A Living One

東堂タカノ

2話

 転移施設に着いた僕たちは兵士さんの案内で出口へと向かった。施設内は石造りの綺麗な物で、僕ら以外にも案内されている人がちらほらと見えた。
 出口の手前まで来ると、


「すみませんが、こちらの台に手をかざして頂けますか?」


 そう言われた。まずはカルナが手をかざす。
 台は白く輝き始めたかと思うとすぐにその輝きを失う。


「特に問題はありませんね」


 次に僕がかざす。僕もカルナと同じ様に台が反応する。


「こちらも問題はないようですね。では次に、カードの提示をお願いします」


 何かのチェックをしていたみたいだが問題が無さそうなので聞く必要は無いだろう。
 ただ、問題は無かったが別の問題が発生した。カードなんて持っていないんだけど…。どうしようかと思っているとカルナがフォローを入れてくれた。


「この人カード持っていないんです」


「そうですか。どの様な目的で来られたのですか?」


 そう僕に聞いてきた。


「冒険者です」


「では仮のカードを発行しますので冒険者カードを作成したら返しにきてください。冒険者カードも立派な身分証明になりますので」


「分かりました」


 兵士さんは僕が持っていない事に変な態度もせず親切に接してくれた。もしかしたら持っていない事は珍しい事ではないのかもしれない。


「で、これが私のです」


 そういえば、カルナのカードの提示がまだだった。カルナはカードを持っているみたいだが何のカードだろう。


「パティストス王立学院の生徒さんですね。確認は取れました。お二方とも是非レギアをお楽しみください」


 そう言われ通行が叶った。
 カルナが先に進んだので僕は後を追った。


 ▽ △ ▽


 門をくぐるとそこはもうレギアの街になっていた。
 初めに浮かんだのは圧巻の一言だ。建っている建物からしてイグタムの物とは全く違っている。道は石が引かれて綺麗に整備され、所々に木が植えられ景観を良くしている。
 僕があまりの光景に見惚れているとカルナが声を掛けてくる。


「取り敢えずギルドに向かいましょ。その間に色々と説明もしておくわ」


「助かるよ。案内よろしくね」


「任せて!」


 朝は変だったけど今は元気になっている。良かった。
 ギルドまでは徒歩だな。あまり遠くにある訳でもなさそうだから。


「じゃあ行きましょ」


 その言葉と共に僕らは歩き出した。




 住宅の多い区画を抜けるとカルナのレギア案内が始まった。


「さっき出てきた転移施設は西門に隣接していて、特に警備が固くされてるの。その為かギルドも城から見て西側にあるわ。西側は他に冒険者為の建物が多いわね。武器屋や防具屋、雑貨屋、宿なんかも多いわ。オススメのお店なんかはギルドに紹介してもらえるみたいだからまたその時ね。それで、王都は円型をしてて、ぐるっと壁が外周を覆っているわ。大きさは直径が4kmで、人口は大体80万人かしら。城は中央にあって、それを囲う様に貴族が住むエリアが広がっている。そのすぐ東北方向に私の通うパティストス王立学院があるわ。貴族のエリアの周りは商業的な施設が多くあって、貴族エリアに近いところは高級なお店が、市民エリアに近いところは、比較的安価なお店が多いわね。今歩いてるのがそこら辺ね。その商業エリアの外が市民が住むエリアになってる。市民も職人の人や、農民の人、どこかのお店で働く人と様々ね。簡単にだけどこんな所かしらね」


「いや十分だよ。ありがと」


「そう?良かったわ。それでなんだけど…」


「どうしたの?」


「私あんまりこっちの方に来ないから色々見て回らない?面白そうなお店もいっぱいあるから」


 カルナは目線を下に向けて躊躇いがちに聞いてくる。学院が反対側だからこっちの方はあまり来る機会がないのか。


「そうなんだ。なら、折角だし楽しまないとね」


 僕がそう言うとカルナは嬉しそうに笑った。


「なら早速行きましょ!まず何処から見ていく?」


 カルナは先程よりも一層元気になって言ってきた。そんなに嬉しかったのかな。僕もこの機会に楽しもう。カルナのこんなに楽しそうな姿を見るのは久し振りだから。


「目に入って良さそうと思った所に入ればいいと思うよ」


 僕がそう提案すると、カルナは頷いた。
 どうやらそれでいいみたいだ。


「なら、あのお店に入りましょ」


 カルナはそう言うと近くの雑貨屋を指差し、僕の手を握って走り出す。
 急に手を掴まれたので転びそうになるがなんとか堪えて彼女について行った。
 というか何気に手を握られるのは初めてだった。




 カルナと入った雑貨屋は夫婦の方が趣味で開いていて、綺麗な小物が多い店だった。彼女は可愛いものよりも綺麗な芸の細かな物の方が好きな様だ。とても気に入ったものがあったがまだ学院も始まっておらずお金もこれからかかってくる為渋々諦めていた。
 今は露店で買った、柔らかいスポンジの様な生地にバターが香る片手サイズの菓子を食べながら歩いている。僕とカルナのでは若干味が違う。


「ユール、そっちの少し分けてくれない?」


 カルナはこちらの味にも興味があるらしくそんな事を聞いてきた。
 2つ買えば良かったと思ったのだが、そんなには要らないらしい。


「じゃあ、はい」


 僕はそう言ってカルナに差し出す。
 しかし、カルナは菓子を見たまま固まってしまった。食べないのだろうか。急に要らなくなったのか?


「カルナ、食べないの?」


「え?た、食べるわよ!」


 そう言うと一気にかぶりついた。僕が食べていた状態から半分程持っていかれてしまった。彼女は口一杯に含みながら自身のを差し出してくる。彼女を見ると、顔を少し赤くしながら顎をくいっと前にやった。どうやら食べろという事らしい。僕は差し出された菓子を少しだけ食べる。僕のとは違い彼女の物はレモルの甘酸っぱい風味がした。正直、自分が食べていたものよりも美味しかった。




 菓子を食べ終え、また歩いていると僕は防具屋を発見した。外装は防具屋って感じではなく、先程行った雑貨屋より少し落ち着いた感じだ。
 武器は槍を持っているからいいが、防具はゾーアの作った皮の物しか持っておらず、職人の作ったれっきとした防具は持っていない。


「カルナ、あのお店に入りたいんだけどいいかな?」


 先程まではカルナが行きたいお店へ特に決めもせずに入っていったが僕は一応確認を取る。


「いいわよ。私も女の子1人じゃああいうお店は入りづらそうだから、いい機会よ」


 彼女の了承は得た。早速お店の中へと入って行った。




(カラン)
 ドアを開けて入ると中は綺麗に整えられ防具等が見やすく配置されていた。
 店内を見渡すが誰も見当たらない。


「誰も居ないわね」


「そうだね。すいませーん」


 お店は開いていたので誰も居ないという事は無いだろう。もしかしたら奥に居るのかもしれない。そう思い大きな声を出す。すると奥から声が聞こえた。


「はいはーい」


 そう言って出てきたのは身長が140cmほどの少女だった。
 出てきたのが小さな女の子だったので僕もカルナも少し戸惑った。


「防具について色々と見たいんですけど…」


「そんなんですね。なら、兄を呼んできます」


 少女はそう言うとまたお店の奥へと引っ込んでしまった。
 少しすると今度は背の高い20代程の男性を伴ってきた。なんかお兄さんって感じの人だ。


「いらっしゃい。防具について聞きたいって事みたいだけど」


 お兄さんはそう聞いてきた。


「はい。ちゃんとした物も持っていなくてどういった物がいいのか、聞くのが1番だと思いまして」


 僕がそう聞くとお兄さんは感心した様に頷いた。


「よく分かってるじゃないか。見たところこれから冒険者になろうって感じだね。成り立ての人は大抵見た目とかで選んだりしちゃうからね。自分に合った物をよく分かっていない。ちゃんと専門の人に聞くというのはいい考えだよ」


 急に凄い褒められてしまった。どうやらこの人の考えによく沿ったモノだったらしい。
 お兄さんは続けて聞いてくる。


「君は何を得物としているんだい?」


「槍ですね」


「へえ…」


 お兄さんは僕の身体を隅々まで見る。頭の先から足の爪先、それだけでなく筋肉のつき方、重心、姿勢それら全てを見通す様に。
 見終わると目を閉じて考え始めた。
 カルナの姿を横目に見ると、少女と何やら話をしている。少女はニヤニヤしながら、カルナは少し顔を赤くしたり表情を七変化させたりと忙しない。


「よし」


 カルナ達を見ているとお兄さんは目を開き僕に声をかけた。


「考えてみたんだけど、今ここにある防具では君に合いそうな物がなさそうだ。良かったらオーダーメイドという形になるけど作らせて貰えないだろうか?」


 お兄さんがそんな提案をしてくると、先程までカルナと話していた少女が此方へ来ており、話に入ってきた。


「兄さんが作らせて欲しいなんと言うのは珍しい事よ。身内贔屓に聞こえるかもしれないけど兄さんが作るものはいい物ばかりよ。私からもお願い」


 2人に頼まれてしまっては断り切れない。それに自分に合う物を作ってくれるのだ普通に買うよりもいい買い物になるだろう。
 僕が少し考えているとカルナも賛成してきた。


「いいんじゃないかしら。高くはなるかもしれないけど、お店の中の商品は素人目にも良さそうな物ばかりだし」


「そうだね。お願いします」


 僕はそう言って頭を下げた。
 お兄さんも少女も嬉しそうな顔をする。


「本当かい⁈良かった〜」


 お兄さんに関して言えば少女以上に喜んでいた。
 お兄さんは早速作成の話をしてきた。


「それで、早速話をしたいんだけどいいかな?」


「カルナ、時間って大丈夫かな?」


 僕は構わなかったが、今日の予定を決めるのはカルナとなっている。この後の予定が決まっているかもしれない。
 そう思って確認を取る。


「大丈夫よ。まだお昼回っていないもの。ギルドの手続きもそんなに長くならないと思うし。宿は西側で見つけるつもりでしょ?」


 どうやら大丈夫らしい。宿を取らないといけないのをすっかり忘れていたがカルナの言い方的に全く見つからない訳ではなさそうだ。


「大丈夫みたいです」


「分かったよ。まずは採寸からやろう。奥まで来てくれ」


 そう促されお兄さんの後をついて行く。
 奥の部屋は鍛冶場となっていた。使い込まれた道具や何かに使ったであろう材料の残骸、作りかけの防具らしき物、そして鉄の匂い。店内よりも暑さを感じる。


「すまないね。妹が呼びに来るまで作業をしていてね。まだ、少し暑いだろう?」


「そうですね。妹さんがって事は僕たちがお店に入った時はまだ作業してたんですよね?音なんか聞こえませんでしたけど…」


 そう、僕らがお店に入った時は静かな物で、誰も居ないのではと思った程だ。
 僕は少し考えていたが、その答えはすぐに分かった。


「ああ、それはね、魔道具のお陰だよ。音を遮る魔法の刻印シジルムを刻んだ物をお店とを繋ぐ扉の部分に設置してあるからね」


 成る程、魔道具のお陰だったのか。そんな物まであるとは知らなかった。
 魔道具は刻印が刻まれた道具の事を指す。魔道具に刻まれた刻印には2種類あり、イノ石の含まれた物とそうでない物に分かれる。含まれる物は簡易な魔法に用いられ、含まれない物は冒険者だったり、兵士だったりが使う物に用いられる。
 また、魔道具には使用回数が定められたものが多い。中には1度使ったらもう使えないなんて物もある。これは刻印が使われるごとに消耗してしまうためだ。


「それじゃあ採寸を始めたいから服を脱いでもらえるかな?」


 何も言うかと思ったらそんな事をお兄さんは急に言い出した。
 思わず固まってしまった僕を見てお兄さんは笑った。


「大丈夫だよ、今は俺しか居ないから。ルーナ、妹は分かってるから入ってこないよ」


 そこを気にして固まっていた訳では無いんだけど…
 そういえばまだ名前も聞いていなかった。
 お兄さんもその事に気付いたのか、ハッとした顔をしてこちらを見てきた。


「そういやあまだ名乗ってなかったな。俺はキルキ・ドーム。妹はアリア・ドーム。俺らは人種とドワーフのハーフだ。
 似てねーのは俺が人種が濃くて、アリアはドワーフが濃いからだな。妹はああ見えて26歳だ。俺は29だな。そんで、この店がドーム工房。これからご贔屓に!」


 キルキさんはそう言うと満開の笑顔で手を差し出してきた。
 2人とも僕たちよりだいぶ歳上だった。その事実に驚きながらも僕は挨拶をする。


「ユール・シープです。冒険者になります。これからお世話になります。よろしくお願いします」


 僕はその手を握り返す。
 これが僕が冒険者になってから、辞めてしまうまでお世話になる、キルキさん、アリアさん、敷いてはドーム工房との出会いだった。

「A Living One」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く