他愛もない僕の今日
SHR 部活動見学
放課後になった。入学式の翌日に部活動見学に行こうと思ったが、その日は弓道部が活動をしていなかった。その為週が明けた今日見学に行くことになった。絵翔は部活へ行き、碧君はバイトへ行ってしまった。穂榀さんはそもそも女子だから、一緒に回ることはない。それに中野さんと回ると思う。そろそろ行こうと席を立つと、鹿乃君がこちらへ走ってきた。
「おーい杉乃君!杉乃君も弓道部の見学行くんだって?一緒に行かない?うちのクラスだと杉乃君ぐらいしかいないからさ〜」
どうやら鹿乃君も弓道部の見学に行くみたいだ。僕1人だけで行くのは心細かった為誰かと行くのは心強い。
「分かったよ。僕1人だけは心細かったんだ」
「お!良かった〜。断られたらどうしようかと思ったよ。それと、春って呼んでいいか?杉乃ってなんか呼びづらくて」
鹿乃君は少し躊躇いがちに聞いてきた。
「全然構わないよ」
「そうか?なら俺のことも好きに呼んでくれ!」
鹿乃君は僕の言葉に嬉しそうに答える。鹿乃君は表情が豊かで、明るく話しやすい。まだ始まったばかりだが鹿乃君を中心に、クラス内が明るくなっている。これも鹿乃君がみんなの緊張をいい具合に解いてくれているからだろう。
「そうだね〜…なんか鹿乃君は鹿乃君って感じがするから僕はこのままでいくよ」
「そうか。じゃあ、行くか!」
鹿乃君は元気良く言い、僕も席を立つ。僕ら2人は教室を後にした。
▽ △ ▽
弓道場は講堂を越えた先にある。そこには弓道場の他に剣道場、柔道場もある。歩いているとちらほらと僕らと同じ方向に歩いている生徒も見かける。制服だけでは学年が判断できな為、先輩なのかどうかも分からない。そんなことを思っていると鹿乃君が話しかけてきた。
「春はどうして弓道部見に行こうと思ったんだ?」
「弓道ってあまり見たことなくて。柔道とか剣道は見たりした経験があるんだけどね。それでどんなものなのか気になって」
「そーなのか。俺は知り合いが弓道やってて、1回だけ試合を見に言ったことがあってさ。その時になんつーかすげーって思ったんだよ。立ち姿が凛としててさ。なんか言ってて恥ずいな」
鹿乃君は少し恥ずかしそうに言った。普通に良い理由だと思うけど、僕の方が仕方のない理由な気がする…。
それから他愛もない話をしていると弓道場へとついた。弓道場はまだまだ綺麗だった。出来たばかりなんだしそれもそうか。ただその雰囲気は凄みを感じる。中から声が聞こえる。もう部活は始まっているらしい。
「こう目の前まで来ると緊張するな」
鹿乃君がそう話しかけてくる。
「そうだね。ここまで来たからには引き返せないよ」
僕はそう鹿乃君に笑いかける。それに鼓舞されたのか鹿乃君も笑って答える。
「それもそうだな!行くか!」
そうして、弓道場の扉を開けた。
弓道場の中へ入ると僕らと同じ制服のまま、つまり1年生の姿が見受けられる。人数は僕ら2人を抜いて5人のようだ。その5人も2人と3人に別れてそれぞれ1人ずつ先輩がついて説明をしているらしい。その姿を見ていると、説明をしていた先輩がこちらの方を向いた。
「あ、新しい子だ。ごめーん!赤穂くーん、悪いんだけどあの子達への説明お願いして良いー?」
そう髪をポニーテールにした先輩は弓の準備をしていた先輩に声をかけた。声をかけられた先輩は少しめんどくさそうな顔をすると渋々といった感じでこちらへと歩いてくる。隣で鹿乃君が苦笑いをしている。歩いてくる先輩の姿は好きな事をしていた時に家事を手伝わされる子供のような感じだ。そのような感じで先輩はこちらの方までやって来た。
「あー、3年の赤穂凉だ。なんか説明する事になったが、まあよろしくな」
赤穂先輩は髪は短く目つきは少し鋭い。筋肉が程よく付いていて、身に包んだ和装がとてもよく似合っている。そう言うと赤穂先輩は手を差し伸べて来た。それに鹿乃君が答え、握手をする。
「鹿乃廉です。よろしくお願いします」
鹿乃君と握手し終わると次は僕に手を差し伸べて来た。僕はその手を掴み握手をする。
「杉乃春です。よろしくお願いします」
僕の手を離すと赤穂先輩は僕ら2人を見て少し考えるような表情してから話し始めた。
「取り敢えず説明始めるか。まあ見ての通りここが弓道場。的は4つ。入り口から入って左側にある部屋が男子更衣室。その逆右側にあんのが女子更衣室だな。自分の弓を持って帰ってもいいが置いておくなら更衣室に置く事になってる。ここまでで何か質問あるか?」
そう赤穂先輩は聞いてきた。僕と鹿乃君は互いに顔を合わせると、
「いいえ、ありません」
「そうだな、ないです」
と答えた。赤穂先輩は頷くとまた説明を始める。
「それで部員なんだが…全部で11名。2年が男子3人女子2人の5人。3年が男子3人女子3人の6人だな。今はここに3人しかいないが、他の部員はランニングに行ってる。体力作りは弓道でも必要だからな。あっちで説明してる眼鏡が3年で部長の東堂隼人で、今こっちに来てんのが同じく3年の遊編茅な」
「ごめーん。この先輩怖いでしょ?」
遊編先輩はにやにやしながらこちらに問いかけてきた。鹿乃君が笑って答える。
「そんな事ないですよ。説明も丁寧でしたし。面倒見がいいのかなって思いますよ」
赤穂先輩の方を見てみると、少し顔を赤くしている。もしかしてていているのだろうか?そう思っていると遊編先輩もその事に気付いたらしく今度はしっかりと笑って言う。
「あれ〜もしかして赤穂君照れてる〜?かわいい〜」
「んなわけねぇだろ!」
そう遊編先輩が馬鹿にすると赤穂先輩は顔を先程よりも赤くして言った。それではバレバレだと思います。横の鹿乃君を見ると、彼は笑顔で言ってくる。
「なんか思ったより面白そうな部活だな」
「そうだね」
僕は賛同した。
そして一通りの説明が終わると、ちょうどランニングへ行っていた先輩方が帰って来た。ランニングへはジャージを着ていったようだ。和装に身を包んでいるのは赤穂先輩だけだ。すると、部長である東堂先輩から声がかかる。
「すまん、みんな集まってくれ!」
そうすると先輩方が僕達1年の前へと集まる。
「まだ部活動見学の段階だが、1年生の話を聞く限り弓道部への入部希望を全員がしているらしい。なのでここで全員に自己紹介をしてもらう。3年から順番に行う。まずは俺からだな。部長で3年の東堂隼人だ。面白い面子が集まっている。入ってからも楽しく過ごせると思う。よろしく頼む」
先輩方が拍手をする。僕らはしていいものなのか戸惑いながら、遠慮がちに拍手をする。東堂先輩は眼鏡をかけていて、髪は短く刈り上げている。眼鏡越しに映る目は強い光を放っている。東堂先輩が下がると次は遊編先輩が前へ出る。
「私が副部長の遊編茅です。3年だよ〜。よろしくね〜」
遊編先輩はこちらへ手を振ってくる。みんなが戸惑う中、鹿乃君は笑顔で振り返している。流石だな〜。遊編先輩は明るく溌剌としている。可愛らしい顔立ちだが、口元の黒子が大人っぽさを醸し出している。遊編先輩が下がると隣の人が前へ出る。
「私は3年の前島実咲。分からない事があったら何でも聞いてね」
前島先輩は黒髪ロングでお姉さんって感じの人だ。眼鏡が知的な印象を醸し出している。遊編先輩よりもしっかりしている気がするが、どうして副部長をやらなかったのだろうか。失礼だがそんな事を感じてしまった。
前島先輩が挨拶を終え下がると、クリーム色だろうか?そういった感じの色のボブカットの人が出てきた。
「え〜と、ふあ〜ごめんごめん。曽我部太花音で〜す。よろしく〜」
凄くおっとり、いや眠そうな人が出てきた。挨拶の途中も欠伸をしていたし、弓道のイメージが全くない人だ。そう思っていると鹿乃君が小声で話しかけてきた。
「あの人可愛くね?」
何事かと思ったらそんな事だった。
「確かに綺麗な人だね」
ただ、そうとは思ったので正直に返事をしておいた。
曽我部先輩はいつのまにか下がっており、今度は男の人が出てきた。
「平康太だ。よろしく頼む」
平先輩は短く締めくくりすぐに下がってしまった。髪は茶髪に染めており、男子の先輩方の中では1番長い。結構怖そうな感じだ。
3年生で残るのは赤穂先輩だけだが、挨拶が始まらない。1年生は首をかしげるが先輩方の中には笑いを堪えている人をいる。東堂先輩が声を上げる。
「赤穂!次は君だろう!」
赤穂先輩の方を見ると僕達の説明の時の様に心底めんどくさそうな顔をしていた。
「赤穂凉です」
赤穂先輩はそれだけ言って頭を下げると下がってしまった。
堪えられなくなったのか遊編先輩は声を出して笑った。逆に東堂先輩は溜息をついた。
「赤穂はこんなだが、前回の大会では個人で全国へ行っている。部内でも実力は随一だ。彼からよく学ぶといい」
東堂先輩のその言葉に赤穂先輩は反応を示し、東堂先輩を睨みつけた。
そんなに嫌なのだろうか?
隣で鹿乃君は苦笑いをしている。僕も釣られて苦笑いをしてしまった。
東堂先輩は話を続けた。
「これで3年は終わりだ。次は2年になる。宇治から頼む」
「はい!」
東堂先輩の言葉に答えて新たな先輩が前へ出てきた。
「宇治継糸という。一応次期部長となっている。みんなをまとめられる様頑張るつもりだ。よろしく」
宇治先輩は何ともしっかりした感じだ。髪型も綺麗に整えられており、真面目って言葉の似合う人だ。
宇治先輩は頭を下げてから下がった。
次に出てきたのは黒髪で宇治先輩よりも若干髪の長い人だ。
「水屋詠識だ。よろしく」
水屋先輩はそれだけ言うと下がってしまった。その隣で宇治先輩は溜息をついていた。それに気づいた水屋先輩は宇治先輩の方を睨みつけていた。その事に気付いた水屋先輩の隣の人が肘で水屋先輩をついて、睨むのをやめさせた。
その肘をついた先輩が前に出てきた。
「二口丙司っちゅうわ。よろしゅう。こいつらよ〜喧嘩すんのや。大目に見てな」
そんな二口先輩は方言の効いた口調で言ってきた。仲が悪いみたいだが、二口先輩が仲介役を担っていると言った所だろう。二口先輩はどこか不思議な感じが僕はした。
鹿乃君は逆に、
「なんか面白そうな先輩じゃない?」
そんな事を言ってきた。確かにそんな感じもするが、僕はやはり不思議さの方が強かった。
二口先輩が下がると今度は女の先輩が前へ出た。
「玉木ちづるです。よろしくお願いします」
玉木先輩はそう言って頭を下げた。後ろで結んだポニーテールが跳ね、前へひょこっと出た。
玉木先輩も宇治先輩と同じくしっかりした印象の人だ。
玉木先輩が下がると最後の先輩が前へ出た。
「村田文乃です。よろしく」
村田先輩も短く締め下がった。
村田先輩なその黒髪ボブがよく似合っていて、文学少女さを醸し出している。弓道部よりは文学部と言った感じだ。
また、東堂先輩が前に出た。
「これで2年も終わりだ。次は1年だが、まだ見学の段階だ。仮入部の時でこっちはいいだろう。この後も自由に見学してくれて構わない。適当に説明者を当てるから、希望の者は言ってくれ。じゃあ2、3年は部活を再開してくれ」
東堂先輩がそう言うと先輩方は各々のする事に戻っていった。
ただ、遊編先輩は僕ら1年生の方までやってきた。
「みんな!私が説明をするから何でも聞いてね。見学する人〜」
そう言って手を上げながら僕達に聞いてきた。
誰かが答えようとする前に遊編先輩は東堂先輩に頭を叩かれた。
「遊編、君は今度の大会に集中しろと言っただろう。説明は2年をあてがう。戻れ」
そう東堂先輩は言い更衣室の方を指差す。東堂先輩はまだ制服姿のままだった。
「えーいいじゃーん」
遊編先輩はそんな風に駄々をこねた。
だが東堂先輩は黙って指をさしたままだ。その姿に遊編先輩は折れたのか渋々といった感じで戻っていった。
「すまない。見学する者はいるか?」
東堂先輩は謝るとともに僕らに聞いてくる。
「見学します」
その問いに男子生徒が真っ先に答えた。
それにつられ女子生徒も2人見学を希望した。
鹿乃君は僕の方を見て目で問いかけてくる。僕は鹿乃君に答えるのではなく先輩に答える形で示した。
「僕も見学します」
それを聞いた鹿乃君は
「俺もお願いします」
そう答えた。
そんな訳で部活動見学を続けるのだった。
「おーい杉乃君!杉乃君も弓道部の見学行くんだって?一緒に行かない?うちのクラスだと杉乃君ぐらいしかいないからさ〜」
どうやら鹿乃君も弓道部の見学に行くみたいだ。僕1人だけで行くのは心細かった為誰かと行くのは心強い。
「分かったよ。僕1人だけは心細かったんだ」
「お!良かった〜。断られたらどうしようかと思ったよ。それと、春って呼んでいいか?杉乃ってなんか呼びづらくて」
鹿乃君は少し躊躇いがちに聞いてきた。
「全然構わないよ」
「そうか?なら俺のことも好きに呼んでくれ!」
鹿乃君は僕の言葉に嬉しそうに答える。鹿乃君は表情が豊かで、明るく話しやすい。まだ始まったばかりだが鹿乃君を中心に、クラス内が明るくなっている。これも鹿乃君がみんなの緊張をいい具合に解いてくれているからだろう。
「そうだね〜…なんか鹿乃君は鹿乃君って感じがするから僕はこのままでいくよ」
「そうか。じゃあ、行くか!」
鹿乃君は元気良く言い、僕も席を立つ。僕ら2人は教室を後にした。
▽ △ ▽
弓道場は講堂を越えた先にある。そこには弓道場の他に剣道場、柔道場もある。歩いているとちらほらと僕らと同じ方向に歩いている生徒も見かける。制服だけでは学年が判断できな為、先輩なのかどうかも分からない。そんなことを思っていると鹿乃君が話しかけてきた。
「春はどうして弓道部見に行こうと思ったんだ?」
「弓道ってあまり見たことなくて。柔道とか剣道は見たりした経験があるんだけどね。それでどんなものなのか気になって」
「そーなのか。俺は知り合いが弓道やってて、1回だけ試合を見に言ったことがあってさ。その時になんつーかすげーって思ったんだよ。立ち姿が凛としててさ。なんか言ってて恥ずいな」
鹿乃君は少し恥ずかしそうに言った。普通に良い理由だと思うけど、僕の方が仕方のない理由な気がする…。
それから他愛もない話をしていると弓道場へとついた。弓道場はまだまだ綺麗だった。出来たばかりなんだしそれもそうか。ただその雰囲気は凄みを感じる。中から声が聞こえる。もう部活は始まっているらしい。
「こう目の前まで来ると緊張するな」
鹿乃君がそう話しかけてくる。
「そうだね。ここまで来たからには引き返せないよ」
僕はそう鹿乃君に笑いかける。それに鼓舞されたのか鹿乃君も笑って答える。
「それもそうだな!行くか!」
そうして、弓道場の扉を開けた。
弓道場の中へ入ると僕らと同じ制服のまま、つまり1年生の姿が見受けられる。人数は僕ら2人を抜いて5人のようだ。その5人も2人と3人に別れてそれぞれ1人ずつ先輩がついて説明をしているらしい。その姿を見ていると、説明をしていた先輩がこちらの方を向いた。
「あ、新しい子だ。ごめーん!赤穂くーん、悪いんだけどあの子達への説明お願いして良いー?」
そう髪をポニーテールにした先輩は弓の準備をしていた先輩に声をかけた。声をかけられた先輩は少しめんどくさそうな顔をすると渋々といった感じでこちらへと歩いてくる。隣で鹿乃君が苦笑いをしている。歩いてくる先輩の姿は好きな事をしていた時に家事を手伝わされる子供のような感じだ。そのような感じで先輩はこちらの方までやって来た。
「あー、3年の赤穂凉だ。なんか説明する事になったが、まあよろしくな」
赤穂先輩は髪は短く目つきは少し鋭い。筋肉が程よく付いていて、身に包んだ和装がとてもよく似合っている。そう言うと赤穂先輩は手を差し伸べて来た。それに鹿乃君が答え、握手をする。
「鹿乃廉です。よろしくお願いします」
鹿乃君と握手し終わると次は僕に手を差し伸べて来た。僕はその手を掴み握手をする。
「杉乃春です。よろしくお願いします」
僕の手を離すと赤穂先輩は僕ら2人を見て少し考えるような表情してから話し始めた。
「取り敢えず説明始めるか。まあ見ての通りここが弓道場。的は4つ。入り口から入って左側にある部屋が男子更衣室。その逆右側にあんのが女子更衣室だな。自分の弓を持って帰ってもいいが置いておくなら更衣室に置く事になってる。ここまでで何か質問あるか?」
そう赤穂先輩は聞いてきた。僕と鹿乃君は互いに顔を合わせると、
「いいえ、ありません」
「そうだな、ないです」
と答えた。赤穂先輩は頷くとまた説明を始める。
「それで部員なんだが…全部で11名。2年が男子3人女子2人の5人。3年が男子3人女子3人の6人だな。今はここに3人しかいないが、他の部員はランニングに行ってる。体力作りは弓道でも必要だからな。あっちで説明してる眼鏡が3年で部長の東堂隼人で、今こっちに来てんのが同じく3年の遊編茅な」
「ごめーん。この先輩怖いでしょ?」
遊編先輩はにやにやしながらこちらに問いかけてきた。鹿乃君が笑って答える。
「そんな事ないですよ。説明も丁寧でしたし。面倒見がいいのかなって思いますよ」
赤穂先輩の方を見てみると、少し顔を赤くしている。もしかしてていているのだろうか?そう思っていると遊編先輩もその事に気付いたらしく今度はしっかりと笑って言う。
「あれ〜もしかして赤穂君照れてる〜?かわいい〜」
「んなわけねぇだろ!」
そう遊編先輩が馬鹿にすると赤穂先輩は顔を先程よりも赤くして言った。それではバレバレだと思います。横の鹿乃君を見ると、彼は笑顔で言ってくる。
「なんか思ったより面白そうな部活だな」
「そうだね」
僕は賛同した。
そして一通りの説明が終わると、ちょうどランニングへ行っていた先輩方が帰って来た。ランニングへはジャージを着ていったようだ。和装に身を包んでいるのは赤穂先輩だけだ。すると、部長である東堂先輩から声がかかる。
「すまん、みんな集まってくれ!」
そうすると先輩方が僕達1年の前へと集まる。
「まだ部活動見学の段階だが、1年生の話を聞く限り弓道部への入部希望を全員がしているらしい。なのでここで全員に自己紹介をしてもらう。3年から順番に行う。まずは俺からだな。部長で3年の東堂隼人だ。面白い面子が集まっている。入ってからも楽しく過ごせると思う。よろしく頼む」
先輩方が拍手をする。僕らはしていいものなのか戸惑いながら、遠慮がちに拍手をする。東堂先輩は眼鏡をかけていて、髪は短く刈り上げている。眼鏡越しに映る目は強い光を放っている。東堂先輩が下がると次は遊編先輩が前へ出る。
「私が副部長の遊編茅です。3年だよ〜。よろしくね〜」
遊編先輩はこちらへ手を振ってくる。みんなが戸惑う中、鹿乃君は笑顔で振り返している。流石だな〜。遊編先輩は明るく溌剌としている。可愛らしい顔立ちだが、口元の黒子が大人っぽさを醸し出している。遊編先輩が下がると隣の人が前へ出る。
「私は3年の前島実咲。分からない事があったら何でも聞いてね」
前島先輩は黒髪ロングでお姉さんって感じの人だ。眼鏡が知的な印象を醸し出している。遊編先輩よりもしっかりしている気がするが、どうして副部長をやらなかったのだろうか。失礼だがそんな事を感じてしまった。
前島先輩が挨拶を終え下がると、クリーム色だろうか?そういった感じの色のボブカットの人が出てきた。
「え〜と、ふあ〜ごめんごめん。曽我部太花音で〜す。よろしく〜」
凄くおっとり、いや眠そうな人が出てきた。挨拶の途中も欠伸をしていたし、弓道のイメージが全くない人だ。そう思っていると鹿乃君が小声で話しかけてきた。
「あの人可愛くね?」
何事かと思ったらそんな事だった。
「確かに綺麗な人だね」
ただ、そうとは思ったので正直に返事をしておいた。
曽我部先輩はいつのまにか下がっており、今度は男の人が出てきた。
「平康太だ。よろしく頼む」
平先輩は短く締めくくりすぐに下がってしまった。髪は茶髪に染めており、男子の先輩方の中では1番長い。結構怖そうな感じだ。
3年生で残るのは赤穂先輩だけだが、挨拶が始まらない。1年生は首をかしげるが先輩方の中には笑いを堪えている人をいる。東堂先輩が声を上げる。
「赤穂!次は君だろう!」
赤穂先輩の方を見ると僕達の説明の時の様に心底めんどくさそうな顔をしていた。
「赤穂凉です」
赤穂先輩はそれだけ言って頭を下げると下がってしまった。
堪えられなくなったのか遊編先輩は声を出して笑った。逆に東堂先輩は溜息をついた。
「赤穂はこんなだが、前回の大会では個人で全国へ行っている。部内でも実力は随一だ。彼からよく学ぶといい」
東堂先輩のその言葉に赤穂先輩は反応を示し、東堂先輩を睨みつけた。
そんなに嫌なのだろうか?
隣で鹿乃君は苦笑いをしている。僕も釣られて苦笑いをしてしまった。
東堂先輩は話を続けた。
「これで3年は終わりだ。次は2年になる。宇治から頼む」
「はい!」
東堂先輩の言葉に答えて新たな先輩が前へ出てきた。
「宇治継糸という。一応次期部長となっている。みんなをまとめられる様頑張るつもりだ。よろしく」
宇治先輩は何ともしっかりした感じだ。髪型も綺麗に整えられており、真面目って言葉の似合う人だ。
宇治先輩は頭を下げてから下がった。
次に出てきたのは黒髪で宇治先輩よりも若干髪の長い人だ。
「水屋詠識だ。よろしく」
水屋先輩はそれだけ言うと下がってしまった。その隣で宇治先輩は溜息をついていた。それに気づいた水屋先輩は宇治先輩の方を睨みつけていた。その事に気付いた水屋先輩の隣の人が肘で水屋先輩をついて、睨むのをやめさせた。
その肘をついた先輩が前に出てきた。
「二口丙司っちゅうわ。よろしゅう。こいつらよ〜喧嘩すんのや。大目に見てな」
そんな二口先輩は方言の効いた口調で言ってきた。仲が悪いみたいだが、二口先輩が仲介役を担っていると言った所だろう。二口先輩はどこか不思議な感じが僕はした。
鹿乃君は逆に、
「なんか面白そうな先輩じゃない?」
そんな事を言ってきた。確かにそんな感じもするが、僕はやはり不思議さの方が強かった。
二口先輩が下がると今度は女の先輩が前へ出た。
「玉木ちづるです。よろしくお願いします」
玉木先輩はそう言って頭を下げた。後ろで結んだポニーテールが跳ね、前へひょこっと出た。
玉木先輩も宇治先輩と同じくしっかりした印象の人だ。
玉木先輩が下がると最後の先輩が前へ出た。
「村田文乃です。よろしく」
村田先輩も短く締め下がった。
村田先輩なその黒髪ボブがよく似合っていて、文学少女さを醸し出している。弓道部よりは文学部と言った感じだ。
また、東堂先輩が前に出た。
「これで2年も終わりだ。次は1年だが、まだ見学の段階だ。仮入部の時でこっちはいいだろう。この後も自由に見学してくれて構わない。適当に説明者を当てるから、希望の者は言ってくれ。じゃあ2、3年は部活を再開してくれ」
東堂先輩がそう言うと先輩方は各々のする事に戻っていった。
ただ、遊編先輩は僕ら1年生の方までやってきた。
「みんな!私が説明をするから何でも聞いてね。見学する人〜」
そう言って手を上げながら僕達に聞いてきた。
誰かが答えようとする前に遊編先輩は東堂先輩に頭を叩かれた。
「遊編、君は今度の大会に集中しろと言っただろう。説明は2年をあてがう。戻れ」
そう東堂先輩は言い更衣室の方を指差す。東堂先輩はまだ制服姿のままだった。
「えーいいじゃーん」
遊編先輩はそんな風に駄々をこねた。
だが東堂先輩は黙って指をさしたままだ。その姿に遊編先輩は折れたのか渋々といった感じで戻っていった。
「すまない。見学する者はいるか?」
東堂先輩は謝るとともに僕らに聞いてくる。
「見学します」
その問いに男子生徒が真っ先に答えた。
それにつられ女子生徒も2人見学を希望した。
鹿乃君は僕の方を見て目で問いかけてくる。僕は鹿乃君に答えるのではなく先輩に答える形で示した。
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コメント
ノベルバユーザー602527
長いなぁと最初は引いてしまうかもしれないけれど、読み始めたら止まらない。
日常系の作品なのでお勧めです。