよ、削り割る方法は幾らでもあるのだ。
誰もやらないのは、壊すと損をする者が居るからなのだろう。
「ふむ、別の所にするか?」
とはいえ他に行く当てもなかった。
地図を確認すると、西には小さな村がある。
メンドラの町に行くとしても、西の村には何方にしろ行かなければならない。
このまま先に進むとなると、そのルートしかないだろう。
ここから北には山があり、それを越えた先にも町があるらしいが、挑むとなると相当な覚悟と出費がいる。
リーゼ達には、そんな金はないのだ。
「リーゼ、ダメ元でメンドラに行くぞ」
「おっけー、よし、出発しよ~」
リーゼが元気よく返事をして、足りなかった道具を補充し、北の町メンドラに向かった。
馬車や徒歩を使い西の村を越えた先、その先の北にあるメンドラの町。
山が近いせいか、鉱山が発達した町である。
取れる物も、金や銀、宝石などと色々多く、この国の隅々にまで運ばれて加工されたりしている。
二人は剣の情報を頼りに、町の中を見て回っていた。
「とりあえず、その伝説の剣ってやつを見ないとな。確か教会の中に置かれているらしいぞ。リーゼ、あれじゃないのか?」
「まあ分かりやすいわよね。あんなに目立っていたら」
教会の建物の上には、十字架が飾ってある。
建物自体も他の建物より大きく、教会の権威を示している様だ。
庭にも赤や青やらの花が咲き乱れ、完璧に手入れされている。
大きな教会の扉は開け放たれており、多くの人々が訪れているらしい。
リーゼ達が教会内に入ると、信者と思われる二十人ほどの人達が祈りを捧げている。
二人は司祭らしき服装をした人物を見つけ、剣の事を聴いてみた。
「剣の試練をお望みですか? それでは少々のお布施を、あちらの受付までお願いいたします」
どうやら金が要るらしい。
今まで感じていた胡散臭さが、倍々で積み重なっていく。
二人は仕方なく金を渡し、奥にある剣の間と言われる所に案内された。
教会の奥には、隔離された空間があるらしい。
長く伸びる通路の先に、目的である剣が台座に突き刺さっている。
上にはステンドグラスが張り巡らされ、剣には一条の光が差し込んで、幻想的な雰囲気を感じてしまう。
だがこの剣は教会内部に置かれている。
それは全て計算して作られているのだろう。
二人は刺さっている剣を観察し、それがどのような剣なのかを見定める。
両刃の剣は、赤く色付けされており、ブロードソードと呼ばれる種類に見えた。
持ち手の部分の装飾も派手で、金色に輝いている。
赤も金もくすむことなく、この剣は新品同様の物にしか見えない。
「ねぇ? もし剣が抜けたらどうしよう?」
「その時は貰って行けば良いんじゃないか? もう金まで払ったんだからな」
ハガンはリーゼに答え、案内を受けた司祭に話しかけた。
「なあ、貰って良いんだろ?」
司祭は頷き、出来るならばと言っている。
抜けば貰える、それを確認すると、ハガンはリーゼに剣を抜くように指示をした。
「何をしても良い、リーゼ、剣を抜いてみろ」
「分かった、任せといて!」
リーゼが返事をして、剣に近寄って行く。
持ち手を握り、力を入れて引き抜こうと力をこめる。
だがいくら力をこめても剣は一向に動きそうもない。
もう一度試してみるが、ビクとも動かなかった。
「どうやら駄目みたいですね」
司祭が話かけて来るが、二人はまだ諦めたわけではない。
抜くだけであるならば、いくらでも手は考えられるのだ。
「もう一度聞くぞ? 剣さえ引き抜ければ、俺達の物なんだな?」
司祭は、どうぞと笑っている。
この剣を抜くには如何すれば良いかと、ハガンは考えている。
改めてこの場所の造りを見渡し、長く伸びた通路の天井近くに大きな梁(はり)を発見した。
「よしリーゼ、道具袋からロープを持ってこい」
ハガンはリーゼに言いつけ、ラグナードで買い換えたロープを剣に巻き付けた。
そのまま天井の梁の上にそれを通し、それを二人の体に巻き付け、思い切って走った。
二人の勢いが台座の剣に伝わっていく。
一度では抜けなかったので、二度三度と繰り返し、四回目。
司祭はハラハラしているようだが関係無いと、二人は全力で走り出す。
「いくぞぉ、せーのっ!」「せーのぉぉぉぉぉ」
そしてグギィと台座から音がして、ビィィィンと剣が鳴り響く。
抜ける事がなかった剣は勢いよく空中にとび出した。
司祭は、今のは無効だとかか叫んでいたが、リーゼは気にすることなく落ちた剣を拾う。
「やった! 剣ゲットだよ!」
リーゼは剣を振り回し、その感触を確かめる。
剣は意外と軽く、そこそこ良い剣の様だった。
今まで人の力では抜けなかったから、勇者しか抜けないとか適当な事を言っていたのだろう。
司祭は待ってくれとか言っていたが、金を払ったのだ、待つこともないだろう。
もし司祭が罰されたとしても、それは二人には関係のない話だ。
何の気も遣わず、二人は教会を後にした。
「まだ昼ではあるが、出発するには遅い時間だな。今日はこの町に泊まるとするか」
「そうね、それが良いかも知れないわね」
目的の剣を手に入れた二人は、この町に宿をとった。
特に何事もなく、二人は武器の手入れなどをして過ごし、夜となった。
宿で休んでいると、コンコンコンと、部屋にノックの音が響く。
「開いてるよ」
リーゼがそう答えると、男が部屋に入って来た。
見覚えの無い顔で、教会に居た奴とも違う。
男の髪はボサボサで、作業着の様な服を着ていた。
その顔も少し黒ずんでいる。
ハガンが少し警戒して、攻撃に移れるように体制を直した。
「俺達に何の用なんだ?」
「挨拶が遅れました、私はノーグと言います」
そのノーグという男が話し出した。
鉱山に魔物が出たので、二人に助けて欲しいと言っている。
どうして此処に来たのかと尋ねると、教会に言ったら、勇者が剣を引き抜いたので、その人に助けて貰うと良いと言われたらしい。
どうやら教会の奴等が、勇者が剣を引き抜いたと言いふらしたらしい。
実際はロープを使って引っこ抜いたのだが、厄介な事に、教会に勇者認定された様だ。
王様の方は気にする必要は無いが、教会で言いふらされると、厄介事が増えるだろう。
「リーゼこの…………」
ハガンはこの依頼は受けるのを止めよう、そう言いかけたが、リーゼの顔がどうにも行きたそうにしていたのが見えて言うのを諦めた。
行く気満々のリーゼは、魔物の情報を男に聞き出す事にした。
「それで、どんな魔物が出たの?」
ノーグは魔物の特徴を喋り始める。
「頭に角が生えていてですね。体は鹿みたいでした」
リーゼは体が鹿で、頭に角が生物を思い浮かべた。
「?? それ鹿でしょ?」
「ああ、違うんですよ。二本の角がですね、物凄く切れ味の鋭い刃の様になっていてですね、近づく事が出来ないんですよ」
「もう少し詳しく教えて貰おうか」
ハガンは角の長さや、その太さを細かく聞き、ボランティアじゃないので、金が出るのかと尋ねた。
提示された金額は中々のものだったので、二人はこの依頼を正式に引き受ける事にした。
夜が明けて、ノーグにこの町の道具屋等を紹介してもらい、まずは道具を買い揃える。
「網にロープに、後…………何これ?」
リーゼが指さした物は、魔物の角を何とかする為の道具だった。
「それは鞘だな。頭の角に被せてやろうと思ってな。鍛冶師に頼んだ特注品だぞ」
「そんなに上手く入るのかしら?」
リーゼが心配していたので、角の太さが合わないかもしれないから、少し大きめに作ったと説明する。
それが入ってしまえば、どれだけ強力な刃だろうと、ただの角に成り下がるだろう。
「それと、これだ」
ハガンは買って来た針金を、器用に足でつまんで見せた。
「針金をどうするの?」
「網に絡ませれば、多少は切れないかと思ってな。やれそうな事はやっておくべきだろう?」
ハガンは針金を網に巻き付けて、切れ辛くすると言う。
二人で強力して、その作業を済ませると、魔物が居るという場所へと向かった。
ノーグの案内で鉱山の入り口に着き、魔物の位置を確認している。
その魔物は、鉱山の一部を巣にしているようだ。
「鉱山内で戦うのは不味いな。まずは敵を誘き出さないと」
ハガンは魔物を誘き出す方法を考えている。
「また煙を使う、か…………?」
いやそれは不味い、鉱山内の空気が無くなってしまったら、後の作業も出来ないだろう。
餌や音とか色々と考えたが、ピンとこず、結局ハガンが囮になる事にした。
一応持って来たリーゼ用の盾を背中に括り付け、頭と背中を護っている。
そしてリーゼが鉱山の入り口に、網が落ちる様な罠を仕掛け終わった。
「用意できたよ~」
「よし、行って来る」
ハガンが鉱山内部の魔物の巣に着くと、膝を突き休んでいた魔物と目が合ってしまう。
その瞬間、自分の敵を見つけたかのように魔物がこちらに突進して来た。
人の脚では魔物の脚に敵うはずもなく、五メートルも走らない内に、魔物に追いつかれてしまう。
そして魔物の角で、ハガンの背中を押されてしまう。
幸い盾があって死ぬ事は無かったが、更に五メートルほど前に飛ばされた。
「ぐおおおおおおおおおおお!」
ハガンには腕が無いので、倒れたら確実に死ぬだろう。
必死で倒れるのを堪え、洞窟の入り口に向かって走って行く。
後方からもう一度突き上げられたが、ハガンは倒れるのを我慢出来た。
今度は背中を右から斬りつけられ左の壁に叩きつけられる。
倒れはしなかったので、痛みを我慢して、そのまま前に進んで行く。
残り十メートル。
魔物が脚を狙い、一発目が右の太腿に掠る。
血が噴き出るが、そこまでの怪我ではない。
残り六メ-トル。
再び後方から二発目の攻撃が、今度は足の逆側をザックリと斬られた。
かなりの痛みがあるが我慢はできそうだった。
残り三メートル。
魔物がまた斬れた方の脚を狙い、激しく体当たりを仕掛けて来る。
だが予測していたハガンは、それは何とか躱すことが出来た。
「後少し!」
残り一メートル。
出口はもう目の前だったが、下から突き上げられる様に放たれた攻撃は、ハガンの脹脛(ふくらはぎ)を突き刺した。
だがその勢いで、魔物の体が鉱山の入り口から現れる。
「ぐあああああああああああああああ……い、今だリーゼ、網を落とせ!」
「わかった、直ぐに助けに行くわ!」
リーゼは躊躇わず網を落とし、ハガンと魔物が動けなくなると、教会から抜いてきた剣を魔物に突き刺し、魔物が崩れ落ちた。
「ハガン、大丈夫?」
「このぐらい問題無い、薬でも塗っておけばその内治るだろう」
ハガンは強がっていたが、動けなかった為に医者を呼び、治療を受けた。
怪我は思ったよりも酷く、一月以上はかかるらしい。
旅は始まったばかりなのだが、二人は早くも旅が出来なくなってしまったらしい。
リーゼはハガンを宿屋まで運ぶと、また魔物の元に戻って来ていた。
死んでいるのを再度確認し、魔物の角を見る。
鋭く輝く魔物の角は、まるで鍛え抜かれた武器のようだ。
ここに来た目的は、この切れ味の鋭そうな角である。
りーぜの手に持つのは教会の剣。
「この剣の切れ味、少し試してみたかったのよね」
周りには人もおらず、邪魔になりそうなものはない。
剣を大きく振りかぶり、全力をもってその角へと斬り掛かった。
魔物の角は、キイィィンと音を立て、その角が斬れずに残っている。
「あれ?」
リーゼは手元を見ると、教会の剣がスッパリと両断されたいた。
例え本物であったとしても、この脆さでは魔物とも戦えなかっただろう。
表面は綺麗だとしても長く放置されて、中はボロボロになっていたのかもしれない。
どの道もう剣の先はなくなってしまっている。
「これ駄目じゃん!」
りーぜはその場で剣を捨て、魔物の角を凝視する。
盾にぶつかったり色々と雑に扱われているはずだが、刃こぼれ一つ見当たらない。
「こっちの方が良いよねぇ?」
依頼人と町の人に頼み込み、魔物の角の回収に成功した。
そして、それを作った鞘に入れ、どう加工しようかと悩んでいる。
ハガンの回復には、まだ一月ほどかかる。
その間にこの二つ角を、自分の武器にしてしまおうとリーゼは思った。
リーゼ(赤毛の勇者?) ハガン(リーゼの親)
ノーグ(鉱山の作業員)
「結局王様には会えなかったね」
ラグナードの王城の前。
リーゼ達は依頼であった洞窟の魔物達を倒したが、王様は忙しいからと会ってはくれなかった。
何度か門番に交渉するも、これ以上しつこいと捕まえると言われて、渋々諦めざるを得なかったのだ。
「まっ、仕方が無い。他の場所を探すとするさ」
りーぜが地面に地図を広げて、ハガンがそれを見て少し考えている。
「他に有名な物語があるのは、北にあるメンドラの町だな。勇者しか引き抜けない剣があるらしいぞ」
リーゼが胡散臭そうな顔をしている。
そんな物があるとは思っていない様だ。
「そんな物が本当にあるのなら、台座ごとぶっ壊せば良いじゃない」
その通りではあった。
石にしろ何にせよ、削り割る方法は幾らでもあるのだ。
誰もやらないのは、壊すと損をする者が居るからなのだろう。
「ふむ、別の所にするか?」
とはいえ他に行く当てもなかった。
地図を確認すると、西には小さな村がある。
メンドラの町に行くとしても、西の村には何方にしろ行かなければならない。
このまま先に進むとなると、そのルートしかないだろう。
ここから北には山があり、それを越えた先にも町があるらしいが、挑むとなると相当な覚悟と出費がいる。
リーゼ達には、そんな金はないのだ。
「リーゼ、ダメ元でメンドラに行くぞ」
「おっけー、よし、出発しよ~」
リーゼが元気よく返事をして、足りなかった道具を補充し、北の町メンドラに向かった。
馬車や徒歩を使い西の村を越えた先、その先の北にあるメンドラの町。
山が近いせいか、鉱山が発達した町である。
取れる物も、金や銀、宝石などと色々多く、この国の隅々にまで運ばれて加工されたりしている。
二人は剣の情報を頼りに、町の中を見て回っていた。
「とりあえず、その伝説の剣ってやつを見ないとな。確か教会の中に置かれているらしいぞ。リーゼ、あれじゃないのか?」
「まあ分かりやすいわよね。あんなに目立っていたら」
教会の建物の上には、十字架が飾ってある。
建物自体も他の建物より大きく、教会の権威を示している様だ。
庭にも赤や青やらの花が咲き乱れ、完璧に手入れされている。
大きな教会の扉は開け放たれており、多くの人々が訪れているらしい。
リーゼ達が教会内に入ると、信者と思われる二十人ほどの人達が祈りを捧げている。
二人は司祭らしき服装をした人物を見つけ、剣の事を聴いてみた。
「剣の試練をお望みですか? それでは少々のお布施を、あちらの受付までお願いいたします」
どうやら金が要るらしい。
今まで感じていた胡散臭さが、倍々で積み重なっていく。
二人は仕方なく金を渡し、奥にある剣の間と言われる所に案内された。
教会の奥には、隔離された空間があるらしい。
長く伸びる通路の先に、目的である剣が台座に突き刺さっている。
上にはステンドグラスが張り巡らされ、剣には一条の光が差し込んで、幻想的な雰囲気を感じてしまう。
だがこの剣は教会内部に置かれている。
それは全て計算して作られているのだろう。
二人は刺さっている剣を観察し、それがどのような剣なのかを見定める。
両刃の剣は、赤く色付けされており、ブロードソードと呼ばれる種類に見えた。
持ち手の部分の装飾も派手で、金色に輝いている。
赤も金もくすむことなく、この剣は新品同様の物にしか見えない。
「ねぇ? もし剣が抜けたらどうしよう?」
「その時は貰って行けば良いんじゃないか? もう金まで払ったんだからな」
ハガンはリーゼに答え、案内を受けた司祭に話しかけた。
「なあ、貰って良いんだろ?」
司祭は頷き、出来るならばと言っている。
抜けば貰える、それを確認すると、ハガンはリーゼに剣を抜くように指示をした。
「何をしても良い、リーゼ、剣を抜いてみろ」
「分かった、任せといて!」
リーゼが返事をして、剣に近寄って行く。
持ち手を握り、力を入れて引き抜こうと力をこめる。
だがいくら力をこめても剣は一向に動きそうもない。
もう一度試してみるが、ビクとも動かなかった。
「どうやら駄目みたいですね」
司祭が話かけて来るが、二人はまだ諦めたわけではない。
抜くだけであるならば、いくらでも手は考えられるのだ。
「もう一度聞くぞ? 剣さえ引き抜ければ、俺達の物なんだな?」
司祭は、どうぞと笑っている。
この剣を抜くには如何すれば良いかと、ハガンは考えている。
改めてこの場所の造りを見渡し、長く伸びた通路の天井近くに大きな梁(はり)を発見した。
「よしリーゼ、道具袋からロープを持ってこい」
ハガンはリーゼに言いつけ、ラグナードで買い換えたロープを剣に巻き付けた。
そのまま天井の梁の上にそれを通し、それを二人の体に巻き付け、思い切って走った。
二人の勢いが台座の剣に伝わっていく。
一度では抜けなかったので、二度三度と繰り返し、四回目。
司祭はハラハラしているようだが関係無いと、二人は全力で走り出す。
「いくぞぉ、せーのっ!」「せーのぉぉぉぉぉ」
そしてグギィと台座から音がして、ビィィィンと剣が鳴り響く。
抜ける事がなかった剣は勢いよく空中にとび出した。
司祭は、今のは無効だとかか叫んでいたが、リーゼは気にすることなく落ちた剣を拾う。
「やった! 剣ゲットだよ!」
リーゼは剣を振り回し、その感触を確かめる。
剣は意外と軽く、そこそこ良い剣の様だった。
今まで人の力では抜けなかったから、勇者しか抜けないとか適当な事を言っていたのだろう。
司祭は待ってくれとか言っていたが、金を払ったのだ、待つこともないだろう。
もし司祭が罰されたとしても、それは二人には関係のない話だ。
何の気も遣わず、二人は教会を後にした。
「まだ昼ではあるが、出発するには遅い時間だな。今日はこの町に泊まるとするか」
「そうね、それが良いかも知れないわね」
目的の剣を手に入れた二人は、この町に宿をとった。
特に何事もなく、二人は武器の手入れなどをして過ごし、夜となった。
宿で休んでいると、コンコンコンと、部屋にノックの音が響く。
「開いてるよ」
リーゼがそう答えると、男が部屋に入って来た。
見覚えの無い顔で、教会に居た奴とも違う。
男の髪はボサボサで、作業着の様な服を着ていた。
その顔も少し黒ずんでいる。
ハガンが少し警戒して、攻撃に移れるように体制を直した。
「俺達に何の用なんだ?」
「挨拶が遅れました、私はノーグと言います」
そのノーグという男が話し出した。
鉱山に魔物が出たので、二人に助けて欲しいと言っている。
どうして此処に来たのかと尋ねると、教会に言ったら、勇者が剣を引き抜いたので、その人に助けて貰うと良いと言われたらしい。
どうやら教会の奴等が、勇者が剣を引き抜いたと言いふらしたらしい。
実際はロープを使って引っこ抜いたのだが、厄介な事に、教会に勇者認定された様だ。
王様の方は気にする必要は無いが、教会で言いふらされると、厄介事が増えるだろう。
「リーゼこの…………」
ハガンはこの依頼は受けるのを止めよう、そう言いかけたが、リーゼの顔がどうにも行きたそうにしていたのが見えて言うのを諦めた。
行く気満々のリーゼは、魔物の情報を男に聞き出す事にした。
「それで、どんな魔物が出たの?」
ノーグは魔物の特徴を喋り始める。
「頭に角が生えていてですね。体は鹿みたいでした」
リーゼは体が鹿で、頭に角が生物を思い浮かべた。
「?? それ鹿でしょ?」
「ああ、違うんですよ。二本の角がですね、物凄く切れ味の鋭い刃の様になっていてですね、近づく事が出来ないんですよ」
「もう少し詳しく教えて貰おうか」
ハガンは角の長さや、その太さを細かく聞き、ボランティアじゃないので、金が出るのかと尋ねた。
提示された金額は中々のものだったので、二人はこの依頼を正式に引き受ける事にした。
夜が明けて、ノーグにこの町の道具屋等を紹介してもらい、まずは道具を買い揃える。
「網にロープに、後…………何これ?」
リーゼが指さした物は、魔物の角を何とかする為の道具だった。
「それは鞘だな。頭の角に被せてやろうと思ってな。鍛冶師に頼んだ特注品だぞ」
「そんなに上手く入るのかしら?」
リーゼが心配していたので、角の太さが合わないかもしれないから、少し大きめに作ったと説明する。
それが入ってしまえば、どれだけ強力な刃だろうと、ただの角に成り下がるだろう。
「それと、これだ」
ハガンは買って来た針金を、器用に足でつまんで見せた。
「針金をどうするの?」
「網に絡ませれば、多少は切れないかと思ってな。やれそうな事はやっておくべきだろう?」
ハガンは針金を網に巻き付けて、切れ辛くすると言う。
二人で強力して、その作業を済ませると、魔物が居るという場所へと向かった。
ノーグの案内で鉱山の入り口に着き、魔物の位置を確認している。
その魔物は、鉱山の一部を巣にしているようだ。
「鉱山内で戦うのは不味いな。まずは敵を誘き出さないと」
ハガンは魔物を誘き出す方法を考えている。
「また煙を使う、か…………?」
いやそれは不味い、鉱山内の空気が無くなってしまったら、後の作業も出来ないだろう。
餌や音とか色々と考えたが、ピンとこず、結局ハガンが囮になる事にした。
一応持って来たリーゼ用の盾を背中に括り付け、頭と背中を護っている。
そしてリーゼが鉱山の入り口に、網が落ちる様な罠を仕掛け終わった。
「用意できたよ~」
「よし、行って来る」
ハガンが鉱山内部の魔物の巣に着くと、膝を突き休んでいた魔物と目が合ってしまう。
その瞬間、自分の敵を見つけたかのように魔物がこちらに突進して来た。
人の脚では魔物の脚に敵うはずもなく、五メートルも走らない内に、魔物に追いつかれてしまう。
そして魔物の角で、ハガンの背中を押されてしまう。
幸い盾があって死ぬ事は無かったが、更に五メートルほど前に飛ばされた。
「ぐおおおおおおおおおおお!」
ハガンには腕が無いので、倒れたら確実に死ぬだろう。
必死で倒れるのを堪え、洞窟の入り口に向かって走って行く。
後方からもう一度突き上げられたが、ハガンは倒れるのを我慢出来た。
今度は背中を右から斬りつけられ左の壁に叩きつけられる。
倒れはしなかったので、痛みを我慢して、そのまま前に進んで行く。
残り十メートル。
魔物が脚を狙い、一発目が右の太腿に掠る。
血が噴き出るが、そこまでの怪我ではない。
残り六メ-トル。
再び後方から二発目の攻撃が、今度は足の逆側をザックリと斬られた。
かなりの痛みがあるが我慢はできそうだった。
残り三メートル。
魔物がまた斬れた方の脚を狙い、激しく体当たりを仕掛けて来る。
だが予測していたハガンは、それは何とか躱すことが出来た。
「後少し!」
残り一メートル。
出口はもう目の前だったが、下から突き上げられる様に放たれた攻撃は、ハガンの脹脛(ふくらはぎ)を突き刺した。
だがその勢いで、魔物の体が鉱山の入り口から現れる。
「ぐあああああああああああああああ……い、今だリーゼ、網を落とせ!」
「わかった、直ぐに助けに行くわ!」
リーゼは躊躇わず網を落とし、ハガンと魔物が動けなくなると、教会から抜いてきた剣を魔物に突き刺し、魔物が崩れ落ちた。
「ハガン、大丈夫?」
「このぐらい問題無い、薬でも塗っておけばその内治るだろう」
ハガンは強がっていたが、動けなかった為に医者を呼び、治療を受けた。
怪我は思ったよりも酷く、一月以上はかかるらしい。
旅は始まったばかりなのだが、二人は早くも旅が出来なくなってしまったらしい。
リーゼはハガンを宿屋まで運ぶと、また魔物の元に戻って来ていた。
死んでいるのを再度確認し、魔物の角を見る。
鋭く輝く魔物の角は、まるで鍛え抜かれた武器のようだ。
ここに来た目的は、この切れ味の鋭そうな角である。
りーぜの手に持つのは教会の剣。
「この剣の切れ味、少し試してみたかったのよね」
周りには人もおらず、邪魔になりそうなものはない。
剣を大きく振りかぶり、全力をもってその角へと斬り掛かった。
魔物の角は、キイィィンと音を立て、その角が斬れずに残っている。
「あれ?」
リーゼは手元を見ると、教会の剣がスッパリと両断されたいた。
例え本物であったとしても、この脆さでは魔物とも戦えなかっただろう。
表面は綺麗だとしても長く放置されて、中はボロボロになっていたのかもしれない。
どの道もう剣の先はなくなってしまっている。
「これ駄目じゃん!」
りーぜはその場で剣を捨て、魔物の角を凝視する。
盾にぶつかったり色々と雑に扱われているはずだが、刃こぼれ一つ見当たらない。
「こっちの方が良いよねぇ?」
依頼人と町の人に頼み込み、魔物の角の回収に成功した。
そして、それを作った鞘に入れ、どう加工しようかと悩んでいる。
ハガンの回復には、まだ一月ほどかかる。
その間にこの二つ角を、自分の武器にしてしまおうとリーゼは思った。
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