一つの世界で起こる、万の人々が紡ぐ数多くの物語。書物に残された文字は、忘れられた歴史の記録を残す。

秀典

7 復讐者達 誕生 (王道を行く者達0)完結済 全82話

戦争の十七年後の世界。ベトムの村でリーゼという娘が両親と共に暮らしている。そんなある日、一人の人物が彼女の母親を訪ねて来た。それが彼女の冒険の始まりだった。そして復讐の物語が始まる…………

リーゼ(町娘)          リーン(元帝国兵士のリーゼの母)
ハガン(元帝国軍人リーゼの父)  白い魔族(?)
リーゼの友達           大人達
魔王パートは別で続きます。


 王国のあの戦争から何年経っただろうか。
 まだ二十年は経っていない。
 この物語の始まりは、百人にも満たないベトムと呼ばれた村の中である。
 特産品等もなく、細々と暮らしている人が殆どの小さな村だ。
 その村の中の一つの家に、リーゼと言う娘と、その家族が暮らしている。
 この村で、たった三人きりの家族である。
 大きな父親と、赤い髪の母のもとに生まれた少女だ。
 少し赤身がかかった髪の活発な少女である彼女は、荷物を一杯に抱え、この自宅に帰宅したらしい。
 何とか扉を叩き、母親に扉を開けて貰っている。

「お母さん、ただいま~」

「おかえりなさいリーゼ。市場には何か良い物有ったかしら?」

「リンゴが安かったのよ~、ほら、こんなにも一杯よ」

 りーぜは自分よりも赤い髪の母親に、買って来た荷物の袋を広げて見せている。
 その袋の中には、赤いリンゴが袋一杯に詰まっていた。
 リンゴは父親の好物で、その父親に頼まれ買って来ていたのだ。

「いっぱい買って来たわね。でも良いの? 前に言っていたじゃない? 今日は何か用事があったんじゃないの?」

「そうよ、友達とピクニックに行くのよ。もう直ぐ友達が来るから、それから一緒に行くの」

 元気一杯なリーゼは、その場で回りながら、その用事の事を伝えた。
 もう直ぐ友達がやって来る、そして楽しいお出かけが待っている。
 母親との楽しい会話、その最中にまた扉が叩かれた。
 まだ友達が来るには早く、これは父親だろうと振り返る。

「ただいま」

 振り返ったそこには、農作業をしていたリーゼの父親が帰って来ていた。
 大きな体には、農作業着があまりに合っておらず、もしかしたら鎧を着ている方が似合っていそうな体つきである。

「「おかえりなさい」」

 二人が、おかえりなさいと同時に言ってしまい、二人で笑い合っている。
 とても仲が良さそうな家族だった。

「今日はリンゴが安かったのよ~、お父さんの好物でしょ」

「ほう、そいつは嬉しいな、じゃあ一つ頂くとするか」

 父親はリンゴの入った袋に手を伸ばして、母親に叱られてしまっている。
 リンゴが有れば有るだけ食べてしまうという、困った父親だった。

「もうすぐお昼でしょ、少し我慢してね」

 父親は母親に怒られて、少し残念そうに手を引っ込めた。
 楽しい会話とやりとりも、また次の来客により止められてしまう。
 コンッ、コンッ、コンッ、っとノックの音が響く。
 
「あら、誰かしら。お昼に来るなんて食いしん坊さんねぇ」

 誰か訪ねて来たらしく、食事の用意をしようとしていた母親がその扉をあけてしまった。
 母親が扉を開けると、フードを被った女の人が立っていた。
 相手の顔は見えない。
 何だろうと、そう思って、リーゼは立ち聞きをしてしまう。
 もしもこの女が、もう少し後に来ていたなら、リーゼが出掛けていた後だったなら、運命は変わっていたのかもしれない。

「リーンさん、ですよね…………」

「えっ、はい、どちら様でしょうか?」

 フードの女は、リーゼの母親の名前を呼んでいた。
 母親は少しだけ怪しそうにしながらも、その女に、はい、と返事をして、フードの女に尋ねている。
 フードから除く肌が、やけに白い気がする。
 …………まるで生きても居ない死体の様に。

「…………見つけた、見つけたよリーン。ず~っと探していたんだよ!」

「貴女…………誰?」

 フードの女はパッとフードを脱ぎ、その姿を現した。
 白い肌をした人種、それよりももっと白い、本物の白という色をしている。
 水色に透けた様な髪色で、その人物がとても人間とは思えなかった。

「魔族ッ?!」

 母親のリーンは、とっさに立てかけてあった剣を持ち、魔族に向かってそれを構えた。
 大きな父親も奥から武器を持ち出して来ている。
 魔族とは聞いた事があった。
 知性を持った悪魔、そう両親から聞いている。

「魔族が私に何の用よ?」

 その魔族は父親の方を見て、口を釣り上げ笑っていた。

「ハガンもいたのね、今日は良い日になりそうだわ」

 チラリとリーンの目とリーゼの目が合った。
 リーンはリーゼの姿を確認すると、魔族の女を外へと誘う。

「家の中を壊されたくないの、外に行かないかしら」

 その問いかけに、魔族の女が笑って答えた。
 今度はその魔族の目が、リーゼを見つめた気がした。

「娘の事を気にしているのね? 大丈夫よ、私はあなた達にしか興味がないから。 …………ねぇ、私の事を覚えていないかしら?」

 リーンは魔族の顔を見ているが、そもそも魔族に知り合いはいなかった。
 よく考えても分からず、人違いなんではと淡い期待をいだく。

「ああ、この体では分からないかもしれないわね。 …………箱の日よ」

 箱の日。
 リーンとハガンが行(おこな)った帝国の作戦の日。
 ジバルと言った男を殺した日。
 あの日にいた旅行者だろうか。

「花火が上がったでしょ、私はそこに居たのよ」

 花火。
 リーンはその日を思い出している。
 崖の上に男と女がいたのを。
 それは自分達が逃がした二人の事だろう。

「貴女、あそこに居た女の方ね。それで、その人が私に何か御用かしら」

 ハガンは女に無言で剣を向け続けていた。
 リーゼも奥で震えながら、やり取りを見入っている。
 突然魔族が笑うのを止めた。
 そして家の中に風が吹き抜ける。
 動けない程に激しく、体に暴風がぶつかっていく。

「お前達がした事は今でも忘れていない! 私達の国に戦争を起こした事も、その戦争で何人も死んだ事も! あの人が居なくなったのも、全てお前達の所為だ!」

「あ、あれは仕事だった。俺達の命だって掛かっていたんだ! 帝国の一兵が上に逆らえる訳がないだろう!」

「そ、そうさ、元々帝国の大臣が王様を殺したから…………」

「もう良いから、死んでいなよ」

 魔族は、もう二人の言い訳など聞いてはいなかった。
 女が手を前に向けると、その瞬間緑色の風の刃が、二人の体を貫いた。

「あああああああああああああああ、お母さん! お父さん!」

 リーゼはあまりの出来事に叫びながら、倒れた母親に駆け寄って行く。
 そして両親を傷つけた魔族が、リーゼを見つめて言い放つ。

「私が貴女の仇だよ。仇を討つ気があるのなら、この顔をよ~く覚えていることだね。ただし、私は物凄く強いよ。戦おうと言うのなら命を捨てる覚悟をする事ね」

 魔族を睨みつけ、リーゼは魔族のその顔を、匂いを、言葉遣いまで全てを頭に叩きこんだ。
 絶対に忘れない為に、必ず復讐して殺す為に。

「じゃあね、力ない人間。私は行くよ」

 魔族が後を向いて家を出て行く。
 その瞬間、落ちていた剣を掴み、リーゼが後ろから斬りつけた。
 魔族はそれを軽く躱すと、剣をパキッとへし折り、リーゼを魔法の風で弾き飛ばす。
 そして魔族は弾き飛ばしたリーゼを覗き込み。

「そんなのでは駄目。ちゃんと強くなってから、もう一度出直しなさい」

 魔族は指でリーゼの額をパチッと打ち付けた。
 たった一発、リーゼはそれだけで気を失ってしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 リーゼが幸せな夢から目を覚ますと、そこが地獄だった事に気づいてしまった。
 傷ついた両親の姿と、家の中は暴風により、全ての物が散らばっている。
 もうこの家の中には幸せだった形跡は残っていない。

「お母さん、お父さん、あああああああああああああああ!」

 またリーゼは泣きはらし、幸せだった思い出が頭を巡る。
 それを思い出し、また悲しくなった。

「あの魔物、絶対許さないッ! 探し出して絶対殺してやるッ!」

 彼女が復讐を誓う最中、家の外から話し声が聞こえて来た。
 とても楽し気な女の子達の声だ。
 その子達が壊れた扉を見て、慌ててやって来る。
 それはたぶん、約束をしていたリーゼの友人なのだろう。

「リーゼ、何かあっ…………きいゃああああああああああああ!」

 リーゼが折れた剣を持って、両親の前で泣きはらしていた。
 その姿を見た友達達は、リーゼを疑っている。
 そんな物を見せられれば当然だったかもしれない。
 だが今のリーゼには、そんな彼女達に止めを刺された気分だった。

「まさか……貴女が、やったの? …………違う……わよね…………」

 友達の一人が疑った様子で、その場から後ずさって行く。
 今日の一日で、全ての幸せが、掌から零れ落ちて行く様だった。

「ち、違うわ、私がやる訳ないじゃないの…………」

 リーゼは折れた剣を持っていた事を思い出し、その剣を慌てて捨てた。
 もし自分が犯人にされたら、あの魔族にも復讐出来なくなってしまう。
 それはリーゼにとって、本当に地獄の様だった。
 それだけは絶対に避けたかった。

「魔族が来て、お父さんとお母さんを殺したのよ。私がやったんじゃない!」

 リーゼの隣には、剣で貫かれた様に見える両親の体がある。
 床に落ち折れた剣が、両親の血で真っ赤に染まっていた。
 友達はそれを見て、逃げる様に去って行く。

「わ、私達あの…………。 よ、用事が出来たので、ピクニックは今度にしましょうね。 …………じゃあ……また」

 友達だった者達は、ゆっくりと後ずさり、この場から逃げて行った。
 止めようと手を伸ばすが、リーゼはその場から動けずにいる。
 両親が殺されて、友達に疑われて、どうすれば良いか分からなかった。
 友達だった者達が呼んだのか、暫くして武装した大人達がリーゼの家に集まって来る。
 そしてやって来た全員がリーゼを見た。

「お前がやったのか!」

 完全に疑われていたリーゼは、首を振りながらそれを否定をしている。

「ち、違うわ、私じゃないの。魔族が来て、お母さん達を殺して、お願い信じて…………」

 大人達が家の様子を探っている。
 この家の扉が、有り得ない壊れ方をしていた。
 折れた剣を見ても、どうやって切ったか分からないぐらいに、綺麗に切断されている。

「おい、男の方はまだ息があるぞ! 両腕が切断されているがまだ助かるかもしれない。急げ、回復魔法が使える者を呼んで来い!」

 父親が生き延びていた、それはリーゼにとって希望だった。
 父親が助かった事よりも、母親の仇である、あの魔族の事を聞けると思って。

「生きているの、お父さんッ…………お父さんを助けて、お願いします、お願いします!」

 何度も頭を下げて、リーゼは服にしがみついた。
 しかし大人達は、それを振りほどく。

「助けたいのか、だったらお前は邪魔だからそこに居るんだ。おい、医者はまだか?!」

 医者は直ぐに到着した。
 ハガンの傷を見ると、直ぐに駆けより魔法を使った。
 傷は治ったが、ハガンの腕はくっ付くことはなかった。
 術師が未熟だったからか、それとも時間が経ちすぎたからか、何方にしろ彼は両腕を失った。 

 リーゼは三ヶ月掛けて父親に剣を習い、戦い方を教えて貰った。
 リーゼはそれを必死で習い、見るみる内に成長して行く。
 それでも魔族と戦う事は出来ないと、父親に言われてしまった。 

 そんな言葉を聞いても、リーゼは止まる事はできなかった。
 そしてリーゼは旅に出る。
 あの魔族を探すために。
 一命を取り留めた、リーゼの父親ハガンと一緒に。 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品