漆黒王の英雄譚
第9話 旅路
「俺達が王都を出て3ヶ月が経った頃王国の南端のゴルディバに着いたんだ」
「随分と時間がかかったんだな。ゴルディバなら2ヶ月で着くだろう」
「今回は全体的にゆったりとスローペースで行ったから。」
親父の言う通りゴルディバには普通に行ったら2ヶ月ほどで着く。遅かったのはもちろん途中でよった街で遊んだり食べたりしていたからだ。
「そこで1泊したあと国境を超えたんだ」
「けどどうやって国境を超えたんだ?普通関所を通るなら身分証明書が必要だろ?」
「それはリヒトに商業ギルドに登録させたんだ。ギルドの情報ではリヒトはルメルっていう名前にしてたから、親父達が見てもわからなかったんだと思う。それに当時はリヒトが父親でウェンティスが母親の息子ピエールって言う設定になってたから余計分からなかったんじゃないかな?」
「そうだったのか。」
「国境を抜けたあと特に何も無く街の名物なんかを食べ歩きしながら魔物の素材を売ったりして金を貯めて次の国境を超えてまた超えてと、そんなふうにしていたら1年半が経ってた」
「随分とんだな。けどそうか。その時アルトはどこにいたんだ?」
「大陸の南西の海さ」
俺が無限収納から世界地図を広げてその時いた場所を指さす。
「けどそこまで何をしに行ったんだ?」
「それを話すにはまず今回の旅の第一の目的を話さなきゃだね。第一の目的は単純。俺の魔力回路を治すこと」
「治ったのか?」
「もちろん。戦場で傷を直した魔法があったでしょ?あれは俺が作った魔法だからね」
「確かにあの時魔力が広がって行ったわね」
「ほら」
俺が指の先から小さな火の玉や水の玉などを出すと「おおー」と声が上がった。
「けどどうやって治したんだ?」
「ん〜あんまり言いたくないな。けど治したのはこの南西の海のどこかにある島の施設だよ。その施設は誰にも知られておらず多分この世界の人間じゃ使うことも出来ない施設だったよ。」
「そうなのか」
親父が残念そうにそういった。
「ごめんな。これはある人との約束だから言えないんだ。まあ、そこで俺は1年間の眠りについた」
『に、1年間!?』
全員が声を揃えて驚いた。
「どういうこと?1年間眠ったって」
「簡単に言うと魔力回路を治すのはその施設でも簡単じゃないんだ。だから、体を休ませる状態であることが必要だった。それで1年間眠ってたんだ。それで目が覚めたのは2年半前。それからは魔力回路が治ったからやれる事の幅がぐっと広まった。そして俺は第二の目的を達成することにした。第二の目的は新しい仲間を見つけることと、俺自身の強化だ」
「アルト自身の強化?」
「そう。」
5年前、犯罪者脱獄事件の時、俺がほとんど制圧したとはいえリヒトに治してもらうまでかなり怪我をしていた。それこそ致命傷や重傷は無かったものの軽傷とはいえかなりの数の傷を負ってしまったのだ。
正直終わったあとは力不足を感じてしまったものだ。
「だから旅の途中は結構修行してたな。そう言えば修行の最中に出会ったのがエルドだったな」
俺がエルドラドに話しかけるとエルドは寝ていた。
「・・・・・・まあ、出会って最初の仲間が寝てるやつだ。それでエルドは黄金竜っていう竜種なんだ」
「その黄金竜?というのはなんなんだい?」
ハドルフさんが質問してきた。
「うーん。説明しづらいんだけど龍種で頂点に立つのが龍王ファフニールっていう竜なんだ。その子供が三体いる。そのうちの1人がエルドラドなんだ。」
「龍王・・・確か文献で読んだことがあるな。陸空海において生物上最強と言われる龍の王。その一体だけで世界を滅ぼす力を持つ。」
「確かにすごい強いけど、それでも大陸3つくらいしか滅ぼせないらしいよ。エルドも大陸1つしか滅ぼせないらしいし。」
「いや、どう考えても過剰戦力だよ。」
「大きさも今日くらいじゃ本当はないんだ。本来の大きさはもっと大きいよ。普段は邪魔になるから普通の竜くらいの大きさになってるけどね」
「・・・・・・・・・」
何故だろうか、みんな静かになっちゃった。
「まあ、エルドのことはこれくらいでいいか。他の仲間は旅の途中で悪いやつと勘違いされてたのを助けたりとか、すげぇ才能持ってるのに貧民街で野垂れ死にそうになってたのを助けたりとか。全員かなり強いからね。ね?」
俺が後ろをむくと起きているやつが苦笑いしていた。
「旦那よりは弱ェよ。俺なんて無理矢理入れられたようなもんだぞ」
アダムスがそういうので返してみた。
「ほほぅ。それじゃあ辞めるか?別にいいぞ?酒は一生飲めなくなるが。」
「今のメンバーはいい。温かみに溢れている。ここ以上の職場はありませんよ。あははははは」
アダムスは少し汗を流しながら答えた。
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コメント
華羅朱
に、一年間?
い、一年間!?だと思います