A Living One

東堂タカノ

5話

 訓練を始めてから2週間弱が経った。
 まず、戦闘は魔物については一応やっていけるだけの技術は身に付いた。対人の方はまだまだ未熟だ。対魔物ならDランクを、対人なら四級の平均ぐらいまでなら相手に出来るようになった。対人はゾーアとしかやっていない為予想でしかないが。
 僕は近接戦闘において槍を使うことにした。ゾーアは現在片手直剣を使っているが、昔は色々な武器に手を出していた。初めは僕も片手直剣を使っていたが、どこか肌に合わず他の武器を使うことにした。その中でも槍が1番合っていた。
 魔法は火、水、風、土の下位魔法はある程度覚える事が出来た。攻撃系の魔法がそれぞれ4つずつ。補助系の魔法が3つずつ。光、闇は下位魔法をそれぞれ5つずつ覚える事が出来た。無属性は生活魔法と呼ばれる種類の必要なものだけを習得した。
 魔法の勉強だけでなく魔物についても知識を蓄えていった。フラワさんの屋敷だけあり本の貯蔵量はとても多かった。色々な魔物について書かれた本が多く、古くに生きた幻の魔物について書かれた物もあった。魔物にも分布がありパティストス王国で出る魔物について中心に見ていた。また、魔物が何処から現れるのかを考えた本もあった。自然に発生するモノやダンジョンと呼ばれる物から出てきたりするらしい。このダンジョンもまた冒険者にとっては重要なものになるが難易度が高い為三級以上でないと入れない仕組みになっている。
 それだけでなく歴史や地理などについて知ることが出来た。古くからのものだけでなく最近の事をまとめた本もあった為世界情勢についても多少知る事が出来た。
 以前ゾーアから覚えておくといい国について聞いたが、その国々について色々な情報が手に入った。またその他の、小さいーあくまで4国に比べー国々の中に面白そうな国がいくつかあった。
 4国については正式な場所、国王、主都、特徴を知ることが出来た。
 まずパティストス王国。ユドラシア大陸北西部の1番端大陸の角に位置する。王都はレギアと呼ばれ国の中央に位置している。現国王の名は、ガザフ・スチム・ド・パティストス。パティストス王国有史の中でも1、2を争う賢王とされている。国土も豊かで国も潤っており、他国との関係も安定している。
 続いてルデン王国。パティストス王国の直ぐ下に位置し、帝国の次に国土が広く、教国の次に歴史ある国だ。また大陸を横断するクリフィス大渓谷が国土に接しており大渓谷の入り口としても栄えている。王都の名はルクセム。現国王はサルハ・タルカ・フォン・ルデン。民を1番に考える事で知られ国民からの信頼も厚い。
 次はアブソル帝国。ユドラシア大陸南部に位置し、大陸最大の国土を誇る。しかし、国土の3分の1は森に覆われている。帝都サクトルブルクは帝国北部に位置し世界最大のコロシアムがある事で知られている。またユドラシア大陸最大最高の軍事力を誇っており、中でも将軍のサファジ・ギル・オ・リレンは世界最高峰の戦闘能力がありSランクの魔物を単独撃破した記録も存在する。現皇帝はジェステル・ムトア・オ・アブソル。未だ20代という若さで帝国を治めている。知力に優れ帝国の財政を右肩上がりにする程だ。そしてもう1人押さえておきたい人物がいる。アレクダル・コクス・オ・アブソル。200年程前まで皇帝であった人物。自身も戦地に立ち、その類稀なる采配は帝国に多くの勝利をもたらしたことで知られている。そしてこのアレクダル元帝国王は古き者オールドとしても名を馳せている。皇位を退いてからは歴史の表舞台に姿を現していないが、その命は尽きていないとされ、世界を回っていると噂されている。
 最後にユドニ連合国。種族間の争いが絶えなかった頃、協和的な者たちによって建国された国。ユドラシア大陸東部に位置し、ユドニトア大陸に最も近い場所にある。国王は世襲ではなく国民による選挙で選ばれる形を取っている。魔族だけでなく人種も住み国民の4割は人種だ。現国王はドラグニルであるヴィオルという名の魔族。
 4国はこんなところだろう。
 面白そうな国だが、1つ目はアストゥルサ教国。ここは教皇が治めており、現在ある国の中では最も歴史のある国だ。この世界にある唯一の宗教、アトゥルサ教の教徒達によって政治がなされている。また、聖女と呼ばれる存在がおり、神託を授かる事があるらしい。唯一神アトゥルスカによっての神託と思われているが宮神の誰かによるものであると一部は知っている。ただどの神によってなされているかはフラワさんも知らなかった。
 2つ目はルードレード公国。この国は経済が安定しており世界規模での取引の中心になっている。それも世界を股にかけるヴァッフ商会がある為だ。この世界の市場の半分以上はこの商会が占めている。元々国内だけでの流通を基本とするアナザーの国々は世界規模での取引を余り行なっていなかった。していても隣国を中心とした近くの国とだけ、それも国が管理してのことだった。それを商人が取引の更に規模を大きくした世界で行えるように尽力したのがヴァッフ商会だ。この商会から出された商品は多く、この屋敷でもいくつか見かける程だ。
 3つ目がセパレー公国。この国はここ100年程前に出来た国で、珍しく女性が治める国だ。この国は隣国のレーテッド公国と合わさった1つの国だったが王族の支配の仕方に分裂が生じそのまま国の分離にまで至った国。アナザーでは最も歴史の浅い国としてレーテッド公国と共に知られているが、国内の発展は著しく豊かだとされている。今一番行ってみたい国だ。レギアでの冒険者活動が安定してきたら行ってみようと思う。
 世界情勢は現在ユドラシア大陸の国では戦争が起こっていない。しかし、昔から小国同士のいざこざはある為緊張状態が続く国もある。それらの国はパティストス王国と大陸の反対側に位置する為今のところ僕に降りかかるような問題はない。
 ユドニトア大陸は現在七王と呼ばれるそれぞれの種族の長達によって統括されている。どの長の古き者で7人が合わさればイグノラ大陸の調査が最も効率的に進むとされるがなかなか馬が合わず叶っていない。
 七王はそれぞれ名前の最後に種族名を付けている。
 エルフ種、キサラ・エルダー。ドワーフ種、ボソガ・ワーカー。ヴァンパイア種、レイド・ロード。獣人種、ウォッカ・ビースト。竜人種、アカホ・ドラグニル。天使種、ミカラ・アーク。悪魔種、ルシル・アーク。
 ボソガ・ワーカーは戦闘に向いた人物ではない。鍛治に関しては世界最高峰だ。その他はどの人も戦闘で世界最高峰。帝国の将軍サファジよりも上だろう。ただ現在はむやみに争うことはなく、月一回行われるユドニトア武闘会によってどの魔族も日々のストレスや戦闘をしたい衝動を抑えている。
 ユドニトア大陸の地理についても大まかな事が分かった。
 まず大陸中央にルデン王国からユドニ連合国まで伸びるクリフィス大渓谷がある。
 そしてこの渓谷の南にはミサライン砂漠が広がっている。渓谷も砂漠もどちらも過酷な環境で、高ランクの魔物が存在し冒険者にとっては嬉しい場所になっている。
 更にその南にはスピトリ大森林が広がっている。この3つの場所は基本的にどの国のものではない。大陸の国々が共同で管理を行っており行くためにはそれぞれの国で許可を取らなければならない。特にスピトリ大森林は許可を取るのが難しいことで知られている。それは大森林の中央に生えるスピレジデ大樹があり、そこには精霊が住むとされいるからだ。
 僕が知れたのはこんなところだろう。いままで知らなかった事を多く知り世界への興味が増えた。今度は知った多くの事をこの目で見ていきたい。


 ▽ △ ▽


「いよいよ明日だね。カルナは学校を、ユールは冒険者業を頑張るんだよ」


 夕食の席でフラワさんがそんな事を言ってきた。いよいよ明日は王都へと行く日だ。カルナは明々後日からの学校の為、僕は冒険者になる為に、それぞれの目的の為に行く。3日前から王都に行くのは僕の宿を探したりギルドへ登録の為だったりと王都をカルナに案内してもらうからだ。


「はい、もちろんです。私もユールも心配されなくても大丈夫ですよ。ですよね?ユール」


「うーん…僕はちょっと心配かな」


 1番に答えたカルナがそんな事を言ってきたが正直僕は心配しかなく、笑ってカルナにそう返した。


「ユールは慢心せず楽天的に行くなよ。何が命取りになるか分からんのが冒険者という者だ」


 僕の言葉にゾーアは言った。基本的に死と隣り合わせなんだ、気を付けていこう。


「それはそうと、2人とも準備は出来ているの?」


 フラワさんがそう問いかけてくる。


「それも大丈夫よ」


「ええ、大丈夫です」


 僕とカルナはそう答えた。


「そう、ならいいわ。2人とも夕食を済ませてお風呂にも入って寝る支度を済ませたら私の部屋までいらっしゃい。渡すものがあるから」


 なんとも嬉しい事をフラワさんが言った。基本的に夕食を済ませた後はほとんどすることがないので早めに行けるだろう。


「えー!何々?楽しみ〜」


 カルナが珍しくテンションを上げている。なかなかフラワさんから貰い物をしないのだろうか?それとも以前貰ったものが凄かったのだろうか?どちらにしても行けばわかるか。


「分かりました。僕も楽しみにしてます」


 そう返事をして夕食を続けた。


 ▽ △ ▽


 寝る支度を済ませてフラワさんの部屋まで行くとカルナが部屋の前に立っていた。これまで何度もカルナの寝巻き姿を見ているがやはり可愛いな。見惚れていては話が進まないので僕は声をかける。


「カルナ」


「遅いわね。男の子の方が支度が遅いのっておかしくないかしら?」


 カルナは待たされて怒ったのか不貞腐れながら言ってきた。


「ごめん、魔力操作の練習をしていたら遅くなった」


「そう、まあいいわ早く入りましょ」


 そう言ってカルナはドアを開けた。
 部屋へ入るとフラワさんが声をかけてくる。


「来たわね。好きな所へ座って」


 そう言われたので僕はソファへカルナは椅子へと座る。


「じゃあ早速だけど渡すわね。まずはカルナから。こっちへいらっしゃい」


 そう言われカルナがフラワさんの下まで行く。するとフラワさんは空間魔法による異空間から1つの本を取り出した。その本を見たカルナは目を見開き驚愕の表情を浮かべた。


「それって魔導書?」


「ええそうよ。これには爆発属性の魔法が記されているわ。貴方は火が得意属性だったでしょ?私は違うからちょうど良いと思ってね」


 魔導書とは読むだけで魔法を覚えることが出来る代物だ。読むだけという簡単な事だが幾つか気を付けなければいけないことがある。1つは得意属性である事。これは基本的に魔導書に記された属性が派生属性、または光、闇属性である事が多いからだ。2つ目は魔導書に認めてもらう事。魔導書は神が作った物だとされている。その為本そのものに意思のようなが宿っている。まず、魔法を覚えたい者は魔導書と契約をする。そして意思に使う資格があると認めて貰えれば魔法を覚える事が出来る。そしてもし意思が所有者を魔法を覚えるべきではないと判断した場合、記された魔法の属性を不得意属性にされてしまうというリスクが存在する。
 また、魔導書はそれだけで高い価値がありコレクターや貴族の間で高値で取引されている。魔導書をただ持っているだけなら危険はない為だ。


「ありがと〜、流石にまだ契約は出来ないからもう少し魔法が上手くなったらするわ」


 そう言ったカルナは魔導書を『ストレージ』の魔法がかかったネックレスへとしまった。『ストレージ』は無属性魔法で、その中でも難易度の高い魔法だ。さらにそれをアクセサリー等に付与するのも至難の技だ。そんなネックレスもフラワさんに貰った物らしい。


「じゃあ次はユールね」


 フラワさんはこちらを見て言ってきた。呼ばれたのでフラワさんの前まで行く。


「貴方に渡すのは4つね。まず1つ目はカルナも持っている、『ストレージ』のかかったブレスレットね」


 そう言ってラインが刻まれたシンプルなデザインの銀色のブレスレットを渡してくる。ブレスレットならば戦闘時でも邪魔にはならないだろう。


「ありがとうございます」


「いえいえ、それで2つ目3つ目、そして4つ目なんだけれど、もう中に入っているわ」
「何が入っているんですか?」


「1つはお金ね。向こうで宿を借りたり武器や防具を買ったり、冒険者になる為の軍資金と祝い金を兼ねて1万アル入れてあるよ」


 この国ひいてはこの世界のお金の単位はアルに統一されている。
 ーー1アル=1円ーー
 例えば普通の宿を一泊借りるとしたら200〜300アルで済む。お店に入って料理を食べるとしたら100アルもしないだろう。そう考えると1万アルは大金だ。


「流石に多くないですか?」


 僕は恐る恐る聞いてみた。


「良いところで防具なんか揃えようとしたら結構するのよ。遠慮しないで受け取って欲しいわ」


「そういう事ならありがたく貰っておきます」


 そう言って頭を下げた。


「お金で驚いていたら次が大変ね」


 そう言ってフラワさんは笑った。すると横からカルナが入ってきた。


「それで、2つ目はなんなの?」


「2つ目は槍よ。ユールは槍を使っているからね、良いもの上げようかと思ってね。それじゃあユール、目の前に透明な槍があると思って手をかざして、引く抜く様な動作をしてみてくれないかしら」


 そう言われて目の前に右手をかざし、2人とは逆の方向に一気に手を引く。すると手に純白の槍を握っていた。槍はシンプルなデザインで機能性を重視したものだ。重くはないがしっくりくる。


「この槍は…」


「その槍は魔力伝導率の高いシオド石と硬度の高いジオル石によって作られたものよ。軽い上に丈夫だから、振り回しても問題ないわ」


「どちらも産出量の少ない鉱石だった気がしますが…」


「もうそんな事気にしなくていいわ。ありがとうって言って受け取っておくだけでいいのよ!」


「分かりました。ありがとうございます」


 何から何までありがたい。武器は向こうに着いてから見繕うと思っていた。その手間やお金が省けたのは嬉しい。何よりもここまで高性能な武器を手に入れられたのだ、この武器に見合うだけの技量を付けなければ。
 喜びに浸っているとフラワさんが話を続ける。


「最後が魔法についての本だね。それぞれの属性の中位までの魔法について書かれた物を入れておいたから。今度からは教えてもらうのではなく、自分で考えて覚えてみなさい。ユールはセンスがあるからきっと大丈夫だよ」


 そんな物までくれるのか。それに僕ならと託してくれたのだ、本に書かれた魔法を扱えるようになろう。


「ありがとうございます」


 そう言うとフラワさんはにこりと笑ってきた。


「これで渡すものは渡したよ。明日も早いもう解散にしようか」


 確かに明日も早い。それに出発の前に運動もしておきたい。僕が言いだす前にカルナが先に言葉を発する。


「そうね。ふわ〜、私も眠くなってきちゃった。ユールもいいわよね?」


「うん、大丈夫だよ。僕も早く寝たいから」
「じゃあ解散。おやすみ」


 そう言ってカルナは部屋を出て行った。僕も部屋を出ようとドアへ向かって進む。すると、フラワさんに呼び止められる。


「ユール。しっかりね」


 そう言い微笑んできた。僕は始め何の事か分からず首を傾げるが、冒険者の事だと思い返事をする。


「はい、気をつけます」


 そう言って部屋を出た。


 ▽ △ ▽


 部屋まで着いた僕はベットへ座る。そして日課である魔力操作の練習を始める。始めて行った時よりもスムーズに出来ている。フラワさんが言っていたが、たった0.1秒の違いが大きな差を生むことになる。よりスムーズに、より正確に行えるようにしなければ。
 魔力操作の練習を終えると次は魔力の上限を上げる事と、発動の練習を兼ね、下位魔法をいくつか発動する。ただ発動するのではなく込める魔力量を変化させたり、持続的に魔力を流し長時間の発動を行ったりと様々な方法で練習をする。
 当初はなかなか上手くいかなかった光、闇属性の魔法が最近は上手く扱えるようになり、新たな魔法を覚える事も出来そうだ。近い内に治癒系等の魔法を覚えたいと思っている。
 そして数分が経った後急に疲れが訪れた。魔力を殆ど使い切った時に来る症状だ。そこで魔法の発動を止め、ベットへ横たわる。明日からの新たな生活への期待を胸に抱きながら、一抹の不安を抱えながら睡魔へと意識を託した。

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