職業執行者の俺、 天使と悪魔と契約して異世界を生き抜く!!(旧題: 漆黒の執行者)

サクえもん

第二十八話 騒ぎ

 俺たち五人が冒険者ギルドに入ると、 ギルド内がいつもより騒がしかった。
 俺は、 周りが何を話題にしているかよくわからなかったので、 リサの担当の列に並び、 冒険者連中がなぜあんなに騒いでいるのか聞いてみることにした。


 「おはようリサ。 それであなぜあいつらこんなに騒いでるんだ?」
 「おはようございますユウさん。 顔色がよくないですけど大丈夫ですか? 何ならギルド内にある医療施設で、 少し横になりますか? 看病なら私がしてあげますよ?」
 「申し出は、 ありがたいが大丈夫だ。 そんなことより俺の質問に答えて欲しい」
 「ユウさんがそう言うならいいですけど気分が悪くなったらいつでも私に言ってくださいね? それとユウさんの質問に対しての回答ですけど、 彼らが騒いでる理由はですね。 昨日ワイバーンを一人で殲滅した人の映像が、 流れたでしょう? あれのことで今すごく話題になってるんですよ」
 「あの仮面の男の映像のことだよね?」
 「私達も宿の中から見てたわよ」
 「大きな鎌を使って、 ワイバーンを全頭殺し切った人のことだよね?」
 「私の場合なぜか、 あの仮面の男の正体を知っているような気がするんですけどね」


 そう言ってシアは、 こちらを見てきた。
 正直シアがここまで勘がいいとは、 予想外だった。
 そのせいで何か変な汗をかいてしまった。


 「そ、 そんなことよりその仮面の男のどこが具体的に話題になってるんだ?」
 「それはですね男性陣と女性陣で分かれているのですが、 男性陣はやっぱりあの普通じゃない強さですかね。 あんな強さの人間。 ギルド内でも見たことないですし、 仮にギルドに所属したとしたら確実にS級スタートですよ。 まあ、 あの強さは、 S級なんて枠には、 全然収まってない気がするんですけどね。 それと二つ名についてもなぜかもう決まってるんですよ」
 「へ、 へえ。 い、 一体どんなのなんだ?」
 「それはですね。 “漆黒の執行者”です」
 

 また、 そういう名前かよ。
 しかも漆黒っていたすぎるだろ。
 あと絶対名前決めたやつあのくそ爺だな。


 「それで、 なんでその名前なんだ?」
 「理由としては、 まず全身が真っ黒なのが一つ。 もう一つは、 武器に鎌を使っていたでしょう? あれって実は、 執行者の職業にしか適性がない武器なんですよ」
 「そ、 そうなのか」


 しまった! 墓穴を掘った! この四人は俺の職業が執行者だと知っている! もし、 ルーが協力してくれなかったら、 バレはしないにしても相当疑いの目を向けられていたはずだ。 
 現にシアが、 こちらをものすごく疑わしそうに見ている。
 

 「また、 女性陣はやっぱりあの仮面の下はイケメンなのかということかということで、 とても盛り上がっていますね。 それと王と王子が、 殺され次期女王に第一王女アリシア様がなることにも、 驚きましたし、 王女が女王即位とともに結婚することにも、 皆さん驚かれていますね。 特に冒険者の男性陣は、 アリシア様のファンの方が、 とても多いので、 今はアリシア様の旦那をどう殺そうか話し合っている輩もいるそうですよ?」


 俺は、 その話を聞きシアの顔をみた。
 シアの表情は、 無表情だった。
 俺は、 その表情が何を表しているかは、 大体わかった。
 多分今の彼女は、 内心では困惑し、 どう反応すればいいのかわからないのだろう。
 一応あんなのでもあいつの父と兄だからな。
 多少は、 情はあったのだろう。
 そしてシアの肉親の命を奪ったのは、 俺だ。
 だからこそ俺は、 シアがこれから幸せな一生を送れるように影ながら支えなければならないと思っている。
 前シアは、 俺に好きだといったが、 俺はその時は、 答えをにごした。
 そして今の俺は、 きっとシアのことが好きだろう。
 この世界は、 一夫多妻制が許されている。
 なのでルーとアリシアという妻がいる俺が、 シアと恋愛関係になっても法律的な問題は一切ない。
 だが、 たとえこの世界が一夫多妻制が認められておらず、 ルーとアリシアと結婚していなかったとしても俺はシアの恋人になることは、 一生できない。
 理由としては、 俺は彼女の肉親を奪った男だ。
 そんな俺がシアと付き合った末、 結婚したとしても彼女を幸せにすることは、 きっとできない。
 アリシアの場合は、 あいつは一応自分の父と兄を殺す覚悟はしていたしあいつと俺は、 契約でつながっているだけの関係だ。
 それにあいつと結婚しなかった場合俺は、 この国の王になることはできなかったので仕方ないと思う。
 これらのことを考えているため俺は、 一生シアと恋愛関係になることなどありえない。
 それが俺に対する自分自身でかす罰のようなものだ。
 もちろんこれが俺のエゴというのは、 理解している。
 それでも俺はこれだけは、 譲れない。
 まあ、 いずれシアも俺みたいな最低な男よりもっといい男を見つけ結婚するだろう。
 だが、 そんな時がきた場合俺は、 本当に笑顔で祝福できるだろうか?
 まあそんな未来の話より今のことを考えないとな。


 「シア。 大丈夫か? なんなら部屋で休んでるか?」
 

 俺は、 シアの耳元でそう言った。
 

 「いえ、 大丈夫です。 私も早く優さんと同じ階級に上がりたいですし、 頑張ります。 心配してくださりありがとうございます」
 

  シアは、 そう言うがシアが最後に浮かべた笑みは、 どう見ても作り笑いだ。
 俺は、 シアにこんな顔をさせた自分に腹を立てると同時に、 俺の立てた計画は意地でも最後までやり通さなければならないと改めて決意した。


 「そうか。 無理は、 するなよ? 俺は、 今日も新人指導だからお前のことを見ていられないが、 きついと思ったらすぐに部屋に戻るんだぞ?」
 「ゆ、 優さんったら私を一日中見ていたいなんて」
 「誰もそんなこと言ってねぇよ。 まあ、 でもそんな軽口を言えるなら大丈夫か」


 俺は、 そう言ってシアの頭を撫でた。




 「優君。 いつまでそんなことしてるのかな?」
 「優ちゃんそれは、 浮気ととらえていいのかな?」
 「お兄ちゃん?」


 俺の後ろには、 般若の顔をした三人が立っていた。
 また、 ルーも先ほどから何か物騒なことを俺に言ってきている。
 俺は、 またお仕置きされるのが、 嫌なのですぐにシアから手を離した。
 その時シアは、 名残惜しそうな顔をした。
 その顔が、 姉さんと胡桃の逆鱗に触れたのか三人で、 喧嘩し始めた。
 正直止めるのは、 めんどくさいので、 俺はほっておくことにした。


 「リサ。 とりあえず今日もあの三人におすすめのクエストを教えといてやってくれ」
 「わかりました」
 「あれ? 優君私は、 クエストやらなくていいの?」
 「雪には、 俺の担当する子の一人に僧侶が、 職業の子がいるんだがな。 俺は、 回復魔法は使えないから、 その子に回復役の立ち回りとか教えられないんだよ 。 だから雪には、 その子の教育をお願いしたい」
 「つまり今日一日私は、 優君と一緒に行動できるんだよね?」
 「そうだな」


 俺がそう言うと、 雪は小さくガッツポーズをした。


 「さて多分ヤマトとサクラの奴らももう待ってるだろうから、 早く行くか」
 「うん!」


 雪は、 そう言った俺の腕に抱き着いてきた。


 「あの~雪さん。 恥ずかしいので、 離れれてくれませんか?」
 「嫌だよ。 最近優君と一緒の時間も少なかったんだから今日ぐらい甘えさせてよ」
 「だ、 だが……」
 「ダメなの?」


 雪は、 そう言って涙目で俺を見てきた。
 なぜ俺が雪に離れて欲しいとお願いしたかというとルーが、 先ほどから怖いことを言ってるからである。


 (ふふふ、 優はまた浮気するんだ。 じゃあ今夜もたっぷりお仕置きしないとね)




 勘弁して欲しい。
 だが涙目の雪を俺は、 結局引き離すことができず、 俺の夜のお仕置きが決定したことにゲンナリしながら、 俺はヤマトとサクラとの、 待ち合わせ場所へと向かった。
 


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