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転移したらダンジョンの下層だった

Gai

九十九話見た目に騙されず

(あの試験官、もしかしたら結構強いのかもな。俺の蹴りに反応して咄嗟に身体強化のスキルを使ってやり過ごしたし。ランクCにかなり近いランクDの冒険者ってところなのかもな)

ブライドの実力を好評しながらソウスケはミレアナの傍に戻った。
その際、ソウスケが見た目の影響もあってさほど強くはないと思っていた受験者達は、あまり納得が出来ない表情でソウスケを見ていた。

「お疲れ様でした、流石ソウスケですね。とても動きがスムーズでした」

「確かにいちいち動きを止めたりはしなかったからスムーズだったかもしれないけど、特にこれといって凄くは無かったはずだ。戦いの最中に、それに接近戦の中に動きを止めるなんて愚の骨頂だろ。フェイント、油断を誘う意味で動きを止めるなら分かるけど、そうでなければどうぞ殺してくださいって言っているようなもんだろ」

ソウスケが今言ったセリフに悪意は全くなく、真面目に考えての発言だったがブライドにコテンパンに負けた受験者達には完全に挑発されたという認識になり、目からビームが出そうなほど眼圧が高くなっていた。

そんな視線を受けているソウスケは全く相手にせず、ミレアナと会話を続けていた。

「それで、ミレアナも俺と同じように最後に挑むのか?」

「そうですね・・・・・・先程までの摸擬戦を見ていると、最後までしっかり見ておかないと実力を正確に判断出来ない気はするので」

ミレアナは周囲に聞こえない様、後半部分は小さな声で話した。
ソウスケ以外の接近戦の受験者の摸擬戦を見た限り、遠距離タイプの受験者達も似た様な実力ではと思ったミレアナは、リーナの実力をしっかりと判断できるか少し不安だった。

(まぁ、他の受験者達をを見た限り冒険者になる前に実戦を経験した人から師事を受けた人は、殆どいなさそうでしたから仕方ないのでしょう。・・・・・・一番最初の、レイガって人は酷いどころの話では無かったですけどね)

一番最初にブライドに勢い良く挑むレイガを見て、ミレアナはもしかしたら意外と強いのでは? と少しだけ思ったが、そんな事は全くなく寧ろ戦闘に関してド素人だったので、何故自分の主であるソウスケに対してあそこまで傲慢な態度を取っていたのかが理解出来ず、ミレアナは頭の上に複数のハテナマークを浮かべていた。

「まぁ、取りあえずやり過ぎなきゃ何とかなる筈だ」

「そうですね。でも、接近戦担当の試験官・・・・・・ブライドさんを見る限り、遠距離担当のリーナさんはしっかりとした強さを持っている人だと思います」

「そこについては俺も同感だな。砂かけの視界を遮る行動を批判するどころか褒めてたしな」

ソウスケがリーナと弓を持つ受験者が向き合っている方向を見ると、丁度ブライドが開始の合図を出した。

受験者は直ぐに腰に付けている筒から矢を取り出し弓にセットしようとしたが、リーナの取った行動に動揺し動きが鈍った。

リーナは開始に合図と同時に受験者に向かって駆け出した。
遠距離タイプの摸擬戦という事で、接近戦タイプの摸擬戦と比初期位置の距離を開けていた。

そして受験者は杖を持っているリーナは必ず魔法を使って来ると思い、詠唱を唱えている内に弓で矢を放ち攻撃しようとした。
だが予想は完全に外れ、結果として致命的な隙を生んでしまった。
遠距離タイプの受験者達はリーナと摸擬戦をしている受験者と同様に驚き、中には口を開けてポカーンとしている者もいた。

ソウスケがチラッと近接戦タイプの受験者達を見ると、同じく驚愕の表情を浮かべていた。

「全く、さっきブライドと最後に戦った子が言っていたように、戦いの最中に動きを止めるなんて本当に愚の骨頂よ。相手が格上なら尚更ね」

リーナはそう告げ、杖で攻撃が出来る範囲に入ると右手に持っている杖で弓を上に弾き、左手で腰から短剣を抜き取り受験者の首元に突き付けた。

「っ!!!」

「はい、これで終わりね」

突き付けられた短剣を下ろされた受験者は、本当に何も出来ずに終わった事が悔しく拳を握りしめ、歯ぎしりしていた。

「・・・・・・そうね、これからは動きながらでもしっかりと相手を狙って撃てる練習をしたらどうかしら? 勿論相手も動くから出来るようになるまで時間が掛かるかもしれないけど、出来るようになれば一気に戦力が上がると思うわ」

リーナからアドバイスを伝えられた受験者は悔しそうな表情から一転、先輩冒険者から明確な課題を提案された事でやる気が出て来たのか前向きな表情になっていた。

だが、リーナのアドバイスの内容を聞いたソウスケはかなり難しい内容なのではと直感的に思った。

(自分も動いて相手も動く、そして実戦だと当然障害物もある・・・・・・出来れば確かに戦力は上がるだろうけど、ルーキーには難し過ぎるんじゃないか?)

習得が相当困難だと思ったソウスケは心の中で弓を持つ受験者に合掌した。

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