転移したらダンジョンの下層だった

Gai

九十八話前向きな試験官

「名前はソウスケです。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

二人が距離をとってお互いにロングソードを構え、リーナが開始の合図を言うとソウスケから先にブライドに仕掛けた。
ソウスケはブライドのスピードより少し遅いぐらいの速さで突きを放った。
ブライドはソウスケが近接戦の受験者達の中で頭一つ抜けた実力を持っていると勘付いていたが、予想していたよりもスピードがあり、少し慌てながらソウスケの突きを回避した。

突きを躱されたソウスケは体をそのまま流さず右足で勢いを止めて、右に避けたブライドに左足で蹴りを入れた。

だがその攻撃をブライドはある程度予測しており、剣の腹でソウスケの蹴りを受け止めた。

そして今日摸擬戦の中で初めてブライドに攻撃をガードするという選択肢を取らせたソウスケに、受験者の中から数人ソウスケに拍手を送っていた。
そんな受験者の中の一人、レイガは拍手をした数人とは違いソウスケを睨み付けながら歯ぎしりしていた。

(俺を睨み付けたからって、試験の結果は変わらないと思うぞ!!)

迫りくる左薙ぎをバックステップで躱し、直ぐにもう一度その場から駆け出してブライドに斬りかかった。
ソウスケの次の攻撃が動きから袈裟切りと分かったブライドは今度は慌てず、中段に構えてソウスケの攻撃を対処しようとした。

だがソウスケの剣による攻撃はフェイクであり、本命は別にあった。

今度は左足でブレーキをして一旦止まり、右足で少しだけ強く地面をブライドの方向に向かって蹴りつけた。

「っーーーー!!!!」

完全に予想外の攻撃にブライドは避ける事が出来ず、自分の顔に襲い掛かる小さな石や砂を目を瞑るという選択肢でしか防ぐ事が出来なかった。

ブライドの顔に襲い掛かる砂や小石はそこそこ速く、その証拠にソウスケが蹴りつけた地面が十センチ程抉られていた。

戦いの中で目を瞑ってしまうという愚行中の愚行をしてしまったブライドは直ぐに気配察知のスキルを使い、探る感覚を自分の前方一メートルだけに絞った。

そして自分に向かって来る攻撃が先程と同じ蹴りだとブライドは分かったが、剣の腹でガードするにはソウスケの蹴りがあと少しというところまで迫っていて、ガードは不可能だと判断したブライドは咄嗟に試験中には使わないと決めていた身体強化のスキルを使った。

ソウスケの蹴りを腹で受けたブライドは自分が身体強化を使い、ソウスケが手加減していたと言う事もあり数メートルだけ後ろに浮かぶだけで済んだが、蹴りを腹に喰ったブライドの顔には冷汗が流れていた。


(いやぁ・・・・・・これでGランクとか何かの間違いだろ。咄嗟にとはいえ、使わないって決めたいた身体強化を使ってしまうなんてな。これ以上は摸擬戦を続ける意味は無さそうだな)

ソウスケの前の受験者達は自分の獲物で攻撃するだけで、拳や足を使ったり目つぶしで小石や砂をぶつけてくるような事をする者はいなかった。
拳や足ならともかく、砂や小石を使った目つぶしは卑怯だと思われるかもしれないが、寧ろブライドはソウスケが躊躇なく使ってきた事に感心していた。

そして手を前に出して武器を手放す事で、摸擬戦を止めるという合図を出した。
出された手がストップの意味だと分かったソウスケは追撃を行わず、その場に立ち止まった。

(普通に戦っても強いのは確かだろうな。表情を見た感じ本気を出している様子は一切なかった。俺も本気で戦っていた訳じゃないが、本気で戦ったとしても負ける可能性は十分にあるだろうな)

ブライドはしっかりとした実力を持つ後輩に感心しながらも、ソウスケから刺激を受けて強くなろうという気持ちが大きくなり、今回の試験を受けて良かった心の底から思った。

(この少年・・・・・・ソウスケ君がこれほどの強さを持っているなら、同じパーティーのエルフさんもただの遠距離タイプって訳じゃ無さそうだな)

自分と同じで衝撃を受けるであろうリーナに後で一応忠告しようと思った。

「いやーーー随分と戦い慣れているな。身体能力の高さは勿論、動きに無駄が少ないって感じだな。それに相手に砂をかけて視界を封じるっている、確実に相手を追い詰める戦い方も良かった」

ソウスケの足で相手に砂をかけるという行動を見てからソウスケにブーイングをしていた受験者達は、自分達がソウスケに言うであろうと予想していた言葉とは全く違い、驚きのあまり顔が固まってしまっていた。

「元冒険者の人に師事とか受けていたのかい?」

「あ、はい。祖父が元冒険者だったので色々と攻撃方法は教えて貰いました」

架空のお爺ちゃんの嘘をつくのに慣れてしまったソウスケは、言葉をつっかえることなく答えた。

「成程、それなら色々と納得がいくな。君と色々と話してみたいが、今は試験中だからなそういうのは後だな。リーナ、次頼んだぞ」

「分かったは。審判よろしくねブライド」

遂に自分達の番が来た遠距離タイプの受験者達は、接近戦タイプの受験者達が戦っている最中にリーナにどう挑むのか作戦を考えていたが、いざ自分達の番になると緊張のせいか額から汗がたらたらと流れていた。ミレアナ以外が。

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