A Living One

東堂タカノ

1話

 僕はあの真っ白な空間で意識が途絶えた後、目を覚ました。
 改めて力について考えた。便利な能力である。それこそ、完全に使えるようになれば魔法を必要としないぐらいに。
 ただ、ゾーアから言われている、力に溺れるなと。力に飲み込まれるなと。僕のは寵愛だ。もしかしたら制御を誤って暴走なんて事もあり得てしまう。
 僕は早く力に慣れる為、試してみる為に森へ出る事にした。


 ▽ △ ▽


 森とは、フラワさん邸から1時間ほど歩いた場所にある、エノの森の事を指す。
 この森にいる魔物は高くてもCランク下位でしかない。半分以上がEランク、残りの殆どがDランクだ。その中でも最もランクの高い魔物であるフラムリザードは以前遭遇した。その時はゾーアもいた為大事にはならなかった。自分1人で倒すまでは至らなかった。
 フラムリザードは竜種である、サラマンダーに似ている。しかし、サラマンダーはAランクの中位と力の差は歴然である。その他、大きさや習性等様々な違いがある。
 そんなエノの森の中を少し進むと足を止めた。そして、索敵の無属性魔法『イクスプリム』を発動する。この魔法は波動を周囲に放ちその波動の反射を観測して地形や敵の場所を調べる魔法。範囲は魔法に込める魔力量によって変化する。込めるほど範囲は広がっていく。基本的に50m程の範囲で発動する魔法として周知されている。僕も平均的な範囲で発動している。この魔法の注意点は索敵中は常に魔力を消費する為そこまで長く使用できない事。魔力消費が激しいわけではないが、それでもある程度の量を消費してしまう可能性が出てくる。過度な仕様によって戦闘時に魔力欠乏で倒れてしまっては元も子もない。
 調べた結果、東へ40m程先に魔物がいる事が分かった。数は1だったが念の為周りに警戒しながら魔物の方へと走る。


 魔物の反応があった場所まで行くと、そこは少し開けた場所になっていた。近くの茂みに一度身を潜める。その中央に魔物がいた。あれは多分サバレルルだ。サバレルルは猿種、Dランクの魔物で、『ストーンボール』と『タラムバレット』を使うとされる。基本的には少数で行動をし、1体のみの場合も少なくない。今回も1体のみであるようだ。
 今一度気持ちを落ち着かせ呼吸を整える。サバレルルが反対側を向くのを待つ…。今!
 ――――
 茂みから飛び出したユールはそのままのスピードでサバレルルへと迫る。サバレルルは未だユールに気づかない。
 その途中異空間から槍を取り出す。そして、サバレルルとの距離が5mになると更に加速。後わずかの所でサバレルルがユールの存在に気づいた。だが、ユールはそのままサバレルルの喉元へ向けて槍を放つ。
 目にも留まらぬ速さで放たれた槍は見事にサバレルルの喉を貫いた。
 ユールは素早く槍を引く抜き距離を取った。喉を貫かれたサバレルルは血を大量に失い絶命した。
 ユールはここで、ある事に驚いた。それは穂の切れ味である。今までに使ってきたどの槍よりとも貫いた時の感触が違っていた。まるでそこに何も無いような感覚に陥る程に槍は敵の喉をスムーズに貫いていたのだ。
 それは槍に使われた金属、シオド石が関係している。この鉱石は魔力伝導率がとても高い事で知られる希少なもので、 その高さは魔力を持つ者が戦闘時に無意識に漂わせている魔力さえ伝えてしまう程だ。そしてシオド石は穂に多く使われている。穂に集められた魔力によって切れ味が上昇されている。
 しかしこのシオド石はそこまで硬度が高いわけではない。いくら最高峰の硬度を持つジオル石との合金といえど、穂付近はシオド石の方が多く使われている。そこから折れる可能性も低くはない為注意が必要だ。
 ユールが槍に驚きを感じていると、何処からか飛翔物が迫ってきた。
 ユールはサイドステップをとり回避した。そして、飛んできた方を見る。すると、2体目のサバレルルがいた。そのサバレルルは先程殺したサバレルルを発見すると威嚇をユールへとし始めた。どうやら元々2体で行動していたようだ。それが1体だけ『イクスプリム』の範囲外にいたようだ。
 ユールは自分の判断ミスを悔いた。しかし、直ぐに切り替え臨戦態勢へ入る。
 どちらも止まったまま動かない。
 ユールは静かに魔法を発動させる。
「『イクスプリム』」
 索敵の結果近くに新たな魔物の反応は見られなかった。
 それを知ったユールは敵に集中する。サバレルルは未だ反応を見せない。
 均衡を破ったのはユールの方だった。サバレルルへと駆ける。ユールが動いたのと少し遅れてサバレルルも動いた。サバレルルは『ストーンボール』を発動させた。駆けるユールへと3つの岩球が放たれた。
 ユールは、1つを穂の鎬の部分に当て軌道を逸らす。1つを、今度は意識して魔力を通し強度を上げた槍を横薙ぎに一閃し打ち砕く。そしてもう1つは…


「《防げ》」


 するとユールの周りを風が、いや暴風が舞う。その風の壁によって岩球は全く別の方向へと飛んでいく。それを見たサバレルルは驚愕の声を上げる。
 暴風の壁を生み出したのは寵愛の力、『言霊』だ。
『言霊』は言った事を具現化する力。今で言えば防げと言った事により、飛び道具を防ぐ為に暴風の壁が発生した事になる。しかし、もし他者が起こした事象が、言霊によって起こした事象よりも強い場合、言霊による攻撃は防がれ、防御は突破されてしまう。事象の力は使用者に依存する。ユールが強くなれば成る程他者を寄せ付けず、周りを圧倒し、あらゆるモノを意図した通りにできる。まさに、厄災。荒神の名に相応しい力だ。
 そして、『言霊』はあらゆる事象を引き起こせる。例えばこんな風に。


「《縛れ》」


 ユールがそう言うと次の魔法を放とうとしていたサバレルルは何かに捕らえられたかのように動けなくなる。これも『言霊』の力。ユールにはサバレルルを縛る魔力ではない何かによって造られた鎖が見えている。
 サバレルルは必死に動こうとするもそれは無駄に終わる。幾ら動いた所でサバレルルには突破する事は出来ない。ユールの方が強い為、事象は必然的にサバレルルの起こす事象よりも強くなる。サバレルルはもう死んだも同然だ。
 ユールはある事を試す為再度『言霊』の力を使う。


「《死を》」


 しかし何も起こらない。それを見たユールはやはりと言った表情をする。
『言霊』は相手に直接影響を及ぼすことが出来ない。相手というよりかは、相手の体になる。縛ることは鎖という物を通して間接的に引き起こした為実行出来た。
 ユールはこのままサバレルルを縛っていても仕方がないと思い、槍を心臓へと一突きする。そして、サバレルルは絶命した。
 サバレルルが死んだ事により縛っていた鎖も消えた。
 2回の戦闘はどちらもユールの勝利という形で幕を閉じた。
 ーーーー
 言霊の力は思った以上だ。ただ、自分より強いと使うことが出来ないのは要注意だ。出来ると思って使ったが使えなかったら、その時は隙を生んでしまう。ゾーアにも一瞬の隙が命取りになると教わっている。相手を見定めた上で使わなければ。
 それはそうとまず死体の処理をしなければ。ここで魔物がまた現れては休む事が出来ない。さっさと済ませてしまおう。僕は死体を一箇所に集め燃やした。血は、地面を掘り返し再度埋めて、臭いが辺りに広がらないようにする。
 一通り処理を終えた僕は《イクスプリム』を発動し周りに魔物がいない事を確認すると地面へと腰を下ろした。
 と〜っても疲れた。『言霊』を使ったせいかいつもよりも疲れてしまった。魔力は消費しなかった為別の物、もしかしたら体力などを消費して発動しているのかもしれない。よく分かるまでは乱用は禁止しよう。こんなにも疲れるし、どこかで何か起こっても周りに誰か居ないと大変な事になると思う。
 日もだいぶ登ってきた、早く帰ろう。僕はそう思って立ち上がる。一歩踏み出すが少しふらふらする。もう少し休んでいった方がいいな。僕は木陰へと移動して、闇属性下位魔法、『セクティス』を発動し気配を消す。
 これでゆっくり出来る。もしもの為に数分おきに『イクスプリム』も発動しよう。とりあえず休憩だ。


 ▽ △ ▽


 休憩を終え、屋敷へと戻った僕は一度水浴びをしてから部屋へと戻った。
 もう出発の支度は済ませている為特にする事がない。朝食はいつもカルナが呼びにきてくれる為僕は部屋で待っている。自分で行けよと思うが、食堂へ行っても誰も居ないので暇なのだ。
 昨日フラワさんから貰った魔法についての本があった事を思い出し、一冊取り出した。取り出したのは光属性の本だった。治癒系の魔法について書かれたページをめくる。治癒系の魔法は中位か上位に属している。未だ中位の魔法を1つも覚えられていない僕にとって何度が高いが冒険者になる上ではどうしても使えるようになっておきたい。まず覚えるとしたら中位の『メニアス』だろう。この魔法は傷を癒す魔法と説明されている。治せる傷にも限度があり、毒など状態異常は別の魔法を使用する必要がある。それらの魔法のページを読んでおこう。そう思いページをめくり読んでいると、ドアがノックされる。


「どうぞ」


 そう言うとドアが開かれた。そしてカルナが顔を出す。


「朝ごはんよ」


「分かった。今行くよ」


 そう言うとカルナはドアを閉める。何故かいつもと違う行動をカルナはとった。いつもだったらもう少し言葉を交わして一緒に行くのだけど。今日はそそくさと行ってしまった。どうしたのだろうか。
 まあ、考えていても仕方がないので僕は部屋を出て食堂へ向かった。




 食堂に入ると朝食が並べられていた。
 ゾーアもフラワさんも席についている。


「おはようございます」


「来たな」


「おはよう」


 挨拶をすると、ゾーア、フラワさんの順で返ってきた。
 ただ、カルナの姿が見受けられない。


「カルナは?」


「ああ、あの子は…」


 僕がフラワさんに聞くと後ろから声を掛けられた。


「ここよ」


 後ろを見るとお皿を持ったカルナが立っていた。どうやら料理を運んでいたみたいだ。


「おはようカルナ」


「ええ、おはよう」


 先程し忘れていた為挨拶をした。しかし、返ってきたのは素っ気ない返事だった。やっぱり何かおかしい。


「どうしたの?カルナ。いつもと違わない?」


「そ、そんな事ない」


 そう言って、目を逸らすカルナ。何処と無くそわそわしている。


「それより早く朝ごはんにしましょう」


 そう言うと自分席についてしまった。なんだか少し傷付いてしまう。
 僕も席に着こうとゾーアの隣へと向かった。席まで行くとゾーアが笑っていた。僕は気にしないようにし席に着く。


「それじゃあ朝食にしましょうか」


 フラワさんの声と共に朝食を摂り始めた。


 ▽ △ ▽


 朝食を終えてまた部屋へと戻った。出発は2時間後になった為、それまでは最後の確認やら何やらの時間となった。
 屋敷の人達への挨拶は部屋へ戻ってくるまでの間に済ませている。なので本当にする事がない。
 何をしようか考えているとドアがノックされる。


「どうぞ」


 なんだか既視感を感じる。


「入るわよ」


 そう言ってドアを開けたのはカルナだった。


「どうしたの?」


 僕が聞くとカルナは下を向いてしまう。何処と無く顔が少し赤い気がする。


「えーと…」


 カルナは意を決したのか顔を上げて言ってくる。


「王都に行くわけだけど。何か思う所はあるかしら?」


「そうだな…やっぱりどんな所か凄く気になっているよ。今までこの島から出た事なんて無かったからね。目新しい物ばかりだと思うから興奮しすぎないようにしないといけないね」


 そう言って僕は笑った。それを聞いたカルナは何を安心したのかホッと息をついた。


「そ、そう。それもそうね。私も向こうがそんなに長い訳ではないから、しっかり案内出来るか不安だけど頑張るわ」


「案内してくれるだけで助かるよ。ありがとう。それに知らない人より、知っている人に案内してもらう方が安心も出来るから」


 その言葉を聞いたカルナは少し顔を赤くした。


「そ、そう?」


「カルナ少し顔赤いよ。大丈夫?出発まで少し休んだ方が良いよ?」


 そう言うと更に顔を赤くするカルナ。


「そうね!少し休むわ!また後でね!」


 そう言うと物凄い勢いで部屋を出ていく。本当にどうしたのだろう。心配だ。
 僕も少し休憩しておこう。
 そう思いベットに横になった。


 ▽ △ ▽


「2人とも準備はいいかい?」


 フラワさんが僕ら2人に聞いてきた。


「大丈夫です」


「大丈夫よ」


 僕とカルナが答える。
 僕は気になっていた事があったので聞いてみる。


「どうやって王都まで行くんですか?」


「それはこの町には転移の刻印が刻まれた場所があってね。それで王都の門の転移施設まで行くんだよ。それじゃあ行こうか」


 成る程そんな物が。いや、考えてみれば当たり前か。転移の刻印は今や移動手段としては最も重要とされているものだ。孤島と大陸を結ぶのに適していない訳がない。
 転移魔法は唯一刻印でしか発動出来ないとされる魔法で、遺跡から発見された刻印が世界に広まって今や、大都市には必ず設置されている。また、転移の刻印の発見が今の刻印技術の始まりともされ、歴史的に重要な事でもある。




 場所は変わり町の入り口までやってきた。どうやらすぐそこの建物にあるようだ。
 フラワさんが建物のドアを開ける。すると2人の皮の鎧を着た兵士らしき人達が出迎えた。


「お待ちしておりました。レギアへの転移の準備は出来ています」


「ありがとね。2人ともここで一時お別れだよ」


 兵士さんにお礼を言った後、振り返って告げてくる。
 いよいよだ。楽しみだが、少し寂しい気がする。


「フラワさん、短い間でしたけどありがとうございました」


 そう言って僕は頭を下げる。


「また帰っておいでよ」


 そう笑顔で返してくれた。


「来てませんけど、ゾーアにもありがとうって伝えておいてくれませんか?」


「任せておきなさい。全く来たらいいものを」


 フラワさんは笑う。
 ゾーアはここまで来るのを渋り屋敷に残っている。ちゃんとお礼を言っておきたかったんだけど。


「カルナもまたね」


「ええ、お祖母様」


「ユールの事よろしくね」


「学校が始まったり、ユールが冒険者をちゃんと始めたら難しくなるけど、任せておいて」


 そんなに心配しなくてもいいような気がするけど…。


「2人共その陣の真ん中に立って」


 フラワさんがそう指示を出してくる。
 それに従い僕らは陣の真ん中へと立つ。


「今から魔力を流すわ。すぐに転移が始まるから」


 フラワさんがそう言ってきた。
 僕もカルナもそれに頷く。
 フラワさんが陣の近くの台に手をかざす。すると段々と陣が輝き始めた。数秒すると陣の光が一気に強くなり、目の前が見えなくなる程の光に建物内が包まれた。
 少しずつ光が弱まっていき、目を開けるとそこには、1人の、銀色に輝く鎧を着た兵士の人が立っていた。
 その人は僕たちを見ると告げてくる。


「ようこそ、レギアへ」

















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