A Living One
4話
あの後浴室へと案内された僕はシャワーを浴びた。浴室から出ると着るものが用意されており、カザさんの案内で今度はダイニングルームへ行った。
そこでは席について待つように言われ、時間があると思った僕は魔力操作の練習を始めた。目を瞑った方が集中できるのでそうして動かす事だけを考える。まだまだゆっくりとしか動かせない。もっとスムーズに、それを無意識に行えるようにならなければいけない。そう考えると先が長いが練習あるのみ、頑張るしかない。
練習をしているとドアが開く音がした。そちらの方を見るとゾーアが入ってきた。手伝いは終わったのだろうか。
「魔力操作の練習をしていたのか?」
ゾーアがそう問いかけてくる。
「そうだよ。フラワさんから時間のある時には練習しなさいと言われてるから」
「そうか。それはいい事だ」
「ゾーアも魔力操作をフラワさんのように出来るの?」
「いや、あいつ程上手くは出来ん。数段劣るな。まあそれでも戦闘には十分だと思っているがな」
どうやら戦闘では高次元の魔力操作を要求される事はあまりないようだ。ただ、フラワさんのように高レベルの魔法を行使するときには必要のようだ。
フラワさんが言うには僕は魔法適性が高いらしい。そう考えると魔力操作を上手く出来るようになっておいて損はないだろう。
「そういえば手伝いの方はもういいの?」
「大丈夫だ。手伝いと言っても別に料理を作ることではない。食材の調達の方だ。魔物の中には上質な肉を持つものが多い。これは魔力が関係しているからと言われている。人の持つ魔力に対して魔物の持つ魔力は少し異なっている。その違いが味をより上手く感じさせているのというのが最近の通説だな」
なるほど、だからよくゾーアが獲ってきた獣の肉が美味しかったのか。狩りに同行する事が少なかった為魔物だとは気が付かなかった。家事を基本的にこなしていた僕からしたらありがたい食材だったようだ。
「それに、あいつは空間魔法が使えるからな、森まで転移して魔物を狩り戻ってきた感じだな」
空間魔法によって転移というまさしく神の力を使うフラワさんもそうだが、1時間も経っていない内に魔物を事もなさげに狩ってくるゾーアもゾーアだ。
「そうなんだ。ならフラワさんは今何してるの?」
ゾーアに聞くと、笑いながら返してきた。
「料理長たちと一緒に調理場に立って料理をしている。久しぶりの客だからと手の込んだ料理を作っている。頼まれた魔物もそこそこのランクのばかりだったからな楽しみにしておくといい」
「それは楽しみだよ」
そう返事をしたところで再びドアが開く音がした。音のした方を見ると今度は僕と年の同じくらいの女の子が入ってきた。女の子はこちらを見て訝しげな目をする。しかし僕の近くに座るゾーアに気づくとこちらまで近づいてきた。
「お久しぶりです、お祖父様。まさかいらっしゃてるとは。部屋にこもって勉強をしていて気がつきませんでした」
彼女はそう言って頭を下げる。それもスカートの裾を掴み優雅にだ。ゾーアにそう言うと今度はこちらを見てくる。
「えーと、貴方がユールさんですか?初めまして、カルナ・ソルージョと言います。よろしくお願いしますね」
そう笑いかけてきた。一方的に挨拶されたままではいけない為僕も挨拶をする。
「初めまして、ユール・シープです。よろしく」
すると、ゾーアから声がかかる。
「ユールよ、彼女はフラワが預かっている子でな、王都の学園に通っている。フラワの所に来たのは数年ぶりだからな、お前が会う機会は今までなかったな。ちなみにお前と同い年だ」
ゾーアからそう簡単に紹介された。王都の学園といえば王国の中でも最大で最高の教育機関だ。そこで学んでいるというのはそれだけで優秀であるという証拠だ。すると、カルナさんが話し始めた。
「はい学園の2階生です。普段は学園の寮で生活していますが、今は長期休暇中なのでこうしてお祖母様の所まで戻ってきてます」
カルナさんがそう言い終わるとゾーアが話す。
「カルナ、ユールは冒険者になるために王都へ行く。休暇が終わったら会うかも知れんな」
「そうなのですか?その時はよろしくお願いしますね?」
そう言ってこちらへ笑いかけてくる。その笑顔はとても綺麗で少しドキッとしてしまった。少し固まっていると、カルナさんが首を傾げて聞いてくる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでも」
そう笑いながら言って誤魔化した。
▽ △ ▽
その後は3人で色々な話をした。学園のことや冒険者のこと。そして王都についても。
話がひと段落すると丁度いいタイミングでフラワさんが入ってきた。
「あら、カルナ呼びに行こうと思っていたのだけど丁度良かったわ。みんな昼食が出来ましたよ」
そう言うと、フラワさんの後ろからメイドの人が2人料理をワゴンに乗せて持って入ってきた。
そして目の前に運ばれてくる料理を見ると、今まで見たことのないようなものばかりだった。僕は当然驚いたが、カルナさんも驚いていた。
「お祖母様どうしたんですか?こんな豪勢に作って。王都のレストラン、それも割と高級なお店と同じような感じじゃないですか」
「だって久しぶりのお客様でしょ?それに、ユールが冒険者になる記念みたいなものも含めてるから」
そう言ってフラワさんは僕の方を見る。まさか僕の為にここまでしてくれるとは思ってもいなかった。僕は頭を下げて感謝の意を示す。それにフラワさんも笑ってくれた。
「それじゃあいただきましょうか」
そうして昼食が始まった。
話は先程の王都で会うかもと言う話になった。その話をするとフラワさんがある提案をしてきた。
「なら、カルナと同じタイミングで行けばいいんじゃないかしら?学園が始まるまであと2週間弱ぐらいでしょ?訓練もその間で済ませてしまえばいいわ。ゾーアもそれだけあれば最低限は教えられるでしょう?」
「ああそうだな。対魔物は森へ行けば実戦形式で可能だし、対人も俺が相手をすれば冒険者Dランクは相手取れる様になるだろう」
「そう、なら決まりね。そういうわけだから、カルナお願いね?」
「分かりました」
僕は訓練してもらう側でお世話になる側だここで文句は言えない。すると突然はフラワさんが何か閃いたのか目を輝かせた。
「そうだ!折角だわ、ゾーアもユールも屋敷に住みなさい。いちいち家を行ったり来たりするのは時間が勿体無いわ。それに屋敷の書斎には魔物についての本も置いてあるから、勉強にもなると思うわ」
「それはいいな。庭も広いし生活環境も家より整っている。ユールはそれでいいか?」
フラワさんの意見に反応したゾーアが聞いてくる。
「うん。僕はそれでいいけど…。カルナさんは?」
僕はすぐに教えてもらえる環境に置かれる訳なので全く文句がない。家では家事もこなさなければならないので、訓練に回す時間が減ってしまう。ただ、同じ屋根の下に男性が急に一緒になってしまうのは年頃の女の子はどう思うのか気になってしまう。
「私も構いません。むしろ嬉しいです。話し相手もお祖母様やメイドの皆さんしか居なかったので。同い年の話し相手が欲しかったです」
カルナさんの考えは僕にとって喜ばしいものだった。話をしていた時には僕に対する嫌悪感などのマイナスな感情をカルナさんから受けなかったが、実際に口に出してそんな事を言われるのは嬉しかった。
「じゃあ決まりです。どこの部屋を使ってもらうかは後でまたお伝えしますね」
▽ △ ▽
昼食を食べ終えて一度休憩を取ったらまた庭へと出た。今度はフラワさんと僕の2人ではなく、カルナさんを加えた3人だ。ゾーアは森ではなくイグノラ大陸に転移してもらっていた。未だ全貌の分からない謎多き大陸で魔物の質も高い。そこへ単独で行こうと思うのは古き者しかいないだろう。或いはよっぽどの馬鹿か。
今はこれからやることに集中しよう。そう考えているとフラワさんから声がかかる。
「それじゃあいよいよ属性を調べましょう。はい、紙」
そう言って僕に属性測定の為の紙を渡してくる。僕はそれを受け取って、魔力を流し始める。自分の中で魔力を動かすことは出来るがそれを物へ移すというのが難しい。自分と紙を1つの物として捉えることで魔力を紙に流すことができた。
しかし、フラワさんのようにすぐに紙に変化が起きない。量が足りないと思いさらに魔力を流すが、それでも変化が起きない。どういうことだ?そう考えていると、フラワさんが驚きの声を上げた。
「これはまた。反応が無いということは、得意属性も不得意属性も無いということだよ。普通は誰にでも得意不得意が存在する。得意属性だけ、不得意属性だけあるということも無いんだよ。ましてやそのどちらも無いというのはとても珍しいことだよ。2〜300年前に1人同じ様な奴がいたよ。そいつは学者でねいくつか今に繋がる発見をしていたよ」
そう言って懐かしむ、そして悲しむような目をする。きっと学者との間に何かあったのだろうが聞くことはしない。もしかしたら踏む混んではいけない事かもしれない。
カルナさんの方を見ると、彼女をまた珍しそうな顔をしていた。
「王都でも君みたいな人の話は聞いたことが無いよ。少なくとも私の知っている範囲での話だけど。でも平民の中には測定もせずに一生を終える人もいるから探してみたらもっといるかもしれないわね」
彼女の言葉にそうだなと思った。しかし、わざわざ調べるような事でも無いと思った。ただ珍しいだけで、差別を受けたり何かされたりするわけではなさそうだからだ。それよりも今後どう鍛えていくかが問題だ。僕はその事をフラワさんに聞いた。
「フラワさん、どう鍛えていきましょうか?僕は満遍なく学べたらと思うんですが」
フラワさんは少し考えてから返してくる。
「それがいいと思うわ。でも、私もカルナも闇が不得意属性だからね。そこだけは下位までしか教えられないけどいいかい?」
「はい大丈夫です」
「じゃあ始めようか」
そうして魔法の訓練が始まった。
訓練はまず初歩とも言える魔法の習得から始まった。
火『 イニス』、水『アクア』、風『ヴィントス』、土『アリナ』、無『ルクス』の5つ。光と闇はこの5つよりも難易度が上がる為、これらと、もう1つずつ魔法が習得出来てから習得する事となった。『イニス』は小さな火を出す魔法。『アクア』は水を生成する魔法。『ヴィントス』はそよ風を起こす魔法。『アリナ』は砂を生成する魔法。『ルクス』は光を生み出す魔法。
その中でもまずは無属性『ルクス』から、フラワさんが説明を始める。
「『ルクス』という魔法は光源を生み出す魔法。身近な物だと電球などに刻印として刻まれているね」
実は2〜300年前まで魔法は使う都度に名唱によって発動していた。しかし、刻印と呼ばれる魔力を流すだけで魔法を発動できる物が現れた。ただ、刻印は始め魔力を流す技術を持つ者にしか扱えない物だった。しかし、イグノア大陸より触れた者の魔力を吸い取る魔石イノが発掘された事により刻印が誰でも使えるようになった。イノはその量によって吸い取る量が変わり、発動させたい魔法によって刻印の材料とする量を変える事が出来る優れた物だ。『ルクス』のように微少の魔力で発動できる魔法にはもってこいだった。このイノ発見が世界の発展に大きく貢献した。実際に僕もゾーアと暮らしていた家で色々な所で使われていた。
「『ルクス』を発動するときは太陽をイメージすると発動しやすいわ。じゃあ早速やってみて」
説明は短ったが、ここで躓いていてはダメだ。太陽をしっかりとイメージして名唱する。
「『ルクス』」
すると手の平に直径5センチ程度の光の玉が現れた。一回で発動できるか心配だったが成功した。刻印で発動させた事が幾度もある魔法を遂に自分自身の手で発動させる事が出来た。初歩も初歩な魔法だがとても嬉しい。フラワさんもカルナさんも成功させた事に拍手をしてくれた。
「うん、やっぱりセンスがあるね。魔法発動をスムーズに行えている。初めはどの魔法でも発動しにくい物だよ。ほんとに得意属性が無いのが勿体ないよ」
そう言ってフラワさんは笑ってくれた。
「それにしてもとても綺麗な光ね。太陽のような暖かみまで感じちゃうわ」
カルナさんはそう褒めてくれた。2人の言葉はとても嬉しかった。ゾーアはあまり褒めるということをしない。言うのが恥ずかしいのか料理を始めて作った時ももっと頑張れしか言ってくれなかった。手を見るとまだ『ルクス』が発動したままだ。魔法を打ち消すイメージをすると光球はなくなった。どうやら『ルクス』の発動を止めない限り発動し続ける魔法のようだ。そう考えているとフラワさんが言った。
「解除も問題なく行えているね。止め方が分からなかったら教えるつもりだったけどいらなかったね。それで解除だけど必要な永続魔法と必要ない断続魔法があるから、気をつけるんだよ。加えて解除を必要としない、断続魔法は魔力を流し続けることで効力を持続させる事が出来るから覚えておくといいよ」
永続魔法は発動すれば魔法が発動され続ける魔法で、断続魔法は時間によって発動が切れる魔法のようだ。
どちらの魔法も発動によって起こされた現象は残る。火を生み出す魔法を発動して木を燃やして魔法発動を止めると、火を生み出すことは止まるが木は燃やされ続けるという事だ。どの魔法がどちらの魔法なのかも覚えておかないと大変だ。
「次は『アクア』を習得しようか。この魔法は何かと便利だからね。この魔法も刻印化されている魔法で、お風呂や調理場なんかに設置されているね。この魔法は断続魔法に分類される。発動のイメージは湧き水かしらね」
という事で早速魔法を発動させる。
「『アクア』」
すると、手のひらから想像よりも多い水が溢れ出してきた。魔法が止まり辺りを見ると水浸しになっている。ここまで多く出る者なのかと疑問に思っていると、フラワさんは笑って、カルナさんは声を上げて詰め寄ってくる。
「ちょっと魔力注ぎすぎよ!そんなに込めたら大変でしょ!もしかして無意識に魔力注いでるの?」
「えーと…」
魔力は注ぐ量を決められるのか?というか注ぐ量で魔法が変わるのか?
「あははは、すまないね。言い忘れていたけど断続魔法は魔力を込める量で効果が上がるから気をつけるんだよ。込める量は考えるだけで変えられるからそう難しくはないよ」
どうやらそうみたいだ。それよりも先に言っておいて欲しかった。カルナさんには怒られてしまったし、辺りは水浸しにしてしまっていい事がない。するとカルナさんが声を大きくして言ってきた。
「分かった?これから気をつけなさいよ!火属性の魔法の調節を、誤ったら辺り一面火事になるわ」
「すいません。気をつけます」
「それと!同い年なんだから敬語とかいらないわ」
カルナさんはそんな事も言ってきた。僕としてはとてもありがたい申し出だった。カルナさんとの距離が縮められるのは嬉しい事だ。
「分かったよ。カルナ」
「それでいいわ!ユール」
そうしていると横からフラワさんが茶々を入れてきた。
「いいわね〜、うふふふ」
とてもニヤニヤしている。その事にカルナさんは顔を真っ赤にしてフラワさんに何か言おうとした。しかし、声が出ない。口を手を大きく動かして何か言っているが声が聞こえない。フラワさんの方を見るとウインクをしてきた。どうやら魔法を発動させて何かしたらしい。ちょっとした事からこの2人の意外な一面が見れた気がする。
その後はどの初歩的な魔法も問題なく発動する事が出来た。今日の訓練はそこで終えてまた明日から1段階上の魔法を習得することとなった。
そこでは席について待つように言われ、時間があると思った僕は魔力操作の練習を始めた。目を瞑った方が集中できるのでそうして動かす事だけを考える。まだまだゆっくりとしか動かせない。もっとスムーズに、それを無意識に行えるようにならなければいけない。そう考えると先が長いが練習あるのみ、頑張るしかない。
練習をしているとドアが開く音がした。そちらの方を見るとゾーアが入ってきた。手伝いは終わったのだろうか。
「魔力操作の練習をしていたのか?」
ゾーアがそう問いかけてくる。
「そうだよ。フラワさんから時間のある時には練習しなさいと言われてるから」
「そうか。それはいい事だ」
「ゾーアも魔力操作をフラワさんのように出来るの?」
「いや、あいつ程上手くは出来ん。数段劣るな。まあそれでも戦闘には十分だと思っているがな」
どうやら戦闘では高次元の魔力操作を要求される事はあまりないようだ。ただ、フラワさんのように高レベルの魔法を行使するときには必要のようだ。
フラワさんが言うには僕は魔法適性が高いらしい。そう考えると魔力操作を上手く出来るようになっておいて損はないだろう。
「そういえば手伝いの方はもういいの?」
「大丈夫だ。手伝いと言っても別に料理を作ることではない。食材の調達の方だ。魔物の中には上質な肉を持つものが多い。これは魔力が関係しているからと言われている。人の持つ魔力に対して魔物の持つ魔力は少し異なっている。その違いが味をより上手く感じさせているのというのが最近の通説だな」
なるほど、だからよくゾーアが獲ってきた獣の肉が美味しかったのか。狩りに同行する事が少なかった為魔物だとは気が付かなかった。家事を基本的にこなしていた僕からしたらありがたい食材だったようだ。
「それに、あいつは空間魔法が使えるからな、森まで転移して魔物を狩り戻ってきた感じだな」
空間魔法によって転移というまさしく神の力を使うフラワさんもそうだが、1時間も経っていない内に魔物を事もなさげに狩ってくるゾーアもゾーアだ。
「そうなんだ。ならフラワさんは今何してるの?」
ゾーアに聞くと、笑いながら返してきた。
「料理長たちと一緒に調理場に立って料理をしている。久しぶりの客だからと手の込んだ料理を作っている。頼まれた魔物もそこそこのランクのばかりだったからな楽しみにしておくといい」
「それは楽しみだよ」
そう返事をしたところで再びドアが開く音がした。音のした方を見ると今度は僕と年の同じくらいの女の子が入ってきた。女の子はこちらを見て訝しげな目をする。しかし僕の近くに座るゾーアに気づくとこちらまで近づいてきた。
「お久しぶりです、お祖父様。まさかいらっしゃてるとは。部屋にこもって勉強をしていて気がつきませんでした」
彼女はそう言って頭を下げる。それもスカートの裾を掴み優雅にだ。ゾーアにそう言うと今度はこちらを見てくる。
「えーと、貴方がユールさんですか?初めまして、カルナ・ソルージョと言います。よろしくお願いしますね」
そう笑いかけてきた。一方的に挨拶されたままではいけない為僕も挨拶をする。
「初めまして、ユール・シープです。よろしく」
すると、ゾーアから声がかかる。
「ユールよ、彼女はフラワが預かっている子でな、王都の学園に通っている。フラワの所に来たのは数年ぶりだからな、お前が会う機会は今までなかったな。ちなみにお前と同い年だ」
ゾーアからそう簡単に紹介された。王都の学園といえば王国の中でも最大で最高の教育機関だ。そこで学んでいるというのはそれだけで優秀であるという証拠だ。すると、カルナさんが話し始めた。
「はい学園の2階生です。普段は学園の寮で生活していますが、今は長期休暇中なのでこうしてお祖母様の所まで戻ってきてます」
カルナさんがそう言い終わるとゾーアが話す。
「カルナ、ユールは冒険者になるために王都へ行く。休暇が終わったら会うかも知れんな」
「そうなのですか?その時はよろしくお願いしますね?」
そう言ってこちらへ笑いかけてくる。その笑顔はとても綺麗で少しドキッとしてしまった。少し固まっていると、カルナさんが首を傾げて聞いてくる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでも」
そう笑いながら言って誤魔化した。
▽ △ ▽
その後は3人で色々な話をした。学園のことや冒険者のこと。そして王都についても。
話がひと段落すると丁度いいタイミングでフラワさんが入ってきた。
「あら、カルナ呼びに行こうと思っていたのだけど丁度良かったわ。みんな昼食が出来ましたよ」
そう言うと、フラワさんの後ろからメイドの人が2人料理をワゴンに乗せて持って入ってきた。
そして目の前に運ばれてくる料理を見ると、今まで見たことのないようなものばかりだった。僕は当然驚いたが、カルナさんも驚いていた。
「お祖母様どうしたんですか?こんな豪勢に作って。王都のレストラン、それも割と高級なお店と同じような感じじゃないですか」
「だって久しぶりのお客様でしょ?それに、ユールが冒険者になる記念みたいなものも含めてるから」
そう言ってフラワさんは僕の方を見る。まさか僕の為にここまでしてくれるとは思ってもいなかった。僕は頭を下げて感謝の意を示す。それにフラワさんも笑ってくれた。
「それじゃあいただきましょうか」
そうして昼食が始まった。
話は先程の王都で会うかもと言う話になった。その話をするとフラワさんがある提案をしてきた。
「なら、カルナと同じタイミングで行けばいいんじゃないかしら?学園が始まるまであと2週間弱ぐらいでしょ?訓練もその間で済ませてしまえばいいわ。ゾーアもそれだけあれば最低限は教えられるでしょう?」
「ああそうだな。対魔物は森へ行けば実戦形式で可能だし、対人も俺が相手をすれば冒険者Dランクは相手取れる様になるだろう」
「そう、なら決まりね。そういうわけだから、カルナお願いね?」
「分かりました」
僕は訓練してもらう側でお世話になる側だここで文句は言えない。すると突然はフラワさんが何か閃いたのか目を輝かせた。
「そうだ!折角だわ、ゾーアもユールも屋敷に住みなさい。いちいち家を行ったり来たりするのは時間が勿体無いわ。それに屋敷の書斎には魔物についての本も置いてあるから、勉強にもなると思うわ」
「それはいいな。庭も広いし生活環境も家より整っている。ユールはそれでいいか?」
フラワさんの意見に反応したゾーアが聞いてくる。
「うん。僕はそれでいいけど…。カルナさんは?」
僕はすぐに教えてもらえる環境に置かれる訳なので全く文句がない。家では家事もこなさなければならないので、訓練に回す時間が減ってしまう。ただ、同じ屋根の下に男性が急に一緒になってしまうのは年頃の女の子はどう思うのか気になってしまう。
「私も構いません。むしろ嬉しいです。話し相手もお祖母様やメイドの皆さんしか居なかったので。同い年の話し相手が欲しかったです」
カルナさんの考えは僕にとって喜ばしいものだった。話をしていた時には僕に対する嫌悪感などのマイナスな感情をカルナさんから受けなかったが、実際に口に出してそんな事を言われるのは嬉しかった。
「じゃあ決まりです。どこの部屋を使ってもらうかは後でまたお伝えしますね」
▽ △ ▽
昼食を食べ終えて一度休憩を取ったらまた庭へと出た。今度はフラワさんと僕の2人ではなく、カルナさんを加えた3人だ。ゾーアは森ではなくイグノラ大陸に転移してもらっていた。未だ全貌の分からない謎多き大陸で魔物の質も高い。そこへ単独で行こうと思うのは古き者しかいないだろう。或いはよっぽどの馬鹿か。
今はこれからやることに集中しよう。そう考えているとフラワさんから声がかかる。
「それじゃあいよいよ属性を調べましょう。はい、紙」
そう言って僕に属性測定の為の紙を渡してくる。僕はそれを受け取って、魔力を流し始める。自分の中で魔力を動かすことは出来るがそれを物へ移すというのが難しい。自分と紙を1つの物として捉えることで魔力を紙に流すことができた。
しかし、フラワさんのようにすぐに紙に変化が起きない。量が足りないと思いさらに魔力を流すが、それでも変化が起きない。どういうことだ?そう考えていると、フラワさんが驚きの声を上げた。
「これはまた。反応が無いということは、得意属性も不得意属性も無いということだよ。普通は誰にでも得意不得意が存在する。得意属性だけ、不得意属性だけあるということも無いんだよ。ましてやそのどちらも無いというのはとても珍しいことだよ。2〜300年前に1人同じ様な奴がいたよ。そいつは学者でねいくつか今に繋がる発見をしていたよ」
そう言って懐かしむ、そして悲しむような目をする。きっと学者との間に何かあったのだろうが聞くことはしない。もしかしたら踏む混んではいけない事かもしれない。
カルナさんの方を見ると、彼女をまた珍しそうな顔をしていた。
「王都でも君みたいな人の話は聞いたことが無いよ。少なくとも私の知っている範囲での話だけど。でも平民の中には測定もせずに一生を終える人もいるから探してみたらもっといるかもしれないわね」
彼女の言葉にそうだなと思った。しかし、わざわざ調べるような事でも無いと思った。ただ珍しいだけで、差別を受けたり何かされたりするわけではなさそうだからだ。それよりも今後どう鍛えていくかが問題だ。僕はその事をフラワさんに聞いた。
「フラワさん、どう鍛えていきましょうか?僕は満遍なく学べたらと思うんですが」
フラワさんは少し考えてから返してくる。
「それがいいと思うわ。でも、私もカルナも闇が不得意属性だからね。そこだけは下位までしか教えられないけどいいかい?」
「はい大丈夫です」
「じゃあ始めようか」
そうして魔法の訓練が始まった。
訓練はまず初歩とも言える魔法の習得から始まった。
火『 イニス』、水『アクア』、風『ヴィントス』、土『アリナ』、無『ルクス』の5つ。光と闇はこの5つよりも難易度が上がる為、これらと、もう1つずつ魔法が習得出来てから習得する事となった。『イニス』は小さな火を出す魔法。『アクア』は水を生成する魔法。『ヴィントス』はそよ風を起こす魔法。『アリナ』は砂を生成する魔法。『ルクス』は光を生み出す魔法。
その中でもまずは無属性『ルクス』から、フラワさんが説明を始める。
「『ルクス』という魔法は光源を生み出す魔法。身近な物だと電球などに刻印として刻まれているね」
実は2〜300年前まで魔法は使う都度に名唱によって発動していた。しかし、刻印と呼ばれる魔力を流すだけで魔法を発動できる物が現れた。ただ、刻印は始め魔力を流す技術を持つ者にしか扱えない物だった。しかし、イグノア大陸より触れた者の魔力を吸い取る魔石イノが発掘された事により刻印が誰でも使えるようになった。イノはその量によって吸い取る量が変わり、発動させたい魔法によって刻印の材料とする量を変える事が出来る優れた物だ。『ルクス』のように微少の魔力で発動できる魔法にはもってこいだった。このイノ発見が世界の発展に大きく貢献した。実際に僕もゾーアと暮らしていた家で色々な所で使われていた。
「『ルクス』を発動するときは太陽をイメージすると発動しやすいわ。じゃあ早速やってみて」
説明は短ったが、ここで躓いていてはダメだ。太陽をしっかりとイメージして名唱する。
「『ルクス』」
すると手の平に直径5センチ程度の光の玉が現れた。一回で発動できるか心配だったが成功した。刻印で発動させた事が幾度もある魔法を遂に自分自身の手で発動させる事が出来た。初歩も初歩な魔法だがとても嬉しい。フラワさんもカルナさんも成功させた事に拍手をしてくれた。
「うん、やっぱりセンスがあるね。魔法発動をスムーズに行えている。初めはどの魔法でも発動しにくい物だよ。ほんとに得意属性が無いのが勿体ないよ」
そう言ってフラワさんは笑ってくれた。
「それにしてもとても綺麗な光ね。太陽のような暖かみまで感じちゃうわ」
カルナさんはそう褒めてくれた。2人の言葉はとても嬉しかった。ゾーアはあまり褒めるということをしない。言うのが恥ずかしいのか料理を始めて作った時ももっと頑張れしか言ってくれなかった。手を見るとまだ『ルクス』が発動したままだ。魔法を打ち消すイメージをすると光球はなくなった。どうやら『ルクス』の発動を止めない限り発動し続ける魔法のようだ。そう考えているとフラワさんが言った。
「解除も問題なく行えているね。止め方が分からなかったら教えるつもりだったけどいらなかったね。それで解除だけど必要な永続魔法と必要ない断続魔法があるから、気をつけるんだよ。加えて解除を必要としない、断続魔法は魔力を流し続けることで効力を持続させる事が出来るから覚えておくといいよ」
永続魔法は発動すれば魔法が発動され続ける魔法で、断続魔法は時間によって発動が切れる魔法のようだ。
どちらの魔法も発動によって起こされた現象は残る。火を生み出す魔法を発動して木を燃やして魔法発動を止めると、火を生み出すことは止まるが木は燃やされ続けるという事だ。どの魔法がどちらの魔法なのかも覚えておかないと大変だ。
「次は『アクア』を習得しようか。この魔法は何かと便利だからね。この魔法も刻印化されている魔法で、お風呂や調理場なんかに設置されているね。この魔法は断続魔法に分類される。発動のイメージは湧き水かしらね」
という事で早速魔法を発動させる。
「『アクア』」
すると、手のひらから想像よりも多い水が溢れ出してきた。魔法が止まり辺りを見ると水浸しになっている。ここまで多く出る者なのかと疑問に思っていると、フラワさんは笑って、カルナさんは声を上げて詰め寄ってくる。
「ちょっと魔力注ぎすぎよ!そんなに込めたら大変でしょ!もしかして無意識に魔力注いでるの?」
「えーと…」
魔力は注ぐ量を決められるのか?というか注ぐ量で魔法が変わるのか?
「あははは、すまないね。言い忘れていたけど断続魔法は魔力を込める量で効果が上がるから気をつけるんだよ。込める量は考えるだけで変えられるからそう難しくはないよ」
どうやらそうみたいだ。それよりも先に言っておいて欲しかった。カルナさんには怒られてしまったし、辺りは水浸しにしてしまっていい事がない。するとカルナさんが声を大きくして言ってきた。
「分かった?これから気をつけなさいよ!火属性の魔法の調節を、誤ったら辺り一面火事になるわ」
「すいません。気をつけます」
「それと!同い年なんだから敬語とかいらないわ」
カルナさんはそんな事も言ってきた。僕としてはとてもありがたい申し出だった。カルナさんとの距離が縮められるのは嬉しい事だ。
「分かったよ。カルナ」
「それでいいわ!ユール」
そうしていると横からフラワさんが茶々を入れてきた。
「いいわね〜、うふふふ」
とてもニヤニヤしている。その事にカルナさんは顔を真っ赤にしてフラワさんに何か言おうとした。しかし、声が出ない。口を手を大きく動かして何か言っているが声が聞こえない。フラワさんの方を見るとウインクをしてきた。どうやら魔法を発動させて何かしたらしい。ちょっとした事からこの2人の意外な一面が見れた気がする。
その後はどの初歩的な魔法も問題なく発動する事が出来た。今日の訓練はそこで終えてまた明日から1段階上の魔法を習得することとなった。
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