転移したらダンジョンの下層だった

Gai

十話三人からの視点

俺は夢でも見ているのではと思った。


「こんなことが、あるのか」


目の前の光景に思わずそんなことをつぶやいた。


「は、はははっ。凄いな、なんて少年だ」


「うそ、でしょ。あんな、私達より年下の子が・・・あんなに・・・・・・」


仲間であるアガルスと弓術士のエルミは、目の前の光景にかなり驚いていた。
いや、仕方ないと思う。おそらくまだ十五ぐらいだろう。そんなまだ俺達より駆け出しのはずの冒険者が自分達が敵わなかったコボルトの上位種に圧勝しているのだからな。


コボルトウォーリア―の剣を、見たことがない形状の剣? で打ち壊し、そのまま首を跳ね飛ばした。
その様子はわかったが、太刀筋がほとんど見えなかった。


そして不意を突き、少年の頭を狙いコボルトアーチャーが放った矢と、コボルトファイターが投擲で投げた大きな石を、難なく背を後ろにそらし避けた。


「今の攻撃をあんな余裕な顔で避けるのか。完全に不意を突いていたはずなのに」


アガルスは口を大きく開けて、信じられないという表情をしていた。
だがこの後の少年の行動にさらに驚かされた。


少年は残りの上位種たちに向かって走り出した。驚くことに魔法の詠唱をしながらだ。
これには俺も心底驚かされた。今少年がやっていることは、並行詠唱という技能のはずだが、前に知り合いにどれほど難しいのかと聞いたら無詠唱並みに難しい、上級の魔法使いが使う技能だと言われた。


そんな技能を、目の前の少年が使っているのを見て、俺達三人は開いた口がふさがらなくなった。
さっきのコボルトウォーリア―の一合だけでも、剣の腕はかなりのものだと思ったが、魔法の腕も自分達の完全な予想外の凄さに驚きが隠せなかった。


そして並行詠唱は失敗に終わることなく、コボルトアーチャーの頭を吹き飛ばした。
魔法の威力も申し分ない。俺達が少年の技量の凄さに感心していると、コボルトファイターが間髪入れず両拳で連打を少年に入れた。
持っているスキルの影響か、それともコボルトファイター自身の身体能力なのか、俺は拳を目で追うのがやっとだった。


だがその連撃を少年は、一撃も喰らわず躱すか拳で受け流している。
もう驚くことはないだろうと思っていたが、そうはいかなかった。
コボルトファイターの連打が来る瞬間妙な剣をしまうのを見て、血迷ったのかと思ったがそうではなかった。


あの少年は剣と魔法を使え、さらに肉弾戦も出来る様だ。
これにはさすがに驚くというよりは、信じられないという気持ちの方が大きかった。


冒険者にかぎらず、モンスターや人を相手にする職業の者達は基本的に、あれやこれに手を伸ばさず一つの者を極めようとする。手を出しても補助程度にしている者が多い。
偶にあれもこれも出来るって人物に合うが、全部素人に毛が生えたような技量ばかりだった。


だがら目の前の人物程、なんでも出来る人は見たことがなかった。


「・・・・・・こんな冒険者がいるんだな」


目の前の少年は、おそらく有名な冒険者なんだろうと思った。
おかしくはない話だ。現に自分達と同じぐらいの年齢で自分達より各上の者がいるという話は、何度か聞いたことがある。目の前の少年はきっとそういう人物なんだろうと思った。


そして少年がコボルトファイターの両腕を弾くと無防備になった体におそらく三発ほど拳を入れた。
少年の拳を貰ったコボルトファイターは後ろにあった木に激突し、そのまま崩れ落ちた。
これで残りは後コボルトウォーリア―だけになった。


だが、そこでまた狙っていたかのように、相手を倒し終わった少年に、コボルトウォーリア―が斧を脳天めがけて振り下ろした。


危ない!!! っと俺達は叫びそうになったが、少年は初めからコボルトウォーリア―が、この瞬間を狙っていたことが分かっていたようだった。


少年はコボルトウォーリア―が振り下ろした斧を、片手で掴んで受け止めた。
コボルトウォーリア―はそのことに驚いた顔をしたように見えたが、直ぐに力を入れなおし少年を押しつぶそうとした。だが少年は微動だにしなかった。
俺も力には少し自信があるが、モンスターの攻撃を素手で受け止めようとする勇気はない。


少年は受け止めていた斧を離すと素早く懐に潜りこみ、コボルトウォーリア―の両腕を掴むとそのままコボルトウォーリア―を前に引っ張り、半回転させ地面に叩き付けた。


その光景を見て俺はウッと、自分が喰らっているわけでもないのに痛みを感じた。
おそらく今まで何度か喰らってきたことがある痛みだ。
体の中から何かが一気に抜け、息がつまるあの感覚なんだろう。


そして少年は右腕を振り下ろしコボルトウォーリア―の腹を殴りつけた。


コボルトウォーリア―は血を口からたくさん吐き出すと、それ以降は動く気配はなく息絶えた。
よく見るとコボルトウォーリア―の腹に穴が開いており少年の手は血で濡れていた。


こうして少年とコボルトの上位種達の戦いが終わった。



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