五十二話善意の助言

高給娼館に入って直ぐにソウスケに向かって来た体格の良い店員は、ソウスケを店から追い出そうとした。

「少年、何を考えてお前がこの店に入って来たのは分からないが、この店はお前の様な子供が来る店ではない。冷やかしが目的で来たのなら直ぐに出て行ってもらおう。無いとは思うが、抵抗するならっ！？」

店員はソウスケの手のひらからに乗っている物を見て、言葉を詰まらせた。
そしてソウスケのニヤッと笑っている威圧の籠った笑顔を見て、後ずさりしてしまった。

「これが何なのか・・・・・・それくらいは分かるよな。これを持っていても、俺はこの店に来るのに相応しくないのか？　どうなんだ？」

自分を店から追い出そうとした店員に対して、かなりイラッと来たソウスケは口調が厳しくなっていた。

(まぁ・・・・・・分かっていた事ではあるけど、やっぱ実際に言われるとイラッと来るな。でも、金貨を見たら大人しくなった・・・・・・というか驚いてどうしたら良いか分からないって顔をしているな）

店員が言葉を詰まらせた理由は、周りからは見えないようになっているソウスケの手のひらにある金貨だった。
未だにソウスケに対してそう対応していいか分からない店員は、そもそもなんで見た目が子供のソウスケが金貨なんて大金を持っているのかが理解できなかった。

「それで、答えはどうなんだ。俺はこの店の客として相応しいのか？　それとも相応しくないのか？」

店員が中々答えを出さない事にイライラが増したソウスケの声は、少し怒気が籠っていた。
すると先程までの態度とは打って変わり、店員は、低姿勢な態度でソウスケの問いに答えた。

「い、いえ。そんな事は御座いません。た、たた大変失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした！！！」

「まぁ・・・・・・分かってくれたらそれで良いんだよ。ただな」

顔から汗が大量に噴出している店員に対して、これからの接客に関して一つだけアドバイスした。

「人を見た目で判断しない方が身のためだぞ」

ソウスケからのアドバイスを聞いた店員は、歯をカチカチと震わせながら返事をした。

「は、ははははい！！　ぜ、是非そうさせて貰います。で、ですから何卒ごお許しを・・・・・・」

店員が自分に許しを請う姿を見て、店員が自分の言葉を間違えて捉えているのではないのかと思った。

(なんでこの店員、汗だらだらで俺に謝っているんだ？　俺は単にアドバイスをしただけなんだけどな・・・・・・もしかしてさっき威圧感や怒気を込めて言ったからか？　でも、俺の見た目的にあんまり迫力は無い気がするんだけどな）

ソウスケの考えは間違っていなかったが、少し足りなかった。
店員はソウスケの考えプラス、ソウスケが貴族の子息だと思ったため頭を下げ、許しを請う程の低姿勢な態度を取っていた。

「ああ、分かった分かった。許すから早く受付まで案内してくれ」

「は、はい！　かしこまりました！！」

ソウスケが先程までの上から目線な態度だった店員の対応を許したが、店員はぎこちない動きで受付に向かって歩き出した。
その後ろにソウスケも付いて行こうと歩き出したが、そこで自分に周囲の視線が集まっている事に気が付いた。

(ちっ、さっきの店員との会話で少し目立ったってしまったか。まぁ、店員の声が結構大きかったしな。仕方ないと言えば仕方ないか。そこを店員に言っても、この視線がなくなる訳じゃないしな）

ソウスケは一瞬止めた足を直ぐに動かし、店員の後に付いて行った。

そして一旦店員にここで待っていてくれと言われたソウスケは、今度は真っ当な考えがあるんだろうと思い、大人しく待つことにした。

(多分受付の人が自分と同じような態度を取らないように説明しているんだろうな。さて、そういった女の人を指名しようかな）

先程までのイライラは吹き飛んでおり、ソウスケの頭の中はピンク色だった。