職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第四十一話 仲間

 俺が、 風呂から上がりテントから出ようとすると、 ミスティが俺の目の前に現れた。


 「あんた今からどこに行くつもりなの?」
 「ん? 体も治ったし、外で見張りでもしようかなと思ってな」
 「あんた馬鹿じゃないの! あんたは、 まだ完全に治ったわけじゃないの! だから寝てなさい!」
 「だが、 もし俺が寝てる間にモンスターに襲われたらどうするんだ?」
 「そんなのモンスター除けのお香を外で炊いてるから大丈夫よ!」
 「わ、 わかった。 じゃあ、 俺はこの部屋にあるソファで寝て……」
 「それもダメ!」
 「じゃあ、 何処で寝ればいいんだ?」
 「私の寝室でいいわよ!」
 「そうするとお前の寝る場所がないじゃないか」
 「わ、 私もあんたと同じベットで寝るから大丈夫よ!」 
 「いやいや。 それは、 マズイだろ! 俺達別に恋人同士ってわけでもないのに……」
 「いいからあんたは、 黙って私の言うことを聞いてればいいの!」
 

 俺は、 結局無理やりミスティに寝室へと連れていかれた。
 そして、 互いに反対の方向を見ながら寝るということになった。


 「ねぇ。 まだ起きてる?」
 「起きてるぞ? どうかしたか?」
 「な、 なんでもないわよ……」
 

 急にどうしたんだ?
 さっきからこいつの様子が、 少しおかしい気がする。


 「なあ、 さっきから様子がおかしいがどうかしたのか?」
 「べ、 別に何でもないわよ! いいからあんたは、 さっさと寝なさい」
 「あ、 ああ。 それならいいんだが、 何か体の調子が悪いならすぐに言えよ?」
 「なんで、 あんたは、 私にたいしてそんなに優しくするのよ」
 「だから言っただろ? 俺たちは、 仲間だって……」
 「仲間って何よ! 所詮人なんて自分が一番大事ですぐ裏切るような生き物じゃない!」
 「それは、 どういうことだ?」
 「いいわよ! この際話してやるわよ! 私の過去を!」
 

 こうしてミスティは、 自分の過去を語り始めた。
 ミスティは、 冒険者になりたての頃、 四人のパーティーを組んでいたらしい。
 パーティの仲は、 非常によく周りの冒険者たちからもとても仲のいいパーティーだと評判だった。
 しかし、ある日事件が起きた。
 その頃ミスティたちは、 自分たちの実力が高いと慢心していたらしく、 自分たちの階級よりはるかに上のクエストを挑んだ。
 そんなクエスト当然実力が足りず次第にモンスターたちに、 自分たちのパーティーは追い詰められていった。
 その時パーティーのリーダーを務めていた男が、 このままでは全員死んでしまうから一人囮を立て、 その間に自分たちは、 逃げ出すという考えを思いついたらしい。
 そして、 その囮に選ばれたのがミスティだったらしい。
 ミスティは、 その時泣き叫んで考え直すように何度もリーダーの男に言ったらしい。
 だが、 リーダーから帰ってきた答えは……


 「お前ひとりが死ねば、 みんな助かるんだ。 だから頼む。 俺たちが生き残るために死んでくれ」


 そう言われたらしい。
 ミスティは、 その言葉に絶望し、 それ以来人を信用しなくなったらしい。
 ミスティは、 その言葉を聞き自暴自棄になり、 モンスターの群れの中に突っ込んだが、 見向きもされず、 モンスターたちは、 逃げ出した仲間だったものたちの者へと向かっていたらしい。
 結果、 ミスティだけが生き残り、 他のメンバーは死んだらしい。
 ミスティは、 そんな経験がトラウマになっておりそれ以来誰ともパーティーを組まず一人でS級まで成り上がったらしい。
 そして最近では一人でクエストをこなすのが、 辛くなってきたため天使と契約してさらに自分の実力をあげようと考えたらしい。
 

 「これが、 私のすべてよ。 だから金輪際私を仲間だなんて言わないで」
 「嫌だ」
 「なんでよ!」
 「それだとお前は、 一生一人ぼっちじゃないか」
 「そうよ! それが私の望んだ道なの! だからもう私にかかわらないで!」
 「なら、 なんでお前は俺にその話をしたんだ?」
 「それは、 私にこれ以上関わってほしくなくて……」
 「違うだろ? だってお前が本当に人の事を信用してないなら、 俺が瀕死の状態のときに助けてくれるわけないし、 グリフォンと戦う時も止めは、 自分でさすというはずだろ?」
 「それは、 あんたに借りを返そうと思っただけよ! それとグリフォンと戦う時は、 私一人じゃ倒せないからあんたを利用しようとしただけ!」
 「確かにそうかもしれない。 だが俺が死んでいれば借りもなくなるわけだし、 止めもお前が俺の命を計算しなければ一人でも勝てたんじゃないか? だからお前は、 結局のところ人の事を見捨てられないんだよ。 何せお前は、 心の奥底ではまた、 人の事を信用したいと思ってるのだから」
 「違う! 違う違う違う!」
 「違わないさ。 お前は、 俺の事を信用してこのことを話してくれたのだと思うし、  そして俺ならお前のことを受け入れてくれと思って話してくれたんじゃないのか?」
 「私は……」
 「もう我慢しなくてもいいんだぞ? だって一人ぼっちは、 つらいものな。 俺も親に暴力を振るわれていたころがあってな。 その時は、 ありとあらゆる人間を恨んだものだよ。 そして今のお前みたいな状態になった。 まあ、 お前の体験の方が俺のよりひどいけどな」
 「それであんたは、 それからどうなったの?」
 「俺は、 その時ある一人の人に救われたんだよ。 そいつは、 俺が近づくなと言っても何度も俺に話しかけてくれてな。 そんな相手の態度に当初俺は、 少し恐怖したものだよ。 何せ、 いくら突き放しても離れていかないんだから」
 「それから?」
 「それからは、 簡単だよ。 結局俺は、 そいつを信じることにした。 その時俺は、 自分の状況をお前みたいにそいつに話したんだが、 その時あいつは、 涙を流しながら俺の事を抱きしめてくれたんだよ。 さすがにそれには、 驚いたよな。 それに俺は、 その頃愛情というものを知らなかったからな。 かなり戸惑ったよ」
 「あんたは、 そんな経験をしたから私に同族意識を感じたから私のことを仲間だと感じたの?」
 「いや、 俺はそんなこと関係なくお前と仲良くしたいとは、 思ってたぞ? まあ、 最初あった時めちゃくちゃお前に言われたけどな」
 「そう……」
 「それとお前人に対して今まであまり甘えてこなかっただろ?」
 「なんでそう思うの?」
 「お前の態度だよ。 あれは、 褒められたことがあまりない人間がする態度だ」
 「そんなの知らなかったわ」
 「だから俺は、 お前を全力で甘えさせてやるし、 悪いことをしたら叱ってもやる。 そしてお前が命の危険が迫った時は、必ずお前を助けてやるし、 お前がいつか、 周りの人を信じられるようになるまでずっと一緒にいてやる」
 「その言葉は、 本当?」
 「ああ、 本当だ」
 「本当に、 本当? あなたは、 私のことを絶対に裏切らない?」
 「本当に本当だ。 たとえ自分の命が危機に瀕したときでも絶対にお前のことを裏切らない。 言葉だけ言っても信用できないと思うけど、 どうか俺の言葉を信じて欲しい」


 ミスティは、 それからしばらく何も言わなかった。
 そして、 考えに整理がついたのか口を開いた。


 「全く。 しょうがないわね。 あんたのその言葉に騙されてあげるわよ」
 「それって初めから信用されてないこと前提なのか?」
 「そうよ? 何せ私は、 自分以外誰も信用していないんだもの」
 「それは、 なかなかに傷つくな」
 「そんなことよりも、 一つ質問してもいい?」
 「いいぞ? 俺に答えられる質問なら答えよう」
 「あんたって今恋人っているの?」
 「は?」
 「だから恋人は、 いるの?」
 

 ミスティは、 真剣な顔をして俺にそう尋ねた。


 「いや、 恋人はいないぞ?」


 まあ妻ならいるけどな。


 「そ、 そうなの!」


 俺に恋人がいなかったことが嬉しいのかミスティは、 満面の笑みをうかべている。
 なんだが理不尽だ。


 「それでなんでそんなこと聞いてきたんだ?」
 「秘密よ! とにかくおやすみ!」


 ミスティは、 最後にそう言って俺が何を言おうが返事をしなくなった。
 俺も最初は、 気になって話しかけていたが返事がこなかったので寝ることにした。
  




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