無欲、転生させられ世界をとる

makoch

悪魔の子

「久しぶりですね。」

 アルスの妻である『サラ』は玄関でそう言った。

「お久しぶりです、サラさん。玄関で立ち話もなんですので中へどうぞ。

 父がそう言うと

「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて。」

 そう断って中へ入ってきたのだった。

「久しぶりですねタイガ君、ナーファちゃん。私のこと覚えていてくれてるかな?」
「久しぶりです、サラさん。」
「全く知らん。」

 やはりナーファは気をつかう、ということができないらしい。

 じと目でナーファのことを見ていると

「し、知らないものは仕方ないだろ。今までで転生して赤の他人と話したことなんてないんだから。」

 と小さい声で俺に言ってきた。

「気の使い方なんて知らなくても問題ないだろ。」

 と開き直っていたからピシッと軽く叩いておいた。

「お兄ちゃん、何するんだよ!」
「開き直るな!次から気を付けなさい。」

 そう話しているとサラさんが何かを言いたそうにしているので

「あ、すみません邪魔してしまって。どうぞ話してください。」
「タイガ君はもう気をつかうことができるのね。私気をつかうって事が苦手だから凄いと思うわ。」

 褒められて悪い気はしない。

「本題に移りますわ。」

 そうサラさんが切り出した。

「この子は今は亡き夫アルスとの子供です。名は『ルーチェ』です。」
「私たちの家に来たのにはなにか理由があるのよね?」

 話を円滑に進めるために母が言った。

「ええ、そうなの。最初は夜泣きがヒドいだけだったの。でも、少しずつ成長していくうちに……」
「成長していくうちにどうしたんですか?」

 父はどうやら何か考えているようだ。会話に参加せずうつむいて下を見ていた。

「先月くらいからその夜泣きの一部が魔法を唱えていることに気が付いたの。」
「そんなことが……」

 母は非常に驚いている様子だった。

「それは少しまずいかもな……」

 父がそう呟いた。

「あなた、赤ちゃんが唱える魔法について何かわかるのね?」
「ああ、恐らくルーチェちゃんには魔人族が憑依ひょういしようとしている。
 産まれたての赤ちゃんは抵抗する力がなく、魔人族の器にされやすいと言われている。」
「なんとかする方法はあるの?」

 父と母の会話を聞いてサラさんは信じられない、というような顔をしていた。

(おいナーファ、緊急だ。魔人族が憑依しようとしているのは本当なのか?)
(うむ、私も今ルーチェの器を見てみたが間違いないだろう。)
(どうやったら助けることかできる?)
払魔ふつまの魔法を唯一つかえる払魔師ふつましを呼ぶくらいしか方法はない。)
(それでは探すのに時間が掛かりすぎる……どうしたらいいんだ。)
(私を誰だと思っている?)

 そういえばこいつ神だった。久しぶりにそのことを思い出した。

(ええい、うるさい。やってやるからそこで見ておれ。)

 そう言ってナーファは皆の目につかないところで魔法を唱えたのだった。

(『払魔強制離別ふつまきょうせいりべつ!』)

 ナーファが無詠唱で魔法をとなえたその時、ルーチェの体が淡く光り、その直後体が痙攣けいれんした。

「ルーチェ!どうしたの!?」

 驚いた様子のサラさん。

(ふう、一安心だ。)

 ナーファを信じた俺がバカだった。

 突然ルーチェの体から黒い塊が出現した。
 それはみるみる大きくなり、

(これは想定外だな……まずい!)

 ナーファは焦っていた。その黒い塊はなんと爆発したのだった。それと同時にナーファが

(『衝撃吸収』しょうげききゅうしゅう

 と魔法を唱えた。

 魔法のおかげで家には何1つ被害がなかったが、ルーチェのかたわには2本の曲がった角を生やした、悪魔代表のような仮面を付けた怪物が立っていた。



 


 


 




 

 

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